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しおりを挟む彰人が二階へ上っている足音が耳に入る。すると「おい」という悠哉の声で、陽翔の肩は飛び跳ねた。
「とりあえず座って話そう」
「…う、うん…」
悠哉の言葉に従い、二人は対面になるように椅子へと腰をかけた。悠哉の顔を見ることが恐ろしかった陽翔は、顔を上げることなく自身の膝に乗せた拳をぎゅっと力強く握り締める。
「なぁ、お前はずっと俺のことが好きだったのか?」
回り道など一切せずに、核心的な質問を悠哉は投げかけた。好き、この言葉に込められた意味は友情的感情などではなく、恋愛感情として好きなのか、その真意を悠哉は陽翔に尋ねているのだろう。
陽翔は口を開こうとしたが、やはり言葉が出てこなかった。怖い、陽翔にとって真実を口にしてしまうことは酷く恐怖であり、とてもじゃないが口に出来なかった。
「言いたくねぇの?」
「…ごめん…っごめん悠哉…っ」
「俺は謝罪が聞きたいんじゃない」
「ごめん…っ」
耐えられず陽翔の瞳からは涙が溢れ出る。こんな時に泣くなんて悠哉を困らせるだけだ、頭では分かっているはずなのに、今の陽翔には自身の涙腺を制御することは不可能であった。
「ごめんな陽翔、俺は親友だってのにお前の気持ちすら気づいてやれなかった」
立ち上がった悠哉は、陽翔の涙を指ですくった。陽翔ががばりと顔を上げると、そこには今にも泣きそうな悠哉の姿があった。
「なんで…なんで悠哉が謝るのさ…」
「だってそうだろ?俺はこの数年お前の気持ちなんか気づきもしないで自分の事で精一杯だったんだ。挙げ句の果てには勘違いした状態でお前に告白なんかした、今思うと俺はお前にどれほど残酷な事をしてきたか思い出すだけで苦しいよ」
「違う…っ!悠哉が気づけなかったのは当然なんだっ!僕は悠哉にこの気持ちがバレないように必死に隠してた…っだから…っ!」
勢いのまま立ち上がった陽翔は、必死に自分が悪いのだとどうにか悠哉に伝えた。今回の件に関して悠哉が責任を感じることは一切なかった。これは陽翔自身が招いたことだ、親友に対して抱いてはいけない感情を抱いてしまった陽翔自身に全ての責任があったのだ。
すると、一度瞳を長く閉じた悠哉の真っ直ぐとした瞳が陽翔を捕える。あまりにも真っ直ぐとしたその瞳に圧迫されたように、陽翔の身体は硬直した。そして「どうしたらお前は幸せになれるんだ」と悠哉は静かに尋ねた。
「えっ…」
「俺と付き合うか?」
「は…っ?何言ってるの…」
陽翔は驚きと動揺、他にも理解出来ない悠哉の思考に混乱した。そんな自分とは反対に、悠哉は恐ろしいほど堂々としており、陽翔を見つめる瞳は真っ直ぐとしたままだった。もう一度陽翔は「悠哉…?」と震えた声で悠哉に言葉の真意を尋ねる。
「お前は俺の事が好きなんだろ?だったら付き合おう」
悠哉が陽翔の元へ歩みを寄せる。そんな悠哉から陽翔は勢いよく距離を取り「何言ってるの…っ?!」と叫んだ。
「何って…お前が俺の事を好いてくれていたなら初めからそうするべきだったんだ。俺は陽翔が幸せなら何でもいい」
「やめて…っ!!」
これ以上悠哉の言葉を聞き入れる訳にはいかなかった陽翔は、咄嗟に自分の耳を塞いだ。陽翔には訳が分からなかった。何故悠哉がこんな事を言い出したのか、確かに悠哉は陽翔の事を大切に思ってくれている、しかしその気持ちは恋愛感情ではないと悠哉の口からはっきりと聞いたはずだ。なのに悠哉は何故自分と付き合おうなどと言い出したのか、陽翔にはまるで分からなかった。
「なんで悠哉はそんな事言うの…?悠哉の好きと僕の好きは違うんだよ…?」
「確かに違うな、俺はお前とキスやセックスをしたいとは思わない。だけど…お前が望むなら何だってやってやるって思えるぐらい俺にとって陽翔は特別な存在なんだ。お前は俺に自分の幸せのために恋をしてもいいって言ってくれたよな?なのに…なんでお前は俺を優先しちまうんだよ…?俺はお前にも幸せになって欲しいんだ」
悠哉のその真っ直ぐとした力強い言葉に、陽翔の心は感じたことの無い程の温かさと感動を覚えた。悠哉という母体に全身を包まれているかのような安心感に戸惑いすら感じる。悠哉に想われている、嘘や誇張などではない正直な悠哉の気持ちに、陽翔は今初めて自分がここまで悠哉に思われているのだと自覚した。
「おかしい…おかしいよ悠哉…なんで僕なんかをそこまで思ってくれるの…?」
「はぁ?お前だって俺のことが好きな癖に俺の為とか言って好きでもない男と付き合ってただろ?俺のためでも普通そこまでするかよって話だし、お互い様だろ」
悠哉に指摘されても、陽翔には未だに信じがたかった。まさか陽翔のために付き合うことだって可能だと断言されるなど思いもしなかった。これでは陽翔が悠哉に対して抱いてる気持ちと同等ぐらいの重さがある事になる。
「本当に言ってるの…?僕と付き合うって事は神童先輩と別れることになるんだよ…?」
「そうなったら彰人には悪いけど別れるよ、二股するよかいいだろうし」
「なんで…っ?悠哉は神童先輩の事が好きなんでしょ…っ?」
陽翔が困惑した様子で訴えると、悠哉は冷静に言葉を並べた。
「好きだよ、彰人の事はちゃんと好きだ。だけど俺はお前が自分より俺を優先するように、俺も陽翔を優先するだけだ。お前だって同じことをしてる訳だし、とやかく言われる筋合いないと思うんだけど」
陽翔が何を言っても悠哉が考えを変えることは無かった。それでも陽翔はこんな悠哉の答え望んではいない、たとえ人一倍頑固な悠哉が自分の考えを押し通そうが、陽翔がその考えを受け入れる訳にはいかないのだ。
陽翔は一度グッと唇を噛み締め「僕には受け入れられない」と言葉を絞り出した。
「無理だよ…どんなに悠哉が僕のために尽くしてくれても…僕には受け取れないよ…。これで悠哉と付き合えても僕はちっとも幸せじゃない」
喉の震えを感じる、悠哉の好意を否定してしまった事に対する恐怖に、悠哉の顔を見るとこが出来ない。
「ごめん」
「えっ…?」
悠哉のその一言に、陽翔は無意識に顔を上に向ける。何に対する謝罪なのか陽翔には検討がつかない。けれど悠哉の表情はどこか安心しきっているような安堵感があった。
「お前はそう言うと思ったよ、俺の提案を受け入れないことぐらい分かってた。だからこそこんな馬鹿げた事を言ったんだ」
「僕と付き合ってもいいって言ったのは嘘だったってこと…?」
「それは違う、俺はお前が望むのなら何だってしてやると思ってるよ。だけどお前は優しいから自分だけの得のために俺と付き合うなんて選択しないって分かってたんだ。分かってたけど俺がこんな提案したのは俺がどれだけ陽翔の事を想ってるのか知って欲しかったからなんだ」
口を半開きの状態でぽかんとしている陽翔に、悠哉は優しく微笑みかけた。
「お前は自分の気持ちが俺にバレた時すごい焦ってた、どうせ俺に嫌われるって思ったんだろ?馬鹿だよな、今更俺が陽翔の事を嫌うことなんて無いのにさ」
そう言って陽翔の手を優しく握りしめた悠哉の手は、とても温かかった。陽翔は不思議と身体の力が抜けたような感覚に陥る。緊張や不安がすべてどこかへ行ってしまったように一瞬で気持ちが楽になったようだ。陽翔にとって悠哉の言葉は魔法だ、悠哉のその言葉だけで陽翔の気持ちは一喜一憂するのだから。
「僕は悠哉のこと好きなんだ…気がついたら友情では片付けられないぐらいに悠哉の事が好きになってた」
陽翔は正直に自分の気持ちを告白した。隠し続けてきた悠哉への想い、まさかこうして告白する日が来るとは思いもしなかった。
「だけど僕は神童先輩みたいに悠哉を幸せにする自信がなかったんだ。悠哉を狭い世界に閉じ込めて、僕だけが独占してしまうことが怖くて…僕にはそんなこと出来なかった。それに元々悠哉が神童先輩に気があったことは知ってたからさ、二人が付き合えば悠哉を僕から解放出来ると思ったんだ」
陽翔は全てを赤裸々に話した。不思議な事に、真実を口にすることに対しての抵抗感はなかった。
「だけどとっくに諦めてたんだ、だから悠哉が気にすることは何もないよ」
「そっか…話してくれてありがとな」
とても不思議な感覚だ、先程まで重く沈むような重荷を背負っていた程に身体が押しつぶされるようだったのに、今はとても軽やかな気分だった。陽翔を包み込むような悠哉の温かな優しさがそうさせているのだろうか、陽翔は自然とそうなのだろうなと思った。
「お礼を言うのは僕の方だよ、ありがとう悠哉、悠哉に幻滅されなかったって分かっただけですごく気持ちが楽になった」
「幻滅なんてするかよ、親友なんだから」
「僕は…まだ悠哉の親友でいてもいいのかな…?」
「そんなの当たり前だろ、俺にとって陽翔は大切な親友だよ」
悠哉は陽翔の手を包み込むようにぎゅっと握った。その手は柔らかく、まるで陽翔を安心させるかのような温かさが伝わってきた。悠哉の柔らかな温もり、そして優しい眼差しは陽翔の心を癒し、昨日の事など忘れさせてくれるような効果すらあった。二人の間には言葉にならない特別な絆があるのだと改めて実感する。その瞬間、陽翔は悠哉に対する想いに全身が震え、愛おしい気持ちで胸が破裂しそうだった。
未だに自分の事を親友だと言ってくれた悠哉に、これ以上望むものは何も無い、今が最高に幸せなのだと思った。失恋したはずなのに、ちっとも悲しくはなかった。
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