最強ギルドは解散しました!

夜雲 響

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第一章

第七話 始動

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 自分の部屋に戻ったセノンはゆっくりと借りた本を読んでいた。

 窓からのぞいた月明かりが少し本を照らすとセノンは部屋の隅にあった時計を見た。
 時計の針は夕食を食べる時間の五分前となっていた。

 セノンが夕食を食べる場所につくとユリカがテーブルの準備を終え座っていた。

「セノンさん早かったですね! 一番遅くに来るものだと思っていました」

 ユリカは服装をメイド服から私服へと変えていた。

「ユリカさんは似合っていますね、服装」

「ほんとですか?」

「本当ですよ。でも、ユリカさんはかわいいので、どんな格好でも似合いそうですね」

「そんなに言ってもらえてうれしいです」

 ユリカとセノンが楽し気な顔で話していると三人のお子供たちも登場した。

「セノンさんお待たせしました!」

 一香は元気よく入ってき、瑠美は軽い会釈をした。政次はというと、嫉妬の目をセノンに送り出していた。

 しかし、そんなことをしてもセノンは無視して話を進める。

「まぁ、そろそろ食べるとしましょう!」

 セノンの合図で全員が着席した。三人が据わるとほかにもいたメイドがメニューの品を運んできた。

「そうぞ。こちらが『エンゼルアミューズ』です」

 五人が囲んだテーブルの上に並んだ品はトロっとした半熟卵があるソースにパイをつけて食べるものだった。

 そこは宿で酒場もあるところではあったが、フレンチのコースメニューがディナーであった。

「これはわたしたち『BUFFALOのメイド』からのサービスです」

 メニューを運んできたメイドがこの言葉だけを残して去っていった。

「こんなに高そうなものをいただいていいんですか?」

 瑠美は少し心配そうに伺った。

「大丈夫ですよ。これは私からのサービスです! 実は――――」

 ユリカは立ち上がると、

「――――実は、私も皆さんの仲間に入れてもらうこととなりました。まだまだ、至らない点も多いですがこれからどうぞよろしくお願いします」

 深々と頭を下げる。

 すると、三人の子供は固まる。間ができ、体が固まるも、政次にはこみあげてくるものがあった。

「本当なんですか? それは! これからよろしくお願いします!」

 政次は精一杯手を伸ばした。しかし、ユリカも空気を察して黙って席に座りなおした。

 それにより一瞬静まった場所から和やかな空気へと変わった。

「これだけ仲間がいればギルドランキング一位も夢じゃないですね!」

 一香はセノンに向かっていったが、セノンはもう食事で忙しそうだった。

「ちょっと! セノンさんってば!」

「あ、すみません。話は聞いていたから大丈夫です。それよりも、この料理おいしいですよ」

「それにしても聞いてなさそうでした」

「以後気を付けます」

 この後、みんなは卵のアミューズを食べ始める。

 しかし、瑠美はそんなこと食べ始めることなく言葉を口に出す。

「そういえば、まだ、ギルドの名前って決まっていませんでしたよね? どうするんですか?」

 すると、そこにまたも間が生まれる。その間を利用して瑠美は卵のアミューズを食べ終わる。これにより全員が食べ終わったこととなり次のメニューが運ばれてきた。

「続いて、『海老とジャガイモもカクテルサラダ』となります。こちらはオードブルとなります」

 メイドさんは丸くなったガラスにカラフルな色合いで表現されたサラダを運んできた。
 新しいメニューを目にするとセノンが口を出す。

「あ、その件なんですけど、僕はギルドリーダーはやりません」

「「「「……え、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」」」」

 しかし、そこのいたメンバー誰もがセノンがギルドのリーダーをすると思い込んでいた。

 四人は、高級なフレンチ料理を静かに食べることを忘れる。

 が、料理はおいしいため、フォークを持った手は止まっていなかった。

「それなら誰がリーダーをするんですか?」

 ユリカ当然の質問をする。

「誰がやっても文句はいいません。しかし、まだ中学生という子たちにリーダーをやらせるというのは……」

「はぁ、――それって私がやるって決まってるんですね……」

 セノンのわざとらしい言いぶりにユリカはため息をつく。

「まあ、という結果になりましたので、名前もユリカに決めてもらいましょう」

 その言葉にユリカはムッとする。

「あ、私、いい名前思いついた!」

 一香は先ほどの料理から言葉を思いついた。それは、もともと一香のお気に入りの言葉と似ていたからであった。

「ん? 聞かせて聞かせてください」

 ユリカは食事の手を休め、少し前のめりになる。

「それはね! [エンジェル・ハーツ]!」

「いい名前じゃないですか!」

 ユリカは名前を聞くと、すぐに賛同した。

「わたしもいいと思う!」

 瑠美も乗り気だった。

 セノンはどうでもいいようなそぶりを見せる。しかし、心の中はそうではなかった。なぜなら、その名前はあまりにも恥ずかしいからであった。その恥ずかしさは次、元テルルのメンバーにからかわれると思いこみあげてきたものだ。

 政次もセノンと同じ気持ちに立っていた。そのため、

「それはちょっと……」

 小さな声でギルドの名前に反対した。

 セノンは心の中でいいぞいいぞいいぞと珍しく政次側に立って応援していた。

「何か言った?」

 一香は本当に聞こえてないのかはわからないが少し強く政次に聞く。

「い、いえ……なんでも――」

「ほんとになんでもなかったの?」

 政次は少し言いにくそうにしたが……

「まぁまぁ、政次君も悪気があっていったわけじゃないんだし……一香ちゃんもその辺にしてあげて」

 ユリカはもうリーダーとしての仕事を果たす。

「は、はい」

 政次はユリカに言われ少し自信を持つ。これにセノンはまだだ、頑張れ政次と思っていたがそんなに現実は甘くない。

「でもまぁ、私はいい名前だと思うよ? [エンジェル・ハーツ]」

「そ、そうですよね!」

 政次は異性の押しにはめっぽう弱かった。セノンは心の中で吸い越し残念に思った。しかし、ユリカの会話テクニックにより納得してしまう。

「[エンジェル・ハーツ]ってさ、天使の心って意味だよね? それも心は複数形だし! それってさ、このギルドにはぴったりだと思わない?」

 ユリカは容姿だけでなく言葉の暴力もすごかった。

 セノンは自分で自覚して、ちょろい男だと思ってしまう。

 しかし、セノンは何も言わず、[エンジェル・ハーツ]というギルドの名前に決まった。

「なら、ギルド名も決まったことだし、ゆっくりこれから出てくる料理を楽しみましょ!」

 ユリカが場をまとめると、五人は宿『BUFFALO』のフレンチのコースメニューをディナーとしておいしく、楽しくいただく。

 全員がデザートに出てきた『バルサミコ酢とマーマレードのレアチーズタルト』までを堪能し終えると、ユリカがコマンドメニューを開く。

 ユリカの指が動くとギルドが作成された。セノンはこの時、自分の前作ろうとして、その時は会話が弾んだことによりギルドを作っていないことに気が付いた。

「これからは皆さんよろしくお願いしますね?」

 全員がギルド[エンジェル・ハーツ]に入ったの確認するとユリカはまとめる。

「そういえば、明日はどうするんですか? セノンさん」

「明日はいきなりだけど試練の塔に入ってみようと思っています。まぁ、そこで何するかは明日の移動中にでも話すとします」

「わかりました! それでは明日はそういうことらしいです。時間は昼集合ということにしましょう!」

 ユリカは何でもそつなくこなし天才肌だった。

 ユリカの言葉には全員が異議がなく全員が了解の返事をする。

 そして、五人はその場を解散した。

 その後、セノンは自分の部屋に戻り、ベッドに寝転がった。そのうえ、コマンドメニューを開き、ログアウトした。

 セカルドでは、どの冒険家も基本は宿屋でログアウトする。それには理由があった。
 プレイヤーにはスチールという技ができるものがいて、そのスチールをされると、持っているアイテムや装備までもが盗み出されてしまう。宿屋はそれを防ぐことができるのだ。それは、宿屋以外に、自分の家などでもできることだ。

 こうして、安心してセカルドから現実世界へと戻ったセノンであった。
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