魔物の森のソフィア ~ある引きこもり少女の物語 - 彼女が世界を救うまで~

広野香盃

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37. 誘拐されるソフィア - 4

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(ソフィア視点)

 カラシンさんはお母さんに私を守れなかったことを詫びた後、オーガキングにまだ村にライルという誘拐の実行犯が残っていることを伝えた。カラシンさんを助けてくれた謎の冒険者と戦闘中だという。

 オーガキングの命令で、直ちに魔族の兵士達が村に向かい、私達も一緒に行くことになった。魔族の兵士達はライルさんの顔を知らないからだ。カラシンさんの話ではやはりカラシンさんを切り殺そうとしたのはライルさんだったらしい。怒りが沸き上がる。ライルさんは私の大切なカラシンさんを殺そうとした。もしカラシンさんが死んでいたらと考えるだけで心が真っ黒に染まった。

 村に向かう途中で誰かがこちらに駆けて来るのが見えた。まさか? と思ったがライルさんだった。ライルさんはこちらに気付くと走るのを止め、私達が来るのを待っている様だ。ライルさんの顔を見た途端、私の思考は怒りのために停止した。

「ソフィリアーヌ姫様まで目を覚ましましたか。どうやら私の任務は完全に失敗したようですね。」

とライルさんが言うが、言葉は聞こえても意味が頭に入って来ない。

「ライル、カラシンころそうとした。ゆるさない。」

そう言って腰の短剣を抜き放つ。私の殺気に気付いたのか魔族の兵士達が私とライルさんの間に割って入ろうとするが、私は魔族語で彼らに向かって叫けぶ、

「邪魔しないで! こいつは私が殺す!」

私の語調に驚いた兵士達が動きを止める。私が精霊王の娘だからというのもあるだろう。そのまま私はライルさんに向かって歩を進めるが、カラシンさんに後ろから抱きとめられた。

「ソフィア、ダメだ。あいつにはお前が手を汚すほどの価値はない。兵士に任せるんだ。」

カラシンさんの声を聴いて、ようやく私の思考が回り始めた。確かにオーガの兵士ならライルさんがどれだけ強くても負けることは無い。ましてや、ここには何人もの兵士がいるのだ。だけど、我儘だとわかっているが、それでも我慢できなかった。

「カラシン、ごめんなさい。わたし、どうしても、ひとたち、あびせたい。」

カラシンさんはしばらく黙っていたが、

「分かった。行ってこい。」

と言ってくれた。私はカラシンさんに笑顔を向けてからライルさんに近づいた。

「これは、これは、ソフィリアーヌ様直々に相手をして頂けるとは光栄の至りですな。」

とライルさんが笑顔で言うが、彼の言葉など、どうでもよい。

「カラシンしななかった。だからころさない。でもカラシンのうけたいたみ、あじわってもらう。」

 そう言って私はライルさんに向かって駆けだす。全身の神経が研ぎ澄まされているのが分かる。相手の動きがスローに見える。ライルさんは私に向かってナイフを投げ、私が躱すと見越して、その方向に剣を振り下ろしてくる。だが遅い! その程度では私の踏み込みに間に合わない。私はライルさんの剣の下を掻い潜ると、短剣をライルさんの腕の付け根目掛けて振り上げた。




(ライル視点)

 ソフリアーヌ様との戦いは一瞬だった。ここから生きて抜け出すにはソフィリアーヌ様を人質にするしかないと考え、殺す気が無かったからというのもあるが、気が付いたら右腕を付け根から切断されていた。ありえない! こいつは本当に人間か!?

「ギャーッ!」

と叫び声をあげ、傷口を左手で押さえて地面を転がる。激痛は本当だが、のたうち回っているのは敵を油断させるための芝居だ。脱出の機会を伺っていたのだが、流石にそこまで甘くなかった。すぐにアラクネの兵士が飛ばしてくる粘着性の糸で縛られてしまった。まったく身動きできない。

 これでは止血も出来ずに死んでしまうなとあきらめかけた時、ソフリアーヌ様が切り落とされた俺の腕を手に持ちこちらに歩いて来るのが見えた。それからマイケルに頼んで俺を動かない様に押さえつけると、切り落とされた腕を肩の傷口にあてがってから小さな瓶に入った液体を注いだ。傷口から白い煙が上がる。

「ソフィアちゃんは甘すぎるっスよ。こいつはカラシンさんを殺して、ソフィアちゃんを誘拐しようとしたんスよ。」

「でも、カラシンしななかった。わたし、ゆうかいされていない。だから、ここまで。」

 ソフィリアーヌ様はマイケルにそう言ってから遠ざかって行った。ケイト達も一緒だ。何人かの兵士と一緒に開拓村に向かう様だ。あそこには俺の仲間の死体があるし、状況を確かめる必要があるのだろう。そういえば俺達の邪魔をしたあの男は誰だ? ソフィリアーヌ様が雇った護衛だろうか。チェーンメイルを着ていなかったら遣られていた。あいつも只者で無いのは確かだ。

 その時初めて腕の痛みが無いのに気付いた。それだけじゃない! 切り落とされたはずの腕が動く! 驚いて右肩を見ると切り落とされた右腕が肩に完全にくっ付いていた。傷跡すら残っていない。

 ハハハッ。マイケルの言う通りだ。ソフィリアーヌ様はとんでもない甘ちゃんだ。たぶん戦った時に俺を殺すことも簡単だったろうに...。俺はオーガの兵士に担がれて運ばれながらそんなことを考えていた。
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