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13. シロム、カンナに秘密を打ち明ける
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(シロム視点)
「子供が死にかけています。姿を消して助けて来ますので、私が消えるのが見られない様に私の前に立って隠して下さい。」
アーシャ様が真剣な表情でおっしゃった。そんなことをしたらカンナに正体がバレてしまうが承知の上なのだろう。自分の正体を隠すことより子供の命を助けることを選択されたのだ。それなら僕は僕に出来ることをするまでだ。
「カンナには僕から説明します。お早く。カンナ、後で説明するから今は言う通りにしてくれ。」
そう言ってカンナを無理やり僕の横に立たせる。しばらくして背後を振り返ったカンナがかすれた声を上げた。僕も振り返って見たが、当然アーシャ様はいない。持っておられた紙の手提げ袋が地面に置かれているだけだ。
「アーシャちゃんがいない。消えた.....。シロム、どうなってるの? 説明しなさいよ。」
ちゃんと説明しないと。カンナが暴走したら大変なことになる。
「御使い様がこの町に来られているって話はカンナも聞いたよな。」
「聞いたけど、それと関係があるの? ねえ、まさか........。」
「そう言う事。アーシャ様が御使い様なんだ。もっとも正確には御使い様ではなく御子様だけど。」
「御子様?」
「アーシャ様は聖なる山の神様のお子様で、100年前からこの国を守って下さっている。コロール平原の奇跡を起こしたのもアーシャ様らしい。」
「それって御使い様じゃなくて神様じゃない.....。神様がシロムの家で働いているなんて思うわけない。どうしてそんなことになったのよ!?」
「落ち着け。アーシャ様が言うには僕の家の料理が気に入ったかららしい。」
「何よそれ........。ねえどうしよう。私、神様をアーシャちゃんなんて呼んで何度も失礼なことをした気がする。神罰が下るわ.......。」
「心配しなくても大丈夫、アーシャ様はお優しいお方だ。僕なんか最初に会った途端逃げ出したんだぞ、それでもお咎めなしだ。唯一命令されたのが買い物の案内だった。カンナを巻き込んで御免な。」
「シロムは最初から気が付いていたの?」
「ああ、とんでもない神気を発しておられたからな。一目見て分かったよ。」
「そうか......やっぱりシロムは神官様ね。向いてないなんて言って御免。」
「謝る必要はないよ、自分でもそう思うから。でも今から引き返せそうにない。アーシャ様に立派な神官に成る様に言われてしまった。」
「そう.....それならやるしかないわね。」
「御免な。」
「何言ってるの、神様がおっしゃったのよ。大丈夫、出来るって。私応援するから。」
「ありがとう。」
カンナが落ち着いた頃、アーシャ様が戻って来られた。そして必死になって謝ろうとするカンナを制して昼食を予定している店に向かわれる。もちろん僕とカンナは後を追おうとしたが、ひとつ気になったことがある。
「あの、アーシャ様が持っておられた手提げ袋がありません......。」
ひょっとして盗まれた? でもそんなはずは無い。誰も僕達に近づかなかった.....。
「ああ、あれね。亜空間に収納したの。両手が開くから荷物があるときは便利よ。」
「は、はぁ.......そうなのですね。」
訳が分からないが、盗まれたのでなければ問題ないだろう。
先ほど事故があった場所の傍を通るとキルクール先生の姿が見えた。もうひとりの女性と熱心に話をしていてこちらには気付いていない様だ。アーシャ様のご様子からキルクール先生と顔を合わせたくなさそうに思えたので、僕とカンナもそのまま急いで通り過ぎた。
神殿の近くまで来た時、前方からジークさんがやって来た。町の門で入町者の管理をしている役人だ。二葉亭の常連客でもある。ジークさんはアーシャ様に気付くと嬉しそうに話しかけて来た。
「やあ、アーシャちゃんだったよね。おお、シロムも一緒か。ちょうど良い所で会ったよ。今から二葉亭に連絡に行こうとしていたところだったんだ。昨日この町に入り込んでいた窃盗団が逮捕されてね、連中のアジトから君の物と思われる赤い革袋が見つかった。残念ながら中身は取り出された後だったんだけど、神官様の判断で連中のアジトで見つかったお金から被害届にあった金額を君に返却することになったんだ。神殿まで取りに来てもらう必要があるんだけど、良ければ今から来ないかい? ここからなら近いからね、案内するよ。」
アーシャ様のお金を盗んだ犯人が捕まり、お金が返って来るらしい。良かったと胸をなでおろす。アーシャ様を我家で働かせるなんて気が休まらない。
ただお金を受け取るには神殿に行く必要があるらしい。今から行くのならジークさんが一緒に行ってくれると言う。たぶん役人のジークさんが一緒の方が手続きがスムーズだろう。ここからなら神殿は近い。
「シロムさん、カンナさん寄り道して良いですか?」
「はい、もちろんです。」
アーシャ様の決定に僕が異を唱えるわけが無い。カンナも同様だろう、コクリと頷いた。
「子供が死にかけています。姿を消して助けて来ますので、私が消えるのが見られない様に私の前に立って隠して下さい。」
アーシャ様が真剣な表情でおっしゃった。そんなことをしたらカンナに正体がバレてしまうが承知の上なのだろう。自分の正体を隠すことより子供の命を助けることを選択されたのだ。それなら僕は僕に出来ることをするまでだ。
「カンナには僕から説明します。お早く。カンナ、後で説明するから今は言う通りにしてくれ。」
そう言ってカンナを無理やり僕の横に立たせる。しばらくして背後を振り返ったカンナがかすれた声を上げた。僕も振り返って見たが、当然アーシャ様はいない。持っておられた紙の手提げ袋が地面に置かれているだけだ。
「アーシャちゃんがいない。消えた.....。シロム、どうなってるの? 説明しなさいよ。」
ちゃんと説明しないと。カンナが暴走したら大変なことになる。
「御使い様がこの町に来られているって話はカンナも聞いたよな。」
「聞いたけど、それと関係があるの? ねえ、まさか........。」
「そう言う事。アーシャ様が御使い様なんだ。もっとも正確には御使い様ではなく御子様だけど。」
「御子様?」
「アーシャ様は聖なる山の神様のお子様で、100年前からこの国を守って下さっている。コロール平原の奇跡を起こしたのもアーシャ様らしい。」
「それって御使い様じゃなくて神様じゃない.....。神様がシロムの家で働いているなんて思うわけない。どうしてそんなことになったのよ!?」
「落ち着け。アーシャ様が言うには僕の家の料理が気に入ったかららしい。」
「何よそれ........。ねえどうしよう。私、神様をアーシャちゃんなんて呼んで何度も失礼なことをした気がする。神罰が下るわ.......。」
「心配しなくても大丈夫、アーシャ様はお優しいお方だ。僕なんか最初に会った途端逃げ出したんだぞ、それでもお咎めなしだ。唯一命令されたのが買い物の案内だった。カンナを巻き込んで御免な。」
「シロムは最初から気が付いていたの?」
「ああ、とんでもない神気を発しておられたからな。一目見て分かったよ。」
「そうか......やっぱりシロムは神官様ね。向いてないなんて言って御免。」
「謝る必要はないよ、自分でもそう思うから。でも今から引き返せそうにない。アーシャ様に立派な神官に成る様に言われてしまった。」
「そう.....それならやるしかないわね。」
「御免な。」
「何言ってるの、神様がおっしゃったのよ。大丈夫、出来るって。私応援するから。」
「ありがとう。」
カンナが落ち着いた頃、アーシャ様が戻って来られた。そして必死になって謝ろうとするカンナを制して昼食を予定している店に向かわれる。もちろん僕とカンナは後を追おうとしたが、ひとつ気になったことがある。
「あの、アーシャ様が持っておられた手提げ袋がありません......。」
ひょっとして盗まれた? でもそんなはずは無い。誰も僕達に近づかなかった.....。
「ああ、あれね。亜空間に収納したの。両手が開くから荷物があるときは便利よ。」
「は、はぁ.......そうなのですね。」
訳が分からないが、盗まれたのでなければ問題ないだろう。
先ほど事故があった場所の傍を通るとキルクール先生の姿が見えた。もうひとりの女性と熱心に話をしていてこちらには気付いていない様だ。アーシャ様のご様子からキルクール先生と顔を合わせたくなさそうに思えたので、僕とカンナもそのまま急いで通り過ぎた。
神殿の近くまで来た時、前方からジークさんがやって来た。町の門で入町者の管理をしている役人だ。二葉亭の常連客でもある。ジークさんはアーシャ様に気付くと嬉しそうに話しかけて来た。
「やあ、アーシャちゃんだったよね。おお、シロムも一緒か。ちょうど良い所で会ったよ。今から二葉亭に連絡に行こうとしていたところだったんだ。昨日この町に入り込んでいた窃盗団が逮捕されてね、連中のアジトから君の物と思われる赤い革袋が見つかった。残念ながら中身は取り出された後だったんだけど、神官様の判断で連中のアジトで見つかったお金から被害届にあった金額を君に返却することになったんだ。神殿まで取りに来てもらう必要があるんだけど、良ければ今から来ないかい? ここからなら近いからね、案内するよ。」
アーシャ様のお金を盗んだ犯人が捕まり、お金が返って来るらしい。良かったと胸をなでおろす。アーシャ様を我家で働かせるなんて気が休まらない。
ただお金を受け取るには神殿に行く必要があるらしい。今から行くのならジークさんが一緒に行ってくれると言う。たぶん役人のジークさんが一緒の方が手続きがスムーズだろう。ここからなら神殿は近い。
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