神の娘は上機嫌 ~ ヘタレ預言者は静かに暮らしたい - 付き合わされるこちらの身にもなって下さい ~

広野香盃

文字の大きさ
3 / 102

2. 神官候補生クラスの騒ぎ

しおりを挟む
(シロム視点)

 神気を感じたのは学校での歴史の授業中だった。キルクール先生がいつもの様に見事なブロンドの縦ロールを揺らしながら授業を進めて行く。今日の授業は神への貢物の変遷についてだ。

「前回の授業で習った様に、300年前にこの国の祖となられたカルロ様が家族と家畜達を連れて聖なる山の近くを通りかかられた時、神はカルロ様に『我に供物をささげよ、さすれば汝とその家族を守ろう』と仰いました。そして神が最初に求められた供物が調理済みの食事と女性用の衣装でした。皆さんも知っている様にこの捧げものは現在でも続いています。この国で料理人と仕立て職人が聖なる職業として人気があるのはこのためです。」

 そう言ってからキルクール先生は僕達生徒を見回す。これは誰かを指名して質問する気だ。僕は思わず顔を下げる。なにせこのクラスの生徒は僕を含めて4人しかいない。当てられる可能性は非常に高い。

「シロムくん、食事と衣装を供物として捧げる頻度を言ってください。」

 しょっぱなから当たった! 途端に頭の中が真っ白になる。ちゃんと勉強したはずなのに答えが出て来ない。僕が答えられないでいると、キルクール先生は次に隣のカーナに振る。

「カーナさん、分かりますか?」

 先生の注意が僕から逸れた途端に答えを思い出した。僕のあがり症は相変わらずだ。いくら勉強しても本番になると役に立たない。

「はい、食事は毎日3食分を朝にまとめて、衣装は3ヶ月毎にその季節に合わせたものを1着です。」

とカーナがスラスラと答える。

「良くできました、そのとおりです。では次に....」
「うわっ!」

 強力な神気を感じたのはその時だった。余りのことに僕は思わず声をだしてしまった。キルクール先生が何事かと僕の方を向いたが、次の瞬間には先生も神気を感じた様で、慌てた様に聖なる山に向いた窓に駆け寄り身を乗り出した。

 僕達生徒も窓辺に駆け寄る。

「何あれ? あんな風に光っている聖なる山は見たことがないわ。」

とクラスメイトのカリーナが口にする。

 確かに異様な光景だった。神域の中央にある聖なる山は常に神気を発して金色に輝いている。少なくとも神気を感じられる者にはそのように見える。だけど今は違う。山全体が青、赤、黄、緑、紫、オレンジと様々な色に光っていた。それも規則正しく変化するのではなく揺れる様に変化する。

 そして聖なる山の上空にこちらに向かって飛んで来る何かが見える。さっき感じた強い神気はそれから発している様だ。

御使いみつかい様!? すごい神気だ。この町に来られるのかな?」

 マークが嬉しそうに口にする。マークはいつでもポジティブ思考だ。御使いみつかい様が僕達の町を訪れるという前代未聞の出来事を心底楽しんでいる。

 そうこうしている内に御使いみつかい様はますますこちらに近づいて来る。

「ねえ、見間違えかな....。私には人に見えるのだけど。御使いみつかい様って鳥の姿をしておられるのよね。」

 確かに鳥には見えない。翼がなく手足がある様に見える。髪の毛が長いから女性かもしれない。もっとも距離があるので細部は分からない。

 遂に御使いみつかい様が町の上空まで来られた。だが当初は町に降りられるのかと思った御使いみつかい様だが、どうやら降りることなく町を通り過ぎて行く様だ。あの方向にはガニマール帝国がある。

 キルクール先生は、緊張した顔で僕達に自習するように言い渡して急いで教室を後にした。きっと神殿に知らせに行くのだろう。キルクール先生は神官のひとりなのだ。

 先生が去った後、僕達は誰も自習なんてする気に成れなかった。

「もしかして神様が怒っておられるのかしら? きっと隣のガルマーニ帝国のせいよ。あいつらがまた何か悪いことをしようとしているのよ。まったく懲りないんだから。」

 委員長のカーナが最初に発言する。カーナは委員長に指名されるだけあってしっかり者の女の子で、黒に近い青色の髪をポニーテールにしている。

 ガルマーニ帝国と言うのは3年前に僕達の国を征服しようとした大国だ。

「その可能性は高いな。飛んで行かれた方向もガルマーニ帝国の方だしな。しかし、すごい神気だったな。3年前より更に強力だった。こんどこそガルマーニ帝国を滅ぼされるのかもしれないぞ。」

 マークが後に続く。マークとは1年生の時からずっと同じクラスだった。背は僕より頭ひとつ分高い。容姿も良く、髪の毛は神官の家系にしか見かけないウェーブの掛った金髪、頭も良くて運動神経も抜群、自信家なのが欠点だが性格は悪くない。女の子の間でファンクラブが出来るくらいの人気者だ。

「だけど大事なのは神が私達に何を期待されているかよ。邪悪なるガルマーニ帝国を滅ぼすためにあの国に攻め込めと仰っているのかしら。」

「慈愛に満ちておられる神が私達に隣国を攻め滅ぼせと言うとは思えないわ。私達にそんなことをさせるくらいなら、ご自身で滅ぼされると思う。私達の神ならきっと国を亡ぼすくらい簡単よ。」

 カリーナも自分の意見を述べる。カリーナはピンクのフワフワの髪を肩まで伸ばした女の子で、少しおっとりしたところがある。このクラスのなごみキャラだ。

 一方で僕は全く別のことを考えていた。先ほど強烈な神の気が頭の上を通り過ぎて行った時、誰かの声が聞こえた気がする。それもすごく場違いな内容が.....




....................... お腹空いた~ ....................... 




と。

「シロムはどう思う?」

 突然マークに話を振られて飛び上がりそうになった。

「い、いや....、僕には神様の考えている事なんて見当もつかないよ。」

と慌てて返す。バカにされるかと思ったが意外にもカリーナが僕に賛同する。

「そうよ、シロムさんの言う通りだわ。私達がすべきなのは神様の考えを勝手に想像することじゃないわ。謙虚な気持ちで神様の考えを感じ取ることよね。」

「確かにそうだな」

と他の者達も同意を示す。僕はほっと胸をなでおろした。あがり症で小心者の僕がこの場違いなクラスでやって行けているのは、このクラスメイト達のお陰だ。初めてこのクラスに来た時にはのけ者にされるかと心配したのだが、そんな素振りは感じたことも無い。

 先ほど場違いと言ったが少し説明が必要だろう。このクラスは将来神官に成りたい者を集めたクラスで、担任も神官のキルクール様が務めてくださっている。神官はこの国を守って下さっている神様にお仕えし、その意思を感じ取って政治を執り行うのが仕事だ。国王も神官長が兼任しており、重要部門の責任者はすべて神官が務めているから実質的にこの国の支配者階級でもある。誰もが憧れる職業だが神官に成るには難しい条件を満たさなければならない。神の発する気、すなわち神気を感じることが出来ることだ。この条件を満たす者は滅多にいない。実質的にはこの国の祖カルロ様に繋がる家系からしか現れない....少なくとも今まではそうだった。クラスの生徒が少ないのもそのためだ。

 クラスメイトのカーナ、マーク、カリーナの家はカルロ様までたどることが出来る家系だ。カーナとマークの親は神官で、カリーナの親は国の重役。彼らの家はこの町で一番聖なる場所とされている神殿のすぐ近くにある。他の国で言えば貴族階級と言う事になるだろう。学校へも自分達の家の馬車で通学している。そんな中に祖父の代にこの国に移民して町の門の近くで食堂を営んでいる家の息子の僕が居るわけだ。この国では神官長様以外は身分の差はないことになっているが、それでも立場が違うことぐらい僕にも分かる。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

没落港の整備士男爵 ~「構造解析」スキルで古代設備を修理(レストア)したら、大陸一の物流拠点になり、王家も公爵家も頭が上がらなくなった件~

namisan
ファンタジー
大陸の南西端に位置するベルナ子爵領。 かつては貿易で栄えたこの港町も、今は見る影もない。 海底には土砂が堆積して大型船は入港できず、倉庫街は老朽化し、特産品もない。借金まみれの父と、諦めきった家臣たち。そこにあるのは、緩やかな「死」だけだった。 そんな没落寸前の領地の嫡男、アレン(16歳)に転生した主人公には、前世の記憶があった。 それは、日本で港湾管理者兼エンジニアとして働き、現場で散った「整備士」としての知識。 そして、彼にはもう一つ、この世界で目覚めた特異な能力があった。 対象の構造や欠陥、魔力の流れが設計図のように視えるスキル――【構造解析】。 「壊れているなら、直せばいい。詰まっているなら、通せばいい」 アレンは錆びついた古代の「浚渫(しゅんせつ)ゴーレム」を修理して港を深く掘り直し、魔導冷却庫を「熱交換の最適化」で復活させて、腐るだけだった魚を「最高級の輸出品」へと変えていく。 ドケチな家令ガルシアと予算を巡って戦い、荒くれ者の港湾長ゲンと共に泥にまみれ、没落商会の女主人メリッサと手を組んで販路を開拓する。 やがてその港には、陸・海・空の物流革命が巻き起こる。 揺れない「サスペンション馬車」が貴族の移動を変え、「鮮度抜群の魚介グルメ」が王族の胃袋を掴み、気性の荒いワイバーンを手懐けた「空輸便」が世界を結ぶ。

看病しに行ったら、当主の“眠り”になってしまった

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全36話⭐︎ 倒れた当主を看病する役目を振られた使用人リィナは、彼の部屋へ通うことになる。 栄養、灯り、静かな時間、話し相手――“眠れる夜”を整えていく。そして、回復していく当主アレクシス。けれど彼は、ある夜そっと手を握り返し、低い声で囁く。 「責任、取って?」 噂が燃える屋敷で、ふたりが守るのは“枠(ルール)”。 手だけ、時間だけ、理由にしない――鍵はリィナが握ったまま。 けれど、守ろうとするほど情は育ち、合図の灯りはいつしか「帰る」ではなく「眠る」へ変わっていく。 看病から始まった優しい夜は、静かな執着に捕まっていく。 それでも、捕獲の鍵は彼ではなく――彼女の手にある。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。 そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。 大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。 しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。 フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。 しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。 「あのときからずっと……お慕いしています」 かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。 ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。 「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、 シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」 あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

『悪役令嬢』は始めません!

月親
恋愛
侯爵令嬢アデリシアは、日本から異世界転生を果たして十八年目になる。そんな折、ここ数年ほど抱いてきた自身への『悪役令嬢疑惑』が遂に確信に変わる出来事と遭遇した。 突き付けられた婚約破棄、別の女性と愛を語る元婚約者……前世で見かけたベタ過ぎる展開。それを前にアデリシアは、「これは悪役令嬢な自分が逆ざまぁする方の物語では」と判断。 と、そこでアデリシアはハッとする。今なら自分はフリー。よって、今まで想いを秘めてきた片想いの相手に告白できると。 アデリシアが想いを寄せているレンは平民だった。それも二十も年上で子持ちの元既婚者という、これから始まると思われる『悪役令嬢物語』の男主人公にはおよそ当て嵌まらないだろう人。だからレンに告白したアデリシアに在ったのは、ただ彼に気持ちを伝えたいという思いだけだった。 ところがレンから来た返事は、「今日から一ヶ月、僕と秘密の恋人になろう」というものだった。 そこでアデリシアは何故『一ヶ月』なのかに思い至る。アデリシアが暮らすローク王国は、婚約破棄をした者は一ヶ月、新たな婚約を結べない。それを逆手に取れば、確かにその間だけであるならレンと恋人になることが可能だと。 アデリシアはレンの提案に飛び付いた。 そして、こうなってしまったからには悪役令嬢の物語は始めないようにすると誓った。だってレンは男主人公ではないのだから。 そんなわけで、自分一人で立派にざまぁしてみせると決意したアデリシアだったのだが―― ※この作品は、『小説家になろう』様でも公開しています。

処理中です...