59 / 100
伍拾玖 タンタンコロリン
しおりを挟む
地方の過疎化が加速している。
田畑の中にポツンと建つ庭付きの一軒家。
そこに住むのは、一人の老人。
子どもたちは、とうに都会へと出ていって、配偶者はとうに黄泉へと旅立った。
老人は、自分の命が残り少ないこともわかっていた。
子供たちから、心配だから都会で一緒に暮らそうと、何度も誘われた。
それが駄目ならと老人ホームへの入居も勧められた。
しかし老人は、断固として首を縦には降らなかった。
先祖代々受け継いできた家が、例え自分の代で終わりだとしても、せめて末代として見守りたかったのだ。
なによりも、配偶者と共に育てた庭の柿の木を放っておくことなど、とてもできなかった。
「やあやあ、綺麗な実ができた……」
桃栗三年柿八年。
柿の種がとれては植えてを繰り返し、庭はすっかり柿の森となっている。
亡き配偶者と一緒に植えた柿の種。
木となり、実をつけるその姿は、老人に当時の光景を思い出させてくれた。
「やあやあ、久しぶりだね……」
とはいえ、既に老人に、柿の実をとる力は残ってなかった。
毎日の水やりが精いっぱい。
もっとも、柿の実をとって食べる気も最初からなかった。
縁側に座って眺めるだけで、充分に楽しかった。
季節が廻り、柿は赤く熟れる。
食べごろだ。
近所の悪ガキが、石を投げて柿を落とし、何個かかっさらっていったものの、老人は気にすることはなかった。
「懐かしいなぁ……。子供の頃、同じことをやったっけなぁ……」
時代が変われど、子どもと言うものは変わらない。
ちょっとした悪いことを嬉々としてやって来る。
それが子供の仕事。
老人は柿の木を見守った。
季節が廻り、柿はその寿命を迎える。
ゆっくりと腐り落ちていく。
老人もまた、その寿命を迎える。
いつも座っている縁側に、ぱたりと横たわった。
思い出と共に消えるというのも悪くないと、ぼやけた目で柿の木を見つめる。
「タンタンコロリン。タンコロリン」
声が聞こえてきたのは、それと同時くらい。
柿の木の横に、僧侶のような恰好をした妖怪が立っていた。
柿の実をとらずに放置しておくと現れる妖怪、タンタンコロリン。
タンタンコロリンは、老人の側へと近づいて、その顔を覗き込む。
「お疲れ様……」
覗き込んできたその顔は、老人にとって忘れるはずのない配偶者の顔だった。
「ああ……迎えに……来てくれたのか……」
「そう。一緒に行きましょう」
タンタンコロリンは、老人に手を差し伸べる。
老人は、その手を取る。
後日、老人と連絡がとれないことを不審に思った子どもが、老人の家を訪れて、その死を確認した。
書類の上では、一つの孤独死として終わった。
しかし、その死に顔は、孤独を感じさせないほどに安らかなものだった。
田畑の中にポツンと建つ庭付きの一軒家。
そこに住むのは、一人の老人。
子どもたちは、とうに都会へと出ていって、配偶者はとうに黄泉へと旅立った。
老人は、自分の命が残り少ないこともわかっていた。
子供たちから、心配だから都会で一緒に暮らそうと、何度も誘われた。
それが駄目ならと老人ホームへの入居も勧められた。
しかし老人は、断固として首を縦には降らなかった。
先祖代々受け継いできた家が、例え自分の代で終わりだとしても、せめて末代として見守りたかったのだ。
なによりも、配偶者と共に育てた庭の柿の木を放っておくことなど、とてもできなかった。
「やあやあ、綺麗な実ができた……」
桃栗三年柿八年。
柿の種がとれては植えてを繰り返し、庭はすっかり柿の森となっている。
亡き配偶者と一緒に植えた柿の種。
木となり、実をつけるその姿は、老人に当時の光景を思い出させてくれた。
「やあやあ、久しぶりだね……」
とはいえ、既に老人に、柿の実をとる力は残ってなかった。
毎日の水やりが精いっぱい。
もっとも、柿の実をとって食べる気も最初からなかった。
縁側に座って眺めるだけで、充分に楽しかった。
季節が廻り、柿は赤く熟れる。
食べごろだ。
近所の悪ガキが、石を投げて柿を落とし、何個かかっさらっていったものの、老人は気にすることはなかった。
「懐かしいなぁ……。子供の頃、同じことをやったっけなぁ……」
時代が変われど、子どもと言うものは変わらない。
ちょっとした悪いことを嬉々としてやって来る。
それが子供の仕事。
老人は柿の木を見守った。
季節が廻り、柿はその寿命を迎える。
ゆっくりと腐り落ちていく。
老人もまた、その寿命を迎える。
いつも座っている縁側に、ぱたりと横たわった。
思い出と共に消えるというのも悪くないと、ぼやけた目で柿の木を見つめる。
「タンタンコロリン。タンコロリン」
声が聞こえてきたのは、それと同時くらい。
柿の木の横に、僧侶のような恰好をした妖怪が立っていた。
柿の実をとらずに放置しておくと現れる妖怪、タンタンコロリン。
タンタンコロリンは、老人の側へと近づいて、その顔を覗き込む。
「お疲れ様……」
覗き込んできたその顔は、老人にとって忘れるはずのない配偶者の顔だった。
「ああ……迎えに……来てくれたのか……」
「そう。一緒に行きましょう」
タンタンコロリンは、老人に手を差し伸べる。
老人は、その手を取る。
後日、老人と連絡がとれないことを不審に思った子どもが、老人の家を訪れて、その死を確認した。
書類の上では、一つの孤独死として終わった。
しかし、その死に顔は、孤独を感じさせないほどに安らかなものだった。
0
あなたにおすすめの小説
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2025/12/29:『ふるいゆうじん』の章を追加。2026/1/5の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/28:『ふゆやすみ』の章を追加。2026/1/4の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/27:『ことしのえと』の章を追加。2026/1/3の朝8時頃より公開開始予定。
2025/12/26:『はつゆめ』の章を追加。2026/1/2の朝8時頃より公開開始予定。
2025/12/25:『がんじつのおおあめ』の章を追加。2026/1/1の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/24:『おおみそか』の章を追加。2025/12/31の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/23:『みこし』の章を追加。2025/12/30の朝4時頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる