神の娘は上機嫌 ~ ヘタレ預言者は静かに暮らしたい - 付き合わされるこちらの身にもなって下さい ~

広野香盃

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3. 御使い様に遭遇するシロム

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(シロム視点)


 下校時間になってもキルクール先生は戻って来ず、僕達は隣のクラスの先生の指示で帰宅することになった。帰る方向の違うクラスメイト達と別れの挨拶をし、僕はいつもの様に幼馴染のカンナと待ち合わせている校門に向かった。カンナの家は僕の家の隣で宿屋を経営していて、僕の家とは家族ぐるみの付き合いだ。

「シロムさん、今よろしいかしら。お話が有って....。」

 突然呼び止められて振り向くと、2年生と3年生の時に同じクラスだったメアリーが立っていた。思わずドキッとする。メアリーは空色の綺麗な髪を腰まで伸ばした理知的な顔の美人で、明るく華やかな彼女はクラスの人気者だった。実は僕の初恋の人だ。もちろん告白する勇気なんてあるはずがないから完全な方思いで、同じクラスだったけどほとんど口も利いたことがない。

「シロムさん、私もうすぐ誕生日なの。それで今度の休みの日に家で友達を招いてちょっとしたパーティを予定しているのだけど、シロムさんも来てくれたら嬉しいな。」

 満面の笑みで誕生パーティに僕を招待するメアリー。そう言えば彼女の家は大きな商店を経営しているお金持ちで、誕生日には沢山の友達を呼んでパーティを開いているらしい。同じクラスの男の子も何人も招待されていた。もちろん僕は招待されたことなんてない。

「ど、どうして僕を?」

 だってほとんど話をしたことも無いのだ。いきなりパーティに招待される理由が分からない。

「もちろんシロムさんみたいに素敵な男性が来てくれたら嬉しいもの。他の女の子達もきっと喜ぶと思う。両親も是非ご招待しなさいって。」

 そこまで聞いて僕は「ご、ごめん」と叫んで逃げ出した。憧れの人から聞きたくない言葉を聞いた気がしたのだ。全速力で校門に向かい、何か話が有りそうなカンナを急かして帰路に付く。

「ねえシロム、今日神官様達が神殿に緊急招集されたって噂を聞いたけど、何があったか知っている? キルクール先生も神殿に行ったのでしょう?」

 歩きながらカンナが話しかけて来る。さっき口にしかけていたのはこのことだった様だ。カンナが神官様の招集を気に掛けるのは不思議ではない。神官はこの国を治めている支配者階級だ。その神官を招集するということは重要事案が生じたと言う事になる。

御使いみつかい様が町の上を飛んで行かれたんだ。しかも今回は人の形をしておられた。」

 カンナは先ほど町の上空を横切って行った御使いみつかい様に気付いていなかった様だ。神気を感じない普通の人なら偶々空を見ていない限り気付かなくても無理はない。かなり高い所を飛んでおられたし。

御使いみつかい様!? 私も見たかった! シロムだけ見るなんてずるい。教えてくれたらよかったのに。」

「そんなことを言ったって、クラスが違うから無理だよ。」

「それで、御使いみつかい様はどこに行かれたのよ?」

「分からない。聖なる山の方向から来られて、町を横切って門の方向に飛んで行かれた。」

「ガニマール帝国の方向ね。今度こそガニマール帝国を滅ぼされるのかな。」

 ガルマーニ帝国はこの大陸最大の国で、20年くらい前に国王が代替わりしてから急に周りの国々を征服し始めた。当然の事ながら国々は抵抗し戦いを挑んだが、ガルマーニ帝国はそれらの国の軍隊をいとも簡単に打ち負かし、その力を見せつけた。

 それ以降、周りの国々は強国ガルマーニに対抗するのを諦め次々と降伏してその傘下に下った。ガルマーニ帝国は征服した国々に重税を課し、その税を使って更に軍隊を強化していった。

 そして3年前、ガルマーニ帝国は遂に我が国にもその魔手を延ばしてきたのだった。客観的に見れば都市国家である僕達のカルロ教国とガルマーニ帝国の戦力差は歴然としている。だが我が国はガルマーニ帝国の降伏勧告を敢然と撥ねつけた。

 他の国から見れば蛮勇と見なされる決断だが、この国の国民にとっては当然のことだった。なぜならこの国は聖なる山に住まわれる神が守って下さっている神の国だからだ。

 聖なる山とは、この国のどこからでも見ることの出来る独立峰だ。その山頂は高く、常に雲に覆われておりどの様な形なのか不明だ。山の周囲は広大な原生林と神の結界に囲まれており誰も近づくことは出来ない。

 我が国は300年前に遊牧民だった預言者カルロ様が神の啓示を受けこの地に定住されたのがその始まりだ。神は供物を捧げることと引き換えにカルロ様とその家族を守ると約束された。その後カルロ様の定住地には神の加護を求めて人々が集まり、定住地は村となり、町となり、そして国となった。

 この国の国民である条件はひとつ。聖なる山に住まわれる神を信仰していること。他に例のない神を中心とした宗教国家なのだ。

 ガニマール帝国との戦いでは男女を問わず成人のほとんどが国を守るために戦いに参加した。そして、互いの軍隊が睨み合った国境のコロール平原において、ガルマーニ帝国の軍は突然の地震と割れた地面から噴き出た炎に囲まれて敗走し、我が軍は戦うことなく勝利したのだ。この事件はコロール平原の奇跡と呼ばれている。

 僕はまだ子供だったので戦いには参加していないが、その日に強い神気を放ちながら町の上空を通り過ぎて行く何かを見たのをはっきりと覚えている。大きな鳥の様な姿だった。後にあの鳥は聖なる山の神様の御使いみつかい様で、奇跡を起こしにコロール平原に向かわれる途中だったのだろうと神殿から発表があった。

 コロール平原の奇跡の後は、小国だった我がカルロ教国がガルマーニの軍隊に勝利したことから、ガルマーニ軍は思ったほど強くないのではないかとの憶測が周りの国々に広がった。実際は我らが信仰する聖なる山の神の起こされた奇跡による勝利なのだが、それを信ずる国はほとんどなかった。

 自信を取り戻した国々は互いに同盟を結んで帝国に対抗する様になった。その結果、今までほとんど戦わずして脅しと懐柔で他の国を征服してきたガルマーニ帝国の戦略がうまくゆかなくなった。更に征服していた国々で反乱が勃発し、ガルマーニ帝国は領土拡張を停止したのだ。

 そして3年後の今日、僕は再び神気を感じたのだった。それも前回感じた神気より遥かに強い....。

 しばらく歩いて僕とカンナの家のある下町エリアに入ると、時たま道行く人達が僕達の方を向いて噂をしているのが耳に入る。

「ほら、あの子よ。」
「えっ? そうなの!? なんかイメージと違うわね。もっとかっこいい子かと思っていたわ。」
「し~、聞こえるわよ。」
「隣の子は彼女かな? 可愛い子じゃない。ちょっとバランスが取れてないわね。」
「でも将来は神官様になるかもしれないのよ。あの子にとっても玉の輿に乗るチャンスだもの、少々のことは気にしないわよ。」

 いつものことだ。神官候補生クラスに入った僕は、良い意味でも悪い意味でも一躍有名人になった。神官はこの国の支配者階級だ。他の国なら貴族階級と言う事になるだろう。当然ながら収入も一般の人とは桁が違う。僕はその神官になれるかもしれないのだ。下町から初めて出た神官候補生として僕の噂は国中に広まっている。

「まったく勝手なことばかり言って! 文句言ってやろうか。」

 耳に入ったのだろう、カンナが語気強く言い放つ。

「ま、待って。僕は気にしてないから。」

「まったく! あんなこと言われたら少しは気にしなさい。」

「本当のことだからね...」

 かっこよくないことは自覚している。僕は背が低く痩せっぽちで胴長短足。気が弱くいつもビクビクしている。運動が苦手で体力もない。頭は悪くはないが良くもない。人付き合いが苦手で友達も少ない。カンナ以外の女の子からは避けられている気がしていた。それが神官候補生になった途端、先ほどのメアリーの様に、ほとんど話したこともない女の子達からデートの誘いが来るようになった。もちろん将来の神官様狙いなのが見え見えなのですべて断っている。

 僕はほんの少し前まで神官になるなんて夢にも考えてなかった。目指していたのは料理人になって我家の食堂を継ぐこと。客との対応は家族に任せて、店の調理場でひたすら料理を作っているのが僕には合っていると思っていた。その僕の計画が狂ったのは学校の最終学年である4年生になる直前だった。

 この国ではすべての子供が11歳になる年から4年間、学校に通わなければならない。14歳まで学校に通い、成年となる15歳で仕事に就くのが普通だ。学校の最初の3年間は全員が同じ授業を受けるのだが、最終学年はそれぞれの生徒が希望する職業に必要な知識を教える専門クラスとなる。僕が所属する神官候補生のクラスの様に、料理人になりたい者、仕立て職人になりたい者、商人になりたい者、大工になりたい者、農業を行いたい者、役人になりたい者、兵士になりたい者等がそれぞれの専門クラスで1年間勉強するわけだ。もちろん希望する職業のクラスに入ったからと言って、卒業後にその職業に就けるとは限らないが、クラスの中で良い成績を収めれば可能性は高くなる。学校は就職先の斡旋もしてくれる。

 先ほど言った様に、僕としては料理人のクラスを希望するつもりだった。もともと料理には興味があったから父さんに付いて修行もしてきた。ところが3年生の終わりごろ、突然降って湧いた様に3年生全員が神官候補生に成れるかどうかの試験を受けることになり、僕はその試験に合格して神官候補生になってしまったわけだ。

 後で聞いた話では、カルロ様の子孫は沢山いるが、その中で神の気を感じることの出来る者が年々少なくなってきており、僕のひとつ上の学年ではひとりも該当者がいないという状況になってしまったらしい。

 神官がいなくなれば国の存亡に関わる。危機感を持った神官長様の命令で希望者だけに限らず、すべての生徒に神気を感じられるかどうかの試験をすることになったと言う事だ。

 試験そのものは単純なもので、前日に食事を神に捧げるのに使われた皿と、その皿が入る大きさの空箱が5つ用意される。試験官は生徒から見えない場所で皿を5つの箱のどれかひとつに入れてから生徒に見せる。生徒は皿に残った神の気を頼りにどの箱に入っているか当てるわけだ。これを10回繰り返し、10回とも当てることが出来れば合格となる。

 実は試験を受ける前から自分に神気を感じる力があることは分かっていた。もちろん御使いみつかい様が来られた時に陽光に当たっている感じがしたことも理由だが、最初に気付いたのはもっと小さい時だ。カンナと一緒に聖なる山の絵を描いていた時、カンナが山の裾野を緑のクレヨンで、山頂近くを茶色のクレヨンで塗っているのを見て不思議に思ったのだ。僕には聖なる山全体が金色に光って見えていたから。

 その時はカンナの真似をして僕も緑と茶色のクレヨンを使って山の絵を描いた。それ以降も聖なる山が他の人と違って見えることは話さなかった。幼いながらに他の人と違うと分かったら嫌われるかもしれないと怖かったから。

 だから神官候補生の試験を受けるとなった時には少し興味が湧いた。自分の力がどの程度の物なのか試してみたくなったのだ。

 もちろん神官になるつもりはさらさらなかった。神官はこの国の支配者階級であるだけでなく人々に信頼され尊敬されてもいる。実際に人間的にも立派な人が多い。毎日神の神気を感じ神の意思に従って生きようとしているからだろうか。自分がそんな立場になり、沢山の人の注目の中で話をするなんて想像しただけでも恐怖に身がすくむ。ある程度まで人数が減るまで残れたらわざと間違えて退場すれば良いやと考えていた。これが僕の人生で最大の失敗といっても良いかもしれない。今でもあの日のことが度々目に浮かぶ。

 あの日、3年生全員が講堂に集められ一斉に試験が行われた。前述したように、前日に食事を神に捧げるのに使われた皿が5つの箱のどれかに入れられて演台の上に並べられた。箱には1~5までの番号が振られており、生徒は手持ちのカードに皿が入っていると思う箱の番号と自分の名前を書いて、他の生徒に見られない様にカードを折ってから提出する。全員がカードを提出した後、試験官により正解者の名前が発表される。名前を呼ばれた正解者はその場に留まり、不正解だったものは講堂の壁際に移動する。

 この様にして、最初の試験だけで300人いた生徒が60人くらいに減ってしまった。僕は正解だった。皿の入った箱が光って見えたのだ。

 2回目の試験にも正解して元の場所に残った生徒は13人、3回目で僕を含めて6人まで減った。この時点で僕には皿の入った箱を見分けるのは容易だと気付いた。その箱は必ず光って見える。 

 4回目では1人脱落して5人になった。この時点で僕はそろそろ良いかなと考えた。来ている服が上質なことから、僕以外の正解者は神官様の家の子の気がする。すくなくとも下町の子供じゃない。これ以上僕が残ると悪目立ちしそうだ。次回は不正解の番号を書こう。

 そう考えたのだが、その判断は一歩遅かった。5回目の試験が始まるまでに使いの人がやって来て試験官の人達に何か伝えると、試験官の人達は慌てたように試験を一旦中断する旨を伝えた。

「先ほど今日の試験について聖なる山の神のご神託があったとの連絡がありました。この試験で不正が行われているとの内容です。この試験を担当されている神官様が現在ここに向かわれていますので、到着されるまで一旦試験を中断します。本日の試験を継続するかどうかは神官様が到着されてから決定します。」

 それを聞いて講堂は大騒ぎになった。神官は聖なる山の神様に仕える重要な役職だ、その神官を選ぶ試験で不正が行われたとなれば大問題になる。しかも現在残っている正解者は5名。この中に不正を行った者がいると言う事になる。

「シロム、お前だろう!」

 突然講堂に大声が響いた。その声につられて皆の視線が僕に集中する。声を発したのはガイルだ。僕の家の近くに住んでいる虐めっ子で、小さい時には散々虐められた。学校に上がってからも何かというと僕にちょっかいを出して来る。

 周りの視線を浴びて僕は震え上がった。ここに残っている5人の中で明らかに僕だけが異質だ。服装から下町の出だということが分かってしまう。下町の者は神気を感じられない。これはこの町の常識だ。

「シロム君、ちょっとこっちに来てもらえるかな。話を聞かせて欲しいんだ。」

 試験官の1人が僕を呼び出した。僕は言われるままに試験官の前に行く。

「それでは私はシロム君と話をして来る。神官様が来られて試験の継続と決まったら、私の帰りを待たずに初めてくれたら良い。」

 試験官がそう言って僕を連れて行こうとした時、マークが大きな声で意見を述べた。

「試験官様、まるで不正を働いたのがシロムだと決めつけている様に見えますが、シロムが不正を働いたと言う証拠があるのですか? 証拠がないなら僕達5人全員に話を聞くべきです。そうでなければ僕は残りの試験をボイコットします。」

 マークの声を聞いて僕は心底感動した。これだけの人に見られる中で意見を言うだけでも勇気がいるのに、試験をボイコットするとまで言ってくれたマーク.....同じクラスといっても特に仲が良かったわけでもないのに...。

「そうです。その子だけ疑うなんておかしいです。」
「私もそう思います。」

 正解者として残っていた5人の中の黒に近い青色の髪の女の子とピンクの髪の女の子も試験官に対して意見してくれる。

「その通りだね。私も君たちの意見に賛成だ。君、その子を元の場所に戻したまえ。」

 その時試験会場に入ってきた男性が試験官に命じた。神官様が着る黒色のローブを身に着けている。恐らくこの人が到着を待っていた神官様だろう。

 神官様が試験官に命じて下さったお陰で、僕は元の場所に戻ることが出来た。僕が席に戻ると神官様が話を続ける。

「皆さん初めまして、私は神官のトーマスです。神官候補生選抜試験の責任者でもあります。すでにお聞きだと思いますが、今日の試験で不正が行われているとも取れる信託がありました。もしそうであれば由々しき事態ですが、ご神託の意味を正しく解釈することは難しい場合もあるのです。今日のご神託の意味については神官の間でまだ熟考されている最中です。ですので、私がここに来たのは不正を行った犯人を捕まえるためではありません、今日の試験を正しく行うためです。そのために、この後の試験は私が行います。幸い私は転移の奇跡の技が使えます。といっても転移させることの出来る距離が限られているので自慢できるものではありませんが、この試験を行うには十分です。」

 そう言ってトーマス神官は手に持っていた皿を少し離れた机の上に転移させて見せた。奇跡の技というのは神官様の何人かが使える人の力を超えた能力だ。他の国では魔法と呼ばれているらしい。トーマス神官は手に持った物を別の場所に一瞬で移動させることができる様だ。

「この技を使って皿を箱に入れれば、どの箱に入っているか分かるのは私だけです。これなら不正のしようがありません。正解を知っているのは私だけなのですから。」

 そして、トーマス神官により試験が再開された。僕は必死だ。只でさえ疑われているのに失敗すれば僕が不正を働いた犯人だと断定されるだろう。そんなことになれば僕の家が経営する食堂の評判がガタ落ちになる。それだけは避けなければ。

 5回目の試験は5人全員が正解。だが6回目で脱落者がでた。金髪の女の子だ。泣きそうな顔をしている。あの子が犯人なのかもしれないが、僕だって失敗すれば疑われるだろう。結局、10回目の試験まで僕は正解を続けるしかなかった。7回目以降脱落者は出ず、僕と、マーク、それに先ほど僕を擁護する意見を言ってくれた女の子2人、カーナとカリーナの計4人が合格となった。

 試験に合格したとしても神官候補生になるのを断ることも出来た。だが家に帰ると両親は僕が神官候補生の試験に合格したことを既に知っていた。下町出身の僕が神官候補生の試験に合格したという噂はあっと言う間に広まり、その日の内に両親にまで届いていたのだ。

 こうなると僕にはどうしようもなかった。僕が神官に成れるかもしれないと知って大喜びする両親や、「でかした、よくやった」と大きな声で僕を褒めながら涙を流している祖父と祖母、「友達全員に自慢してきた」と話す妹に囲まれては断るという選択肢はなかった。

 ちなみに不正を働いたのはやはり最後に脱落した金髪の女の子だった。試験官の1人を買収して正解の番号を指のサインで教えてもらっていたらしい。当然しかるべき処罰がなされたはずだ。

「.......ねえ! 私の話を聞いてる?」

とカンナがいきなり耳元で大きな声を出す。しまった、考え事に集中してカンナの話が聞こえてなかった様だ。

「『今度のお休みにどこかへ行かない?』と言ったのよ! もう! そんなに悩むんだったら神官候補生なんてやめてしまいなさいよ! どうせシロムに神官様なんて勤まるはずがないわ。長い付き合いの私が保証してあげる。」

 貶しているのか慰めてくれているのか理解に苦しむ言い方だが、カンナはいつもこんな調子だ。幼馴染と言う事もあるのだろうが、僕に対しては遠慮するということがない。

「そうなんだけどね...」

「まったく煮え切らないんだから。神官様は国民を導いていかなければならないのよ。ヘタレのシロムには無理だって。それより料理人の方が絶対合っているわ、料理人になって家を継ぐのが一番よ。今からでも遅くないから料理人クラスに変更した方が良いって。」

 酷い言われ方だが僕も同意見だから言い返せない。カンナも僕と同じチーカ王国からの移民の子孫で、チーカ民族の特徴の茶髪に茶色の目は僕と同じだ。女性としては背が高く気の強いカンナは小さい時から僕のボス的存在だった。何をして遊ぶか、何処に行くか決めるのはいつもカンナで、僕はカンナに付いて行くだけだった。と言っても別に虐められていたわけでは無い。むしろ僕がガイルに虐められている時にいつも助けてくれる頼りになる存在だった。

「カンナも家を継ぐつもりなのか?」

「何言ってるの、宿屋は兄さんが継ぐわよ。私は愛する人と結婚して家を出るつもりよ。」

「そうなのか? てっきりカンナが商人クラスを選んだのは宿屋を継ぐからだと思っていた。」

「バカね、商人クラスで習うことは色々な商売に生かせるのよ。例えば食堂の経営なんかにもね。あんたの家の食堂なんて美味しさばかり追求して原価率なんて考えないでしょうからね、私が居ればきっと役に立つわよ。だからね、料理人になりなさいよ。」

どういう意味だ? あれ? カンナの顔が赤い....。もしかして僕は求婚されているのだろうか!?

 僕はカンナに何と言ったら良いのか分からず黙ったまま歩を進める。カンナも口を開かない。

 突然カンナに求婚されパニクっていたからだろう、僕は四辻で左の道から飛び出して来たものとぶつかってしまった。そして、飛び出してきたものを認識したとたん驚愕の余り、

「うわぁぁぁぁぁぁぁ~~~~!!!!!」

と叫んで尻もちを突いていた。

 それは人間だった。いや、少なくとも人の形...少女の形...をしていた。だが全身が神気に覆われ金色に眩しく輝いている。




 み、御使いみつかい様だ...。

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