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第二章. 主人公覚醒編

1. 男賊現る

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 自由行動一日目の夕方頃に俺は目を覚ました。昼寝に入ってから八時間程はぐっすり寝ていたんじゃないだろうか。おかげで体の疲れがだいぶ取れた気がする。とりあえず腹が減っているようなので少し早めだが晩飯でも食べに行こうかと思う。食っては寝てを繰り返す堕落した生活の素晴らしいこと。『穴王』と『掘王』討伐はほかのパーティーに任せてずっとこうしていたい。

 そういえば期限の一年を過ぎてしまって世界が滅亡したら俺たちはどうなるのだろうか。あの国王が俺たちだけは何としても元の世界へ還すってなことをやるようには思えない。むしろ世界がもうすぐ滅亡するから好きなことをしてやるってタイプで、滅亡する前にお前を掘るみたいな感じになりそうで恐ろしい。ちなみにあの国王には一度だけ強制的に俺たちを城まで呼び戻す権限があるらしいので、初期ステータスから成長しないままの俺は特に危険だ。もしも権限を使われたら俺は為す術もなく国王や周りの兵士に貫かれることになる。

 ちなみに余談ではあるが、あの城にいた兵士はみな穴兄弟の契りを交わしているらしい。全員が国王に貫かれると同時に貫いているといった話を、酔った国王が最終日の食事会で話していたので確かな話だと思う。あの城で働くための最低条件が穴兄弟になることのようだ。ノンケお断りの雇用条件。

 こんな感じで適当なことことを考えながら歩いていたら昼に立ち寄った飯屋に着いた。昼は『月光ゲイその一』がついてきたことでゆっくり食べれらなかったので、今度はゆっくり食べたい。昨日からこの店にしか来てないが、俺は冒険するくらいなら最初に見つけた美味い店にそのまま通うタイプなので別に問題ないだろう。まぁ美味いからって理由の他に店員の女の子が可愛いってのも大きい。この世界に来てからゲイとばっかり関わってきたから異性の癒しが欲しい。

 晩飯は昨日と同じメニューにした。良く分からないが牛に似た味のする分厚いステーキと、これまた良く分からないがコーンスープに似ている料理にパンとサラダが付いているセットだ。なかなかのボリュームで値段も銀貨一枚程度なので個人的には満足だ。この料理が"スライム"と同じ価値だっていうんだからやっぱりこの世界は狂ってると思う。

 晩飯を食べ終えた後は、真っ暗になるまで少し時間がありそうなので少し町の見物をすることにした。一、二時間程町を見物してから宿に戻れば丁度良い感じの時間になるだろう。この町は最初のとこより男女のカップルがだいぶ多いように思える。まぁ元いた世界と比べると全然なんだが、それでもあの国よりは数倍以上カップルの数が多い。こっちがゲイに囲まれて尻の心配をしているのに対して、こいつらは特に尻の心配をしなくても良いんだろうなと思うと無性に腹が立ってきた。あの国に戻ったら今いる町はパートナーを探しているゲイが多いといった噂でも流すことにしよう。パートナーを探しているのはノンケを装って異性と一緒にいる奴らだとかいう感じにすれば丁度このカップル共が襲われるだろう。胸が熱くなるな(ゲス)。

 適当にぶらりと町を見物してから、完全に暗くなる前に宿へ戻ることにした。この町はそこまで広くないし、今いる地点から宿まで二十分も歩けばつくだろう、そう思って俺は宿への帰路についた。それから十分程歩いたところで、全身にボロ布をまとった十数名の人間と思われる奴らが俺の周りを囲んだ。俺よりも身長が高い奴らばかりなのでおそらく男なんじゃないかと思う。

 「貴様が『穴の勇者』だな?悪いが俺たちについてきてもらうぞ。抵抗するようなら無理やりにでも連れていく。」
 
 ボロ布をまとった奴らのうちの一人が俺にそう言ってきた。こいつらは一体何者なんだろうか。俺には一切心当たりがない。俺が無言でいると男が次のように言った。

 「大人しくついてくるようなら悪いようにはせん。たっぷりとこの世の天国を味合わせてやろう。」

 ...何となくだが察しがついた気がする。もしかしなくてもこいつらは国王の話で出た『男賊』という男しか襲わない賊連中じゃないだろうか。さっきから全員が俺のことを上から下まで嘗め回すように見ている。さらに息もはぁはぁと変態がするように荒く、ナニもテントを張っているように見える。ここまで状況証拠が揃っていれば誰でも察しがつくだろうと思う。正直今まで生きてきた中で一番のピンチである。

 「見逃してくださいと言っても見逃してはくれないんですよね...?」

 声が震えそうになるのを我慢して何とか絞り出す。とりあえず下手に出てみたがどう反応するか。

 「問答無用!野郎ども、そこの男をとっ捕まえて縛り上げろ!」

 聞く耳を持ってくれなかった。十数人の屈強そうな男に四方から襲い掛かられては軟弱な俺のステータスでは抵抗できない。ここは大人しく捕まっておくのが最善だろう。大人しくついてくれば悪いようにしないっていってたし(現実逃避)。

 そして俺は頭に布を被せられ、体中を縄で縛られて『男賊』の連中にどこかへと連行されることとなった。
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