魔物の森のソフィア ~ある引きこもり少女の物語 - 彼女が世界を救うまで~

広野香盃

文字の大きさ
8 / 71

8. 冒険者になる決心をするソフィア

しおりを挟む
(カラシン視点)

「カラシン、隊長が呼んでるわよ。」

とケイトが声を掛けてくる。隊長が?何の用だ?

「何だろう?」

「多分、オーガを倒した魔法について聞きたいんじゃないかな。オーガが出現した事についての報告をしないといけないだろうからね。オーガを2匹も倒したんだから依頼遂行の報酬とは別に報奨金が出るかもよ。もっとも、いくら貰えるのか知らないけれど、50人で分けたら知れたものでしょうけどね。ねえ、それよりその子を紹介しなさいよ。カラシンのいい人なんでしょう? 全く、いつのまにこんな美人に手を出していたのかしら、全く気付かなかったわよ。」

ちょっと待て!と言うことは、オーガを倒したのは俺だと報告済みと言うことか!まずい、どう誤魔化そう...。 ケイトめ、全く人騒がせなやつだ。ソフィアのことも勘違いしているし、そんな風に思われていると知られたら機嫌を損ねるかもしれない。俺なんか一瞬で消されるかも。背中に冷や汗が流れる。

「ソフィアはそんなんじゃない。」

「あら、早速呼び捨てなんだ。見せつけてくれるわねえ。そんなにべったりくっついておいて誤魔化そうなんて無駄よ。ねえ貴方ソフィアって言うのね、私はケイトよ。よろしくね。」

ケイトに話しかけられると、ソフィアは答えずに俺の背中に隠れる。

「あら、失礼、恥ずかしがり屋さんなのね。邪魔者は退散するわ。」

と捨て台詞を残してケイトが去って行く。やれやれとため息をついた途端、

「うごかないで」

とソフィアに言われた。ダラダラと冷や汗が流れる。やはりケイトが言ったことで腹を立てたのか。こんなおじさんの恋人だと勘違いされたからなあ。何をする気だ? さっきのオーガみたいに吹き飛ばす気じゃ無いよな...。

 だが、意外なことにソフィアが俺がさっき痛めた脇腹に手をかざすと痛みが少しマシになった。そのまま、ソフィアは手をかざし続ける。数分すると患部が温かくなり、10分ほどで完全に痛みが引いた。治療魔法を使ってくれたようだ。治療が終わるとソフィアは、ため息を吐きながら座り込んだ。顔にはじっとりと汗をかいている。俺を治療するのに無理をしたのだろうか。さっき俺の代わりにオーガと戦ってくれたことといい、優しいところもあるのか? あくまで主人がペットを可愛がるのと同じなのかもしれないが。


(ケイト視点)

 行方不明になっていたカラシンが突然現れたと思ったら、私達が寄ってたかって戦っても倒せなかったオーガを一撃でやっつけた。すごいよ! カラシンは新しく使い魔としたフクロウの手柄だと言うが、そんな強力な魔物を使い魔に出来たことがすごいじゃない。本人は隠しているつもりだが、孤児院時代にカラシンに軍から誘いが掛かっていたのは知っている、それだけの才能があったと言う事だ。軍所属の魔法使いになった方が待遇が良いに決まっているのに、カラシンは私と一緒に冒険者になる道を選んでくれた。冒険者は誰かに戦い方を教えてもらえるわけじゃない。自己流でやるしかないから今まで芽が出なかったけど、遂に埋もれていた才能が開花したんだ。お姉さんは嬉しいぞ!

 それに、いつの間にか彼女まで出来たようだ。しかも超が付くほどの美人で、スタイルも抜群! 特に胸が....羨ましくなんかないぞ....。とにかく、あんな美人を連れていたら注目を浴びること間違いなしだ。ちょっと恥ずかしがり屋の様だけど、カラシンに好意を持っているのは間違いない。今までカラシンが女にもてているところを見たことが無かったから新鮮だね。あの子も冒険者なのかな。ここに来た時にはいなかったと思うのだけど。この村の娘でもなさそうだしね。冒険者だったら私たちのチームに入れてあげても良いかもしれない。

 隊長にはカラシンの手柄を思いっきり宣伝しといたから、きっといい具合に報告してくれると思う。ひょっとしたら冒険者ランクの2段階アップなんていうのもあったりして。




(ソフィア視点)

 赤毛の人間に話しかけられた。胸が膨れていないから、たぶん男だろう。話の内容は良く分からなかったけれど、名前がケイトと言うことだけは聞き取れた。カラシンさんと親しげに話していたから、知り合いなのかもしれない。私はどう反応して良いか分からず、例によってカラシンさんの背中に隠れてしまった。やはり、言葉の習得は急務だ。森に帰れるならその必要も無いが、それは無理そうだ。お母さんがフクロウの姿になってまで私を監視している。こうなったら覚悟を決めるしかないのだろうか?

 それにしてもカラシンさんのヒビの入った肋骨が気になる。やったのは私だけど....いや、だからこそ私が何とかしないと。回復薬はもうないけれど、回復魔法という手がある。もっとも私は得意ではない。治療を成功させるには、ものすごく精神を集中する必要があるんだ。失敗したらかえって傷が悪化することもある...。

「うごかないで」

とカラシンさんに頼むと、カラシンさんは素直に動きを止めてくれた。やるしかない、女は度胸だ! 私は患部に手をかざし、治療を始めた。回復魔法は一瞬の気のゆるみが失敗に繋がりかねない。私は治療に集中する。今だけは、森のことも、お母さんのことも、周りにいる人間達のこともすべて頭から追い出す。考えるのはカラシンさんの治療のことだけ。そして、なんとか肋骨のひびを修復したときには汗びっしょりになっていた。でもよかった、何とかなったよ。

 さて、森には帰れないとするとどうすれば良いのだろう。お母さんの話では、人間の社会で暮らすにはお金と言うものが必要で。お金を得るためには働く必要があるらしい。でも、「働く」って何? 見当もつかない。仕方がない。迷惑を掛けるばかりで申し訳ないが、人間の中で唯一信頼できるカラシンさんに頼るのが一番かもしれない。

「カラシン、わたし、はたらく」

とカラシンさんの目を見つめて言ってみた。私の言葉を聞いたカラシンさんは、しばらくして口を開いた。

「働くって、何がしたいんだ。」

それが分からないから教えて欲しいと言いたいが、どういえば良いのか分からない。そうだ、カラシンさんも働いているんだよね。

「カラシン、はたらく、なにする?」

「俺か? 俺は冒険者だ。」

「ソフィア、おなじ」

冒険者って何か分からないけれど、カラシンさんと同じことをするのなら心強い。アドバイスももらえるかもしれないしね。

 私の言葉を聞いたカラシンさんは、なぜか頭を抱えた。なぜだろう?
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

野生児少女の生存日記

花見酒
ファンタジー
とある村に住んでいた少女、とある鑑定式にて自身の適性が無属性だった事で危険な森に置き去りにされ、その森で生き延びた少女の物語

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

竜皇女と呼ばれた娘

Aoi
ファンタジー
この世に生を授かり間もなくして捨てられしまった赤子は洞窟を棲み処にしていた竜イグニスに拾われヴァイオレットと名づけられ育てられた ヴァイオレットはイグニスともう一頭の竜バシリッサの元でスクスクと育ち十六の歳になる その歳まで人間と交流する機会がなかったヴァイオレットは友達を作る為に学校に通うことを望んだ 国で一番のグレディス魔法学校の入学試験を受け無事入学を果たし念願の友達も作れて順風満帆な生活を送っていたが、ある日衝撃の事実を告げられ……

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!

さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ 祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き! も……もう嫌だぁ! 半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける! 時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ! 大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。 色んなキャラ出しまくりぃ! カクヨムでも掲載チュッ ⚠︎この物語は全てフィクションです。 ⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

処理中です...