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61. 英雄になったカイル
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(カイル視点)
兵士との戦い方はほぼすべての反乱農民に伝達出来たようだ。もちろん俺一人でそんなことは不可能だ。俺が戦い方を伝授して兵士との戦いに勝利した農民達が次々に他の領の農民に伝えてくれた結果だ。この戦法で戦って負けたと聞いたことがない。これなら全部の領が勝利できるかと期待を持ったが、ある時以降、直轄領の戦場から貴族の私兵が戻って来なくなった。私兵が戻って来ない領では、他の領の華々しい勝利を聞いていた農民達が肩透かしに会ってガッカリしているらしい。
戦わずに済めばそれに越したことは無いと言いたいが、これは不味い状況だ。もともと俺達が反乱を勧めて回ったのは、直轄領にいる敵兵を少しでも減らしたかったからだ。こちらに貴族の私兵が戻って来ないと言う事は、直轄領にいる敵兵が減少していないということだ。いくら反乱を起こしても魔族の国が負けてしまっては意味がない。反乱を起こした農民達もあっと言う間に国の軍隊に鎮圧されて、もとの奴隷の様な生活に戻るだけだ。
おれは皆に魔族の国の義勇軍として人間の国の軍隊と戦うために直轄領に向かおうと呼びかけた。俺達は以前の弱いだけの農民じゃない。あの戦法を使えば貴族の私兵だけではなく、国の正規兵とも戦えるのではないかとの自信もある。少なくとも一方的にやられるだけということはないはずだ。
幸いなことに、俺は農民達の間で兵士に打ち勝つ戦法を編み出した者として英雄の様な扱いを受けている。そんな俺の呼びかけは沢山の農民達の賛同を得た。いくら自分達の領で勝利しても魔族の国が勝たなければ意味がないと理解してくれたようだ。もちろんこの大きな国の農民すべてに呼びかける方法はない。俺は、俺のメッセージを近くの領の農民に伝えてくれと頼んだ。伝言ゲームみたいなものだ。俺の言う事に賛同してくれるなら、魔族の国を応援しに直轄領に来て欲しいとのメッセージだ。
俺は可能な限りの農民を引き連れて直轄領に向かった。1万人程度だ。俺のメッセージを聞いてどれだけの農民が来てくれるかは蓋を開けてみないと分からない。後は神に祈るだけだ。
(カラシン視点)
俺の肩に留まった精霊王が、床に降り立ち人間の姿に戻る。
「精霊王様!」
と俺は叫んで跪く。一緒にいたラミアの兵士達も精霊王と聞きあわてて頭を下げた。
「カラシン、久しぶりだな。まずはこのような事態になった経緯を聞かせてくれ。あの橋を落とせばしばらく時間が稼げるだろう。」
と開口一番、精霊王が言う。俺は焦りながら精霊王が居なくなってから今までのことを話す。
俺の話を聞き終わった精霊王は、
「どうやら、こうなった責任は短気を起した私にある様だな。済まなかった。」
と、なんと俺に向かって頭を下げた。
「頭を上げて下さい。精霊王様が謝ることなどひとつもありません。これはすべて人間の国の仕掛けたことです。」
「いいや、これは油断をしていた私の責任だ。だから、今回は例外的に魔族の国に力を貸すことにした。」
「よろしいのですか? ソフィアから精霊は人間や魔族の戦いに関与しないと聞いております。」
「構わん、そう命令したのは私だ。だが関与するなとは命じたが、やられてもやり返すなと言った覚えはない。人間の国はソフィアを誘拐し、精霊王である私の身体を引き裂いた。その上、私のお気に入りだったマルシを殺したのだ。やり返す理由としては十分だ。」
と言ってから精霊王は凄みのある笑いを浮かべた。美人であるからこその凄みだ。その後精霊王は城に居る魔族や人間全員を集めて声を掛ける。
「皆の者、この戦いには精霊王である私が力を貸す。思う存分マルシの仇を討つがよい。」
短い言葉だが、魔族の者達は精霊王にお言葉を掛けていただいたと皆涙していた。皆の志気が一気に上がる。
「精霊王様、すぐに打って出ますか?」
とトーマスが精霊王に確認する。
「いや、まだだ、部下の精霊達が到着するまで待つ。認めたくないが人間の国はそれだけの強敵だ。私ひとりの力では万が一と言う事がある。」
「なんと! ソフィア様から連絡のあった人間の国の新兵器とはそれほどの威力なのですか!?」
「そう言う事だ。」
「精霊王様、それでは城外で戦っているエルフの増援部隊にご助力願えないでしょうか。苦戦していると連絡を受けております。」
とジョンが懇願する。それを聞いて精霊王は遠くを見つめる様に顔を上げたが、しばらくして笑みを浮かべた。
「心配するな、エルフの兵士達はとっくに人間の軍隊に勝っておるよ。なかなかやるではないか、優秀な指揮官がいる様だな。」
「なんと! ですがファイヤーボールを防がれていたのにどの様にして。」
「話は簡単だ、300年前の戦いでも使われた古い手だがな。エルフが戦いに向かないなどとんでもない誤解だぞ、植物魔法が得意な奴らは森の中では無敵だ。周り中植物だらけだからな。逃走する振りをして敵を森の中に誘い込めばエルフの思うがままだ。敵は森の中にエルフ達が作った出口のない迷路を彷徨っているところだ、その内に疲れ切って倒れるだろう。もっともエルフ達は迷路を維持するのに力を使っているから、こちらには来られないがな。」
兵士との戦い方はほぼすべての反乱農民に伝達出来たようだ。もちろん俺一人でそんなことは不可能だ。俺が戦い方を伝授して兵士との戦いに勝利した農民達が次々に他の領の農民に伝えてくれた結果だ。この戦法で戦って負けたと聞いたことがない。これなら全部の領が勝利できるかと期待を持ったが、ある時以降、直轄領の戦場から貴族の私兵が戻って来なくなった。私兵が戻って来ない領では、他の領の華々しい勝利を聞いていた農民達が肩透かしに会ってガッカリしているらしい。
戦わずに済めばそれに越したことは無いと言いたいが、これは不味い状況だ。もともと俺達が反乱を勧めて回ったのは、直轄領にいる敵兵を少しでも減らしたかったからだ。こちらに貴族の私兵が戻って来ないと言う事は、直轄領にいる敵兵が減少していないということだ。いくら反乱を起こしても魔族の国が負けてしまっては意味がない。反乱を起こした農民達もあっと言う間に国の軍隊に鎮圧されて、もとの奴隷の様な生活に戻るだけだ。
おれは皆に魔族の国の義勇軍として人間の国の軍隊と戦うために直轄領に向かおうと呼びかけた。俺達は以前の弱いだけの農民じゃない。あの戦法を使えば貴族の私兵だけではなく、国の正規兵とも戦えるのではないかとの自信もある。少なくとも一方的にやられるだけということはないはずだ。
幸いなことに、俺は農民達の間で兵士に打ち勝つ戦法を編み出した者として英雄の様な扱いを受けている。そんな俺の呼びかけは沢山の農民達の賛同を得た。いくら自分達の領で勝利しても魔族の国が勝たなければ意味がないと理解してくれたようだ。もちろんこの大きな国の農民すべてに呼びかける方法はない。俺は、俺のメッセージを近くの領の農民に伝えてくれと頼んだ。伝言ゲームみたいなものだ。俺の言う事に賛同してくれるなら、魔族の国を応援しに直轄領に来て欲しいとのメッセージだ。
俺は可能な限りの農民を引き連れて直轄領に向かった。1万人程度だ。俺のメッセージを聞いてどれだけの農民が来てくれるかは蓋を開けてみないと分からない。後は神に祈るだけだ。
(カラシン視点)
俺の肩に留まった精霊王が、床に降り立ち人間の姿に戻る。
「精霊王様!」
と俺は叫んで跪く。一緒にいたラミアの兵士達も精霊王と聞きあわてて頭を下げた。
「カラシン、久しぶりだな。まずはこのような事態になった経緯を聞かせてくれ。あの橋を落とせばしばらく時間が稼げるだろう。」
と開口一番、精霊王が言う。俺は焦りながら精霊王が居なくなってから今までのことを話す。
俺の話を聞き終わった精霊王は、
「どうやら、こうなった責任は短気を起した私にある様だな。済まなかった。」
と、なんと俺に向かって頭を下げた。
「頭を上げて下さい。精霊王様が謝ることなどひとつもありません。これはすべて人間の国の仕掛けたことです。」
「いいや、これは油断をしていた私の責任だ。だから、今回は例外的に魔族の国に力を貸すことにした。」
「よろしいのですか? ソフィアから精霊は人間や魔族の戦いに関与しないと聞いております。」
「構わん、そう命令したのは私だ。だが関与するなとは命じたが、やられてもやり返すなと言った覚えはない。人間の国はソフィアを誘拐し、精霊王である私の身体を引き裂いた。その上、私のお気に入りだったマルシを殺したのだ。やり返す理由としては十分だ。」
と言ってから精霊王は凄みのある笑いを浮かべた。美人であるからこその凄みだ。その後精霊王は城に居る魔族や人間全員を集めて声を掛ける。
「皆の者、この戦いには精霊王である私が力を貸す。思う存分マルシの仇を討つがよい。」
短い言葉だが、魔族の者達は精霊王にお言葉を掛けていただいたと皆涙していた。皆の志気が一気に上がる。
「精霊王様、すぐに打って出ますか?」
とトーマスが精霊王に確認する。
「いや、まだだ、部下の精霊達が到着するまで待つ。認めたくないが人間の国はそれだけの強敵だ。私ひとりの力では万が一と言う事がある。」
「なんと! ソフィア様から連絡のあった人間の国の新兵器とはそれほどの威力なのですか!?」
「そう言う事だ。」
「精霊王様、それでは城外で戦っているエルフの増援部隊にご助力願えないでしょうか。苦戦していると連絡を受けております。」
とジョンが懇願する。それを聞いて精霊王は遠くを見つめる様に顔を上げたが、しばらくして笑みを浮かべた。
「心配するな、エルフの兵士達はとっくに人間の軍隊に勝っておるよ。なかなかやるではないか、優秀な指揮官がいる様だな。」
「なんと! ですがファイヤーボールを防がれていたのにどの様にして。」
「話は簡単だ、300年前の戦いでも使われた古い手だがな。エルフが戦いに向かないなどとんでもない誤解だぞ、植物魔法が得意な奴らは森の中では無敵だ。周り中植物だらけだからな。逃走する振りをして敵を森の中に誘い込めばエルフの思うがままだ。敵は森の中にエルフ達が作った出口のない迷路を彷徨っているところだ、その内に疲れ切って倒れるだろう。もっともエルフ達は迷路を維持するのに力を使っているから、こちらには来られないがな。」
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