魔物の森のソフィア ~ある引きこもり少女の物語 - 彼女が世界を救うまで~

広野香盃

文字の大きさ
48 / 71

48. ドラゴンを使い魔とするソフィア

しおりを挟む
(村長視点)

 オーガキングからの緊急招集により王都に出向く。人間族の儂だけでなくオーガ族、アラクネ族、ラミア族、ドワーフ族、エルフ族すべての族長に招集がかかった様だ。何か大事件が起こったに違いない。

 案の定オーガキングの話した内容は緊急事態を告げる物だった。人間の国の間者が魔族が助けてくれると騙して、カールトン男爵領の農民達に領を占拠させたらしい。農民達が助けを求めているが、手を貸せば確実に人間の国との戦争になるだろうと言う。確かに農民達に助力すれば戦争になるのは間違いない。農民達には可哀そうだが見捨てるしかないだろう。だがオーガキングの意見は違った。戦争は避ける、だが農民達も助けるという。そんな虫のいい方法があるのか?

「カールトン男爵領を人間の国から買い取る。幸いカールトン男爵領は小さい、直轄領の100分の1くらいしかない。人口も1000人程度だ。人間の国に差し出す対価しだいでは、交渉に応じてくるかもしれない。すでに遠距離通話の魔道具を通じて人間の国の国王には連絡済みだ。そして今日回答があった。『ボルダール伯爵領において、王と王で直接話し合うのであれば交渉に応じる』とのことだ。」

「なんと! 王と王が直接顔を合わせるなど前代未聞ですぞ、何かの罠と考えるべきです。」

とドワーフの族長が発言した。

「対価に何を差し出されるおつもりですか? こちらが弱みを見せれば付け込まれますぞ」

とラミアの族長が、

「それに、マルシ様は精霊王様から『アルトン山脈から西に出向いてははならぬ』と言い付けられておられるとお聞きしております。」

とエルフの族長が発言する。それに対してオーガキングが答える。

「対価は黒死病の薬を差し出す。すでにソフィア様には承諾をいただいている。人間の国には黒死病の薬が無いと聞く。たとえ王であっても一旦黒死病に罹患すれば死ぬかもしれないのだ。人間達は是非欲しいと思うはずだ。住民ひとりに黒死病の薬を1本として1,000本差し出そうと思う。」

とオーガキングはラミアの族長の問いに答えてから続けて言う。

「確かに俺は精霊王様からアルトン山脈の西に行かぬ様に言い付けられている。だが、絶対ではない。ある条件を満たせば行くことは可能だ。その条件とは俺の後継者を定めること。」

「なんと! ですが、マルシ様にはまだお子様がいらっしゃいませんが...。」




(ソフィア視点)

 オーガキングから黒死病の治療薬1,000本の依頼が来た。なんでも反乱を起こした人間の農民達を助けるために、人間の国との交渉に使いたいらしい。もちろん引き受けたいが問題がある。黒死病の治療薬1,000本を作るだけのリクルの実が手元に残っていないのだ。沢山あったのだけど、黒死病の治療薬やリクルの実の薬を頼まれて作っている内に減ってしまった。深奥まで取りに行けば良いのだが、私は今安静にしている様に周りの皆から命令されていて取りに行けないのだ。エルフの人達には頼めない、お母さん以外の精霊は魔族の言葉が分からないから、今下手に深奥に入るとトラブルになるかもしれない。

 実は、私が安静にしていなければいけないのは、お腹にカラシンさんの子供が居るからだ。大きくなったお腹に手を当てて子供に話しかけているとお母さんになった様で幸せな気分になる。今は無理をしてもしものことがあったら大変だと、カラシンさんを始めカミルとエミル、それに急遽我が家に来てもらった人間族の産婆さんにも言われている。

 だったらどうしょうと考えて思い出したのが、お母さんが送ってくれた念話増幅の魔道具だ。お母さんにいくら呼びかけても返事がないのであきらめて使っていなかったが、お母さん以外の精霊となら話が出来るかもしれない。久々に小さい時によく遊んでくれたトムスに念話を送るとすぐに、

<< ソフィアか!? 久しぶりじゃないか! 人間のところに帰ったんだってな。食われない様に注意しろよ。元気にしてるか? >>

と相変わらず少しテンション高めで返って来た。

<< 私は元気よ。お母さんはそっちにも戻っていないよね。>>

<< 精霊王様か? そりゃ無理だよ。かなり前に伝言の分身が来てな、1年経ったら戻ると言っていた。1年って言うのは精霊が核から復活するまでの時間だ。どうやら精霊王様に何かあった様だな。精霊王がやられるなんて考えにくいけどね。>>

<< えっ! そうなの!? お母さんに何かあったってこと? 大丈夫なの? >>

お母さんは無敵だ。お母さんが誰かに傷つけられるなんて考えもしなかった。何か用事が出来たので1年間返ってこないんだとばかり思い込んでいた。お母さんに何かあったらと思うと背筋が凍る。だけどトムスは陽気な調子で続ける。

<< 大丈夫、大丈夫。心配するな、俺達精霊は簡単には死なない。核を壊されない限り復活出来るんだ。精霊王様も1年経ったら戻って来るさ。>>

<< ほんとよね。絶対大丈夫だよね。>>

<< ソフィアは相変わらず心配性だな。で、何か俺に用があるのか? >>

<< そうだった、実はリクルの実が欲しいの。私はお腹に子供がいるので取りに行けないのよ。トムス、申し訳ないけど届けてくれないかな? >>

<< おお、早くも子供を作ったか! 流石に人間は繁殖力が強いな。分かった。他でもないソフィアの頼みだ、子供が出来た祝い代わりに届けてやるよ。>>

<< ありがとう、私の居場所は分かるよね。>>

<< 心配するな、ソフィアの魔力パターンは分かりやすいからな。探査魔法で一発だ。明日には届けてやるよ。>>

 と言うわけでオーガキングの依頼は引き受けた。もっとも、翌日にドラゴンの姿で家の前に降り立ったトムスを見て兵士達が出動する騒ぎになり、王都中が一時緊迫したが、すぐにいつもの白兎の姿に戻ったので騒ぎは最小限で収まった。慌てて集まった人たちにトムスのことを説明しようとする私に、トムスが、<< 精霊と分かると面倒だからソフィアの使い魔と言う事にしておけ。>> と言う。お陰で私はドラゴンを使い魔にしているという噂が広まってしまった。トムスの行動パターンを予測して置くんだったと少し後悔した。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

野生児少女の生存日記

花見酒
ファンタジー
とある村に住んでいた少女、とある鑑定式にて自身の適性が無属性だった事で危険な森に置き去りにされ、その森で生き延びた少女の物語

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

竜皇女と呼ばれた娘

Aoi
ファンタジー
この世に生を授かり間もなくして捨てられしまった赤子は洞窟を棲み処にしていた竜イグニスに拾われヴァイオレットと名づけられ育てられた ヴァイオレットはイグニスともう一頭の竜バシリッサの元でスクスクと育ち十六の歳になる その歳まで人間と交流する機会がなかったヴァイオレットは友達を作る為に学校に通うことを望んだ 国で一番のグレディス魔法学校の入学試験を受け無事入学を果たし念願の友達も作れて順風満帆な生活を送っていたが、ある日衝撃の事実を告げられ……

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

処理中です...