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15. カラシンを避けるソフィア
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(ソフィア視点)
お母さんがいきなり戻ってきたと思ったら、<<オーガキングが来るよ>> と念話で知らせて来た。いきなりそんなこと言われたって困るよ。私は、カラシンさん達と一緒に村の人たちに土下座されているんだから。もう、訳が分からない。さっきから緊張しっぱなしで喉がカラカラだ。カラシンさんの上着の裾を両手で握りしめていることだけが、唯一の安心材料だ。
でもカラシンさんに「オーガキングがくる」といったら、窓際まで走って行ってしまった。ギャー、置いて行かないで! と慌てて後を追う。窓から外を見るカラシンさんの顔色をみると、何か大変なことが起こったんだと理解できた。それから村の人たちが大騒ぎを始める。村長さんが始め沢山の人たちがカラシンさんを囲んで、口々に何か言っている。どうやらオーガの大群がやって来た様だ。
カラシンさんが外に出てオーガの大群に対峙し、私はその後ろに隠れる。30人くらいの団体だ。流石にこれだけの数を倒す自信はない。お母さんなら出来るだろうけど、さっきから <<大丈夫だから>> としか言わないんだ。
そのうちにオーガキングと思われる大きなオーガがひとりだけでやって来て、村長さんと話を始めた。オーガキングも人間の言葉を話している。ゆっくり喋るから村長さんの言葉より分かりやすい。どうやら、魔族の国を作ったから、私達も国民にならないかと聞いているようだ。村長が承諾するとオーガキングは引き返していった。その途端、村の人たちの緊張が解れるのが分かった。
オーガキングは森に帰るのかと思ったが、さっき言っていた村の護衛と思われるオーガ3人を残して、森と反対方向に村を迂回して進んでゆく。さらに、お母さんが、
<< ソフィア、さっそく番の相手を見つけたようね。幸せになるのよ。>>
と言ってからオーガキングと同じ方向に飛び去って行った。番の相手ってカラシンさんのこと? そんなこと考えてもみなかった。意識したとたん、顔が熱くなる。どうしよう、一旦意識したら、カラシンさんにどう接して良いのか分からない。握っていた上着の裾も思わず放してしまった。「人間は番を見つけて、子供を産まないと幸せになれないの。」というお母さんの声が頭の中でリフレインする。私、カラシンさんの子供を産むの? それでもってカラシンさんと番になる? 順番が逆だが、その時はそんなことにも気付かないほど焦っていた。
(カラシン視点)
オーガキングが去った後、夕方になって村の背後にある山の方から ゴゴゴゴゴゴゴゴゴコゴ....という地鳴りが聞こえだした。地面もかすかに振動している様に感じる。当然のことながら村は騒ぎになった。オーガキングが人間の国に続く道の工事をすると言っていたから、その音なのだろうが、一体何をしているのか気になる。これほど大きな音がするのだ、ひょっとしたら工事と言っていたけれど、道が通れない様に壊しているのだろうか? 人間の国に続く唯一の道だ、そこを壊してしまえば俺達は出ていくことが出来ない。必然的に魔族の国の国民になるしか選択肢が無くなる。オーガキングの狙いはそれかもしれない。だが、昨日オーガキングは人間の国と交易するといっていた。道を塞いだら交易なんて出来っこない。
気にはなるが気軽に見物に行くわけにもいかない。翌朝になって、隊長が偵察に出かけたが、顔色を変えて戻って来た。Aクラス冒険者の隊長が顔面蒼白だ、よほどのことがあったのだろう。俺は朝飯も食べずに村人達と共に隊長の話を聞きに集まった。
「オーガキングは山を割って深い谷を作っている。谷は南北に走るアルトン山脈に対して垂直方向だ。山のこちら側から始まり、まっすぐ西の方向に続いている。済まないが、今日分かったのはそれだけだ。何のために山を割っているのか、何より、一体どうやって山を割っているのか、全く分からなかった。」
山を割っている? いくらオーガの力が強いと言ってもあり得ないだろう。まるで神話に出て来るような話だ。オーガキングは神の様な力をもっているということか? 道を通れなくするだけなら山を割る必要は無いだろう。村人達と一緒に、オーガキングの意図を色々と考えたが、結局結論は出なかった。オーガキングの言っていた工事が終われば分かるのだろうか?
村長の家に戻るとケイトが俺を待っていた。ソフィアの様子がおかしいそうだ。
「ベッドから出ようとしないのよ、『もうすぐカラシンも戻って来るから』と言ったら、真っ赤になって布団を被ったきり、呼びかけても反応がないの。「つがい」がどうのこうのと独り言ばっかり言ってるのよ。カラシン、あなたまさか何かしたんじゃないでしょうね。」
「何もしてないぞ、ソフィアとずっと一緒に居たんだから、ケイトだって分かるだろう。」
「それは、そうなんだけどね...。」
俺に魔族の気持ちなんて分かるはずがないが、心配ではある。とはいっても若い娘の寝室に入るわけにもいかず、待つしかなかった。
ソフィアが寝室から出てきたのは昼も過ぎたころだった。何かぼんやりしている様に見える。
「ソフィア.....」
ソフィア大丈夫か? と声を掛けようとした途端、ソフィアは弾かれたようにケイトの後ろに隠れた。昨日まであれだけ俺に付きまとっていたのに...。 ケイトが非難するような視線を向けて来る。「やっぱり何かしたのね」という声が聞こえて来そうだ。
起きて来たソフィアは、村長の奥さんが残しておいてくれた昼食を食べている。孫を肺炎から救ったことで感謝されているからか、昼食に遅れてきたことに文句も言われなかった。だが、俺が話しかけようとすると、あっと言う間にケイトの後に隠れてしまう。その内ケイトが俺に部屋から出ていくようにジェスチャーで命令して来た。仕方がない、後をケイトに任せて俺は村長の家から外に出た。
(ケイト視点)
昨晩から何か様子がおかしいと感じていたけれど、朝から騒がしかったのにソフィアは頭から布団を被ったままベッドから起き上がろうとしない。朝食にも起きてこなかった。昼前になって、仕方なく布団をめくって、
「もうすぐ、カラシンも戻って来るから起きようよ。」
と言った途端、顔が沸騰しそうなくらい真っ赤になり、次の動作で私の手から布団をひったくって再び頭から被る。「つがい...カラシン...つがい...」とブツブツ言っているが意味は分からない。
カラシンに対する態度からみて、原因は彼なのは間違いないだろう。昨日まであれだけ自分からくっ付いていたのに、今日は口をきこうともしないのだ。カラシンが酷いことをしたとは思わないが、この年頃の女の子はちょっとしたことで傷つくことがあるからなあ...。カラシンは悪い奴じゃ無いけれど、デリカシーに欠けているところがあるし。
こういう時は女同士じっくり話を聞いてあげるのが一番かも。私はカラシンを部屋から追い出し、ソフィアに向かい合った。
「ねえ、ソフィア。カラシンと何があったのかな? なんでも相談に乗るわよ。女同士なんだから遠慮なんかしちゃだめよ。」
「おんなどうし?」
とソフィアは不思議そうに返してくる。
「そうよ、女には女にしか分からないことがある物なのよ。カラシンみたいに大雑把な性格の奴には分からなくても、女になら分かることもあるのよ。」
「カラシンは、おおざっぱ?」
「そうよ、気付かなかった? 服だって少々汚れていても、ボタンが取れかけていても気にしないし。料理だって、どんなものでも美味しいとしか言わないし。女性の髪形が変わっても気付きもしない。一度、この野郎と思ったことがあるわ。私が失恋して、気持ちを切り替えようと、思い切ってショートにしたのに気付きもしなかったんだから。ありえないでしょう?」
「ケイト、カラシンがきらい?」
「嫌いじゃないわね。良い所もあるしね。ソフィアはどうなのかな?」
「わからない、でも、そばにいたい」
「うふっ、そうよね、いつも一緒にいるものね。でも今日はどうして一緒にいなかったのかな?」
「いっしょにいる、こどもうむ?」
「はい?」
「いっしょにいると、こどもうむ、つがいなる?」
「つがい」の意味が分からんが、カラシンに子供を産む様なことをされたということか!? おい! カラシン!!!
「えっと、ソフィアちゃん、カラシンの奴に何かされた? だったら私は味方よ、事と次第によっては、カラシンの奴なんか二度と立ち直れないくらいやっつけてやるわよ。」
「なにか?」
「何かは何かよ、えっと、キスされたとか、胸とかお尻を触られたとか...」
「キス? なに?」
「キスっていうのは、えっと、その...男と女が唇を合わせることよ。」
キスを知らない? いやいやありえないでしょう。きっと母国語じゃないからキスって単語を知らないだけだ。さっきの「つがい」もきっと使う単語を間違えているんだろう。
「カラシン、キスしない、むね、おしり、さわらない。」
おお、カラシン、疑いは晴れたぞ! でもそれなら、ソフィアは何を悩んでいるんだ? まさか、ひょっとして...。
「ねえ、ソフィア。子供はどうやったらできるか知ってる?」
「男と女、つがいなる、なかよくする、こどもできる。」
ソフィアの言う「つがい」とは、恋人とか夫婦という意味だろうか、これはたぶん...と私は頭を抱えた。ソフィアは性教育を全く受けていない。単に男と女が仲良くしたら子供ができると教えられて育ったんだ。だからカラシンと一緒にいると子供が出来ると思って避けたということか? 何という無責任な親だ!
「ソフィア、あのね、男と女が仲良くしても子供はできないの。キスしても胸やお尻を触られても大丈夫だからね。」
私がそう言うと、ソフィアは心底安心したようだ。
「ソフィア、カラシン、なかよくしてよい。こどもできない。キス、むね、おしり、だいじょうぶ。」
待ったぁぁぁぁっ! まずい、これじゃ私がキスやそれ以上を勧めている様じゃないか。
「ダメ! キスはともかく胸とお尻はもっと大きくなってからでないとダメよ。でないと、そう...お母さんが怒るわよ。」
「おかあさん、おこらない、はやく、つがいなれ、こどもつくれいう。だいじょうぶ。」
何て母親だ、娘にちゃんとした性教育も施さず、はやく子供を作れだと! どうしよう。どう説得すれば良いか思い浮かばない。そうだ、とりあえずはカラシンに釘を刺しておけば、あいつなら大丈夫...かな? あとは、私が少しずつ性教育をしていくしかないか...。なんで私が母親の代わりをしなければならないのよ! 会うことがあったら絶対文句を言ってやる。
(ソフィア視点)
驚いた。ケイトさんは女の人だったんだ。胸が膨れていないからてっきり男の人だと思い込んでいた。まだまだ人間について知らないことがある様だ。気を付けないと。
それにしても、カラシンさんと仲良くしていても子供は出来ないと知って安心した。カラシンさんの子供を産むのは嫌じゃないけど、お母さんになるのは決心がつかない。私にとってお母さんはすごい存在だもの、私がそのお母さんになるなんて、まだまだ務まる気がしない。もっともっと色々なことが出来る様になってからでないと、生まれて来る子供がかわいそうだよ。
カラシンさんが帰ってくると、嬉しくなって抱き着いてしまった。いきなりだったのでカラシンさんは面食らっていた様だけど、くっ付いていると何だか安心する。ケイトさんが、カラシンさんに向かって「感謝しなさいよ」と言っていたが、何のことだろうか?
お母さんがいきなり戻ってきたと思ったら、<<オーガキングが来るよ>> と念話で知らせて来た。いきなりそんなこと言われたって困るよ。私は、カラシンさん達と一緒に村の人たちに土下座されているんだから。もう、訳が分からない。さっきから緊張しっぱなしで喉がカラカラだ。カラシンさんの上着の裾を両手で握りしめていることだけが、唯一の安心材料だ。
でもカラシンさんに「オーガキングがくる」といったら、窓際まで走って行ってしまった。ギャー、置いて行かないで! と慌てて後を追う。窓から外を見るカラシンさんの顔色をみると、何か大変なことが起こったんだと理解できた。それから村の人たちが大騒ぎを始める。村長さんが始め沢山の人たちがカラシンさんを囲んで、口々に何か言っている。どうやらオーガの大群がやって来た様だ。
カラシンさんが外に出てオーガの大群に対峙し、私はその後ろに隠れる。30人くらいの団体だ。流石にこれだけの数を倒す自信はない。お母さんなら出来るだろうけど、さっきから <<大丈夫だから>> としか言わないんだ。
そのうちにオーガキングと思われる大きなオーガがひとりだけでやって来て、村長さんと話を始めた。オーガキングも人間の言葉を話している。ゆっくり喋るから村長さんの言葉より分かりやすい。どうやら、魔族の国を作ったから、私達も国民にならないかと聞いているようだ。村長が承諾するとオーガキングは引き返していった。その途端、村の人たちの緊張が解れるのが分かった。
オーガキングは森に帰るのかと思ったが、さっき言っていた村の護衛と思われるオーガ3人を残して、森と反対方向に村を迂回して進んでゆく。さらに、お母さんが、
<< ソフィア、さっそく番の相手を見つけたようね。幸せになるのよ。>>
と言ってからオーガキングと同じ方向に飛び去って行った。番の相手ってカラシンさんのこと? そんなこと考えてもみなかった。意識したとたん、顔が熱くなる。どうしよう、一旦意識したら、カラシンさんにどう接して良いのか分からない。握っていた上着の裾も思わず放してしまった。「人間は番を見つけて、子供を産まないと幸せになれないの。」というお母さんの声が頭の中でリフレインする。私、カラシンさんの子供を産むの? それでもってカラシンさんと番になる? 順番が逆だが、その時はそんなことにも気付かないほど焦っていた。
(カラシン視点)
オーガキングが去った後、夕方になって村の背後にある山の方から ゴゴゴゴゴゴゴゴゴコゴ....という地鳴りが聞こえだした。地面もかすかに振動している様に感じる。当然のことながら村は騒ぎになった。オーガキングが人間の国に続く道の工事をすると言っていたから、その音なのだろうが、一体何をしているのか気になる。これほど大きな音がするのだ、ひょっとしたら工事と言っていたけれど、道が通れない様に壊しているのだろうか? 人間の国に続く唯一の道だ、そこを壊してしまえば俺達は出ていくことが出来ない。必然的に魔族の国の国民になるしか選択肢が無くなる。オーガキングの狙いはそれかもしれない。だが、昨日オーガキングは人間の国と交易するといっていた。道を塞いだら交易なんて出来っこない。
気にはなるが気軽に見物に行くわけにもいかない。翌朝になって、隊長が偵察に出かけたが、顔色を変えて戻って来た。Aクラス冒険者の隊長が顔面蒼白だ、よほどのことがあったのだろう。俺は朝飯も食べずに村人達と共に隊長の話を聞きに集まった。
「オーガキングは山を割って深い谷を作っている。谷は南北に走るアルトン山脈に対して垂直方向だ。山のこちら側から始まり、まっすぐ西の方向に続いている。済まないが、今日分かったのはそれだけだ。何のために山を割っているのか、何より、一体どうやって山を割っているのか、全く分からなかった。」
山を割っている? いくらオーガの力が強いと言ってもあり得ないだろう。まるで神話に出て来るような話だ。オーガキングは神の様な力をもっているということか? 道を通れなくするだけなら山を割る必要は無いだろう。村人達と一緒に、オーガキングの意図を色々と考えたが、結局結論は出なかった。オーガキングの言っていた工事が終われば分かるのだろうか?
村長の家に戻るとケイトが俺を待っていた。ソフィアの様子がおかしいそうだ。
「ベッドから出ようとしないのよ、『もうすぐカラシンも戻って来るから』と言ったら、真っ赤になって布団を被ったきり、呼びかけても反応がないの。「つがい」がどうのこうのと独り言ばっかり言ってるのよ。カラシン、あなたまさか何かしたんじゃないでしょうね。」
「何もしてないぞ、ソフィアとずっと一緒に居たんだから、ケイトだって分かるだろう。」
「それは、そうなんだけどね...。」
俺に魔族の気持ちなんて分かるはずがないが、心配ではある。とはいっても若い娘の寝室に入るわけにもいかず、待つしかなかった。
ソフィアが寝室から出てきたのは昼も過ぎたころだった。何かぼんやりしている様に見える。
「ソフィア.....」
ソフィア大丈夫か? と声を掛けようとした途端、ソフィアは弾かれたようにケイトの後ろに隠れた。昨日まであれだけ俺に付きまとっていたのに...。 ケイトが非難するような視線を向けて来る。「やっぱり何かしたのね」という声が聞こえて来そうだ。
起きて来たソフィアは、村長の奥さんが残しておいてくれた昼食を食べている。孫を肺炎から救ったことで感謝されているからか、昼食に遅れてきたことに文句も言われなかった。だが、俺が話しかけようとすると、あっと言う間にケイトの後に隠れてしまう。その内ケイトが俺に部屋から出ていくようにジェスチャーで命令して来た。仕方がない、後をケイトに任せて俺は村長の家から外に出た。
(ケイト視点)
昨晩から何か様子がおかしいと感じていたけれど、朝から騒がしかったのにソフィアは頭から布団を被ったままベッドから起き上がろうとしない。朝食にも起きてこなかった。昼前になって、仕方なく布団をめくって、
「もうすぐ、カラシンも戻って来るから起きようよ。」
と言った途端、顔が沸騰しそうなくらい真っ赤になり、次の動作で私の手から布団をひったくって再び頭から被る。「つがい...カラシン...つがい...」とブツブツ言っているが意味は分からない。
カラシンに対する態度からみて、原因は彼なのは間違いないだろう。昨日まであれだけ自分からくっ付いていたのに、今日は口をきこうともしないのだ。カラシンが酷いことをしたとは思わないが、この年頃の女の子はちょっとしたことで傷つくことがあるからなあ...。カラシンは悪い奴じゃ無いけれど、デリカシーに欠けているところがあるし。
こういう時は女同士じっくり話を聞いてあげるのが一番かも。私はカラシンを部屋から追い出し、ソフィアに向かい合った。
「ねえ、ソフィア。カラシンと何があったのかな? なんでも相談に乗るわよ。女同士なんだから遠慮なんかしちゃだめよ。」
「おんなどうし?」
とソフィアは不思議そうに返してくる。
「そうよ、女には女にしか分からないことがある物なのよ。カラシンみたいに大雑把な性格の奴には分からなくても、女になら分かることもあるのよ。」
「カラシンは、おおざっぱ?」
「そうよ、気付かなかった? 服だって少々汚れていても、ボタンが取れかけていても気にしないし。料理だって、どんなものでも美味しいとしか言わないし。女性の髪形が変わっても気付きもしない。一度、この野郎と思ったことがあるわ。私が失恋して、気持ちを切り替えようと、思い切ってショートにしたのに気付きもしなかったんだから。ありえないでしょう?」
「ケイト、カラシンがきらい?」
「嫌いじゃないわね。良い所もあるしね。ソフィアはどうなのかな?」
「わからない、でも、そばにいたい」
「うふっ、そうよね、いつも一緒にいるものね。でも今日はどうして一緒にいなかったのかな?」
「いっしょにいる、こどもうむ?」
「はい?」
「いっしょにいると、こどもうむ、つがいなる?」
「つがい」の意味が分からんが、カラシンに子供を産む様なことをされたということか!? おい! カラシン!!!
「えっと、ソフィアちゃん、カラシンの奴に何かされた? だったら私は味方よ、事と次第によっては、カラシンの奴なんか二度と立ち直れないくらいやっつけてやるわよ。」
「なにか?」
「何かは何かよ、えっと、キスされたとか、胸とかお尻を触られたとか...」
「キス? なに?」
「キスっていうのは、えっと、その...男と女が唇を合わせることよ。」
キスを知らない? いやいやありえないでしょう。きっと母国語じゃないからキスって単語を知らないだけだ。さっきの「つがい」もきっと使う単語を間違えているんだろう。
「カラシン、キスしない、むね、おしり、さわらない。」
おお、カラシン、疑いは晴れたぞ! でもそれなら、ソフィアは何を悩んでいるんだ? まさか、ひょっとして...。
「ねえ、ソフィア。子供はどうやったらできるか知ってる?」
「男と女、つがいなる、なかよくする、こどもできる。」
ソフィアの言う「つがい」とは、恋人とか夫婦という意味だろうか、これはたぶん...と私は頭を抱えた。ソフィアは性教育を全く受けていない。単に男と女が仲良くしたら子供ができると教えられて育ったんだ。だからカラシンと一緒にいると子供が出来ると思って避けたということか? 何という無責任な親だ!
「ソフィア、あのね、男と女が仲良くしても子供はできないの。キスしても胸やお尻を触られても大丈夫だからね。」
私がそう言うと、ソフィアは心底安心したようだ。
「ソフィア、カラシン、なかよくしてよい。こどもできない。キス、むね、おしり、だいじょうぶ。」
待ったぁぁぁぁっ! まずい、これじゃ私がキスやそれ以上を勧めている様じゃないか。
「ダメ! キスはともかく胸とお尻はもっと大きくなってからでないとダメよ。でないと、そう...お母さんが怒るわよ。」
「おかあさん、おこらない、はやく、つがいなれ、こどもつくれいう。だいじょうぶ。」
何て母親だ、娘にちゃんとした性教育も施さず、はやく子供を作れだと! どうしよう。どう説得すれば良いか思い浮かばない。そうだ、とりあえずはカラシンに釘を刺しておけば、あいつなら大丈夫...かな? あとは、私が少しずつ性教育をしていくしかないか...。なんで私が母親の代わりをしなければならないのよ! 会うことがあったら絶対文句を言ってやる。
(ソフィア視点)
驚いた。ケイトさんは女の人だったんだ。胸が膨れていないからてっきり男の人だと思い込んでいた。まだまだ人間について知らないことがある様だ。気を付けないと。
それにしても、カラシンさんと仲良くしていても子供は出来ないと知って安心した。カラシンさんの子供を産むのは嫌じゃないけど、お母さんになるのは決心がつかない。私にとってお母さんはすごい存在だもの、私がそのお母さんになるなんて、まだまだ務まる気がしない。もっともっと色々なことが出来る様になってからでないと、生まれて来る子供がかわいそうだよ。
カラシンさんが帰ってくると、嬉しくなって抱き着いてしまった。いきなりだったのでカラシンさんは面食らっていた様だけど、くっ付いていると何だか安心する。ケイトさんが、カラシンさんに向かって「感謝しなさいよ」と言っていたが、何のことだろうか?
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