テクノルネッサンス‐2度目の異世界で興す異端者達の技術革命戦記

碧渚志漣

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第2章 異世界幼少期編(オリヴァー)

第21話【聖墓のバンシー】

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 戦斧せんぷが刃物と言うには重厚で鈍い風切音を奏で、銀槍が暗い空間で一筋の彗星のごとく穂先の軌道が煌めき、それらを赤黒い火花を伴って受け切る黒剣が激闘の刹那を夜暗に映した。

 銀槍《シグルズ》と戦斧《バルティマイ》は黒剣《バンシー》を相手取り斬り結んでいた。

 2対1でありながらも1体のバンシーは素早い動きと身のこなしで隙を見せずに剣を振るい、二人と拮抗きっこう、あるいは僅かながら押し込んでいた。

 バンシーはバルティマイを見据えながら剣による激しい斬撃や蹴り技の連撃を繰り出し、相手から攻撃を仕掛けるタイミングを奪い続けていた。

 シグルズの槍は果敢にバンシーの隙を狙いながらも素早い動きで捉え難く、相対するバルティマイの戦斧は激しい連撃を受け切ることで精一杯だった。

「舐めんじゃねぇ!」
 バンシーに片手間で対応されたシグルズが銀槍を大振りに振り払うとバンシーは軽々と後ろへ宙返りをしながら跳び、一気に距離を空けた。


「はぁ……、はぁ……、
 おい、どうすんだよ! オッサン!
 これじゃあ、いつまで経っても杭で囲えねぇぜ!」
 シグルズは息を切らしながら汗だくになり、首のマフラーで扇ぎながらバルティマイに愚痴を零した。

「ハァ……、ハァ……、ハァ……、アンデットのクセに疾すぎる……!
 だが、小僧……、なぜ魔力を放出して得物えものや衣類に魔力を通さぬのだ?
 槍自体に多少の魔力が残ってはいようが魔力を帯びさせずに使ってる場合ではなかろう……
 身体の強化魔導が使えるならば出来るはずだろう?」
 バルティマイが問いかけるとシグルズはマフラーで扇ぐのをピタリと止めてしまった。

「…………ぇんだよ……」
 シグルズはいつもの快活な口調とは程遠い何やらボソボソと蚊が鳴く様に呟いた。

「……は?」
「だから! 魔力が放出できねぇんだよ!!」
「……はぁあ!?」
 バルティマイは理解しがたいその言葉の意味を測りかねていた。
 魔力を体外へ放出するなどそれこそ子供でも出来ることであり、ましてやバルティマイにとって自分を決闘で負かした少年がよもやそれが出来ぬことなど想定の範囲外と言えたのだ。
「どういう意味だ!?」
「だ・か・ら! 魔力を放てねぇんだよ! 分かんねぇのか!!」
「はぁ?! 魔力が!?  オレはこんな奴に負けたのか!?」
「うるせぇ!! 勝ちは勝ちだろうが!!
 ……ってうおっ……!!」
 相対していたバンシーに口喧嘩を見守る慈悲など存在してはいなかった。

 動揺し隙の多かったシグルズにバンシーは首筋を狙い、斬り掛かったのだった。

 シグルズが間一髪で避けたが首に巻かれていたマフラーがはためき引き裂かれてしまった。
 シグルズは久々に感じた首筋を撫ぜる風の感触に咄嗟に首に触れる。

「しまった……!」
「小僧……、その首の入れ墨……獣帝国のモノか?」

 外気に晒されたシグルズの首には首輪の様な外周を一周する黒い入れ墨が施されていた。
「ちっ!」

 この首輪の様な入れ墨は刻印魔導に通じる技術で構築されたものであり、多民族を征服し、隷属させていた大陸北方のクスミア獣帝国で多用され有名だった。
 この技術は刻印次第で入れ墨の効果が多岐に渡り、あるものは施術者の意思を奪い、あるものは種族の能力を奪い、あるものは魔力制御を阻害するなど概ね施術者の行動を制限するものだった。
 この刻印は施術者の魔力で強制的に刻印魔導が機能するため、施術者が生きて魔力を生み出し続ける限り、永続的に縛り、拘束し続けた。

「小僧、奴隷だったのか……?」
「さぁな! 育ての親はいたが物心ついた頃から俺には主従のしがらみなんざなかった
 俺は誰のものでもない! ……うぉっと!」

 バンシーは二人の会話を遮るように斬り掛かった。

 シグルズは槍を大きく振るいバンシーを振り払いながら会話を続ける。
「だが俺は忌々しいコイツのせいで魔力を体内で循環させることしかできない……!
 まさかテメェにも知られるとはな……」
 シグルズは隠していた襟首をあえて晒しながら自嘲した。

「それにしてもこのままじゃ埒が開かねぇ……、その杭は一本でも多少効果はあるのか?」
「あぁ、差し込んだ杭の周囲は結界が生じるが……、どうするつもりだ」
「こうする」
 シグルズは槍の刃先の反対側、槍の石突いしづきに手早くマフラーの切れっ端で杭を固く巻き付け括り付けた。

 シグルズが槍の刃先をバンシーに向けて切り結び、バンシーが一気に突進しようとした瞬間に槍の石突側で地面を突くとシグルズの周囲に透明な半球状の結界が生じ、バンシーはその透明で曲線的な結界にぶつかり弾かれた。

 ビキィィン!!

 バンシーは付近の聖像の台座まで吹き飛ばされ、叩きつけられた。
 バンシーがぶつかった台座は半壊し、飛散した破片の質量と飛散した範囲がその衝撃の凄まじさを物語っていた。
 そして、叩きつけられたバンシーは半壊した台座の上で四肢がグリャリと折れ曲がっていたが、もとより形状が定かではない存在にとってそれはなんら致命的なダメージとはならなかった。 本来ならば……。

 だが、叩きつけられたバンシーは四肢の形状を治すことなく倒れ込み暫く台座の上で硬直してしまった。
 その有り様はまるで自分が何をされたのか分かっていない、困惑に満ちた挙動だった。

 シグルズの脳裏にオリヴァーの言葉が走る。
 ”特にはっきりと人型の形状をしてるやつは強かったな、学習するから同じ手が通じないんだ”
「オリヴァーの言う通り学習するな、コイツは!!」

「そうか……、なまじ知恵がある分、奴は怯むのか」
 バルティマイは今までの経験が巡るが、アンデットはたとえ強力な魔導含めた攻撃を与えられても意を返さない存在だった。
 知恵が芽生えたアンデットなどそうそう現れはしない稀有な存在であり、祓魔師ふつましの中にはそれらと遭遇すること無く人生を終えるものが大半だったのだ。
 つまるところ、ミュルタレから施されたオリヴァーの修行は一介の祓魔師一生分の経験を大きく凌駕する物だった。

 そんな中、困惑していたバンシーだったが、身を起こして足をボコボコと膨らませて再構築する様に形状を回復させ、台座から床へ着地すると折れ曲がった手を触手の様に伸ばして台座の近くに落ちていた黒剣を拾い上げると腕も再構築させた。

 バルティマイはらちのあかない様につい愚痴ってしまう。
「だが……、魔力を込めれない小僧の杭、蓄えた魔力の減りが著しいだろう……何度も使える手では無い」

 バンシーはシグルズに対して闇雲に突撃することなくジリジリと慎重にひらけた聖墓中央へ引き始めた。
 二人は顔を見合わせると頷き、二人の間が開き始めた。
 バンシーを挟み撃ちにすべく異なる方向から慎重に武器を構えて距離を詰めていった。

 二人を警戒しながらバンシーは後ろへ慎重に下がると聖墓中央の古の戦士の様な立像に背中を預ける格好となり、片手で扱っていた黒剣を両手持ちに構えなおして魔力を込め始めた。
 すると、バンシーの魔力を流された黒剣が一回り大きく、骨をあしらった様なより禍々しいものへ変化した。

「こやつ、まだ奥の手があるのか……!? (これ以上の魔力消費はキツイぞ……!)」
 バンシーの変化にバルティマイは自身のスタミナに不安を覚え始め、ジトリとだが汗をかき始めていた。
 そんな、バルティマイの不安を吹き飛ばすように大声が飛んだ。

「なんだオッサン?! 歳か? バテて隙だらけだぜ!!」
 シグルズは虹色の瞳を鋭くバルティマイに向けて叫んでいた。

「ええぃ! 魔力を放てぬ小童こわっぱが抜かすな! 小僧は自分の心配でもしておれ!!」
「なんだ、元気じゃねぇか!」
 シグルズとバルティマイは互いにバンシーを睨みながらフッと口元で笑い合った。

 こうして、2人と1体の間に均衡した力量から静寂が訪れたが、寄しくもその静寂を終わらせるものが2人の後ろから現れた。
 現れた小柄な人物はちょうど2人が空けた空間に入り込むように歩みを進め、真っ先に気が付いたのは真正面に対面したバンシーだった。


 聖墓で激闘が続く中、アイラは教会で静かに祈っていた。
 魔力が枯渇した状態で疲労と眠気に抗いながらもただ一つのことを願いながら。
「(どうか、3人が無事に帰って来ますように……)」

 そんなささやかな祈りの最中、どこかで扉が開く音が聞こえた。
 アイラが物音の先を確認すると、祈りの間の隣部屋に雪が吹き込んだ扉があり、すぐさま室内の雪が解けていった。
 アイラが扉を開けると冷たい風が室内に入り込み、雪が積もった庭には足跡が続いていた。
 足跡が気になったアイラは足跡を追うと朧気な会話が聞こえてきた。
 どうやら声は敷地の境界に植えられた木の木陰から発せられ、バルティマイを看病していた教徒がいた。
 教徒は夜暗が広がる敷地の向こうへ誰かと会話をしている様だった。
「…………様、聖墓の輩は間もなく排除ないしは衰微することになるでしょう

 ……はい、そうです、退魔の結界は教会に施されているはずですが……

 ……今宵こよいが好機と言えます

 ……いえ滅相も御座いません

 ……はい、それでは……」
 教徒がそう言い終える頃、アイラは別の気配を察してか身を潜めながら近付いていた。
 アイラが教徒をハッキリと目撃する頃には会話が終わり、付近は静寂に包まれていた。
 そんな静寂の中、何か決定的な瞬間を逃したアイラは教会へ戻るべく退こうとすると……。


 パキッ!!……

 アイラの退いた足は冬場の枯れた枝を踏み抜いた。

「……!
 あぁ、アイラさん……? ですね?
 こんなところまでどうされたのですか?」
 笑いながらもまるで生気の抜けた教徒の瞳がアイラを捉えた。

「いえ……、薬草が無いか探していたところです……」
「アイラさん、教会の周りでも暗がりでは危険です、戻りましょう」

 そう言って教徒はアイラの肩に手を置き、教会へ戻ろうとすると突然ピクリと止まり、聖墓の方へ視線を向けた。
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