悪役令嬢転生の作り方

はの

文字の大きさ
36 / 38

第36話 清水三姫3

しおりを挟む
 三姫たちが到着したのは、白い箱のような建物。
 建物の壁は鏡面のように反射し、周囲の景色を写し込んでいる。
 
 三姫たちが入り口の門前に無遠慮に自動車を止めると、門の前に立っていた守衛たちが近づいて来る。
 彼らの仕事は、不審な車に引き返すように要求すること。
 が、その車内に一人の関係者がいたことで、守衛たちは視線をそちらへ向ける。
 
「こちらの方は、貴方のお知り合いで?」
 
「ええ。ちょっと緊急で。門を開けてもらえる?」
 
「申請が出ておりませんが」
 
「お願い! 緊急なの! ニュースは見たでしょ?」
 
 普段であれば、決して聞けない願い。
 しかし、転生業界の会社に続々と警察の手が伸びていることは、守衛たちも知っていた。
 つまり今は、緊急事態。
 守衛たちの判断で、特別対応が許される。
 守衛たちはしばらくひそひそと話し合った後、門を開けた。
 教団の人間が積み重ねた信頼は、確かに活きていた。
 
「ありがとう」
 
 開いた門からは、教団の自動車が続々と入っていく。
 守衛たちは全ての自動車が入ったことを確認し、再び門を閉める。
 自分たちの判断が、正しいことを願いながら。
 
「意外とあっさり入れたな」
 
「当然でしょ? そのために潜伏してたんだから。私の言うとおりに運転して」
 
 建物の敷地内は、複数の建物と自動車が通るための私道によって構成されている。
 建物の形はどれも統一されており、外から見ただけでは用途がわからない。
 また、私道はあえて複数に分岐させ、てきとうに走らせただけでは目的地に到着できないよう工夫されている。
 全ては、想定しない侵入者への対策。
 
 しかし、教団側には建物の構造を知る人間がいる。
 何度もここを訪れており、そんな工夫も意味を持たない。
 
 教団の自動車は、あっさりと目的の場所へと辿り着いた。
 
「この建物には何度か来たことがあるけど、魂が保管されてる部屋まであったなんてねえ」
 
 建物入り口のセンターにカードをかざすと、自動ドアはあっさりと開いた。
 教団の人間は続々建物の中に入り、一人が誘導する形で奥へと進んでいく。
 
「ここよ」
 
 建物の奥にある部屋には、円柱の形をした水槽がいくつも置かれていた。
 水槽には水が満たされており、水の中には白い光の塊が一つ漂っていた。
 
「あ、魂」
 
 白い光の正体を知っている三姫は、咄嗟に呟いた。
 
 魂を見たことのない教団の人々の視線が三姫に集まり、すぐに周囲の水槽へと分散する。
 
「これが、人間の魂か」
 
「こんなにたくさん」
 
「どれだけの人間を犠牲にしてきたんだ」
 
 無数の魂を前に、教団の人々は思い思いの感情を呟く。
 中には呟くだけでは収まらず、水槽に両手を張り付けて、どこの誰かもわからない魂に向かって涙を流す者もいた。
 
「では、さっそく解放を」
 
 リーダー格の言葉を受けた一人の信者が、部屋を見渡して、最も大きな機械の前へと急ぐ。
 十を超えるディスプレイと同数のキーボードがラックの上に置かれており、ラックの裏では大量のサーバーがごうんごうんと唸っている。
 サーバーからはケーブルがいくつも伸びており、部屋中の床を這っている。
 
 一人の信者は真剣な表情でキーボードを叩きながら、ディスプレイを凝視する。
 悪役令嬢の魂を解放するために必要な情報も、本来知る人間が分散されている。
 生体認証、パスワード認証、カード認証、エトセトラ。
 一人の裏切りでは、決して突破できない鉄壁の壁。
 
 だが、教団の手中には、突破する方法がある。
 ディスプレイに映る内容が変わると同時に、作業をする信者が入れ替わる。
 それぞれが自身の手に入れた認証方法によって、鉄壁の壁を崩していく。
 
「これが、最後」
 
 全ての認証を突破すると、ディスプレイには悪役令嬢の名前のリストがずらりと表示された。
 そして、悪役令嬢の名前の隣には日本人の名前が併記されていた。
 
「これって?」
 
「おそらく、転生した人の名前ね」
 
 教団の人々はディスプレイの前に集まって、表示されているリストを確認する。
 誰が転生したか。
 誰に転生したか。
 どこへ転生したか。
 管理番号の数は四桁を超え、いかに多くの人間が転生と言う被害にあったかがわかる。
 
「解放しよう」
 
 リーダー格の言葉は、この場にいる全員の総意だった。
 
「もちろんです」
 
 信者の一人がキーボードを叩き、操作を続ける。
 画面は悪役令嬢のリストから、悪役令嬢の魂を操作する画面へと切り替わる。
 その画面の中には、『全解放』と書かれたボタンもあった。
 
 あと、たった一操作で、教団の夢は叶う。
 
 自然と信者たちは目を閉じて、祈りを捧げていた。
 
「おお、神よ。どうか、迷える魂をお救い下さい」
 
 そして待った。
 世界の暗部――転生の崩壊を。
 
 
 
 しかし、キーボードを叩く音が聞こえることはなかった。
 
 代わりに、人間が一人、倒れる音が聞こえた。
 
 
 
「おい、どうした?」
 
 目を開けたリーダー格の頭も、銃弾が貫いた。
 リーダー格は目を大きく見開いて、銃弾の飛んできた方向に首を向け、そのまま床へと倒れ込んだ。
 
 教団の人々は目を開け、倒れる二つの死体に驚き、銃弾の発砲主を見た。
 最も驚いたのは、三姫だった。
 
「天馬……さん……?」
 
 さて、転生業界の終わりの日を待ち望んでいたのは、果たして教団だけだったのか。
 否、そんな訳はない。
 
 転生業界に組織的に立てつく者がいる以上、個の力で立てつく者もいるのが当然だろう。
 
「清水さん、こんなところでなにやってるのかな?」
 
 三度引かれた引き金。
 三姫は咄嗟に横へと回避し、三姫の後ろに立っていた人間が三姫の代わりに凶弾に倒れた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています

六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。 しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。 「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

断罪ざまぁも冴えない王子もお断り!~せっかく公爵令嬢に生まれ変わったので、自分好みのイケメン見つけて幸せ目指すことにしました~

古堂 素央
恋愛
【完結】 「なんでわたしを突き落とさないのよ」  学園の廊下で、見知らぬ女生徒に声をかけられた公爵令嬢ハナコ。  階段から転げ落ちたことをきっかけに、ハナコは自分が乙女ゲームの世界に生まれ変わったことを知る。しかもハナコは悪役令嬢のポジションで。  しかしなぜかヒロインそっちのけでぐいぐいハナコに迫ってくる攻略対象の王子。その上、王子は前世でハナコがこっぴどく振った瓶底眼鏡の山田そっくりで。  ギロチンエンドか瓶底眼鏡とゴールインするか。選択を迫られる中、他の攻略対象の好感度まで上がっていって!?  悪役令嬢? 断罪ざまぁ? いいえ、冴えない王子と結ばれるくらいなら、ノシつけてヒロインに押しつけます!  黒ヒロインの陰謀を交わしつつ、無事ハナコは王子の魔の手から逃げ切ることはできるのか!?

この記憶、復讐に使います。

SHIN
恋愛
その日は、雲ひとつない晴天でした。 国と国との境目に、2種類の馬車と数人の人物。 これから起こる事に私の手に隠された煌めく銀色が汗に湿り、使用されるのを今か今かとまっています。 チャンスは一度だけ。 大切なあの人の為に私は命をかけます。 隠れ前世の記憶もちが大切な人のためにその知識を使って復讐をする話し。 リハビリ作品です気楽な気持ちでお読みください。 SHIN

【長編版】悪役令嬢は乙女ゲームの強制力から逃れたい

椰子ふみの
恋愛
 ヴィオラは『聖女は愛に囚われる』という乙女ゲームの世界に転生した。よりによって悪役令嬢だ。断罪を避けるため、色々、頑張ってきたけど、とうとうゲームの舞台、ハーモニー学園に入学することになった。  ヒロインや攻略対象者には近づかないぞ!  そう思うヴィオラだったが、ヒロインは見当たらない。攻略対象者との距離はどんどん近くなる。  ゲームの強制力?  何だか、変な方向に進んでいる気がするんだけど。

悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸
恋愛
 仕事帰りのある日、居眠り運転をしていたトラックにはねられて死んでしまった主人公。次に目を覚ますとなにやら暗くジメジメした場所で、自分に仕えているというヴィンスという男の子と二人きり。  彼から話を聞いているうちに、なぜかその話に既視感を覚えて、確認すると昔読んだことのある児童向けの小説『ララの魔法書!』の世界だった。  その中でも悪役令嬢である、クラリスにどうやら成り代わってしまったらしい。  混乱しつつも話をきていくとすでに原作はクラリスが幽閉されることによって終結しているようで愕然としているさなか、クラリスを見限り原作の主人公であるララとくっついた王子ローレンスが、訪ねてきて━━━━?!    原作のさらに奥深くで動いていた思惑、魔法玉(まほうぎょく)の謎、そして原作の男主人公だった完璧な王子様の本性。そのどれもに翻弄されながら、なんとか生きる一手を見出す、学園ファンタジー!  ローレンスの性格が割とやばめですが、それ以外にもダークな要素強めな主人公と恋愛?をする、キャラが二人ほど、登場します。世界観が殺伐としているので重い描写も多いです。読者さまが色々な意味でドキドキしてくれるような作品を目指して頑張りますので、よろしくお願いいたします。  完結しました!最後の一章分は遂行していた分がたまっていたのと、話が込み合っているので一気に二十万文字ぐらい上げました。きちんと納得できる結末にできたと思います。ありがとうございました。

処理中です...