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第5話 遠過ぎた帝都への道
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「というわけで……先生、聞いてましたぁ?」
クルエラが珍しく怒った表情になる。
「んあ?」
正直に言うと錬金術師フィリップは眠りこけていた。
弟子のクルエラが整理して解説してくれた研究費申請の手順というのがよく分からなかったからだ。
豆のスープと黒パン(良質)の昼食が終わった後で、しかも水がわりに麦酒を飲んだものだからすっかりほろ酔いだったというのもある。
食後のお茶を煮出すために暖炉にヤカンのようなものがぶら下り、マキがぱちぱちと燃えていた。
「ですからぁ……まず帝都の国務院に行って昨年度の研究内容と経費を申請してぇ、それから元老院の許可証をもらってぇ、それから……」
「そういえば俺は昨年度の研究って何やってたんだ?」
クルエラはきょとんとした。
「えぇとぉ……たしか鉱石を変質させる実験は諦めて、なんかすんごい傷によく効く軟膏とか作ってましたよぉ」
「軟膏……」
「研究ノートが机の上にありませんでした? そこにだいたい書いてありましたよぉ」
「そ、そうか……」
何やら申請したり許可証をもらったりと書類仕事が多いらしかった。
せっかく異世界にやってきたというのに煩雑な仕事もあるというわけだ。
仕方がなくフィリップは研究室の中に入り雑多な品物だらけの机の中から荒く紐で綴じられたノートのようなものを見つけ出した。なんだかザラザラしているが一応紙らしい。
中をのぞくとやや投げやりな筆跡で研究内容が書かれていた。
それによると……
・とてもよく効く傷薬(軟膏、原材料はカエル)*たまたまできた
・本当によく効く(かもしれない)媚薬(ワインを変質)*未鑑定
・ふわふわ石鹸(原材料はオリーブ油と月桂樹の油)*凄い泡立ち!
・麦酒の原材料を少し減らす方法 *美味しくなくなる
などなどなかなか困る内容が書かれていた。
(これで研究費もらえるのか……?)
「あ、先生そういえば駅馬車予約してきますねぇ、乗合になりますけどぉ」
クルエラがひょいっと顔を出して言った後、パタパタと外に出ていった。
「行っておいでー」
そう言って住居部分にフィリップも出てきた。
さっき煮出していたお茶にヤギか何かの乳でもいれて飲もうと思ったからだ。
すると食事用の丸テーブルに白金色の長髪の女性がグデーっと突っ伏しているのを見かけた。”勇者”エレノアだ。
麻の服で軽装だが細身の剣だけしっかり抱えている。
所持金銅貨3枚だった彼女はもう3日も滞在していた。この3日間、エレノアは疲れてたいたのか、弟子のクルエラが作る料理を食っちゃ寝食っちゃ寝して過ごしていた。まさにダメ勇者だ。
グー。
エレノアの腹の音が鳴った。
今日は昼飯が過ぎてから現れたので腹が減っているらしい。
「……」
フィリップは見なかったことにして、そそくさとお茶を入れる。
ふと視線を感じて顔を上げるとエレノアと目があった。
「……」
「……フィリップ殿……空腹で動けぬ……」
「そ、そうか……確か倉庫に黒パンとチーズがあるから食べていいよ……」
「フィリップ殿……かたじけない……」
空腹と言いながらもエレノアは動かない。
ただ腹の虫がグーとなっている。
フィリップは仕方なく半地下の倉庫に降り、黒パンとチーズを少し切って戻ってきた。
「よかったら」
「フィリップ殿……かたじけない!」
エレノアは猛烈に黒パンをかじりはじめた。
しばらく咀嚼した後に顔をあげて「何かワインとか麦酒をもらえぬだろうか?」と水分というかアルコール分を所望しはじめた。
(このダメ勇者……駄勇者……いや堕落しているから堕勇者か? いつまでいるんだろう……)
エレノアが顔を上げる。
「堕勇者とか言いましたか?」
「いえ、言ってないですね」(心の声を聞く能力でも持ってるのか?)
彼女は食べながら胸をそらした。麻の上着にたくさん黒パンのカスがついている。
「私はもともと風の巫女。風妖精を使うことで多少は人間の感情を読み取れるのだ」
「そうなんだ……」
「おおざっぱにですが。いま錬金術師殿はとても感心していますね?」
「いません」
「そんなまさか」
そんなやりとりをしていると、扉が開いてクルエラがひょっこり戻ってきた。
露骨に肩を落としてガッカリ顔だ。
「風妖精によれば……とてもガッカリしているな?」とエレノア。
「見ればわかるし」とフィリップ。
「先生、それよりも駅馬車が大変です……どうやら帝都に向かう街道沿いに魔物が出没しはじめたみたいで、並の傭兵とか冒険者なら何人か護衛を乗せてないと出発しないと。何とか雇うので待ってもらうように言ったんですけどぉ」
「護衛って高いのかな?」
「そうですねぇー、1人につき1日あたり銀貨2枚から3枚くらいは」
「うーむいまの財政だと厳しいかなぁ、帝都まで何日かかるんだっけ」
「順調にいけば3日~4日くらいですかねぇ」
「護衛かぁ……」
「護衛ですねぇ……」
「ん?」
「護衛?」
ふとフィリップとクルエラは顔を見合わせた。
そして自然に居候の堕勇者エレノアに視線が向く。
そして当のエレノアはもっしゃもしゃ黒パンを頬張りながら、目をぱちくりとさせていたのだった。
――フィリップの現在の所持金
収支 銅貨 -15枚 (生活費)
銅貨10枚(4000円相当・財布)
銀貨15枚 銅貨10枚 銀貨(124000円相当・クルエラ管理)
一部が黄金色になった小刀
クルエラが珍しく怒った表情になる。
「んあ?」
正直に言うと錬金術師フィリップは眠りこけていた。
弟子のクルエラが整理して解説してくれた研究費申請の手順というのがよく分からなかったからだ。
豆のスープと黒パン(良質)の昼食が終わった後で、しかも水がわりに麦酒を飲んだものだからすっかりほろ酔いだったというのもある。
食後のお茶を煮出すために暖炉にヤカンのようなものがぶら下り、マキがぱちぱちと燃えていた。
「ですからぁ……まず帝都の国務院に行って昨年度の研究内容と経費を申請してぇ、それから元老院の許可証をもらってぇ、それから……」
「そういえば俺は昨年度の研究って何やってたんだ?」
クルエラはきょとんとした。
「えぇとぉ……たしか鉱石を変質させる実験は諦めて、なんかすんごい傷によく効く軟膏とか作ってましたよぉ」
「軟膏……」
「研究ノートが机の上にありませんでした? そこにだいたい書いてありましたよぉ」
「そ、そうか……」
何やら申請したり許可証をもらったりと書類仕事が多いらしかった。
せっかく異世界にやってきたというのに煩雑な仕事もあるというわけだ。
仕方がなくフィリップは研究室の中に入り雑多な品物だらけの机の中から荒く紐で綴じられたノートのようなものを見つけ出した。なんだかザラザラしているが一応紙らしい。
中をのぞくとやや投げやりな筆跡で研究内容が書かれていた。
それによると……
・とてもよく効く傷薬(軟膏、原材料はカエル)*たまたまできた
・本当によく効く(かもしれない)媚薬(ワインを変質)*未鑑定
・ふわふわ石鹸(原材料はオリーブ油と月桂樹の油)*凄い泡立ち!
・麦酒の原材料を少し減らす方法 *美味しくなくなる
などなどなかなか困る内容が書かれていた。
(これで研究費もらえるのか……?)
「あ、先生そういえば駅馬車予約してきますねぇ、乗合になりますけどぉ」
クルエラがひょいっと顔を出して言った後、パタパタと外に出ていった。
「行っておいでー」
そう言って住居部分にフィリップも出てきた。
さっき煮出していたお茶にヤギか何かの乳でもいれて飲もうと思ったからだ。
すると食事用の丸テーブルに白金色の長髪の女性がグデーっと突っ伏しているのを見かけた。”勇者”エレノアだ。
麻の服で軽装だが細身の剣だけしっかり抱えている。
所持金銅貨3枚だった彼女はもう3日も滞在していた。この3日間、エレノアは疲れてたいたのか、弟子のクルエラが作る料理を食っちゃ寝食っちゃ寝して過ごしていた。まさにダメ勇者だ。
グー。
エレノアの腹の音が鳴った。
今日は昼飯が過ぎてから現れたので腹が減っているらしい。
「……」
フィリップは見なかったことにして、そそくさとお茶を入れる。
ふと視線を感じて顔を上げるとエレノアと目があった。
「……」
「……フィリップ殿……空腹で動けぬ……」
「そ、そうか……確か倉庫に黒パンとチーズがあるから食べていいよ……」
「フィリップ殿……かたじけない……」
空腹と言いながらもエレノアは動かない。
ただ腹の虫がグーとなっている。
フィリップは仕方なく半地下の倉庫に降り、黒パンとチーズを少し切って戻ってきた。
「よかったら」
「フィリップ殿……かたじけない!」
エレノアは猛烈に黒パンをかじりはじめた。
しばらく咀嚼した後に顔をあげて「何かワインとか麦酒をもらえぬだろうか?」と水分というかアルコール分を所望しはじめた。
(このダメ勇者……駄勇者……いや堕落しているから堕勇者か? いつまでいるんだろう……)
エレノアが顔を上げる。
「堕勇者とか言いましたか?」
「いえ、言ってないですね」(心の声を聞く能力でも持ってるのか?)
彼女は食べながら胸をそらした。麻の上着にたくさん黒パンのカスがついている。
「私はもともと風の巫女。風妖精を使うことで多少は人間の感情を読み取れるのだ」
「そうなんだ……」
「おおざっぱにですが。いま錬金術師殿はとても感心していますね?」
「いません」
「そんなまさか」
そんなやりとりをしていると、扉が開いてクルエラがひょっこり戻ってきた。
露骨に肩を落としてガッカリ顔だ。
「風妖精によれば……とてもガッカリしているな?」とエレノア。
「見ればわかるし」とフィリップ。
「先生、それよりも駅馬車が大変です……どうやら帝都に向かう街道沿いに魔物が出没しはじめたみたいで、並の傭兵とか冒険者なら何人か護衛を乗せてないと出発しないと。何とか雇うので待ってもらうように言ったんですけどぉ」
「護衛って高いのかな?」
「そうですねぇー、1人につき1日あたり銀貨2枚から3枚くらいは」
「うーむいまの財政だと厳しいかなぁ、帝都まで何日かかるんだっけ」
「順調にいけば3日~4日くらいですかねぇ」
「護衛かぁ……」
「護衛ですねぇ……」
「ん?」
「護衛?」
ふとフィリップとクルエラは顔を見合わせた。
そして自然に居候の堕勇者エレノアに視線が向く。
そして当のエレノアはもっしゃもしゃ黒パンを頬張りながら、目をぱちくりとさせていたのだった。
――フィリップの現在の所持金
収支 銅貨 -15枚 (生活費)
銅貨10枚(4000円相当・財布)
銀貨15枚 銅貨10枚 銀貨(124000円相当・クルエラ管理)
一部が黄金色になった小刀
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