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しおりを挟む悠哉の自宅の前で足を止めた陽翔は、ゆっくりと深呼吸をした。それでも収まることのない胸の動悸を抱えながら、玄関の前まで足を進める。
怖い、陽翔の今の気持ちはひたすらに恐怖心で溢れていた。悠哉に嫌われることは陽翔にとって何よりも恐怖であり、その恐怖と今から対面するかもしれない。それでも逃げるわけにはいかなかった。慶が強引に陽翔を行かせた理由、それは陽翔にだって分かっていた。あのまま悠哉から一生逃げ続け、悠哉の気持ちなど知ろうとしないことなど簡単だ。けれどそれだと何も変わらない、結局は知りもしない悠哉の気持ちを想像し勝手に負の感情をループさせるだけだ。
陽翔は震える指先でインターホンをゆっくりと押した。インターホンの聞き慣れた機械音でさえ、今の陽翔には恐ろしく不快なものに感じる。この時間がどれほど自分にとって苦痛なのか、陽翔は今すぐにでも走って逃げ出したかった。
ガチャりと扉が開く音が耳に入る。陽翔の心臓は吐き気が込上げる程大きく振動した。
「…陽翔か」
扉を開けた人物は悠哉ではなく彰人だった。彰人は陽翔の姿を確認すると、真剣な面持ちで「悠哉に会いに来たのか?」と尋ねた。
「…はい…」
陽翔は喉の奥底から声を絞り出した。出てきたのが悠哉でなかったことに安心こそしたものの、彰人がいるということは恐らく悠哉も中にいるのだろう。陽翔は震えた声で「悠哉はいますか…?」と彰人へ尋ねた。
「ああ、悠哉ならリビングにいるぞ」
彰人がそう答えると、彰人の後ろから「陽翔っ!」という声が聞こえた。悠哉だ、悠哉が自分の名前を呼んだのだと自覚した陽翔は、グッと後退りそうになった足に力を込めた。
「お前今までどこにいたんだよ?!おばさんに聞いても難波のとこだって言うし…それなのに肝心の難波は携帯出ないし心配してたんだぞ…っ?!」
食い入るように陽翔へと悠哉は詰め寄った。悠哉を目の前に、陽翔は言葉というものを一言も発することが出来ず困惑した。言いたいことは山ほどあるはずなのに、喉が締め付けられているかのように声が出ない。陽翔の異変を察した悠哉は心配そうに陽翔を見つめている。早く何か言わなければいけない、そう思えば思うほど陽翔はパニックになる。
「陽翔…?」
悠哉が陽翔の肩に触れようと腕を伸ばした。そんな悠哉の腕を陽翔は咄嗟に払い除けてしまった。
「あ…っ悠哉…違うっ…違うんだ…」
陽翔は慌てて首を振った。悠哉を拒絶した訳では無い、嫌だ、悠哉に嫌われてしまう。すると、悠哉は払われた自身の腕を見つめムスッと顔を顰めると「とりあえず中に入れよ」と陽翔の腕を強引に掴み家の中へ引きずり込んだ。
「ちょ…っ待ってよ…っ!」
陽翔が抵抗してもぐいぐいと陽翔の腕を強引に引っ張る悠哉の力は陽翔よりも強かった。そして強制的に悠哉によってリビングへと連行される。
「じゃあ俺は上にいるな」
「えっ…」
彰人のその一言に、陽翔は咄嗟に視線を彰人へと向けた。
「ああ、分かった」
「ちょっと待ってください…っ!」
陽翔が慌てて彰人の腕を掴むと、驚いたように瞳を丸めている彰人と目が合う。
「あ、あの…っえっと…」
「俺が居たら邪魔になる。お前としても悠哉と二人きりで話したいんじゃないか?」
助けを求めるような陽翔の瞳に優しく語りかけるように彰人はそう言った。一人で悠哉と向き合うことが怖い、そんな陽翔の弱さが行動として現れたため無意識に彰人を呼び止めてしまったのだろう。彰人に頼っては駄目だ、陽翔は唇を噛み締めゆっくりと彰人の腕から手を離した。
「大丈夫、お前たちなら大丈夫だろ」
「ああ」
陽翔と悠哉を交互に見た彰人に、悠哉が頷く。そのまま彰人はリビングを出ていってしまった。
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