魔物の森のソフィア ~ある引きこもり少女の物語 - 彼女が世界を救うまで~

広野香盃

文字の大きさ
32 / 71

32. 黒死病の薬を届けるソフィア達 - 2

しおりを挟む
(ソフィア視点)

 今日は朝早く起きて、昨晩作った黒死病の薬を持ってカイルさんの村を目指して出発した。もちろん、私はカラシンさんにピッタリと寄り添って歩いている。心が弾んで仕方がない。なにしろ、昨晩はケイトさん公認でカラシンさんと同じベッドで眠ることが出来たのだ。もっとも、カラシンさんまでケイトさんと同様に「子供を作るのはもっと生活が落ち着いてから」と言って何もしてくれないのにはガッカリしたけど...。でも、それって薬草の商売がうまく行けば子供を作るってことだよね。早くその日が来て欲しい。

 開拓村を出て谷底の道も過ぎ去り、人間の国に入った。出来る限り早く薬を届けるために、ケイトさんは休憩も短めにして先を急ぐ。でもお昼を過ぎたころ、後ろから、

「おーい、おーい」

と私達を呼ぶ声が聞こえて来た。振り返ると四頭立ての立派な馬車が後ろから追いかけてきている。乗っているのは農民さん達の様だ。馬車はスピードを上げてどんどん迫って来る。いつもならこんな場合はカラシンさんの背中に隠れるのだが、今はカラシンさんが肩に手を回してくれているからかそれほど怖くない。もっともカラシンさんにピッタリくっ付いてはいるけれど。

「ケイトさん、お願いがあります。この馬車に積んでいる麦を薬と一緒にカイルの村に届けてもらえないでしょうか。報酬は金貨10枚出します。もっとも今は金が無いのでこの馬車と馬を町で売却してからお支払することになりますが...。」

 と農民さん達のリーダーのマルクさんがケイトさんに声を掛けた。今日は緊張していないからかマルクさんの言っていることが理解できる。

「でも、なにも私達に依頼しなくても自分達で届けた方が早いんじゃない。せっかく馬車があるんだし。むしろ私達が持っている黒死病の薬も一緒に馬車で届けて欲しいくらいよ。」

「そうしたいのはやまやまなんですが、ケイトさんもご存じの様に村の入り口にはあの兵士達がいるはずです。この馬車自体に結構な価値がある上に、積んでいるのは麦だけでなく魔族の国から託された商品のサンプルです。きっと価値があるものだと思うんです。彼らの前に私達がこの馬車で乗り付ければ、狼の前に子羊を連れて行くようなものです。」

「なるほどね...。それで兵士達が怖がっている魔法使いがふたりもいる私達のチームの出番と言う訳ね。理解はしたけど、それだけの数の麦の袋を私達が徒歩で運ぶのは無理よ。馬車で運ぶしかないわね。ここから見る限り私達が馬車に乗るスペースはなさそうだから、馬車のスピードを落として私達の歩く速度に合わせてくれるならOKよ。」

「いえ、その必要はありません。私達が降りて歩きます。ケイトさん達は馬車に乗って先にカイルの村に向かってください。そうすれば少しでも早くカイルに薬と食糧を届けることが出来ます。」

「いいの? 私達が馬車を奪って、積み荷ごとどこかで売ってしまうかもしれないわよ。」

「ご冗談を、そんなことは万にひとつもありませんよ。」

「信じてくれてありがとう。それじゃ、先にカイルの村に行って待ってるわ。」

ケイトさんはそう言うと、馬車から降りるマルクさん達と入れ違いに馬車に乗り込んだ。私達も慌てて後に続く。そのままマルクさん達を後に残して馬車は出発した。

 カイルさんの村に近づくと槍を構えた兵士さん達に止められた。兵士さん達は4人しかいない。村を隔離するのに応援を呼ぼうとしていたはずなのだが、まだ到着していない様だ。

「止まれ!!! この先の村では黒死病が発生している。村には入れない....って、お前達か!? なぜ戻って来た? その馬車はどうしたんだ?」

「今日は。村の隔離作業ご苦労様です。今日は村の人達に薬と食糧を運んで来たんです。ちょっとだけ通していただけないでしょうか。ご心配なさらなくても大丈夫です。私達だって黒死病にはなりたくないですからね、村人と直接接触するようなことはいたしません。」

カラシンさんが馬車を降り兵士さん達に近づきながら言う。私はカラシンさんと私の周りに結界を張りながら後に続く。私達が近づくと兵士さん達は槍を向けながら「止まれ!」と叫ぶ。

「兵士様、お願いします。先ほども言いました様に黒死病が広がる様なことは致しません。私達は黒死病の治療薬を持って来たんです。村の黒死病が治れば皆様方のお役にも立つのではないですか? よろしければ兵士様方にも1本ずつ差し上げますよ。このような場所に何日も滞在しているとなると不安でしょう。薬を飲んでおけば黒死病になることはありません。」

「バカな、黒死病に効く薬など効いたことが無いぞ。」

「でも、兵士様方も、村の女性の黒死病が治るのを目の前でご覧になったのではないですか? あれと同等の効果がある薬ですよ。まあ、村人に薬を渡せば効果のほどはすぐにわかりますよ。信じていただけないなら、それを確かめてから飲んでいただければいかがでしょうか。」

カラシンさんがそう言うと、兵士さん達はこそこそと相談を始める。村の人達の人数は89人と聞いているから、兵士さん4人に薬を渡しても不足することは無い。その内一番偉そうな兵士さんがカラシンさんに向かって言った。

「分かった、薬と食糧を渡すのを認めよう。その代わり村人の5メートル以内には近づくな。この命令を破ったらお前達も隔離の対象とさせてもらうからな。」

「もちろんです。ご命令に従うとお約束します。」

カラシンさんはそう兵士さんに答えると、馬車の御者台に座っているマイケルさんに合図して馬車を村の入り口近くまで前進させる。それから馬車から薬を取り出し、村の入り口に並べ、兵士さん達にも1本ずつ渡した。その後は全員で麦の袋を馬車から降ろし、薬の傍に積み上げる。大きな袋が30袋くらいある。馬車に乗せられるだけ積み上げたという感じだ。

それが済むと、皆で村に向かって大きな声で何度も呼びかけた。

しばらくすると、私達の呼び声を聞きつけた村人がやって来る。カイルさんとアマンダさんも居る。

ケイトさんが、黒死病の治療薬のことを村人に説明する。村の人達は最初は薬に手を出そうとしなかったが、カイルさんが率先して薬を飲んで効果を示すと、皆が手にしてくれた。薬を飲んで黒死病が治った村の人達は、何度もお礼を言いながら薬と麦の袋を運んで行く。

私達はしばらくその場所にとどまって、薬と麦の袋が運ばれていくのを見守った。兵士さん達に奪われないための用心だそうだ。

 しばらくすると兵士さんが誰かに警告する声が聞こえた。

「止まれ、この先は黒死病が....お前達! 無事に帰って来たのか!?」

振り返ると、マルクさん達がこちらに歩いて来るところだった。兵士さん達はマルクさん達が魔族の国で殺されるだろうと思っていたから心底驚いた様だ。

「お前達! 本当に魔族の国に行ったんだろうな。どうやって無事に帰って来た?」

と別の兵士さんがマルクさんに詰問する。

「大丈夫です。魔族の国には本当に行ってきました。村長の書いてくれた証明書もあります。それに、その馬車とそれに積んであった麦は魔族の国で貰った物です。」

「なんだと、この冒険者達が言っていたことは本当だと言うのか? 野蛮な魔族が人間を無事に返したばかりか贈り物をしてくれたなんて信じられん。奴らは何を企んでいる?」

「そんなこと、バカな農民の私達には分かりませんよ。私は事実を伝えたまでです。私達は魔族の国に行きましたが、殺されなかっただけでなく歓迎され贈り物まで貰いました。それだけです。」

「そ、そうか...」

兵士さんはマルクさんの話を聞いて混乱している様だ。その時、カイルさんがマルクさんに話しかけた。

「マルク、無事だったんだな。良かった...」

「カイル。ああ、この通りピンピンしているさ。お前も元気そうじゃないか、安心したぞ。」

「元気なのはさっき飲んだ薬のお陰だ。それまでは死を覚悟していたよ。まったく奇跡なんて信じちゃいなかったが生き永らえちまった。これから何をすれば良いのか分からん。」

「カイル、話したいことは沢山あるが、俺達はギルドに依頼達成の報告に行かねばならん。この村の隔離が解けた後でまた会おう。伝えたいことが山ほどある。」

「分かった。また会う時を楽しみにしている。」

 マルクさんはそれだけ言うと、私達と一緒に馬車に乗り込んで村を後にした。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

看病しに行ったら、当主の“眠り”になってしまった

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全36話⭐︎ 倒れた当主を看病する役目を振られた使用人リィナは、彼の部屋へ通うことになる。 栄養、灯り、静かな時間、話し相手――“眠れる夜”を整えていく。そして、回復していく当主アレクシス。けれど彼は、ある夜そっと手を握り返し、低い声で囁く。 「責任、取って?」 噂が燃える屋敷で、ふたりが守るのは“枠(ルール)”。 手だけ、時間だけ、理由にしない――鍵はリィナが握ったまま。 けれど、守ろうとするほど情は育ち、合図の灯りはいつしか「帰る」ではなく「眠る」へ変わっていく。 看病から始まった優しい夜は、静かな執着に捕まっていく。 それでも、捕獲の鍵は彼ではなく――彼女の手にある。

没落港の整備士男爵 ~「構造解析」スキルで古代設備を修理(レストア)したら、大陸一の物流拠点になり、王家も公爵家も頭が上がらなくなった件~

namisan
ファンタジー
大陸の南西端に位置するベルナ子爵領。 かつては貿易で栄えたこの港町も、今は見る影もない。 海底には土砂が堆積して大型船は入港できず、倉庫街は老朽化し、特産品もない。借金まみれの父と、諦めきった家臣たち。そこにあるのは、緩やかな「死」だけだった。 そんな没落寸前の領地の嫡男、アレン(16歳)に転生した主人公には、前世の記憶があった。 それは、日本で港湾管理者兼エンジニアとして働き、現場で散った「整備士」としての知識。 そして、彼にはもう一つ、この世界で目覚めた特異な能力があった。 対象の構造や欠陥、魔力の流れが設計図のように視えるスキル――【構造解析】。 「壊れているなら、直せばいい。詰まっているなら、通せばいい」 アレンは錆びついた古代の「浚渫(しゅんせつ)ゴーレム」を修理して港を深く掘り直し、魔導冷却庫を「熱交換の最適化」で復活させて、腐るだけだった魚を「最高級の輸出品」へと変えていく。 ドケチな家令ガルシアと予算を巡って戦い、荒くれ者の港湾長ゲンと共に泥にまみれ、没落商会の女主人メリッサと手を組んで販路を開拓する。 やがてその港には、陸・海・空の物流革命が巻き起こる。 揺れない「サスペンション馬車」が貴族の移動を変え、「鮮度抜群の魚介グルメ」が王族の胃袋を掴み、気性の荒いワイバーンを手懐けた「空輸便」が世界を結ぶ。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】

iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。 小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜

鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。 誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。 幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。 ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。 一人の客人をもてなしたのだ。 その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。 【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。 彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。 そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。 そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。 やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。 ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、 「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。 学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。 ☆第2部完結しました☆

処理中です...