神の娘は上機嫌 ~ ヘタレ預言者は静かに暮らしたい - 付き合わされるこちらの身にもなって下さい ~

広野香盃

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1. 町を訪れる神の娘

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(アーシャ視点)

 <<とうさま、今日こそ人間の町を見に行くからね。昨日みたいに邪魔したら明日から口をきいてあげないから。>>

と私が念を飛ばすと、とうさまの寂しそうな感情が伝わって来る。だめだめ、ここで情にほだされてはいけない。昨日は <<まだ早い、後100年待て>> だの、<<心配だからドラ吉を連れて行け>> だのと言われて、言い合いになって結局出発できなかった。

 今日は私が勝った。だって、まだ早いととうさまは言うけれど私はもう300歳だ、充分待ったと思う。それにドラゴンのドラ吉を人間の町に連れて言ったら、きっと目立ってしまって自由に見て回ることができなくなる。もともと小さな時に、当時はまだ生きていたかあさまと同じ背丈になったら人間の町に遊びに行って良いと約束したのはとうさまなのだから、今日こそは諦めてもらおう。

 かあさまが生きていた時、私の背丈を計って毎年家の壁に印を刻んでくれていた。その時に私がかあさまの真似をしてかあさまの背丈を計って刻んだ印も残っている。その印に私の身長が届くまで300年掛った。自分の成長の遅さにがっかりしたものだ。本当は300年経ってもかあさまの印に少しだけ届かなくて、こっそりと神力を使って印の位置を引き下げたのはとうさまには秘密だ。バレたらきっと出発を止められてしまう。

 私の成長がこれほど遅いのには理由がある。私は人間のかあさまと、神であるとうさまの間に出来た子供だ。姿形は人間そっくりだが、前述の様に成長が遅かったり、神力という特別な力が使えたりする。もっともかあさまの話では人間にも極まれにこの力を使える人がいるらしい。人間達はその力のことを魔力とか魔法とか呼んでいる。もちろん呼び方が違っても同じ力だが、使えたとしても人間の力は弱いものだそうだ。

 私は期待に胸を膨らませながら、我家として使っている洞窟から外に出て空に飛び立った。後ろを振り返るととうさまの神気が揺らいでいるのが分かる。きっと初めて神域を出る私を心配してくれているのだろう。「大丈夫よ、とうさま」と心の中で呟く。帰ろうと思えば直ぐに帰れるのだから。

 実は人間の町といってもそれほど遠くにあるわけでは無い。人間の町は私ととうさまが住んでいる神域のすぐ外側にある。私の居る神域の中心部分から歩いて5日~6日くらいの距離だ。もっとも実際には聖なる山の裾野は密林地帯で道なんてないから歩けないが、空を飛べば何の問題もないし時間も掛からない。

 供物として捧げられた法律書や町の案内から得た知識では、人間の町には神域と反対側に門があり、そこで「滞在許可証」と言う物をもらっておかないと町の中での行動で困る可能性がある。

 ちょっと面倒だが、いったん人間の町を飛び越えて反対側に降りてから徒歩で引き返し、門を通って町に入る予定だ。もっとも「滞在許可証」は3ヶ月有効らしいから、一度貰っておけば許可書の期限内は直接町に降りることが出来る。

 空高く昇った私は神域をドーム状に覆っている結界を歪ませ、一時的に小さな穴を開けてそこを潜って神域の外に出た。この結界はとうさまが張った物だ。元々はかあさまを追って来た刺客を近づけないために張ったらしいが、その後も私に余計な者を近付けない様に張ったままにしているらしい。

 この結界の所為で人間達は神域に入ることは出来ない。だから私はかあさま以外の人間には会ったことがない。町に行くのは人間に会ってみたいからと言うのも大きな理由だ。なにせ私は半分人間なのだ、かあさまと同じ人間やその文化に興味がある。特に昔かあさまが1冊だけ持っていた本(恋愛小説だった)に出て来るおいしい料理とかわいい服には興味深々だ。行ってみれば他にも面白いものがあるかもしれない。

 もっともかあさまの影響で恋愛小説は好きになったが、自分の恋愛や結婚については諦めている。私の正体を知って対等に付き合ってくれるほど肝が座った人間がいるとは思えないし。とうさまを訪ねて来た他の神達にも会ったことはあるが、皆自分が世界で一番偉いのだと言う感じで威張っていて、とてもじゃないけど好きになれなかった。それに元々神は結婚願望が薄い。かあさまと結婚したとうさまが例外なのだ。

 ほどなく人間の町の上空に差し掛かった。とうさまを説得するのに時間を取られたのでもうすぐ昼だ。そろそろお腹も空いて来た。早く人間の町に入って美味しい料理を探し出さねば! 

 見下ろすと人間の町は半円状の城壁に囲まれていて、その城壁の一部に門がある。円形ではなく半円状なのは町が神域の外側に張られた結界にピッタリとくっ付いているからだ。結界は城壁より遥かに強固だから神域側の面はわざわざ城壁を築く必要が無かったわけだ。ちなみにこの城壁もとうさまが人間への加護として作ったものらしい。全体が継ぎ目のないクリーム色の石で出来ている。

 町を通り過ぎてから、城壁の上で見張りをしている人達に見つからない様に身体を透明化してから降下して地面に降り立つ。物陰で透明化を解いて準備完了だ。いよいよ人間の町に入る! 期待に胸がふくらむ。

 門に歩いて近づくと沢山の人が列を作っている。おおっ! と心の中で叫ぶ。人間があんなに沢山! 旅人らしき人も多いが、野菜を始めとする農産物を担いだり荷車で運んでいる人達も多い。この近くに住む農民なのだろうか、町で自分達が作ったものを売るつもりなのかもしれない。この人達が担いでいる野菜が「料理」になるのか? いったいどんな風に作るのだろう。私は彼らが担いでいる野菜類に興味を引かれながら列の最後尾に並んだ。

 実は私が毎日食べている食事は人間の町から献上されたものだ。昔、とうさまがかあさまに食べさせるための料理や衣服等の提供と引き換えに、提供してくれた人達を守ると約束したことが発端らしいが、その約束は何百年も経った今でも続いている。と言うか、目の前にある町が出来ることになった発端がそれだったりする。

 私が人間の町に興味を引かれた大きな理由が料理だ。人間達が献上してくれる料理は不味くはないのだが、毎日内容が同じだ。昔、かあさまから聞いた話では遊牧民の料理らしい。とうさまが最初に料理や衣服の提供を頼んだ人達が遊牧民だったのだ。

 それは良いのだが、その後その人たちはとうさまの勧めで遊牧を辞め、神域の傍に定住して農業を始めた。とうさまの加護のお陰で定住地は豊かな農村となり人口が増えただけでなく、神の加護の元での豊かな生活を求めて外部から移り住む人も多く、いつしか定住地は大きな町になった。町には色々な所から人々が移り住んだので各地の文化が混じり合って混然一体となり、その結果今では遊牧民の文化はほとんど残っていないらしい。

 それなのにだ! それなのに300年間私に届けられる料理は遊牧民の民族料理だけなのだ。美味しいか不味いかは別にして、さすがに300年間同じ料理ばかり食べていたので飽きてしまった。

 服に関しても同様で、届けられる服は何故か遊牧民の衣装のみ。遊牧民の服といっても袖や襟、裾の部分に細かくて鮮やかな幾何学模様の刺繍が施された見事なものなのだが、もっと色々な服を着ておしゃれをしてみたいというのは若い(?)女の子として当然の欲求だろう。

 そういう訳で、私は町に行けば食べたことの無い料理や、着たことのないかわいいデザインの服があるのではないかと期待しているわけだ。お金も以前に料理と一緒に献上された金貨を持って来たから問題ないはずだ。

「おや、嬢ちゃん素敵な服だね。その服は遊牧民のものかな? この辺ではめずらしいね。」

と私の前に並んでいた農民らしきおじさんが話しかけて来た。私は、

「ええ、そうなんです。」

とだけ返した。遊牧民の服は動きやすくて良いのだが、私の衣装は細かな刺繍があちこちに施されていて、近くで見るととんでもなく手間を掛けたものだと分かる。それでなくても、遊牧民の服を着ているだけで目立ってしまうかもしれないなと心配になる。話題を逸らそうと、

「おじさんは、野菜を町に売りに行くのですか?」

と尋ねてみた。

「ああ、そうさ。この国に移り住んでから毎年豊作なのでありがたいよ。流石は聖なる山の神様に守られた国だね。毎日『ありがとうございます』と山を拝んでいるんだ。」

「ありが....そうなんですね。」

危ない! 褒められたのが嬉しくて、思わず「ありがとうございます」とお礼を言うところだった。実は100年ほど前からこの国の気候調整は私が行っている。これはとうさまの指示だ。とうさまは、この国のことは私に任せるつもりらしい。まあ、この国から献上してもらっている料理も衣服も私が使わせてもらっているのだから、私が面倒を見るのは当然だ。

 でもその一方で、私が町に行くのを中々許してくれなかったのは矛盾していると思う。

 それからしばらく、このおじさんと話をする。ひどい飢饉があって元の国には住んでいられなくなり、10年くらい前に家族を連れて別の国からこの国に移り住んで来たと言う。そう言えば、この辺りは100年くらい前にひとつの国として独立したととうさまから聞いた。

「この国に来て驚いたよ。なにせその年は沢山の国で酷い飢饉だったからね、この国にも儂たちみたいな難民が沢山押し寄せていたんだ。難民なんか追い返されるのが普通なのに、この国は儂達に当面の食糧と近くの平原を開拓するための道具を貸してくれた。その時に聞かされたのが、この国は神に守られた国でまじめに働けば決して飢饉など起きないところだという話だ。その時は半信半疑だったが、ここに来てから毎年豊作だ。今では毎日聖なる山に向かって頭を下げているよ。」

 気候調整はうまくやっている自信があるのだが、やはり当事者から言われると嬉しいものだ。

 それからしばらくすると列が進み、私は門のすぐ近くまで来た。門の両側には槍を持った兵士が暇そうに立っている。門の少し手前には机が置かれており、その後ろには文官と思われる役人がふたり座っていて、列に並んでいる人達はそこで町に入る許可を貰っている様だ。

 私の前に並んでいたおじさんが慣れた手つきでポケットからカードの様な物を取り出して役人に見せると直ぐに許可がおりた。次は私の番だ。私が机の前に行くと役人ふたりの内、若い方が話しかけて来た。

「えっと、お嬢さんはひとりかい?」

「はい」

と私は肯定を返す。ひとりだと不味かったのか?

「そうか、でも気を付けるんだよ。この町の治安は悪くないけど、最近は神殿への参拝に訪れる人が多くてね。たくさん人が集まれば、その中には質の悪い奴等も紛れ込んでいるわけさ。お嬢さんみたいに若い娘さんは狙われやすいからね。ええっと、それでこの町に来た目的を教えてもらえるかな。」

「私もこの町の神殿にお参りにきました。」

「この町に来るのは初めてかな?」

「はい」

「じゃあ、申し訳ないが滞在許可書を発行するのに銅貨50枚必要なんだけど、大丈夫?」

「はい、大丈夫です。」

と答えて革袋から金貨を1枚取り出す。役人は私が金貨という大金を持っているのに驚いた様だが、何も言わず受け取って滞在許可書を用意し始めた。年配の方の役人が私に対応している若い方の役人の耳元で何か囁いたが特に問題はなかったようで、私は無事、滞在許可書とお釣りの銀貨99枚と銅貨50枚を受け取って町に入ることが出来たのだった。

 さて、いよいよ私のささやかな冒険が始まる。
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