ルッキズムデスゲーム

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第2話

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「ルッキズムデスゲーム? なんだそりゃ?」
 
 教室中の生徒の感情を、銀河が代理で答えた。
 
「なになに? 何かゲームでも始まるってこと?」
 
「じゃあ、自動ドアが開かなかったのも自作自演?」
 
 銀河の意見に同調するよう、銀河と仲の良い女子生徒が口々に騒ぐ。
 スピーカーも自動ドアも、学校の設備だ。
 教師たちであれば自由に使用ができ、それ故に一連の状況を教師から生徒たちへのサプライズ企画か何かだという推測を生んだ。
 また、朝読書の時間、全校生徒は教室の中に集合している。
 現在、スピーカーを介して全教室に言葉を届けられる放送室にいることができるのは、教師たちだけなのだ。
 
「先生たちじゃないと思うな。だって、先生たちはこんな酷い言葉使わないでしょ?」
 
 それに対し、異を唱えたのは書絵だった。
 昨今の世論は、適切な言葉を使うことに対して潔癖になっている。
 教師という聖職者であれば、なおさら向けられる目は厳しい。
 そんな現代において、書絵には教師たちがルッキズムやデスゲームと言った用語を、レクリエーションとしても使う姿が想像できなかった。
 
「まあ、そうか」
 
 書絵の意見を聞き、騒いでいた三人も静かになる。
 となれば、生まれてくる疑問は一つだ。
 
「じゃあ、誰がやってんだ?」
 
「不審者が学校内に入り込んでるとか!?」
 
 不穏な状況は憶測を生み出し、憶測は生徒たちの恐怖を駆り立てた。
 自動ドアが開かないのは、不審者が生徒たちを教室にじ込めるため・
 生徒たちを閉じ込めるのは、不審者が後から教室を回り、生徒たちをいたぶるため。
 不幸な仮定を、生徒たちが次から次へと打ち立てる。
 
「大丈夫だよ。もし不審者がいたとしても、先生たちがなんとかしてくれるよ」
 
 不穏な雰囲気を感じ取った書絵は、生徒たちから怯えを消すように、努めて明るい声で言った。
 
 現状わかることは、生徒たちは教室に閉じ込められているが、教師たちは閉じ込められていないということだ。
 幸い、職員室と放送室は、そう離れていない。
 先の放送を聞いた教師たちの何人かが放送室に向かい、不審者がいた場合は確保されるだろうことが容易に想像できた。
 そして、確保された後は、スピーカーから聞きなれた教師の声が聞こえてくるだろうことも。
 
 生徒たちはそんな期待を持って、スピーカーの方を再度見た。
 しかし、教室に漂う期待にそぐわず、スピーカーから流れてくる機械音声はは言葉を続けた。
 
『ルッキズムデスゲームのルールは、とてもシンプルです。授業時間の終わりのチャイムが鳴る瞬間、教室の中にいる皆さんの容姿をAIで分析し、点数化します。そして、最も点数の高い男女一名ずつに死んでもらいます』
 
「はは、何言ってんだ?」
 
 容姿を分析、と聞いた銀河は、教室前方の天井に取り付けられた小型カメラを見た。
 容姿を分析するなら映像が必要で、映像が必要なら録画機能を持ったカメラは必須だろうという、単純な理由だ。
 生徒の集中力や理解度を解析するための施策として設置されたただのカメラが、銀河には不気味に見えた。
 
「おい、誰だよ! いくらなんでも悪趣味だろ!」
 
 銀河の親友である一本橋いっぽんばし金呉きんごが立ち上がり、教室中を見回しながら叫んだ。
 
 教師たちは、依然として教室に戻ってこない。
 自動ドアも開かない。
 監禁されたストレスが、周囲に対してふりまかれた。
 
『なお、他者への暴力行為とカメラの破壊行為は禁止です。容姿以外の方法で生徒を殺すことは、ゲームの趣旨に反しますので』
 
「やってられっか!」
 
 あまりにも馬鹿馬鹿しい状況に付き合いきれなくなった金呉は、教室から出ようと、前方の自動ドアへ向かって歩く。
 そして、自動ドアを強く握り、無理やりこじ開けようとする。
 しかし、自動ドアは不審者が侵入した際の防犯も兼ねている。
 金呉一人の力でこじ開けられるほど、脆くはなかった。
 
「ちっ!」
 
 続けて金呉は、自動ドアを思いっきり蹴り飛ばした。
 ヤンチャ時代の喧嘩で鍛えられた金呉の蹴りは、平均的な高校生の暴力を超える強さで、自動ドアに衝撃を与えた。
 しかし、自動ドアはびくともしなかった。
 自動ドアは、不審者が破壊によって侵入できないよう、強固な素材を使用している。
 少なくとも、椅子や机を振り回しても、割れもへこみもしない設計だ。
 
 防衛力を高めた設計は、監禁という現状において著しく不利益に働いていた。
 
「糞がっ!」
 
「落ち着け、金呉」
 
 再度自動ドアをけ飛ばす金呉を、銀河が慌てて止めに入る。
 銀河自身、スピーカーから流れてくる言葉は半信半疑だ。
 しかし、万が一本当で、万が一金呉の行動が暴力行為と見なされたら金呉が殺されるのではないか。
 そんな不安を、銀河は抱いていた。
 
『ルール説明は以上です。では、実際にゲームを体験していただくため、SHRショートホームルームを使って模擬ゲームを行います。もちろん本番同様、SHRの終わりのチャイムが鳴った時点で、最も点数が高い二人には死んでもらいます』
 
 教室にある掛け時計は、午前八時五十五分を示していた。
 SHRの時間は、八時五十分から九時まで。
 つまり、スピーカーの言っていることが正しければ、五分後に教室内の二人が死ぬということだ。
 
『では、ゲームスタートです』
 
 機械音声の跡、教室内に漂ったのはひたすらの沈黙だ。
 
 教室の様子に、異変はない。
 武器が配られるわけでも、化け物が教室に入ってくるわけでもない。
 ただただ、出入りできない空間に、秒針音だけが響いた。
 
 変わらない日常が、生徒たちの恐怖を軽減させ、疑問を煽った。
 
「なあ、本当に死ぬと思うか?」
 
「いや、ないだろ」
 
 特に冷静に疑問を口にしていたのは、死ぬ可能性が極めて低い生徒たち。
 つまり、教室内において容姿が並以下の生徒たちだ。
 彼らは、仮に死ぬことが事実だったとしても決して選ばれないだろう自信があり、その自身が考えるという余裕を作った。
 
 逆を言えば、選ばれるかもしれないと考える生徒たちの反応は様々だ。
 
「糞っ! なんだってんだよ!」
 
 金呉が再び、自動ドアを蹴る。
 
「馬鹿! 落ち着けって!」
 
 それを銀河が止める。
 
 金呉と銀河、二人とも容姿が優れた側に属す、死ぬ可能性のある男子生徒。
 さらに言えば、この教室において、最も容姿が良いと言われている男子生徒のツートップ。
 万が一事実だったらという思いによって、冷静さをじわじわと奪われていった。
 
 では、そして最も容姿が良いと言われている女子生徒はというと、書絵だ。
 
「皆、落ち着いて。大人しく、先生たちを待とう?」
 
 書絵はざわざわとする教室内を落ち着かせ、穏やかな声で生徒たちに言う。
 いつも通りの温かみを持った声に、優しい瞳から溢れ出す穏やかな雰囲気。
 その表情にも声にも、自身を心配する気配はまったくない。
 いつも通り長く美しい黒髪が靡いて、男子生徒たちの視線どころか女子生徒たちの視線まで遠慮なく奪いとった。
 
「でも、書絵」
 
 むしろ書絵を心配しているのは、書絵の親友二人だ。
 当然、二人も気づいていた。
 もし死ぬことが事実であった時、最初に死ぬのは書絵であることに。
 
 親友二人の言葉に、書絵は優しく微笑んだ。
 
「大丈夫だよ。誰かが死ぬなんて、そんなことないよ。絶対に」
 
 書絵の性格を、一言で言うならば楽観的だ。
 溺愛する両親によってやりたいことを全て経験し、書絵を好ましく思う同級生によってあらゆる危害から守られる人生を歩んできた。
 その結果、作り上げられたのが、穢れなき平和主義だ。
 故に書絵は、何も起きる訳がない、人間が死ぬはずはないと心の底から信じていた。
 
 書絵のふわりとした言葉に、生徒たちの表情が和らいだ。
 イライラとしていた金呉と銀河も同様だ。
 
「まあ、だよな」
 
「死ぬとか、普通に考えてないよな」
 
 純粋な言葉は、他人の信用をあっさりと勝ち取ることができる。
 生徒たちは、常識的な思考を取り戻していった。
 教師が問題を解決するのを待とう、そんな考えで一致団結した。
 
 そして、和やかな雰囲気の中で、午前九時のチャイムが教室に鳴り響いた。
 
『結果を発表します』
 
 チャイムが鳴り終えた後、スピーカーから再び機械音声が現れた。
 
『ディスプレイをご覧ください』
 
 教室の角に備えられていたディスプレイが。黒から白へと反転する。
 生徒たちの視線は、一気にディスプレイへと向いた。
 
 ディスプレイには、二つの顔写真が映し出されていた。
 チャイムが鳴った時点の、銀河と書絵の顔写真が。
 
 銀河はイライラを我慢するような表情、書絵はいつも通りの穏やかな表情をしていた。
 どちらも、すれ違えば思わず振り向きたくなるほど美しい容姿だった。
 
 そして、顔写真の下側には数字が表示されていた。
 銀河の顔写真の下には『89』、書絵の顔写真の下には『94』。
 
 二人の容姿の点数だ。
 
『男子生徒は永遠銀河、女子生徒は花野書絵に決定しました』
 
「は?」
 
「九十四って、私そんなに」
 
 銀河は不快、書絵は自分の容姿に高得点がつけられたことへの謙遜を示す。
 
 
 
 次の瞬間、小型カメラの近くに開いた小さな穴から、赤いレーザーが飛び出して、銀河と書絵の額を打ち抜いた。
 銀河と書絵は、突然のことに目を見開いたまま額から血を吹き出し、そのまま教室の床へと倒れていった。
 
 転倒音が響いた後には、床に血の水溜りが広がっていく。
 近くにいた生徒の足元に血が流れ着いたとき、生徒たちは二人が死んだことを理解した。
 
「きゃああああああああああああ!?」
 
 悲鳴が轟く。
 
『では、本番を開始します』
 
 機械音声は何食わぬ声で、一時間目――ルッキズムデスゲーム本番の始まりを告げた。
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