魔物の森のソフィア ~ある引きこもり少女の物語 - 彼女が世界を救うまで~

広野香盃

文字の大きさ
26 / 71

26. 芝居をするカラシンとソフィア

しおりを挟む
(分団長視点)

 俺達の分団5名に新しい命令が下った。なんと魔族の国に行く依頼を受けた農民が途中で逃げ出さない様に見張れという。なんで俺達が農民のお守なんかしないといけないんだ、まったく安い給料でこき使いやがってと思わず愚痴ったが、命令書の詳細を読んで考えが変わった。

 なんと農民達は報酬の前払い金として金貨100枚を持参しているらしい。しかも道中は人気のないアルトン山脈付近の山道だ。なかなか美味しい話じゃないか、と思わず頬が緩む。分団の仲間たちも全員やる気だ。どうせ魔族の国に殺されに行く奴等だ。戻って来なくても問題になることはない。途中の道で皆殺しにすれば金貨100枚が丸々手に入る、5人で分けるとしてひとり当たり金貨20枚、俺達の年収に匹敵する額だ。当分贅沢ができるぞ。

 だが、現実は甘くなかった。まずは、農民達が冒険者の護衛を雇っていたことだ。もっとも4人連れの冒険者はそれほど強そうには見えない。こいつらなら全員殺すのも難しくないだろう。俺達は毎日人を殺す訓練をさせられているのだ。しかも冒険者の中に飛び切りの美人が混じっている。こいつを殺すのは十分楽しませてもらった後だな。

 町を出て最初の休憩となった時。カラシンとかいう冒険者が、例の美人の冒険者と共に俺達の方にやって来た。女はカラシンの背中に抱き付く様に身を隠している。見ていると何故か無性に腹が立つ。

「兵士様、休憩中申し訳ありません。今からちょっと弟子の魔法の訓練を行います。少し音が出るかもしれませんがご容赦下さい。」

魔法の訓練? と言う事はこいつらは魔法使いか! まずいな、魔法使いの強さは見かけでは分からない。これは慎重に行かないと痛い目に遭いかねない。了承を返すと、カラシンは礼を言ってから俺達から距離を取った後、少し先にある大きな岩を指さし、

「ソフィア、目標はあの岩だ。ファイヤーボールで攻撃して見ろ。」

と後ろに居た美人に大きな声で命令する。やはりあの女が弟子なのだろう、女は「はい、ししょう」とちょっとイントネーションのおかしな口調で返事をすると岩に向き直った。途端に女の頭上に巨大なファイヤーボールが出現する。俺達は全員驚愕に目を見開いた。何だあの大きさは、軍にも魔法使いはいるがあんな大きさのファイヤーボールは見たことがない。

 次の瞬間、ファイヤーボールが発射され轟音と共に目標の岩が木っ端みじんに吹き飛んだ。爆風がここまで押し寄せて来る。馬鹿げた威力だ。

「撃つまでに時間を掛け過ぎだ。今の半分くらいの時間に短縮できないと合格はやれんな。次は雷魔法だ、目標はそうだな...あっちの岩とこっちの岩、それにあの木とこっちの木、それと最後はあの岩だな。5箇所同時に雷を落とすんだ。」

「はい、ししょう。」

と女が言った途端、閃光と轟音が辺りを満たした。5つの目標に雷が落ちたのだ。岩は何ともないが、目標とされた木は炎を上げて燃え出した。だが女が燃えている木に手を向けると一瞬で炎が消える。

「よし、雷魔法はまずまずだな。これらな複数の敵にも同時攻撃が出来るだろう。」

とカラシンがなぜかこちらを見ながら女を褒める。最後にカラシンは俺達に向かって、

「休憩中お騒がせしました。以上で終わりです。」

と言って、女と共に仲間の居る方に去って行った。俺達は思わず顔を見合わせた、どの顔も蒼白になっている。俺がゆっくりと首を横に振ると全員が頷く。無理だ、あんなすごい魔法使いの護衛が居るのでは手の出しようがない。しかもふたりだ、弟子であれだけすごいのだから師匠の方は想像すらできない。今回の任務はまじめに行うと決めた瞬間だった。

 それにしても、軍の魔法使い部隊の奴等にあいつ等の魔法を見せてやりたい。魔法使い部隊は軍の中でもエリート中のエリートだ。別名イエローカラー、制服の襟が黄色の詰襟だからその名が付いた。厚さ1センチメートルくらいある独特な形をした詰襟だ。まるで首輪をしている様に見えるから、陰では国王の犬と陰口をたたかれている。給金も待遇も俺達一般兵とは比べ物にならない。奴等も自分達はエリートだと自覚しているのか、俺達を下に見る言動を隠そうともしない。そんな奴等だが、あの娘の魔法を見たら肝を冷やすだろう。なにせファイヤーボールだけでも威力が違い過ぎる。雷魔法に至っては使っているところを見たことが無い。一介の冒険者の中にあれだけの魔法使いがいるのだ、少し旨のつかえが取れたような気がした。




(ソフィア視点)

 どういう理由か分からないが、山賊さんや農民の人達と一緒に魔族の国に戻ることになったらしい。もちろん理由が分からないのは私の所為だ。相変わらず慣れていない人の前では緊張して、相手の言っていることが頭に入って来ない。一緒に行くことになっている兵士さん達が農民さん達の持っているお金を狙っているので、それを防ぐためだと後でカラシンさんが説明してくれた。

 最初の休憩までは農民さん達と一緒に、周りに結界を張りながら歩く。不意打ちを受けない様にだそうだ。それ後は、休憩になったらカラシンさんと私で芝居をすることなるらしい。芝居というのは初めてだが、カラシンさんが横で指示してくれるらしいから大丈夫だろう。

 休憩時間になると、カラシンさんと兵士さん達に挨拶に行く。兵士さん達は鎧を着ているが、以前開拓村に来た兵士さん達に比べると身体を覆っている部分が少ない。防御力は落ちるが、この方が軽くて動きやすそうだ。本当はカラシンさんの横に並んで立つはずだったんだけど、兵士さん達に睨まれると怖くなって結局カラシンさんの後に隠れてしまった。でも魔法の訓練の芝居は兵士さんから離れていたこともあってちゃんと出来たと思う。

 その日の内に最初の村に着いた。農民さん達は魔族の国に続く道沿いの村々から来ているらしく。途中で5つの村に寄ることになるらしい。村に近づくと村人が総出で出迎えているのが見える。皆がこっちを睨んでいると思うと、やっぱりカラシンさんの背中に隠れてしまう。いい加減に慣れないといけないと思うのだが、いざとなると身体が勝手に動く。本当はカラシンさんに思いっきり抱き着きたいところを我慢しているのだ、少しは自分を褒めてあげたい。もっともカラシンさんの肋の骨を折ってしまわないか心配だからだけど。

 農民さんのひとりが、

「食い物だぞ~~~!」

と叫んで背負っていた荷物を頭上に掲げ、村に向かって駆けだす。途端に村から大きな歓声があがった。皆心待ちにしていた様だ。その農民さんは皆に背中を叩かれたり、「よくやった!」と褒められたりしながら村の中に入ってゆく。少し離れて私達も続く、ただ私達より更に後から兵士さん達が来ると、村の人達は蜘蛛の子を散らす様に居なくなった。兵隊さん達は嫌われている様だ。

 今日はこの村に泊ることになっている。ただし自分達のテントでだ。村の人達はさっそく村の広場で料理を始めた。大きな鍋を火にかけ、植物の種の様な物を投入している。粥と言う料理だそうだ。料理が出来上がると皆嬉しそうに食べている。数日振りのまともな食事だと言う。私達にも兵隊さん達にも配ってくれた。食べてみるが水っぽくてあまりおいしいものでは無い。ケイトさんに感想を伝えると、口の前に人差し指を立てて、「シー」と言う。確か、静かにするようにと言う意味のジェスチャーだ。

「ソフィアは何日も食べ物を食べられなかったことはある?」

とケイトさんが言う。もちろん、そんな経験はない。子供の時からお母さんがいつも食べ物を用意してくれた。大抵はリクルの実だったけど。

 私が首を振ると、ケイトさんが続ける。

「私は経験があるの。孤児院時代だってお腹一杯食べた経験なんて無いけれど、カラシンと一緒に冒険者に成って最初は酷いものだったのよ。まだまだ冒険者としての腕も未熟だし。どの依頼を受ければいいのかも分からない。分不相応な依頼を受諾して、達成出来なくて罰金を払わされたことも何度もある。本当に食うや食わずの生活だったの。だからお金が無くて、依頼を達成するまで食事抜きなんてことも何度もあったわ。そんなときは美味しいかどうかなんてどうでも良いの。食べる物があると言うだけで跳び上がるぐらい嬉しかった。この村の人達もきっと同じよ。だから皆あんなに嬉しそうな顔をしているの。そんな時に味のことなんて言っちゃだめよ。」

そうなんだ。私は食べる物の心配なんてしたことが無かった。本当に恵まれていたんだ。ありがとう、お母さん。

「ごめんなさい。」

とケイトさんに謝ると。

「分かればいいの、ソフィアは素直だから嬉しいわ。」

と笑って言ってくれた。そういえば兵隊さん達も静かに粥を食べている。あの人達もケイトさんみたいな経験があるのだろうか。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

看病しに行ったら、当主の“眠り”になってしまった

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全36話⭐︎ 倒れた当主を看病する役目を振られた使用人リィナは、彼の部屋へ通うことになる。 栄養、灯り、静かな時間、話し相手――“眠れる夜”を整えていく。そして、回復していく当主アレクシス。けれど彼は、ある夜そっと手を握り返し、低い声で囁く。 「責任、取って?」 噂が燃える屋敷で、ふたりが守るのは“枠(ルール)”。 手だけ、時間だけ、理由にしない――鍵はリィナが握ったまま。 けれど、守ろうとするほど情は育ち、合図の灯りはいつしか「帰る」ではなく「眠る」へ変わっていく。 看病から始まった優しい夜は、静かな執着に捕まっていく。 それでも、捕獲の鍵は彼ではなく――彼女の手にある。

没落港の整備士男爵 ~「構造解析」スキルで古代設備を修理(レストア)したら、大陸一の物流拠点になり、王家も公爵家も頭が上がらなくなった件~

namisan
ファンタジー
大陸の南西端に位置するベルナ子爵領。 かつては貿易で栄えたこの港町も、今は見る影もない。 海底には土砂が堆積して大型船は入港できず、倉庫街は老朽化し、特産品もない。借金まみれの父と、諦めきった家臣たち。そこにあるのは、緩やかな「死」だけだった。 そんな没落寸前の領地の嫡男、アレン(16歳)に転生した主人公には、前世の記憶があった。 それは、日本で港湾管理者兼エンジニアとして働き、現場で散った「整備士」としての知識。 そして、彼にはもう一つ、この世界で目覚めた特異な能力があった。 対象の構造や欠陥、魔力の流れが設計図のように視えるスキル――【構造解析】。 「壊れているなら、直せばいい。詰まっているなら、通せばいい」 アレンは錆びついた古代の「浚渫(しゅんせつ)ゴーレム」を修理して港を深く掘り直し、魔導冷却庫を「熱交換の最適化」で復活させて、腐るだけだった魚を「最高級の輸出品」へと変えていく。 ドケチな家令ガルシアと予算を巡って戦い、荒くれ者の港湾長ゲンと共に泥にまみれ、没落商会の女主人メリッサと手を組んで販路を開拓する。 やがてその港には、陸・海・空の物流革命が巻き起こる。 揺れない「サスペンション馬車」が貴族の移動を変え、「鮮度抜群の魚介グルメ」が王族の胃袋を掴み、気性の荒いワイバーンを手懐けた「空輸便」が世界を結ぶ。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】

iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。 小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜

鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。 誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。 幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。 ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。 一人の客人をもてなしたのだ。 その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。 【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。 彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。 そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。 そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。 やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。 ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、 「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。 学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。 ☆第2部完結しました☆

処理中です...