令和百物語 ~妖怪小話~

はの

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拾参 のっぺらぼう

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 とある大学で、ミスコンが開催されていた。
 大学で最も美しい女性の座を求め、容姿に自信を持つ女性たちが集った。
 
 私服でのアピール。
 会話でのアピール。
 水着でのアピール。
 
 三種類の審査を終えて、最後まで舞台に立つことが許されたのは僅か五人。
 残された五人は、全員が美しいという称賛を受けることに批判の余地がないほど、美しかった。
 そこに優劣はなく、ただただ美しさのベクトルが異なるだけ。
 しかし、ここはコンテストの場。
 無情に、順位という優劣の数字が貼られていく。
 
「さあ、ついに……今年のミスコンの優勝者が決定します!」
 
 ステージ上には、五人のファイナリストと司会が立ち、司会は大声で最終審査の時を告げる。
 
「「「おおおおおおおおおおお」」」
 
 ステージを見守る観客たちは、そして惜しくもファイナリストを逃した参加者たちは、ステージの外から優勝者の誕生を見守る。
 今年の最も美しい女性の誕生を。
 
「では、ファイナリストの五名を紹介しましょう! エントリーナンバー一五九番! 【可愛いは正義】 文学部一年の川原さん!」
 
 川原さんは、可愛らしい笑みのまま、両手をふりながら一歩前に出る。
 
「エントリーナンバー三七一番! 【パワフル☆エナジー】 教育学部二年の半田さん!」
 
 半田さんが飛び跳ね、元気オーラを振りまきながら一歩前に出る。
 
「エントリーナンバー六二九番! 【時が止まるほどのクールビューティー】 理学部四年の胡桃沢さん!」
 
 胡桃沢さんが眉一つ動かさず、凛とした表情で一歩前に出る。
 
「エントリーナンバー九二〇番! 【才色兼備の天才美少女】 医学部一年の采葉さん!」
 
 采葉さんがウインクを一つ添え、一歩前に出る。
 
「ラストー! エントリーナンバー九五五番! 【顔なき美少女】 法学部一年の野辺さん!」
 
 野辺さんがつるりとした茹で卵のような顔で、一歩前に出る。
 
「それでは発表します! 今年のミスコン、優勝はああああああああああああああ!?」
 
 
 
「エントリーナンバー九五五番! 【顔なき美少女】 法学部一年の野辺さんに決定だああああああ!! おめでとおおお!!」
 
 司会が叫ぶ。
 会場が沸く。
 大量のスピーカーでも置かれているかのように、歓声が四方八方を駆け回る。
 選ばれなかったファイナリストたちも、悲しみを浮かべつつ、優勝者へ称賛の拍手を送る。
 
「いやー、野辺さんは服のセンスやしぐさの美しさもさることながら、一番の理由はやっぱり顔だよ顔! ルッキズムへの賛否が叫ばれる世の中において、目も口も鼻もない、従来の美しさの基準で語られ尽くしたパーツが一つもないその顔は、まさに最も美しい顔の大正解なのではないだろうかー!」
 
 野辺さんは、のっぺらぼう。
 その顔に、目も鼻も口もない。
 しかし見えるし喋れるし香りを感じられる。
 
 野辺さんは、司会から渡されるマイクを受け取り、人間であれば口があるだろう場所へと近づける。
 
「……何も知らないくせに」
 
「ん?」
 
 喜びのコメントがもらえるとばかり思っていた司会は、野辺さんの返答に固まる。
 
「この顔でどんなに苦しんできたか、何も知らないくせにいいいいいいいいいいい!! そんなにこの顔が羨ましいんなら、お前らも同じ顔にしてやるうううううううう!!」
 
 野辺さんは叫び、その右手で司会の顔面をはぎ取った。
 司会は、顔面から赤い血を吹き出し、そのままバタリと倒れた。
 全身がビクビクと痙攣している。
 
「お前らも同じ顔にしてやるうううううううう!!」
 
「「「ぎゃあああああああああああああ!!??」」」
 
 追いかける野辺さん。
 逃げ惑う観客たち。
 会場は地獄絵図となった。
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