召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景

文字の大きさ
54 / 74

作戦会議

しおりを挟む
すっきりとした気分で目を覚ますと、薄暗い室内に光が差し込んでいる。遅い昼食を摂ったあと朝まで眠ってしまったようだが、そのおかげで怠さも消え身体が軽い。

身体を起こすとベッドの傍に設置されたソファーに人が眠っていて思わずぎょっとするが、すぐにディルクだと気づき瑛莉は肩の力を抜いた。
いつも瑛莉より先に目を覚ますため、こうやって寝顔を見るのは初めてかもしれない。野営には慣れていると言っていたが、一人で護衛まで務めるのは大変だっただろう。

(昨日は魔物退治があったし、それから……………っ、えええええええ!?)

浄化後の記憶が蘇ってきて、瑛莉は思わず頭を抱えてしまった。

眠くて怠くてたまらなかったが、それでも普通にしているつもりだったのだ。
だが実際には身支度を整えるのも億劫でごろごろしていた瑛莉を見兼ねたのか、ディルクに髪を梳かしてもらい、昼食を摂る部屋まで抱えて運ばれてしまった。

さらには一口大に切り分けられた料理を皿に載せてもらっただけでなく、後半は食べさせてもらった記憶すらある。食後に歩いて戻った記憶がないのだから、恐らくそのまま寝落ちしてベッドまで運んでもらったのだろう。

(子供か!!!)

他に失態はなかっただろうかと頭を抱えたまま思い返していると、不意に声を掛けられた。

「エリー!大丈夫か?どこが悪い?すぐに横になるんだ」

手首をつかみ焦りを浮かべたディルクの瞳が思いがけないほど近い。昨日の醜態からまだ立ち直っていなかった瑛莉は、目を合わせるのが気まずくて反射的に視線を逸らす。

だがそれを見たディルクは我慢していると勘違いしたものか、瑛莉の額に手を伸ばしながら毛布を掛けて寝かしつけようとしてくる。未だに子供扱いされていることに恥ずかしくて顔から火が出そうだ。

「っ、ディルク!もう大丈夫だから」
「こら、大人しくしていろ。熱はないようだが、顔が赤い。もしかしたらこれから発熱する可能性もある。安静にしていないと駄目だぞ」
「違うって!これは、そういうんじゃないから!」

それから疑い深いディルクを納得させるため、瑛莉は説明にかなりの時間と言葉を費やす羽目になったのだった。


「エリー、ディルク、おはよう。よく眠れたみたいだね」

瑛莉の顔を見て告げたエーヴァルトの言葉に、やらかした記憶が浮かびあがりそうになるのを必死に抑え込む。嬉しそうに微笑むエーヴァルトに他意はないのだと言い聞かせる。

「おはよう。おかげでゆっくり休めたよ。ありがとう」

テーブルの上には既に料理が並んでいて、ほわりと立ちのぼる湯気と香りが食欲をそそる。

(昨日もそうだけど、今日のご飯もとっても美味しい!)

エーヴァルトの世話全般を行っていると聞いていたが、これほどまでに料理上手だとは思わなかった。主人に不味い食事を出すわけにはいかないと腕を磨き、今では珍しい他国の料理なども作れるようになったらしい。

ちらりとベンノを見るが、こちらに一切顔を向けないところを見ると普通に褒めても嫌な顔をされるだけだろう。
瑛莉はオムレツのふわとろ加減に幸せを噛みしめながら、和やかな雰囲気で朝食を終えた。


「まずはエルヴィーラの救出が先決だが、これに関しては俺に任せてもらいたい」

食事を終えて今後についての話し合いを行うことになり、最初に口火を切ったのはディルクだ。

「エーヴァルトもエリーも狙われている側の人間だから近づくのは危険だ。単独のほうが動きやすいし、人質の救出は任務で何度か手掛けたことがあるからな」

事も無げに告げる言葉は自信を感じさせるものだったが、そう簡単なことではないぐらい素人の瑛莉にだって分かる。

「ディルク、君が優秀なのは知っているけれど自ら罠に飛び込むのは少々無謀ではないかな?エリーが留守番なのは当然だけど、僕は一緒に行くよ。万が一の時には君を連れて逃げ出すことぐらい出来る」
「お言葉ですが我が君、これは彼らの問題です。しかも見知らぬ侍女のために御身を危険に晒すことなど許容いたしかねます。どうかご再考を」

エーヴァルトの申し出にすぐさま反対するベンノだが、これには瑛莉も同意見だった。

「エルヴィーラが私に対して人質になり得ると判断されたのは、私の関わり方に問題があったからだよ。だったらその責任は私が取るべきだよね?」

難色を示すようにディルクは眉をひそめ、エーヴァルトも困ったような笑みを浮かべている。聖女の力は貴重なものだが、人質救出に対して役に立たないと思っているのだろう。

「……エリー、エルヴィーラのことは俺にも責任がある。今回の件は俺に状況を伝えるために無理を通したからだろう。エルヴィーラにはお前を保護して欲しいと頼まれたが、連れ戻してくれとは言わなかったんだ。この意味は分かるな?」

言い聞かせるような口調のディルクの言いたいことは理解できた。

エルヴィーラの立場からすれば、聖女である瑛莉を自由にさせておくメリットなどない。それでもディルクに告げなかったというのなら、それは瑛莉個人の幸せを考えた結果なのだろう。

(ディルクの言うことも分かるし、確かに一人じゃ何もできないけど……)

エーヴァルトとディルクの協力があれば話は別である。実現可能かどうかは分からないけどやってみる価値はあると思うのだ。

「二人に相談というか、頼みがあるんだけど」

そう前置きして瑛莉は自分の考えを話し始めたのだった。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!

チャらら森山
恋愛
二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。 お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。

冷酷騎士団長に『出来損ない』と捨てられましたが、どうやら私の力が覚醒したらしく、ヤンデレ化した彼に執着されています

放浪人
恋愛
平凡な毎日を送っていたはずの私、橘 莉奈(たちばな りな)は、突然、眩い光に包まれ異世界『エルドラ』に召喚されてしまう。 伝説の『聖女』として迎えられたのも束の間、魔力測定で「魔力ゼロ」と判定され、『出来損ない』の烙印を押されてしまった。 希望を失った私を引き取ったのは、氷のように冷たい瞳を持つ、この国の騎士団長カイン・アシュフォード。 「お前はここで、俺の命令だけを聞いていればいい」 物置のような部屋に押し込められ、彼から向けられるのは侮蔑の視線と冷たい言葉だけ。 元の世界に帰ることもできず、絶望的な日々が続くと思っていた。 ──しかし、ある出来事をきっかけに、私の中に眠っていた〝本当の力〟が目覚め始める。 その瞬間から、私を見るカインの目が変わり始めた。 「リリア、お前は俺だけのものだ」 「どこへも行かせない。永遠に、俺のそばにいろ」 かつての冷酷さはどこへやら、彼は私に異常なまでの執着を見せ、甘く、そして狂気的な愛情で私を束縛しようとしてくる。 これは本当に愛情なの? それともただの執着? 優しい第二王子エリアスは私に手を差し伸べてくれるけれど、カインの嫉妬の炎は燃え盛るばかり。 逃げ場のない城の中、歪んだ愛の檻に、私は囚われていく──。

【完結】そして異世界の迷い子は、浄化の聖女となりまして。

和島逆
ファンタジー
七年前、私は異世界に転移した。 黒髪黒眼が忌避されるという、日本人にはなんとも生きにくいこの世界。 私の願いはただひとつ。目立たず、騒がず、ひっそり平和に暮らすこと! 薬師助手として過ごした静かな日々は、ある日突然終わりを告げてしまう。 そうして私は自分の居場所を探すため、ちょっぴり残念なイケメンと旅に出る。 目指すは平和で平凡なハッピーライフ! 連れのイケメンをしばいたり、トラブルに巻き込まれたりと忙しい毎日だけれど。 この異世界で笑って生きるため、今日も私は奮闘します。 *他サイトでの初投稿作品を改稿したものです。

【完結】さようなら。毒親と毒姉に利用され、虐げられる人生はもう御免です 〜復讐として隣国の王家に嫁いだら、婚約者に溺愛されました〜

ゆうき
恋愛
父の一夜の過ちによって生を受け、聖女の力を持って生まれてしまったことで、姉に聖女の力を持って生まれてくることを望んでいた家族に虐げられて生きてきた王女セリアは、隣国との戦争を再び引き起こした大罪人として、処刑されてしまった。 しかし、それは現実で起こったことではなく、聖女の力による予知の力で見た、自分の破滅の未来だった。 生まれて初めてみた、自分の予知。しかも、予知を見てしまうと、もうその人の不幸は、内容が変えられても、不幸が起こることは変えられない。 それでも、このまま何もしなければ、身に覚えのないことで処刑されてしまう。日頃から、戦争で亡くなった母の元に早く行きたいと思っていたセリアだが、いざ破滅の未来を見たら、そんなのはまっぴら御免だと強く感じた。 幼い頃は、白馬に乗った王子様が助けに来てくれると夢見ていたが、未来は自分で勝ち取るものだと考えたセリアは、一つの疑問を口にする。 「……そもそも、どうして私がこんな仕打ちを受けなくちゃいけないの?」 初めて前向きになったセリアに浮かんだのは、疑問と――恨み。その瞬間、セリアは心に誓った。自分を虐げてきた家族と、母を奪った戦争の元凶である、隣国に復讐をしようと。 そんな彼女にとある情報が舞い込む。長年戦争をしていた隣国の王家が、友好の証として、王子の婚約者を探していると。 これは復讐に使えると思ったセリアは、その婚約者に立候補しようとするが……この時のセリアはまだ知らない。復讐をしようとしている隣国の王子が、運命の相手だということを。そして、彼に溺愛される未来が待っていることも。 これは、復讐を決意した一人の少女が、復讐と運命の相手との出会いを経て、幸せに至るまでの物語。 ☆既に全話執筆、予約投稿済みです☆

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

期限付きの聖女

波間柏
恋愛
今日は、双子の妹六花の手術の為、私は病院の服に着替えていた。妹は長く病気で辛い思いをしてきた。周囲が姉の協力をえれば可能性があると言ってもなかなか縦にふらない、人を傷つけてまでとそんな優しい妹。そんな妹の容態は悪化していき、もう今を逃せば間に合わないという段階でやっと、手術を受ける気になってくれた。 本人も承知の上でのリスクの高い手術。私は、病院の服に着替えて荷物を持ちカーテンを開けた。その時、声がした。 『全て かける 片割れ 助かる』 それが本当なら、あげる。 私は、姿なきその声にすがった。

私が偽聖女ですって? そもそも聖女なんて名乗ってないわよ!

Mag_Mel
恋愛
「聖女」として国を支えてきたミレイユは、突如現れた"真の聖女"にその座を奪われ、「偽聖女」として王子との婚約破棄を言い渡される。だが当の本人は――「やっとお役御免!」とばかりに、清々しい笑顔を浮かべていた。 なにせ彼女は、異世界からやってきた強大な魔力を持つ『魔女』にすぎないのだから。自ら聖女を名乗った覚えなど、一度たりともない。 そんな彼女に振り回されながらも、ひたむきに寄り添い続けた一人の少年。投獄されたミレイユと共に、ふたりが見届けた国の末路とは――? *小説家になろうにも投稿しています

召喚先は、誰も居ない森でした

みん
恋愛
事故に巻き込まれて行方不明になった母を探す茉白。そんな茉白を側で支えてくれていた留学生のフィンもまた、居なくなってしまい、寂しいながらも毎日を過ごしていた。そんなある日、バイト帰りに名前を呼ばれたかと思った次の瞬間、眩しい程の光に包まれて── 次に目を開けた時、茉白は森の中に居た。そして、そこには誰も居らず── その先で、茉白が見たモノは── 最初はシリアス展開が続きます。 ❋他視点のお話もあります ❋独自設定有り ❋気を付けてはいますが、誤字脱字があると思います。気付いた時に訂正していきます。

処理中です...