28 / 71
28. 開拓村に急ぐソフィア達
しおりを挟む
(ケイト視点)
ソフィアの話では、リクルの実の薬は開拓村を出る前にひとつの実から作れる分だけ作っておいたらしい。でもそれだけではとても足りない。とりあえずカラシンが残りの4本をカイルから少し離れた地面に置いて子供達に使う様に言うと、カイルはそれを大切そうに抱えて村に向かって走って行った。
ソフィアの言ったことを整理すると、残りのリクルの実は5個、これをそのまま薬にすると25本できるが、黒死病の患者は50人くらいいるらしいからそれでは足りない。でも治療の対象が黒死病に絞れるならリクルの実をもっと有効に使うことができる。リクルの実を使って黒死病の薬を作るのなら、5個で100人分くらい作れると言う。100人分なら村人全員の分が確保できる。だが、そのためには魔物の森の薬草が必要らしい。幸いこの村は魔物の森に近い。急げば数日で帰って来られるかもしれない。
4人で相談し、それがベストの方法だろうと言う事になった。この場でリクルの実の薬を作って25人を救うか、それとも時間はかかるが村人全員を救うかと言う事になれば後者が良いとなったわけだ。
アマンダに、数日以内に村人全員分の薬を作って戻って来る旨を伝えてから急いで出発した。兵士達が去っていく私達を羨まし気に睨んでいる。彼らは黒死病が発生している村の傍に居るのが怖いのだろう。黒死病は目に見えない。患者に近づかなければ大丈夫だと言われても恐怖を完全に拭い去ることは出来ない。感染したら死んでしまう可能性が高いのだ。
村から離れると開拓村に向かって急ぐ。しばらく行くと前方に先に出発した農民達が見えて来た。開拓村までは1本道だ、彼らに見つからずに開拓村に行くことは出来ない。こうなったら、私達が魔族の国の国民であることが分かっても仕方がないとチーム内で話はついている。それにしても、こんなに早く追い着くとは、ずいぶんゆっくりと歩いていた様だ。まあ、彼らにすれば魔族の国に行けば殺されると思っているから歩みが遅くなるのも理解できる。
農民達も私達に気付いた様で、立ち止って私達を待っている。怪訝そうな顔をしているのが分かる。金を持っている時ならともかく、いまさら自分達に用があるとは思えないのかもしれない。
「ケイトさん、どうしたんですか?」
と農民達のリーダー、マルクが尋ねて来る。
「魔族の国に急用が出来てね。悪いけど先に行かせて貰うわよ。」
と言いつつ、速度を落とさず農民達の横を通り過ぎた。マルクは私達に合わせて急ぎ足になりながら問いかけて来る。
「何を言っているんですか! 魔族の国に行ったら殺されますよ。死ぬのは私達だけで十分です。」
「大丈夫、私達は魔族の国の国民だからね。あなた達だって歓迎はされても殺されたりしないわよ。」
「魔族の国の国民? そんな馬鹿な! 人間が魔族の国の国民になれる訳が...」
「詳しく話してあげたいところなんだけど、本当に時間が無いの。黒死病の薬を作るのに魔物の森の薬草が必要なのよ。開拓村で会いましょう。」
「待ってください! 私達も一緒に行きます。ご一緒させてください。」
「いいけど、私達は急ぐわよ。」
「分かりました。おい、皆、急ぐぞ!」
とマルクは残りの農民達に声を掛けて歩調を上げる。
「まあ、安心しなさい。オーガキングは人間の国との戦争を望んでいないのよ。だから人間が魔族の国に入っても拒まないわ。開拓村の人達も元気でやっているわよ。オーガキングは税を取らないって宣言したしね。」
「本当ですか! おい! 聞いたか? 俺達は殺されずに済みそうだぞ!」
マルクが仲間の農民達に語り掛けると、皆嬉しそうに頷いた。
「それにしても、オーガキングは税を取らないんですか?」
「そうよ、私達の前でそう宣言したの。」
「すげえ...俺も魔族の国の国民になりたいぜ。」
と農民のひとりが息を弾ませながら言った。
「それでケイトさん達は、黒死病の薬を作るって言ってましたよね。」
「そうよ、カイルの村を助けるんだってソフィアが言うからね。あの子は薬作りの天才なのよ。魔物の森の薬草があればきっと作ってくれる。」
「カイルの村を救ってくれるんですか? でも、なぜ?」
「なぜって、理由なんか無いわ。助けられるから助けるの。それだけよ。」
それから私は、魔物の森の薬草を人間の国に売ることを生業にしようと考えていることも含め、今までの経緯をマルク達に話した。マルクに預けてある村長への贈り物には自分達が加工した薬草とそれをマルク達に薬草の試供品だと言って渡すように依頼する手紙が入っていることを話し、薬草をギルドに持ち帰って開拓村でもらった薬草の試供品と言って渡して欲しいとお願いすると、快く了承してくれた。私達が魔族の国の国民であることも秘密にしてくれるという。なぜ私達に味方してくれるのか尋ねたが、「理由なんかありません。カイルの村を助けようとしてくれる方の力になりたいだけですよ。」と言われた。
その後はひたすら魔族の国に向かって急ぐ、食事も歩きながら携帯食料を齧るだけの強行軍だ。そしてその日の夕方には魔族の国に続く谷底の道が見えて来たのだった。
(マルク視点)
魔族の国との国境であるアルトン山脈の山に近づくにつれ異様な物が見えて来た。山の一部が削られ深い谷になっている、そして谷底が道になっている様だ。道の入り口には門まである。魔族が作ったのか? いつの間に?
門の両側にはオーガの門番が経っている。その巨大な姿に恐怖して思わず立ち止るが、ケイトさん達は迷わず歩を進めていく。俺達は恐々と後を付いて行くしかない。オーガは怖いが、自分達だけで対処するより、ケイトさん達と一緒の方が心強い。
「無事帰って来たようだな。どうだ薬草は売れたか?」
と誰かがケイトさんに話しかけた。人間の言葉だ! 驚いて前を見るとドワーフがひとりオーガと共に立っているのに気付いた。
「商売はまずまずだったわ。それより人間の国からのお客さんを連れて来たわよ」
とケイトさんが返事すると、ドワーフが応える。
「承知しているさ。そのために私が通訳としてここに派遣されたのだ。」
それから、そのドワーフは俺達に向き直り、
「ようこそ魔族の国へ! あなた達はわが国に来た初めてのお客です。歓迎しますよ。」
と言葉を発した。そのドワーフは俺達の名前を聞いてから、傍にある魔道具らしきものから赤いカードの様な物を取り出し、俺達に差し出してくる。
「これは、魔族の国の仮の身分証です。魔族の国に居る間は必ず携帯してください。なお、出国の時に回収させていただきますので無くさない様注意してください。」
なるほど、これが魔族の国への入国を許可された訪問者であることを証明する身分証と言う事か。無くすと不味いことになるかもしれない。俺達は注意深く身分証を懐に仕舞った。
谷底の道には入り口だけでなく、真ん中と出口にも門があったが、身分証を見せると問題なく通過できた。ケイトさん達は緑色の身分証を見せているから、あれが魔族の国の国民の身分証なのだろう。異様な感じのする谷底の道を通り過ぎ、漸く開けた場所に出ると解放感にホッとする。開拓村はここから数キロメートル歩いたところにあるらしい。
開拓村に到着すると、その風景に驚いた。オーガの大群に襲われたと噂されていたから、きっと大きな被害が出ていると思っていたのだが、村の広場では歓声を上げながら子供達が遊んでおり、遠くの畑では沢山の農民達が農作業をしているのが見える。平和そのものだ。魔族の支配下にある人間の村という言葉から受ける印象とは程遠い。
最初に村長の家に案内される。村長はかなりの高齢の様だが、まだまだ元気の様だ。俺達に歓迎の言葉を掛けてくれ、今日は自分の家に泊る様に言ってくれる。食事も用意してくれると言う。
「良いんですか、俺達は軍から頼まれた農産物を買う金しかもっていないですよ。」
と俺が言うと、
「構わん、何しろオーガキングは税を取らないんだ。その上今年は豊作だ。食糧は十分にある。遠慮するな。」
と何とも羨ましい言葉が返って来た。俺達は顔を見合わせた。税が無いということは、自分達が育てた作物がすべて自分達の物になると言う事だ。半分以上を税として取られる俺達とは違いがあり過ぎる。しかも半分といっても、それは平年並みに作物が取れたとしての半分なのだ、今年の様に不作の場合は採れた作物をすべて税として持って行かれてしまう。
「オーガキングが人間の国を征服してくれたら、俺達も税を払わないで済むのかな...」
と農民仲間のケインが思わず口にする。馬鹿な事を言うなと言いかけて止める。俺も全く同じ気持ちだからだ。そりゃ、オーガキングだって収入が無ければ困るだろうから、いくらか税を取られるとしても、この村の様子を見れば今よりは遥かにましな生活が送れる様になるかもしれない。村長の歓待に感謝しつつ、自分達の家に戻るというケイトさん達と別れた。
ソフィアの話では、リクルの実の薬は開拓村を出る前にひとつの実から作れる分だけ作っておいたらしい。でもそれだけではとても足りない。とりあえずカラシンが残りの4本をカイルから少し離れた地面に置いて子供達に使う様に言うと、カイルはそれを大切そうに抱えて村に向かって走って行った。
ソフィアの言ったことを整理すると、残りのリクルの実は5個、これをそのまま薬にすると25本できるが、黒死病の患者は50人くらいいるらしいからそれでは足りない。でも治療の対象が黒死病に絞れるならリクルの実をもっと有効に使うことができる。リクルの実を使って黒死病の薬を作るのなら、5個で100人分くらい作れると言う。100人分なら村人全員の分が確保できる。だが、そのためには魔物の森の薬草が必要らしい。幸いこの村は魔物の森に近い。急げば数日で帰って来られるかもしれない。
4人で相談し、それがベストの方法だろうと言う事になった。この場でリクルの実の薬を作って25人を救うか、それとも時間はかかるが村人全員を救うかと言う事になれば後者が良いとなったわけだ。
アマンダに、数日以内に村人全員分の薬を作って戻って来る旨を伝えてから急いで出発した。兵士達が去っていく私達を羨まし気に睨んでいる。彼らは黒死病が発生している村の傍に居るのが怖いのだろう。黒死病は目に見えない。患者に近づかなければ大丈夫だと言われても恐怖を完全に拭い去ることは出来ない。感染したら死んでしまう可能性が高いのだ。
村から離れると開拓村に向かって急ぐ。しばらく行くと前方に先に出発した農民達が見えて来た。開拓村までは1本道だ、彼らに見つからずに開拓村に行くことは出来ない。こうなったら、私達が魔族の国の国民であることが分かっても仕方がないとチーム内で話はついている。それにしても、こんなに早く追い着くとは、ずいぶんゆっくりと歩いていた様だ。まあ、彼らにすれば魔族の国に行けば殺されると思っているから歩みが遅くなるのも理解できる。
農民達も私達に気付いた様で、立ち止って私達を待っている。怪訝そうな顔をしているのが分かる。金を持っている時ならともかく、いまさら自分達に用があるとは思えないのかもしれない。
「ケイトさん、どうしたんですか?」
と農民達のリーダー、マルクが尋ねて来る。
「魔族の国に急用が出来てね。悪いけど先に行かせて貰うわよ。」
と言いつつ、速度を落とさず農民達の横を通り過ぎた。マルクは私達に合わせて急ぎ足になりながら問いかけて来る。
「何を言っているんですか! 魔族の国に行ったら殺されますよ。死ぬのは私達だけで十分です。」
「大丈夫、私達は魔族の国の国民だからね。あなた達だって歓迎はされても殺されたりしないわよ。」
「魔族の国の国民? そんな馬鹿な! 人間が魔族の国の国民になれる訳が...」
「詳しく話してあげたいところなんだけど、本当に時間が無いの。黒死病の薬を作るのに魔物の森の薬草が必要なのよ。開拓村で会いましょう。」
「待ってください! 私達も一緒に行きます。ご一緒させてください。」
「いいけど、私達は急ぐわよ。」
「分かりました。おい、皆、急ぐぞ!」
とマルクは残りの農民達に声を掛けて歩調を上げる。
「まあ、安心しなさい。オーガキングは人間の国との戦争を望んでいないのよ。だから人間が魔族の国に入っても拒まないわ。開拓村の人達も元気でやっているわよ。オーガキングは税を取らないって宣言したしね。」
「本当ですか! おい! 聞いたか? 俺達は殺されずに済みそうだぞ!」
マルクが仲間の農民達に語り掛けると、皆嬉しそうに頷いた。
「それにしても、オーガキングは税を取らないんですか?」
「そうよ、私達の前でそう宣言したの。」
「すげえ...俺も魔族の国の国民になりたいぜ。」
と農民のひとりが息を弾ませながら言った。
「それでケイトさん達は、黒死病の薬を作るって言ってましたよね。」
「そうよ、カイルの村を助けるんだってソフィアが言うからね。あの子は薬作りの天才なのよ。魔物の森の薬草があればきっと作ってくれる。」
「カイルの村を救ってくれるんですか? でも、なぜ?」
「なぜって、理由なんか無いわ。助けられるから助けるの。それだけよ。」
それから私は、魔物の森の薬草を人間の国に売ることを生業にしようと考えていることも含め、今までの経緯をマルク達に話した。マルクに預けてある村長への贈り物には自分達が加工した薬草とそれをマルク達に薬草の試供品だと言って渡すように依頼する手紙が入っていることを話し、薬草をギルドに持ち帰って開拓村でもらった薬草の試供品と言って渡して欲しいとお願いすると、快く了承してくれた。私達が魔族の国の国民であることも秘密にしてくれるという。なぜ私達に味方してくれるのか尋ねたが、「理由なんかありません。カイルの村を助けようとしてくれる方の力になりたいだけですよ。」と言われた。
その後はひたすら魔族の国に向かって急ぐ、食事も歩きながら携帯食料を齧るだけの強行軍だ。そしてその日の夕方には魔族の国に続く谷底の道が見えて来たのだった。
(マルク視点)
魔族の国との国境であるアルトン山脈の山に近づくにつれ異様な物が見えて来た。山の一部が削られ深い谷になっている、そして谷底が道になっている様だ。道の入り口には門まである。魔族が作ったのか? いつの間に?
門の両側にはオーガの門番が経っている。その巨大な姿に恐怖して思わず立ち止るが、ケイトさん達は迷わず歩を進めていく。俺達は恐々と後を付いて行くしかない。オーガは怖いが、自分達だけで対処するより、ケイトさん達と一緒の方が心強い。
「無事帰って来たようだな。どうだ薬草は売れたか?」
と誰かがケイトさんに話しかけた。人間の言葉だ! 驚いて前を見るとドワーフがひとりオーガと共に立っているのに気付いた。
「商売はまずまずだったわ。それより人間の国からのお客さんを連れて来たわよ」
とケイトさんが返事すると、ドワーフが応える。
「承知しているさ。そのために私が通訳としてここに派遣されたのだ。」
それから、そのドワーフは俺達に向き直り、
「ようこそ魔族の国へ! あなた達はわが国に来た初めてのお客です。歓迎しますよ。」
と言葉を発した。そのドワーフは俺達の名前を聞いてから、傍にある魔道具らしきものから赤いカードの様な物を取り出し、俺達に差し出してくる。
「これは、魔族の国の仮の身分証です。魔族の国に居る間は必ず携帯してください。なお、出国の時に回収させていただきますので無くさない様注意してください。」
なるほど、これが魔族の国への入国を許可された訪問者であることを証明する身分証と言う事か。無くすと不味いことになるかもしれない。俺達は注意深く身分証を懐に仕舞った。
谷底の道には入り口だけでなく、真ん中と出口にも門があったが、身分証を見せると問題なく通過できた。ケイトさん達は緑色の身分証を見せているから、あれが魔族の国の国民の身分証なのだろう。異様な感じのする谷底の道を通り過ぎ、漸く開けた場所に出ると解放感にホッとする。開拓村はここから数キロメートル歩いたところにあるらしい。
開拓村に到着すると、その風景に驚いた。オーガの大群に襲われたと噂されていたから、きっと大きな被害が出ていると思っていたのだが、村の広場では歓声を上げながら子供達が遊んでおり、遠くの畑では沢山の農民達が農作業をしているのが見える。平和そのものだ。魔族の支配下にある人間の村という言葉から受ける印象とは程遠い。
最初に村長の家に案内される。村長はかなりの高齢の様だが、まだまだ元気の様だ。俺達に歓迎の言葉を掛けてくれ、今日は自分の家に泊る様に言ってくれる。食事も用意してくれると言う。
「良いんですか、俺達は軍から頼まれた農産物を買う金しかもっていないですよ。」
と俺が言うと、
「構わん、何しろオーガキングは税を取らないんだ。その上今年は豊作だ。食糧は十分にある。遠慮するな。」
と何とも羨ましい言葉が返って来た。俺達は顔を見合わせた。税が無いということは、自分達が育てた作物がすべて自分達の物になると言う事だ。半分以上を税として取られる俺達とは違いがあり過ぎる。しかも半分といっても、それは平年並みに作物が取れたとしての半分なのだ、今年の様に不作の場合は採れた作物をすべて税として持って行かれてしまう。
「オーガキングが人間の国を征服してくれたら、俺達も税を払わないで済むのかな...」
と農民仲間のケインが思わず口にする。馬鹿な事を言うなと言いかけて止める。俺も全く同じ気持ちだからだ。そりゃ、オーガキングだって収入が無ければ困るだろうから、いくらか税を取られるとしても、この村の様子を見れば今よりは遥かにましな生活が送れる様になるかもしれない。村長の歓待に感謝しつつ、自分達の家に戻るというケイトさん達と別れた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
看病しに行ったら、当主の“眠り”になってしまった
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全36話⭐︎
倒れた当主を看病する役目を振られた使用人リィナは、彼の部屋へ通うことになる。
栄養、灯り、静かな時間、話し相手――“眠れる夜”を整えていく。そして、回復していく当主アレクシス。けれど彼は、ある夜そっと手を握り返し、低い声で囁く。
「責任、取って?」
噂が燃える屋敷で、ふたりが守るのは“枠(ルール)”。
手だけ、時間だけ、理由にしない――鍵はリィナが握ったまま。
けれど、守ろうとするほど情は育ち、合図の灯りはいつしか「帰る」ではなく「眠る」へ変わっていく。
看病から始まった優しい夜は、静かな執着に捕まっていく。
それでも、捕獲の鍵は彼ではなく――彼女の手にある。
没落港の整備士男爵 ~「構造解析」スキルで古代設備を修理(レストア)したら、大陸一の物流拠点になり、王家も公爵家も頭が上がらなくなった件~
namisan
ファンタジー
大陸の南西端に位置するベルナ子爵領。
かつては貿易で栄えたこの港町も、今は見る影もない。
海底には土砂が堆積して大型船は入港できず、倉庫街は老朽化し、特産品もない。借金まみれの父と、諦めきった家臣たち。そこにあるのは、緩やかな「死」だけだった。
そんな没落寸前の領地の嫡男、アレン(16歳)に転生した主人公には、前世の記憶があった。
それは、日本で港湾管理者兼エンジニアとして働き、現場で散った「整備士」としての知識。
そして、彼にはもう一つ、この世界で目覚めた特異な能力があった。
対象の構造や欠陥、魔力の流れが設計図のように視えるスキル――【構造解析】。
「壊れているなら、直せばいい。詰まっているなら、通せばいい」
アレンは錆びついた古代の「浚渫(しゅんせつ)ゴーレム」を修理して港を深く掘り直し、魔導冷却庫を「熱交換の最適化」で復活させて、腐るだけだった魚を「最高級の輸出品」へと変えていく。
ドケチな家令ガルシアと予算を巡って戦い、荒くれ者の港湾長ゲンと共に泥にまみれ、没落商会の女主人メリッサと手を組んで販路を開拓する。
やがてその港には、陸・海・空の物流革命が巻き起こる。
揺れない「サスペンション馬車」が貴族の移動を変え、「鮮度抜群の魚介グルメ」が王族の胃袋を掴み、気性の荒いワイバーンを手懐けた「空輸便」が世界を結ぶ。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】
iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜
鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。
誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。
幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。
ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。
一人の客人をもてなしたのだ。
その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。
【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。
彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。
そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。
そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。
やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。
ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、
「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。
学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。
☆第2部完結しました☆
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる