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第2章 荒野
妖怪オーシャンさん
しおりを挟む「え?」
サユリはしばらく黙ってしまった。
下校途中、知らない老婆から声をかけられたのだ。黒い絹に身を包み首から貝殻を下げ、怪しい雰囲気をしている。
「このりんごを食べると、成績スーパーアップだよ!」
きょとんとして、サユリは老婆を見つめた。老婆は目に不気味な光を浮かべてりんごを差し出す。
「一口だけでいいよ…。」
「いえ、そういうのは……」
「いいから、遠慮しないで!」
そう言うと老婆はサユリの口にりんごを押し込んだ。不思議なことに、りんごはサユリの口にするりと入ってしまった。
その途端、サユリは人魚になって、声が出なくなってしまった!
同じ時、ある海から、サユリの声をした手足のある魚が浜に上がった。
クニコもマサもハライチもコウゴも……。
その辺りに住む子供らは皆、老婆にりんごを食べさせられて人魚になってしまった。
そしてその度に、浜にはその子供の声と手足を持った魚が上がった。
魚らは慌て困っている人魚たちを無視して、町を乗っ取り始めた。
そして老婆の魔の手はついに、大人たちにも伸ばされた。
こうして、町は魚たちが支配するようになった。
人魚となった1人の男が、せめて家に帰ろうと、尾ひれを動かしてじたばたしていた。
男は路地裏を歩く老婆を見つけると、家まで送ってもらおうとしてその肩を叩いた。
振り向いた老婆は首から貝殻を下げていた。その貝殻が、足をなくして目線の下がった自分の目の前で揺れている。
その時、男はその貝殻からかすかに漏れ聞こえる声に気づいた。その声は1人のものではない、大勢の人の声が混じって聞こえた。
(まさか…)
男は瞬時に老婆の貝殻を引っ張ると、それを力一杯引きちぎった。
「何をするんだい!」
老婆が青ざめて叫ぶ。それを見て、男は貝殻を地面に叩きつけた。
ガシャン!
「ああっ!」
「あ………あー、あー、あー……あぁっ、声が出たぁ!」
歓喜する男から目を背け、老婆は逃げ出した。
その頃町では、服を着た魚たちが声が出なくなり慌てていた。
代わりに人魚となった人間たちが話せるようになったのだ。
人魚たちが魚たちをこぞっておどすと、手足のついた魚たちはすっかり怖気付いて海へ帰った。
それと同時に、人魚たちは足を取り戻した。
不審な老婆にはご注意を。それは、魚による世界征服を企む妖怪オーシャンさんかもしれない…。
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