感情のない君の愛し方

真楊

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11.

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「藍、もっとリラックスしようか…?自然な感じでにこーって」

「やってんだろ!!」

 撮影が再開されて数分、先程の順調っぷりは一体どこへ行ってしまったのか、全く先へ進まずにいた。
 やはり藍の最大の課題は笑顔だった。藍の笑顔はどこか不自然であり、作られた笑顔だと誰が見てもわかってしまうような歪さがあった。感情が乏しい藍が笑うこと自体が苦手なら今の作られた笑顔にも納得出来るのだが、学生時代もテレビに写っている藍も自然な笑顔を零していた。やはり極端に写真というものが苦手なのだろうな、と蒼太は思った。

「今日はこのぐらいにしましょうか」

 一つ手を叩いた黒井は、撮影の終了を口にした。それにより周りのスタッフ達も後片付けを始めるようにザワザワと動き出す。
 蒼太はカメラを片手に黒井の元へ行くと「すみません…俺の力不足で…」と頭を下げた。

「何言ってるんですか、他の写真はすごく良かったんだからそう気を落とさないでださいよ」

 黒井のフォローに益々申し訳ない気持ちを抱きながらも「またお仕事お願いするかもしれません、大丈夫ですか?」という言葉に蒼太は勢いよく黒井の顔を見た。

「また俺に藍を撮らせてくれるんですか…?」

「もちろんですよ、今回の藍の写真どれも素晴らしいと私は思いますし、それにやっぱり藍の表情も随分と柔らかいような気がするんです。藍もなんだかんだ言いながら前回よりもリラックスして挑めたんじゃないですかね?藍のためにも是非またお願いしたいです」

 黒井からの評価は蒼太が想像していたよりも高いようだった。安心した気持ちを抱きつつ、これが最後ではない、その事実に蒼太の気持ちは驚くほど高まっていく。また藍と仕事が出来るのだと心から喜んでいる自分に、藍の事が好きすぎるだろと少し呆れるものがあった。

「ありがとうございます!また是非よろしくお願い致します」

「はい、こちらこそ」

 ほっとした気持ちで落ち着いた蒼太は、ふとある事が気になりキョロキョロと周りを見渡す。そんな蒼太を見て「どうしたんですか?」と黒井が不思議そうな顔で問いかけた。

「そういえば藍の姿が見えないなって…」

「ああ、ほんとですね。多分もう楽屋に戻ったんじゃないかな」

 蒼太は黒井に「ちょっと藍を探してきますっ!」と言い残すとスタジオを足早に出ていった。

 蒼太が廊下に出ると、少し離れたところに藍の後ろ姿があった。「藍っ!!」と蒼太が声を掛けると、藍は一度びくりと体を反応させ足を止めた。

「なんだよ」

「今日は…その…ごめん」

 藍の前で足を止めた蒼太は、謝罪の言葉を口にした。

「何に対する謝罪?」

「今日俺がカメラマンやること当日まで黙ってただろ?だから…」

 蒼太が最後まで言い終わるより先に、藍のため息が言葉を遮る。藍は蒼太に向かって「お前は昔から謝ってばっかだな」と呆れるように息を吐く。

「ほんと変わってない」

「…お前は変わったよな」

 蒼太は少し悲しそうな笑みを浮かべた。

「テレビを見る度思ったよ、お前はもう遠い存在なんだって。今日だって撮影しててお前のオーラに圧倒されたしさ」 

 藍の眉が不自然にピクリと動く。「それで?」と促した藍の言葉に従い、蒼太は話を続ける。

「だから今日は嬉しかったんだ、俺みたいなのがお前と一緒に仕事が出来るなんて思いもしないだろ?だから今日は俺にとって最高にツイてる日だよ」

 蒼太は溢れんばかりの思いを藍に打ち明けた。高校を卒業してから今まで芸能人と一般人という関係の二人は、もはや住んでいる世界が違うといっていいほど異なる世界にいた。そんな藍とこうして話が出来ているだけでも奇跡に近いことなのに、今後はまた一緒に仕事が出来るかもしれないのだ。蒼太からしたら夢のような出来事だった。

「カメラ、今でも触ってたの?」

 突然藍に質問を投げかけられた蒼太は「へっ?あー、うん、たまにね」と動揺が隠せきれていない様子で答えた。

「ふーん、お前って昔から写真撮るのとか好きだったもんな」

「うん?」

 藍が何を意図しているのか、蒼太には分からず次の言葉が出てこない。気まずい沈黙が続き、耐えられなくなかった蒼太は「何この間…?」と口を開く。

「それはこっちのセリフだわ」

「えっ…?」

「お前こそ俺を呼び止めたんだから何か言いたいことがあったんだろ?それともただ謝りに来ただけ?」

 鋭い瞳に捕らえられた蒼太は言葉に詰まり何も言えなかった。先程の謝罪だって咄嗟に口から出てしまったもので、蒼太自身も何故藍のことを呼び止めたのかよく理解出来ていなかったのだ。藍に指摘され気づいた事実に、蒼太は頭を悩ませる。もしかしたら単に藍と話がしたかっただけのためにスタジオから飛び出し、藍を呼び止めたのかもしれない。そんな考えが一つ蒼太の頭に浮び上がる。

「何?言いたいことないなら俺行くけど」

「ま、待ってっ!えっとさ…この前の同級会、なんで酔いつぶれた俺を家に入れたの?」

 このままでは藍との会話が終わってしまう、まだ藍と話していたかった蒼太は咄嗟にあの時の事を問いかけた。

「ただの気まぐれ」

「気まぐれでお前は言わば他人を家にあげるのか…?」

 藍はピクリと眉を動かし「他人…?」と呟いた。

「それにお前面倒事には絶対関わらないじゃん、だから不思議なんだ」

「…はぁーーこんなこと言われるぐらいなら赤の他人のお前なんか気にかけなきゃ良かった」

 大きくため息をついた藍は、他人という言葉を強調し蒼太をギロリと睨んだ。明らかにイラついている藍の態度に、まずいと思った蒼太は「違う違うっ!」と慌ててフォローに回る。

「別に藍が他人を家にあげるなんて珍しいと思っただけで、あの冷徹な男が酔っ払いの介抱なんて優しいことするんだ有り得ない、とか思ってたわけじゃ…」

「言ってんじゃねぇかっ!」

 壮大にツッコミを入れた藍に対して「冗談だよ」と蒼太はにへらに笑った。

「ったく、お前だから家にあげたんじゃなくてただの俺の気まぐれでやったんだよ。いい加減納得しろよ」

「そっか、気まぐれかぁ」

 蒼太が小さく呟く。

「俺はお前のただ気まぐれで、ものすごく振り回されてるんだな」

「は?」

「あの時すごく嬉しかったから。お前の善意が気まぐれにしか過ぎなくても、俺に向いてくれたことがすごく嬉しい」

 藍は理解しえない表現で蒼太を見つめている。蒼太自身何を言いたいのかまとまっていなかったが、藍を好きだという気持ちが今にも溢れてしまいそうで、必死に抑えた故の言葉がこれだった。
 あの時藍が蒼太を家にあげたのだって藍の言う通り、ただの気まぐれだったのだろう。けれどそんな気まぐれでも蒼太は嬉しかったのだ。一瞬だけでも藍が気にかけてくれたという事実だけで蒼太には満たされるものがあった。

「お前ってほんと…つくづく意味わかんない奴だな」

 眉を下げ呆れたような笑みを零した藍の姿に、まるで学生時代のあの頃の藍を見ているようだった。先程は藍に変わったな、なんて言ったが変わらぬ藍の姿がそこにはあり、蒼太は無性に嬉しくなった。
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