魔物の森のソフィア ~ある引きこもり少女の物語 - 彼女が世界を救うまで~

広野香盃

文字の大きさ
7 / 71

7. 冒険者を助けるふたり

しおりを挟む
(カラシン視点)

 ソフィアがリュックから例の薬の小瓶を取り出し差し出してきた。これを飲めという事だろう。脇腹の痛みを我慢して声を絞り出し、「どうしたんだ?」と囁いてみると、「こ、こわい」と返ってきた。怖い? 何が? だがその時、冒険者のひとりが悲痛な声で叫んだ。

「誰か、A級回復薬を持ってない?」

A級回復薬? そんな物持っている奴がいるとは思えない。冒険者風情が所持するには高価すぎる。言っては悪いが、ここの村人が持っていることを期待するのはさらに望み薄だろう。声の方を振り向くとオーガにやられた男性冒険者に女性冒険者が縋り付いて叫んでいる。横たわっている男性からはたくさんの血が流れ出ていて、一目で危篤状態だと分かる。側に薬の小瓶が転がっているから、手持ちの回復薬を試したが効果がなかったのだろう。

「誰か、A級回復薬を譲ってちょうだい。言い値で買うから。お願い!」

と、その女性冒険者は何度も周りに訴える。きっと彼女の家族か恋人なのだろう。気持ちは分かるが.....

「ソフィア、この薬をやって良いか。」

と思わず尋ねていた。この薬を使えばひょっとしたら助かるかもしれない。A級回復薬なんて試したことは無いけれど、ひょっとしたら同じくらいの効果があるのじゃないかと思う。俺の方は命に関わるほどでは無い、安静にしてさえいれば大丈夫だろう。ソフィアは俺の言った事がわからないようだが時間がない。俺は痛みに耐えて立ち上がり、薬を求めている女性冒険者に向かって歩き出した。ソフィアもすぐ後を付いてくる。

「これを試してみろ。」

「でも....」

と女は躊躇している、これは薬師ギルトで売っているA級回復薬の瓶とは違うから、安物の薬を渡して金だけふんだくろうとしていると思われたのだろうか。

「金はいいから。急いだ方がいい!」

急がないと、横たわっている男は今にも息が止まりそうだ。

「ありがとう」

と言って、女は俺の手から薬の小瓶をひったくるように受け取ると、男の口を無理やりこじ開け、口の中に瓶の中身を流し込んだ。しばらくすると男の体が淡く光る。そして光が収まった時、横たわっていた男の傷は綺麗に消え去っていた。土気色をしていた顔にも赤みが差している。

「ゴホッ、ゴホッ」

と咳き込むと同時に男が目を開けた。多分、薬の一部が気管に入ったのだろう。

「クルト!大丈夫?」

と女に尋ねられ、男は上半身を起こして、しばらく手足を動かしていたが、

「そのようだ。」

と返した。途端に女が男に抱きついて大声で泣き出した。




(ソフィア視点)

 オーガと戦っている人間が多すぎる。こんなに多くの人間を見るのは初めてだ。これだけの人が私に向かってきたらと思うと、怖くて仕方がない。何せ人間は何をするにも群で行動するらしい。人々に気付かれない様にすぐ近くにあった建物の陰に隠れる。幸い人間達はオーガと戦うのに夢中で、こちらに注意を払っている人はいない。ここにいれば大丈夫だろう。

 だが、そんなひそやかな安心もすぐに終わってしまう。何を思ったか、カラシンさんの肩に留まったお母さんがオーガをやっつけてしまったんだ。一瞬の出来事だった。流石だけどね。その後、人間達がバラバラに動き始めたから、こちらに来ないかと気が気ではない。その時すぐ後ろで音がした。びっくりして振り向くと、私が隠れていた建物の扉が開いて、中から人が出てくるところだった。扉の前に屈んでいる私をみて、戸惑った様に覗き込んでいる。

 ギャー、と心の中で悲鳴を上げて私は思わず走り出した。走り出してから気付く、どこへ行けば良いの? 周り中人だらけだ! 怖いよ! その時、前方にカラシンさんの背中が見えた。あそこだ! 私の救いはあそこにある。

 夢中で走り寄り、カラシンさんの背中に抱き着いた。何故だか身体が震えて止まらない。助けてカラシンさん! だが、いきなり抱き着いたからか、カラシンさんは驚いたようで、私を振りほどこうとする。そうだ、後ろから抱き着いたから、誰かも分からないはずだ。これはまずいと気付いて力を緩める。カラシンさんが振り返って私を見たので、もう大丈夫だろうと正面から再び抱き着いた。

「グエッ」

カラシンさんが苦し気な声を上げる。あれ? 私何かした? 慌ててカラシンさんの身体を探査魔法で探ると、脇腹の骨にひびが!? うそ! 私がやったの? 力を入れ過ぎた? バカ、バカ、ソフィアのバカ! これは間違いなく怒られるよ! あわててリュックから回復薬の瓶を取り出してカラシンさんに差し出す。最後の1本だが、構いはしない。無くなったらまた作ればいいんだ。

 だが、カラシンさんは怒らなかった。「どうしたんだ?」と聞いてくれる。カラシンさん、酷いことをしたのに何て優しいんだろう...。だが、カラシンさんの次の言葉にさらに驚いた。

「ソフィア、この薬をやっても良いか。」

 あげるって? 誰に? でもこれは最後の1本だよ、と言おうとするが言葉がうまく出て来ない。カラシンさんが歩き出し、私は慌てて後を追う。カラシンさんは少し離れたところに居る人間の方に向かっている。胸が膨れているから女の人だろう。あの人にあげるつもりなのか? 

 そのまま、予想通りカラシンさんはその女性に回復薬を手渡す。その女性はすぐにすぐ横で横たわっている男性に回復薬を使った。もちろん男性は回復し、ふたりは抱き合っている。カラシンさんは、満足そうな顔でその場を離れてゆく。良いの? あれは最後の1本だったんだよ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

看病しに行ったら、当主の“眠り”になってしまった

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全36話⭐︎ 倒れた当主を看病する役目を振られた使用人リィナは、彼の部屋へ通うことになる。 栄養、灯り、静かな時間、話し相手――“眠れる夜”を整えていく。そして、回復していく当主アレクシス。けれど彼は、ある夜そっと手を握り返し、低い声で囁く。 「責任、取って?」 噂が燃える屋敷で、ふたりが守るのは“枠(ルール)”。 手だけ、時間だけ、理由にしない――鍵はリィナが握ったまま。 けれど、守ろうとするほど情は育ち、合図の灯りはいつしか「帰る」ではなく「眠る」へ変わっていく。 看病から始まった優しい夜は、静かな執着に捕まっていく。 それでも、捕獲の鍵は彼ではなく――彼女の手にある。

没落港の整備士男爵 ~「構造解析」スキルで古代設備を修理(レストア)したら、大陸一の物流拠点になり、王家も公爵家も頭が上がらなくなった件~

namisan
ファンタジー
大陸の南西端に位置するベルナ子爵領。 かつては貿易で栄えたこの港町も、今は見る影もない。 海底には土砂が堆積して大型船は入港できず、倉庫街は老朽化し、特産品もない。借金まみれの父と、諦めきった家臣たち。そこにあるのは、緩やかな「死」だけだった。 そんな没落寸前の領地の嫡男、アレン(16歳)に転生した主人公には、前世の記憶があった。 それは、日本で港湾管理者兼エンジニアとして働き、現場で散った「整備士」としての知識。 そして、彼にはもう一つ、この世界で目覚めた特異な能力があった。 対象の構造や欠陥、魔力の流れが設計図のように視えるスキル――【構造解析】。 「壊れているなら、直せばいい。詰まっているなら、通せばいい」 アレンは錆びついた古代の「浚渫(しゅんせつ)ゴーレム」を修理して港を深く掘り直し、魔導冷却庫を「熱交換の最適化」で復活させて、腐るだけだった魚を「最高級の輸出品」へと変えていく。 ドケチな家令ガルシアと予算を巡って戦い、荒くれ者の港湾長ゲンと共に泥にまみれ、没落商会の女主人メリッサと手を組んで販路を開拓する。 やがてその港には、陸・海・空の物流革命が巻き起こる。 揺れない「サスペンション馬車」が貴族の移動を変え、「鮮度抜群の魚介グルメ」が王族の胃袋を掴み、気性の荒いワイバーンを手懐けた「空輸便」が世界を結ぶ。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】

iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。 小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜

鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。 誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。 幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。 ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。 一人の客人をもてなしたのだ。 その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。 【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。 彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。 そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。 そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。 やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。 ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、 「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。 学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。 ☆第2部完結しました☆

処理中です...