令和百物語 ~妖怪小話~

はの

文字の大きさ
10 / 100

拾 覚.txt

しおりを挟む
「えー、皆さんに悲しいお知らせがあります。同じクラスの坂田くんですが、体調不良でしばらくお休みすることになりました」
 
 朝の会で先生から言われた言葉を、鬼の鬼龍院はどこか納得した顔で聞いていた。
 ここ最近、日に日に元気がなくなっていく坂田の様子に気づいていたのだ。
 体調が悪かったというのであれば、それも納得できた。
 
「それと、鬼龍院くん。悪いけど、週に一回、坂田くんの家にプリントを持って行ってあげてくれない?」
 
「え? あ、はい」
 
 なぜ自分に、と思いつつも、同じ妖怪のよしみということもあり鬼龍院は引き受けた。
 放課後に先生からプリントを受け取って、坂田の家へと向かう。
 
 ピンポーン。
 
「はーい。あら、鬼龍院くん」
 
「坂田くんのおばさん、こんばんは。坂田くん……じゃなかった、ノゾムくんにプリントを持ってきました」
 
「あらまあ、わざわざありがとうね。あの子も喜ぶわ。さ、あがって頂戴」
 
 坂田の母に促されるまま、鬼龍院は家の中へと入る。
 
「坂田くん、入るね」
 
「あ、鬼龍院くん」
 
 鬼龍院の見た坂田の顔は真っ青で、体調の悪さがにじみ出ている。
 それでも、か細い笑顔で、坂田はにっこりと微笑んだ。
 
「風邪?」
 
「ううん」
 
 坂田くんは、鬼龍院くんから心配の言葉とプリントを受け取った後で、ゆっくりと口を開いた。
 
「見たんだ……」
 
「見た? 何を?」
 
「人間の悪意……かな……」
 
 坂田くんは、覚(サトリ)。
 人間の心を読み取ることができる妖怪である。
 中学一年生となり、徐々に本音と建て前を使い分け始めた人間の成長は、心を読み取ることのできる覚にとって地獄の始まりだった。
 にこにことした笑顔で優しい言葉をかけながら、心の中では嫌悪や恨みを抱えている人間の姿を見続けた結果、坂田くんはそのギャップに混乱し、理解できず、怯えてしまった。
 他人の言葉を信じることができなくなっていった。
 周囲への不信は心を病ませ、ついに体を壊した。
 
「お母さんが言うには……覚一族皆がいつかは通る道らしい……。だから、心配しないでね……」
 
「ああ……」
 
 坂田の苦悩は、鬼龍院にとって共感できるものだった。
 鬼龍院もまた、小学校卒業と共に級友を食らうことで、人間を食す鬼としての通過儀礼を経験しているのだ。
 その後しばらくは、食事が喉を通らず、体重が五キロ落ち、両親から心配されたものだ。
 だからこそ、妖怪特有の苦悩は、痛いほど分かった。
 今は、何の言葉もかけるべきではないことも。
 
「また、来週もプリント届けに来るよ」
 
「うん、ありがとう」
 
 鬼龍院は何も言わずに坂田の家を後にした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2025/12/29:『ふるいゆうじん』の章を追加。2026/1/5の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/28:『ふゆやすみ』の章を追加。2026/1/4の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/27:『ことしのえと』の章を追加。2026/1/3の朝8時頃より公開開始予定。 2025/12/26:『はつゆめ』の章を追加。2026/1/2の朝8時頃より公開開始予定。 2025/12/25:『がんじつのおおあめ』の章を追加。2026/1/1の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/24:『おおみそか』の章を追加。2025/12/31の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/23:『みこし』の章を追加。2025/12/30の朝4時頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

意味が分かると怖い話【短編集】

本田 壱好
ホラー
意味が分かると怖い話。 つまり、意味がわからなければ怖くない。 解釈は読者に委ねられる。 あなたはこの短編集をどのように読みますか?

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

終焉列島:ゾンビに沈む国

ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。 最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。 会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...