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第22話
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午後一時三十五分。
五時間目開始のチャイムが鳴り響く。
『ゲームスタートです』
アナウンスが流れてなお、焦る生徒はいなかった。
皆が必死に、ハサミで紙を切り抜いて、工作に勤しんでいた。
幸い、プリントを印刷するための白い紙は教室内に山ほど積まれていた。
生徒たちの行う作業は、紙を直面から曲面へと変えること。
顔の大きさを変えることはできない。
だが、顔の凹凸については、顔を隠す紙に丸みを持たせることで、ある程度の吸収ができる。
つまるところ、全員が同じ点数となるための工夫と努力である。
「紙、まだある?」
「めちゃくちゃ余ってる!」
「よし! 皆、落ち着いて作業をしてくれ。時間はまだたっぷりある」
指揮をとるのは、力也だ。
手先が器用なことも幸いし、自身のお面を作りながら、全体も見渡すことができていた。
「ん? 昇さんの作業の進みが悪いな。空胡さん、悪いが後で昇さんの支援を頼む」
「は、ふぁい!」
紙マスク作りにおいて日の目を浴びたのが、三軍の腐女子組。
青山空胡、箕田天里、小池宙美の三人だ。
同人誌づくりを趣味とする三人は、作成したデータを印刷所に依頼するだけにとどまらず、細かな装飾やデザインを自分の手で行ってきた。
その結果得たのが、細かな作業を実現する手。
同じ形の紙マスクを作るという作業においても、その細やかさがいかんなく発揮された。
「ありがとう、助かるよ、空胡さん」
「は、ふぁい!」
同じ教室の生徒に褒められなれていない空胡は、緊張しながら照れながらも、どこか嬉しそうに作業を進めていく。
教室内の空気は、デスゲームが始まって以降、最も弛緩していた。
「ど、どうにかなりそうだね」
陰キャ組の森生が、木理矢へと話しかける。
「これが上手くいけば、な」
木理矢もパソコンから手を離し、紙のお面を作ることに終始している。
林平も森生も同様である。
もっとも、三人とも手先が器用なわけではないので、順調とはいかない。
「こここ、ここはね、もっとこうしたほうが」
腐女子組の宙美の手を借りて、なんとかといった形である。
「なるほど。助かる」
「ごごご、ごめんね。私、教えるの苦手で。えとえとえと、わかりにくかったら、言ってね」
「いや、十分だよ」
「え、えへへ」
ただでさえどもり気味な宙美の言葉は、いつもよりいっそうどもっていた。
自分の教えている内容に教室中の生徒の命運がかかっているというプレッシャーもだが、普段話さない相手と話していることによって。
「あ、ありがとう」
それは、林平と森生も同様。
口下手な林平はいつも以上に口を固く閉ざし、森生も緊張のあまり瞬きをしていない時間がないほど激しく瞬いている。
実質、木理矢と宙美のマンツーマン会話だ。
「小暮木は、すすす、すごいよね」
「ん?」
「デスゲーム、終わらせちゃうんだもん」
「アイデア自体は、白鳥瞭のものだ。俺が何かをしたわけじゃない」
「う、ううん。さささ、最初にパソコンで、色々やってくれたから、皆、頑張れたんだと思う。何やってるか、私じゃわかんなかったけど」
「そうか」
木理矢は、視線を遠くに座る瞭へと移す。
瞭はとっくの昔に紙のお面を作り終えており、退屈そうに窓の外を眺めていた。
時折、力也から他の生徒を手伝うように言われているが、一向に動く気はいが。
「これで、終わるといいな」
「え、ななな、何か言った?」
「いや、なんでもない」
時間が進んでいく。
一人一つ、紙のお面が完成していく。
後はただ、時を待った。
五時間目の終わりを。
午後二時二十五分。
教室にチャイムが鳴り響く。
『結果を発表します』
スピーカーから機械音声が流れる。
その後数秒、いつもなら流れてくるはずの『ディスプレイをご覧ください』という音声が、一向に流れてこなかった。
「どう、なったんだ?」
「さあ」
生徒たちがざわざわとし始め、スピーカーに視線が集まる中、機械音声はようやく流れてきた。
『イー』
『エックス』
『シー』
『イー』
『ピー』
『ティー』
『アイ』
『オー』
『エヌ』
その後も機械音声はアルファベットの文字列を朗読し続けた。
文字の意味が解読できない生徒たちが互いに困惑顔で顔を見合わせる中、木理矢は小さくガッツポーズをした。
「エクセプション! 例外発生だ!」
いつにもなく喜んだ木理矢の姿に、力也は口角があがるのを我慢しながら尋ねた。
「例外発生、ってなんだい?」
期待を込めて尋ねた。
「プログラムの異常だ。まったく全員が同じ点数という状況を、AIは想定していなかったらしい」
「つまり、ゲームは」
「ああ。AIは強制終了。デスゲームは、これで終わりだ!」
再び数秒、教室内に沈黙が漂う。
「……や」
最初に声を上げたのは、恋々と力也。
「やったー!」
その後、次々と生徒たちの喜びの声が上がる。
「お前のアイデアのおかげだ! ありがとう白鳥!」
「わしは、なんにもしとらんよ」
アイデアを出した瞭の周りに生徒たちが集まるが、瞭はうっとおしそうに手を振って追い払おうとする。
「いや、瞭君のおかげだ。皆で、瞭君を胴上げしよう!」
「やめんか!」
当然、木理矢の周りにも生徒たちが集まる。
「小暮君もありがとう!」
「まだ、終わってないだろ。教室の鍵は、未だ閉まったままなんだから」
口ではそう言いつつも、木理矢の表情はほころんでいた。
AIのプログラムは止まった。
デスゲームの終了を、木理矢自身も確信していた。
カチ。
カチ。
恐怖の象徴であった秒針が、変わらない音で時を刻む。
五時間目開始のチャイムが鳴り響く。
『ゲームスタートです』
アナウンスが流れてなお、焦る生徒はいなかった。
皆が必死に、ハサミで紙を切り抜いて、工作に勤しんでいた。
幸い、プリントを印刷するための白い紙は教室内に山ほど積まれていた。
生徒たちの行う作業は、紙を直面から曲面へと変えること。
顔の大きさを変えることはできない。
だが、顔の凹凸については、顔を隠す紙に丸みを持たせることで、ある程度の吸収ができる。
つまるところ、全員が同じ点数となるための工夫と努力である。
「紙、まだある?」
「めちゃくちゃ余ってる!」
「よし! 皆、落ち着いて作業をしてくれ。時間はまだたっぷりある」
指揮をとるのは、力也だ。
手先が器用なことも幸いし、自身のお面を作りながら、全体も見渡すことができていた。
「ん? 昇さんの作業の進みが悪いな。空胡さん、悪いが後で昇さんの支援を頼む」
「は、ふぁい!」
紙マスク作りにおいて日の目を浴びたのが、三軍の腐女子組。
青山空胡、箕田天里、小池宙美の三人だ。
同人誌づくりを趣味とする三人は、作成したデータを印刷所に依頼するだけにとどまらず、細かな装飾やデザインを自分の手で行ってきた。
その結果得たのが、細かな作業を実現する手。
同じ形の紙マスクを作るという作業においても、その細やかさがいかんなく発揮された。
「ありがとう、助かるよ、空胡さん」
「は、ふぁい!」
同じ教室の生徒に褒められなれていない空胡は、緊張しながら照れながらも、どこか嬉しそうに作業を進めていく。
教室内の空気は、デスゲームが始まって以降、最も弛緩していた。
「ど、どうにかなりそうだね」
陰キャ組の森生が、木理矢へと話しかける。
「これが上手くいけば、な」
木理矢もパソコンから手を離し、紙のお面を作ることに終始している。
林平も森生も同様である。
もっとも、三人とも手先が器用なわけではないので、順調とはいかない。
「こここ、ここはね、もっとこうしたほうが」
腐女子組の宙美の手を借りて、なんとかといった形である。
「なるほど。助かる」
「ごごご、ごめんね。私、教えるの苦手で。えとえとえと、わかりにくかったら、言ってね」
「いや、十分だよ」
「え、えへへ」
ただでさえどもり気味な宙美の言葉は、いつもよりいっそうどもっていた。
自分の教えている内容に教室中の生徒の命運がかかっているというプレッシャーもだが、普段話さない相手と話していることによって。
「あ、ありがとう」
それは、林平と森生も同様。
口下手な林平はいつも以上に口を固く閉ざし、森生も緊張のあまり瞬きをしていない時間がないほど激しく瞬いている。
実質、木理矢と宙美のマンツーマン会話だ。
「小暮木は、すすす、すごいよね」
「ん?」
「デスゲーム、終わらせちゃうんだもん」
「アイデア自体は、白鳥瞭のものだ。俺が何かをしたわけじゃない」
「う、ううん。さささ、最初にパソコンで、色々やってくれたから、皆、頑張れたんだと思う。何やってるか、私じゃわかんなかったけど」
「そうか」
木理矢は、視線を遠くに座る瞭へと移す。
瞭はとっくの昔に紙のお面を作り終えており、退屈そうに窓の外を眺めていた。
時折、力也から他の生徒を手伝うように言われているが、一向に動く気はいが。
「これで、終わるといいな」
「え、ななな、何か言った?」
「いや、なんでもない」
時間が進んでいく。
一人一つ、紙のお面が完成していく。
後はただ、時を待った。
五時間目の終わりを。
午後二時二十五分。
教室にチャイムが鳴り響く。
『結果を発表します』
スピーカーから機械音声が流れる。
その後数秒、いつもなら流れてくるはずの『ディスプレイをご覧ください』という音声が、一向に流れてこなかった。
「どう、なったんだ?」
「さあ」
生徒たちがざわざわとし始め、スピーカーに視線が集まる中、機械音声はようやく流れてきた。
『イー』
『エックス』
『シー』
『イー』
『ピー』
『ティー』
『アイ』
『オー』
『エヌ』
その後も機械音声はアルファベットの文字列を朗読し続けた。
文字の意味が解読できない生徒たちが互いに困惑顔で顔を見合わせる中、木理矢は小さくガッツポーズをした。
「エクセプション! 例外発生だ!」
いつにもなく喜んだ木理矢の姿に、力也は口角があがるのを我慢しながら尋ねた。
「例外発生、ってなんだい?」
期待を込めて尋ねた。
「プログラムの異常だ。まったく全員が同じ点数という状況を、AIは想定していなかったらしい」
「つまり、ゲームは」
「ああ。AIは強制終了。デスゲームは、これで終わりだ!」
再び数秒、教室内に沈黙が漂う。
「……や」
最初に声を上げたのは、恋々と力也。
「やったー!」
その後、次々と生徒たちの喜びの声が上がる。
「お前のアイデアのおかげだ! ありがとう白鳥!」
「わしは、なんにもしとらんよ」
アイデアを出した瞭の周りに生徒たちが集まるが、瞭はうっとおしそうに手を振って追い払おうとする。
「いや、瞭君のおかげだ。皆で、瞭君を胴上げしよう!」
「やめんか!」
当然、木理矢の周りにも生徒たちが集まる。
「小暮君もありがとう!」
「まだ、終わってないだろ。教室の鍵は、未だ閉まったままなんだから」
口ではそう言いつつも、木理矢の表情はほころんでいた。
AIのプログラムは止まった。
デスゲームの終了を、木理矢自身も確信していた。
カチ。
カチ。
恐怖の象徴であった秒針が、変わらない音で時を刻む。
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