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作戦会議
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すっきりとした気分で目を覚ますと、薄暗い室内に光が差し込んでいる。遅い昼食を摂ったあと朝まで眠ってしまったようだが、そのおかげで怠さも消え身体が軽い。
身体を起こすとベッドの傍に設置されたソファーに人が眠っていて思わずぎょっとするが、すぐにディルクだと気づき瑛莉は肩の力を抜いた。
いつも瑛莉より先に目を覚ますため、こうやって寝顔を見るのは初めてかもしれない。野営には慣れていると言っていたが、一人で護衛まで務めるのは大変だっただろう。
(昨日は魔物退治があったし、それから……………っ、えええええええ!?)
浄化後の記憶が蘇ってきて、瑛莉は思わず頭を抱えてしまった。
眠くて怠くてたまらなかったが、それでも普通にしているつもりだったのだ。
だが実際には身支度を整えるのも億劫でごろごろしていた瑛莉を見兼ねたのか、ディルクに髪を梳かしてもらい、昼食を摂る部屋まで抱えて運ばれてしまった。
さらには一口大に切り分けられた料理を皿に載せてもらっただけでなく、後半は食べさせてもらった記憶すらある。食後に歩いて戻った記憶がないのだから、恐らくそのまま寝落ちしてベッドまで運んでもらったのだろう。
(子供か!!!)
他に失態はなかっただろうかと頭を抱えたまま思い返していると、不意に声を掛けられた。
「エリー!大丈夫か?どこが悪い?すぐに横になるんだ」
手首をつかみ焦りを浮かべたディルクの瞳が思いがけないほど近い。昨日の醜態からまだ立ち直っていなかった瑛莉は、目を合わせるのが気まずくて反射的に視線を逸らす。
だがそれを見たディルクは我慢していると勘違いしたものか、瑛莉の額に手を伸ばしながら毛布を掛けて寝かしつけようとしてくる。未だに子供扱いされていることに恥ずかしくて顔から火が出そうだ。
「っ、ディルク!もう大丈夫だから」
「こら、大人しくしていろ。熱はないようだが、顔が赤い。もしかしたらこれから発熱する可能性もある。安静にしていないと駄目だぞ」
「違うって!これは、そういうんじゃないから!」
それから疑い深いディルクを納得させるため、瑛莉は説明にかなりの時間と言葉を費やす羽目になったのだった。
「エリー、ディルク、おはよう。よく眠れたみたいだね」
瑛莉の顔を見て告げたエーヴァルトの言葉に、やらかした記憶が浮かびあがりそうになるのを必死に抑え込む。嬉しそうに微笑むエーヴァルトに他意はないのだと言い聞かせる。
「おはよう。おかげでゆっくり休めたよ。ありがとう」
テーブルの上には既に料理が並んでいて、ほわりと立ちのぼる湯気と香りが食欲をそそる。
(昨日もそうだけど、今日のご飯もとっても美味しい!)
エーヴァルトの世話全般を行っていると聞いていたが、これほどまでに料理上手だとは思わなかった。主人に不味い食事を出すわけにはいかないと腕を磨き、今では珍しい他国の料理なども作れるようになったらしい。
ちらりとベンノを見るが、こちらに一切顔を向けないところを見ると普通に褒めても嫌な顔をされるだけだろう。
瑛莉はオムレツのふわとろ加減に幸せを噛みしめながら、和やかな雰囲気で朝食を終えた。
「まずはエルヴィーラの救出が先決だが、これに関しては俺に任せてもらいたい」
食事を終えて今後についての話し合いを行うことになり、最初に口火を切ったのはディルクだ。
「エーヴァルトもエリーも狙われている側の人間だから近づくのは危険だ。単独のほうが動きやすいし、人質の救出は任務で何度か手掛けたことがあるからな」
事も無げに告げる言葉は自信を感じさせるものだったが、そう簡単なことではないぐらい素人の瑛莉にだって分かる。
「ディルク、君が優秀なのは知っているけれど自ら罠に飛び込むのは少々無謀ではないかな?エリーが留守番なのは当然だけど、僕は一緒に行くよ。万が一の時には君を連れて逃げ出すことぐらい出来る」
「お言葉ですが我が君、これは彼らの問題です。しかも見知らぬ侍女のために御身を危険に晒すことなど許容いたしかねます。どうかご再考を」
エーヴァルトの申し出にすぐさま反対するベンノだが、これには瑛莉も同意見だった。
「エルヴィーラが私に対して人質になり得ると判断されたのは、私の関わり方に問題があったからだよ。だったらその責任は私が取るべきだよね?」
難色を示すようにディルクは眉をひそめ、エーヴァルトも困ったような笑みを浮かべている。聖女の力は貴重なものだが、人質救出に対して役に立たないと思っているのだろう。
「……エリー、エルヴィーラのことは俺にも責任がある。今回の件は俺に状況を伝えるために無理を通したからだろう。エルヴィーラにはお前を保護して欲しいと頼まれたが、連れ戻してくれとは言わなかったんだ。この意味は分かるな?」
言い聞かせるような口調のディルクの言いたいことは理解できた。
エルヴィーラの立場からすれば、聖女である瑛莉を自由にさせておくメリットなどない。それでもディルクに告げなかったというのなら、それは瑛莉個人の幸せを考えた結果なのだろう。
(ディルクの言うことも分かるし、確かに一人じゃ何もできないけど……)
エーヴァルトとディルクの協力があれば話は別である。実現可能かどうかは分からないけどやってみる価値はあると思うのだ。
「二人に相談というか、頼みがあるんだけど」
そう前置きして瑛莉は自分の考えを話し始めたのだった。
身体を起こすとベッドの傍に設置されたソファーに人が眠っていて思わずぎょっとするが、すぐにディルクだと気づき瑛莉は肩の力を抜いた。
いつも瑛莉より先に目を覚ますため、こうやって寝顔を見るのは初めてかもしれない。野営には慣れていると言っていたが、一人で護衛まで務めるのは大変だっただろう。
(昨日は魔物退治があったし、それから……………っ、えええええええ!?)
浄化後の記憶が蘇ってきて、瑛莉は思わず頭を抱えてしまった。
眠くて怠くてたまらなかったが、それでも普通にしているつもりだったのだ。
だが実際には身支度を整えるのも億劫でごろごろしていた瑛莉を見兼ねたのか、ディルクに髪を梳かしてもらい、昼食を摂る部屋まで抱えて運ばれてしまった。
さらには一口大に切り分けられた料理を皿に載せてもらっただけでなく、後半は食べさせてもらった記憶すらある。食後に歩いて戻った記憶がないのだから、恐らくそのまま寝落ちしてベッドまで運んでもらったのだろう。
(子供か!!!)
他に失態はなかっただろうかと頭を抱えたまま思い返していると、不意に声を掛けられた。
「エリー!大丈夫か?どこが悪い?すぐに横になるんだ」
手首をつかみ焦りを浮かべたディルクの瞳が思いがけないほど近い。昨日の醜態からまだ立ち直っていなかった瑛莉は、目を合わせるのが気まずくて反射的に視線を逸らす。
だがそれを見たディルクは我慢していると勘違いしたものか、瑛莉の額に手を伸ばしながら毛布を掛けて寝かしつけようとしてくる。未だに子供扱いされていることに恥ずかしくて顔から火が出そうだ。
「っ、ディルク!もう大丈夫だから」
「こら、大人しくしていろ。熱はないようだが、顔が赤い。もしかしたらこれから発熱する可能性もある。安静にしていないと駄目だぞ」
「違うって!これは、そういうんじゃないから!」
それから疑い深いディルクを納得させるため、瑛莉は説明にかなりの時間と言葉を費やす羽目になったのだった。
「エリー、ディルク、おはよう。よく眠れたみたいだね」
瑛莉の顔を見て告げたエーヴァルトの言葉に、やらかした記憶が浮かびあがりそうになるのを必死に抑え込む。嬉しそうに微笑むエーヴァルトに他意はないのだと言い聞かせる。
「おはよう。おかげでゆっくり休めたよ。ありがとう」
テーブルの上には既に料理が並んでいて、ほわりと立ちのぼる湯気と香りが食欲をそそる。
(昨日もそうだけど、今日のご飯もとっても美味しい!)
エーヴァルトの世話全般を行っていると聞いていたが、これほどまでに料理上手だとは思わなかった。主人に不味い食事を出すわけにはいかないと腕を磨き、今では珍しい他国の料理なども作れるようになったらしい。
ちらりとベンノを見るが、こちらに一切顔を向けないところを見ると普通に褒めても嫌な顔をされるだけだろう。
瑛莉はオムレツのふわとろ加減に幸せを噛みしめながら、和やかな雰囲気で朝食を終えた。
「まずはエルヴィーラの救出が先決だが、これに関しては俺に任せてもらいたい」
食事を終えて今後についての話し合いを行うことになり、最初に口火を切ったのはディルクだ。
「エーヴァルトもエリーも狙われている側の人間だから近づくのは危険だ。単独のほうが動きやすいし、人質の救出は任務で何度か手掛けたことがあるからな」
事も無げに告げる言葉は自信を感じさせるものだったが、そう簡単なことではないぐらい素人の瑛莉にだって分かる。
「ディルク、君が優秀なのは知っているけれど自ら罠に飛び込むのは少々無謀ではないかな?エリーが留守番なのは当然だけど、僕は一緒に行くよ。万が一の時には君を連れて逃げ出すことぐらい出来る」
「お言葉ですが我が君、これは彼らの問題です。しかも見知らぬ侍女のために御身を危険に晒すことなど許容いたしかねます。どうかご再考を」
エーヴァルトの申し出にすぐさま反対するベンノだが、これには瑛莉も同意見だった。
「エルヴィーラが私に対して人質になり得ると判断されたのは、私の関わり方に問題があったからだよ。だったらその責任は私が取るべきだよね?」
難色を示すようにディルクは眉をひそめ、エーヴァルトも困ったような笑みを浮かべている。聖女の力は貴重なものだが、人質救出に対して役に立たないと思っているのだろう。
「……エリー、エルヴィーラのことは俺にも責任がある。今回の件は俺に状況を伝えるために無理を通したからだろう。エルヴィーラにはお前を保護して欲しいと頼まれたが、連れ戻してくれとは言わなかったんだ。この意味は分かるな?」
言い聞かせるような口調のディルクの言いたいことは理解できた。
エルヴィーラの立場からすれば、聖女である瑛莉を自由にさせておくメリットなどない。それでもディルクに告げなかったというのなら、それは瑛莉個人の幸せを考えた結果なのだろう。
(ディルクの言うことも分かるし、確かに一人じゃ何もできないけど……)
エーヴァルトとディルクの協力があれば話は別である。実現可能かどうかは分からないけどやってみる価値はあると思うのだ。
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そう前置きして瑛莉は自分の考えを話し始めたのだった。
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