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第5話 校内
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創は、学校中を歩き回った。
一年生の教室、二年生の教室、三年生の教室を全て回る。
扉を開いては熱気を浴び、空っぽの教室を目にして扉を閉める。
教室の中に誰かいた痕跡は見当たらない。
下駄箱に戻って、近くの男子更衣室の扉を開いて中に入る。
脱いだ服を入れるための籠は空っぽで、当然着替えている者などいない。
女子更衣室の扉も躊躇いなく開けて中に入る。
男子更衣室と全く同じ構造の部屋には、やはり誰もいなかった。
「誰かいませんか?」
時々、そう呼びかけながら廊下を歩く創ではあったが、心の中ではとっくに誰もいないだろうことを受け入れていた。
校内で人間に遭遇することなど、期待していなかった。
それでも歩き回ったのは、ゼロパーセントの可能性にかけていたのかもしれない。
「失礼します」
職員室の扉を開ける。
教師たちが忙しそうに歩き回っていた光景も、今は昔。
綺麗に片づけられた机から、机上に書類が残されている机まで、創はくまなく調べていった。
ロッカーを開けると出てくる、テスト用紙。
人類滅亡がなければ受けていたのだろう問題を見て、創は机上の黒ペンをとる。
問題用紙に解答を殴り書きして、同じく机上の赤ペンを持って、丸を付ける。
正解かどうかは創にもわからない。
出鱈目だ。
ガッシャンガッシャン。
教員机のキャビネットを乱暴に開ける音だけが、職員室に響く。
創は自分が何のために行っているのかを忘れ、義務的に乱暴にキャビネットを開けては閉める。
全ての教師机を確認しを得た時、創はどことなく充実感を得ていた。
職員室を出た創は、目に入った特別教室もすべて入り、ひたすら荒らす。
教室から出た後は、まるで空き巣でも入った後のような散らかり具合だ。
いったい何があるのだろう。
そんな好奇心を押さえられなかったことは否定できない。
「次は、っと」
校内を歩き回る創の目に、次に映ったのは図書室だった。
創は図書室へと入り、案内図を見る。
入学してからの創は、あまり図書室を利用することはなかった。
調べものがあるときはスマートフォンで済ませていた。
それ故、図書室に来たのは片手で数えられる程度。
図書室の構造には詳しくなかった。
創は案内図を見て、行きたいコーナーを四つ指差した。
薬学、化学、歴史、そしてSFだ。
薬学コーナーに到着した創は、睡眠薬に関する本を本棚から取り出して、パラパラと捲っていく。
知りたかったのは、安眠薬の効果。
どういった成分で睡眠薬が作られ、どういった場合に睡眠薬が効かなくなるのか。
しかし、所詮は学校の図書室。
睡眠薬の仕組みをわかりやすく図解して説明する本はあったが、安眠薬に関する情報が載っている本はなかった。
次に到着したのは科学コーナー。
原子や分子に関する本を本棚から取り出して、パラパラと捲っていく。
知りたかったのは、粒子化。
粒子とは何か、人間が粒子化するための条件とは何か。
しかし、出てくるのは科学のテストで出題されるような、一般的な分子や原子の説明のみ。
粒子化という、最新技術の情報が書かれた本はなかった。
次に到着したのは歴史コーナー。
知りたかったのは、過去に同様の歴史はあったのか。
未知のウイルスとまでは言わないまでも、人類が滅亡の危機に瀕した時の実例を探した。
しかし、当然そんな歴史はない。
ペストやスペインかぜといった、歴史上多くの死者を出した病気が載っているのみ。
ペストは適切な患者の隔離と抗生剤の治療で終わり、スペインかぜはいまだ収束理由が分からず研究の真っ最中。
いずれにせよ、人類が最後の一人にまで減った歴史はなかった。
最後に到着したのはSFコーナー。
知りたかったのは、人類滅亡を迎えた世界の行く末、そして最後に取り残された人類の末路。
「宇宙に避難、体を電子化して生存。後は、超常的な力を手に入れて新しい世界の神になる、か。どれもこれも、無理そうだな」
気になった本を全て読み終えた創は、本を本棚に戻して図書室を後にする。
学校中を回って創が得たことは、現在も未来も何もわからないという事実の再確認だった。
創以外が滅亡しただろう世界は今後どうなっていくのか。
どうして創だけが目覚めたのか。
創の体は何故粒子化していないのか。
あるいは、いずれ粒子化するのか。
生きるとは何か。
死ぬとは何か。
日常にいれば宿題の忙しさに忙殺され、考えてもしょうがないと流せる内容ではあったが、幸か不幸か創には時間があった。
つい考えてしまう時間しかなかった。
「どうしようかな」
頭の片隅に疑問を残したまま、創は二年三組の教室へと戻った。
扉を開いても、熱気が溢れ出てくることはない。
ナップサックは創の机にかかったままで、他の机も椅子も動いた形跡はない。
創はナップサックを手に取り、窓の外を眺める。
静かな町。
誰もいない町。
人も。
犬も。
猫も。
鳥も。
学校には誰もいなかったし、何もなかった。
次はどうしようかと考えながらボーっとしていると、創のお腹がグウッと鳴った。
腕時計を見れば、時刻は午後一時を指していた。
校内を歩き回って、大量の本を読むことたっぷり四時間。
創の胃は、朝食べた食パンを吸収し終え、次のエネルギーを求めていた。
「近くに、コンビニがあったっけ」
創が食料を求めてコンビニに目を向けると、コンビニの近所にある同級生の家が目に入った。
「そういえば、充電のこと忘れてた。もしかしたら、モバイルバッテリーあるかな?」
創は教室の窓を閉め、扉を閉め、学校の外へ出る。
一年生の教室、二年生の教室、三年生の教室を全て回る。
扉を開いては熱気を浴び、空っぽの教室を目にして扉を閉める。
教室の中に誰かいた痕跡は見当たらない。
下駄箱に戻って、近くの男子更衣室の扉を開いて中に入る。
脱いだ服を入れるための籠は空っぽで、当然着替えている者などいない。
女子更衣室の扉も躊躇いなく開けて中に入る。
男子更衣室と全く同じ構造の部屋には、やはり誰もいなかった。
「誰かいませんか?」
時々、そう呼びかけながら廊下を歩く創ではあったが、心の中ではとっくに誰もいないだろうことを受け入れていた。
校内で人間に遭遇することなど、期待していなかった。
それでも歩き回ったのは、ゼロパーセントの可能性にかけていたのかもしれない。
「失礼します」
職員室の扉を開ける。
教師たちが忙しそうに歩き回っていた光景も、今は昔。
綺麗に片づけられた机から、机上に書類が残されている机まで、創はくまなく調べていった。
ロッカーを開けると出てくる、テスト用紙。
人類滅亡がなければ受けていたのだろう問題を見て、創は机上の黒ペンをとる。
問題用紙に解答を殴り書きして、同じく机上の赤ペンを持って、丸を付ける。
正解かどうかは創にもわからない。
出鱈目だ。
ガッシャンガッシャン。
教員机のキャビネットを乱暴に開ける音だけが、職員室に響く。
創は自分が何のために行っているのかを忘れ、義務的に乱暴にキャビネットを開けては閉める。
全ての教師机を確認しを得た時、創はどことなく充実感を得ていた。
職員室を出た創は、目に入った特別教室もすべて入り、ひたすら荒らす。
教室から出た後は、まるで空き巣でも入った後のような散らかり具合だ。
いったい何があるのだろう。
そんな好奇心を押さえられなかったことは否定できない。
「次は、っと」
校内を歩き回る創の目に、次に映ったのは図書室だった。
創は図書室へと入り、案内図を見る。
入学してからの創は、あまり図書室を利用することはなかった。
調べものがあるときはスマートフォンで済ませていた。
それ故、図書室に来たのは片手で数えられる程度。
図書室の構造には詳しくなかった。
創は案内図を見て、行きたいコーナーを四つ指差した。
薬学、化学、歴史、そしてSFだ。
薬学コーナーに到着した創は、睡眠薬に関する本を本棚から取り出して、パラパラと捲っていく。
知りたかったのは、安眠薬の効果。
どういった成分で睡眠薬が作られ、どういった場合に睡眠薬が効かなくなるのか。
しかし、所詮は学校の図書室。
睡眠薬の仕組みをわかりやすく図解して説明する本はあったが、安眠薬に関する情報が載っている本はなかった。
次に到着したのは科学コーナー。
原子や分子に関する本を本棚から取り出して、パラパラと捲っていく。
知りたかったのは、粒子化。
粒子とは何か、人間が粒子化するための条件とは何か。
しかし、出てくるのは科学のテストで出題されるような、一般的な分子や原子の説明のみ。
粒子化という、最新技術の情報が書かれた本はなかった。
次に到着したのは歴史コーナー。
知りたかったのは、過去に同様の歴史はあったのか。
未知のウイルスとまでは言わないまでも、人類が滅亡の危機に瀕した時の実例を探した。
しかし、当然そんな歴史はない。
ペストやスペインかぜといった、歴史上多くの死者を出した病気が載っているのみ。
ペストは適切な患者の隔離と抗生剤の治療で終わり、スペインかぜはいまだ収束理由が分からず研究の真っ最中。
いずれにせよ、人類が最後の一人にまで減った歴史はなかった。
最後に到着したのはSFコーナー。
知りたかったのは、人類滅亡を迎えた世界の行く末、そして最後に取り残された人類の末路。
「宇宙に避難、体を電子化して生存。後は、超常的な力を手に入れて新しい世界の神になる、か。どれもこれも、無理そうだな」
気になった本を全て読み終えた創は、本を本棚に戻して図書室を後にする。
学校中を回って創が得たことは、現在も未来も何もわからないという事実の再確認だった。
創以外が滅亡しただろう世界は今後どうなっていくのか。
どうして創だけが目覚めたのか。
創の体は何故粒子化していないのか。
あるいは、いずれ粒子化するのか。
生きるとは何か。
死ぬとは何か。
日常にいれば宿題の忙しさに忙殺され、考えてもしょうがないと流せる内容ではあったが、幸か不幸か創には時間があった。
つい考えてしまう時間しかなかった。
「どうしようかな」
頭の片隅に疑問を残したまま、創は二年三組の教室へと戻った。
扉を開いても、熱気が溢れ出てくることはない。
ナップサックは創の机にかかったままで、他の机も椅子も動いた形跡はない。
創はナップサックを手に取り、窓の外を眺める。
静かな町。
誰もいない町。
人も。
犬も。
猫も。
鳥も。
学校には誰もいなかったし、何もなかった。
次はどうしようかと考えながらボーっとしていると、創のお腹がグウッと鳴った。
腕時計を見れば、時刻は午後一時を指していた。
校内を歩き回って、大量の本を読むことたっぷり四時間。
創の胃は、朝食べた食パンを吸収し終え、次のエネルギーを求めていた。
「近くに、コンビニがあったっけ」
創が食料を求めてコンビニに目を向けると、コンビニの近所にある同級生の家が目に入った。
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