一寸先は闇

北瓜 彪

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第4章 赤い舟に揺られて

モンスターペアレント

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 プルルルル、プルルルル。
 とある小学校の教室の壁の電話が鳴っている。担任の先生が走ってやって来てその受話器を取った。
 「なんでうちの子のたましいを取るんですかっ!!」
受話器から飛び出した第一声は、金切り声の塊だった。先生はたじろぐ。
「あのー…どなたでしょうかー…。」
「てってっその母です!」
「あっ、てってっそくんのお母様ですかー…あっあの今日はどうされましたでしょうか…。」
「今日!うちの子が帰ってきたらっ!魂を取られていましたッ!」
てってっそ母はきっぱりと言った。慌てる先生の頭はフル回転、今日あったことを超特急で思い出す。
「あ、ああ、そうですか……いえ実は今日の6時間目の後、てってっそくんは成績がとても良いので、魂を取ってやったんです…。」
先生は恐る恐る説明した。
「なぜです!なぜ魂を取るんですかっ!?」
応えるや否や、てってっそ母の怒声が降りかかってくる。先生は怯え、消え入りそうな声で繰り返した。
「いえですねぇ…ですから……てってっそくんは成績優秀なので魂を取ってやっても大丈夫だと…。」
「いいえっ!」
受話器を握る手には汗が滲んでいる。
「だ…だだっ……だだだって…たましいをと、たましーを取ら、とら、とられることはっ…生徒にとと…ととって、てててっ…最高の名…最高の名誉なんですよっ…ひぃ~。」
「いーえっ!確かにあなた方から見ればてってっそは優等生かもしれませんが、魂を抜くなんてとんでもないっ!もっとすごい子ならそういう対処をしてもやっていけるのかもしれませんが、うちの子はまだまだです!家に帰ったら獄字の書き取りも0マス計算もできないし、歴史で習った穢土時代の病魔の名前や理科で習ったマンドレイク試験紙とDデスDデスDデス液の色の変化も覚えてないんですよっ!!」
「あぁ…それは魂を抜かれた子によくあることですね。」
「よくある!?あなたよくあるリスクをよく平気で無視できますねえ!!」
「すいませんすいませんすいません…。」
「とにかく明日、何がなんでもてってっそに先生の方から直々に魂を返してやって下さい。それと…。」
てってっそ母はそこで一度言葉を切った。そしてまた息を吸い込むと
「成績優秀の子の魂を取ることで学校支援に役立てようなんて、そんな阿呆な策はやめて下さい。子供、特に小学生はまだ未熟なんだから、魂を取られたら記憶パーになることぐらい、アンタだって分かんでしょ!…え、どうしたのてってっそ?え?自分の名前忘れたあ?あんたの名前はてってっそ!もういいでしょ!…ほらぁ、聞きましたぁ?これだから……とにかく、至急魂を届けに来てちょうだい!住所分かんでしょ!連絡網手元にあんでしょうねぇ!来て下さいよ、絶対に!!!」
カチャーン!電話が切られた。先生は走り出した、職員室へとーー。



 ーー師走ーーそんな言葉がある。学校の先生に対する生徒の俗語だ。先生がよく生徒に「廊下を走るな」と言っているのに自分が忙しい時は廊下を走っているという、説得力のない様子を表す言葉だ。
 「何ですって!大人が子供の前で見本になれないだなんて、言語道断じゃないのよ!!」
 プルルルル、プルルルル。職員室の壁の電話が鳴り出した。1人の先生がやって来て、その受話器を取った。




 
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