神の娘は上機嫌 ~ ヘタレ預言者は静かに暮らしたい - 付き合わされるこちらの身にもなって下さい ~

広野香盃

文字の大きさ
16 / 102

15. アーシャ、再びイタリ料理の店を目指す

しおりを挟む
(シロム視点)

 神官長や上級神官様とアーシャ様のやり取りが終わった後、サマル様がアーシャ様の革袋とお金を持ってきてくれた。とりあえずここに来た用は済んだと言う事だ。神官長様のお話ではアーシャ様の正体を知っているのは神官の中でもこの部屋にいる、神官長のナザル様、上級神官のエリーゼ様、サマル様、カラシン様の4人だけだそうだ。もちろんアーシャ様はこの4人に他言無用と指示した。神官が御子様の指示を破るはずがないから安心だろう。ジークさんやトーラさん達それ以外の人は上からの指示で動いただけで何も知らないとのことだ。

 キルクール先生にも経緯を話して仲間になってもらうことになった。先生は町中に御子様が現われ怪我をした子供の治療をされたことを報告するために、神官長を探し回ってここに来たらしい。

 キルクール先生が目を覚ましたところで、アーシャ様は神気を止められそのお顔を神官様達にお見せになったが、その時の神官長を始めとするお歴々の感激具合はご本人達の名誉にためにあえて書かないでおく。良い大人が号泣していた。

 その後、緊張でガチガチに固まったキルクール先生にアーシャ様が今までの経緯を説明され、それを神官長様が補足された。神官長様の告白を聞くとキルクール先生の切れ長の目が非難を含んだ様に細められる。口には出さないが、「裏切者」という声が聞こえて来そうだ。

 神官長様達と別れた後は、急いでイタリ料理の高級料理店カナンに向かう。僕はさっきまで緊張しっぱなしで胃が痛いが、時間的にはすでに正午を大幅に過ぎておりアーシャ様はお腹を空かしておられるかもしれない。

 だけど、ようやくたどり着いたカナンの扉には「定休日」の札が.....余りのことに愕然とする。

「やっぱりシロムは詰めが甘い.....私がしっかりしないと。」

とカンナがブツブツ言っているのが聞こえた。いやいや、カンナがこの店に行きたいと言ったんじゃないか.....。

「アーシャ様、申し訳ありません。すぐに別の店を探します。」

と恐る恐るアーシャ様にお伺いを立てる。胃が痛い.......。

「あそこにしましょう。もうお腹が空いて我慢できません。」

 アーシャさまが指さされたのは、道端で店を出している屋台だった。売っているのは麺を肉と野菜と一緒に炒め甘辛いソースで味付けしたものの様だ。値段は1人前銅貨30枚。銀貨50枚の出費を覚悟してきたイタリ料理との落差は余りに大きい。

 急いで3人前を屋台のおじさんに注文する。

「おお兄ちゃん、両手に花かい。モテモテだね。」

とおじさんが揶揄ってくる。ジークさんといい、このおじさんといいなんて恐ろしいことを.....。

 幸い焼き麺は短時間で調理できる様で。僕達は待つ間もなく屋台の前に置かれたベンチに3人並んで腰掛けて焼き麺を口にした。

「美味しい!」

アーシャ様が感激の声を上げる。

「姉ちゃん、嬉しいことを言ってくれるね。こいつはね俺の故郷ヤポンの伝統料理なのさ。焼き麺と言うんだ。」

「おじさんも移民なの?」

「おおっと、いけねえ。秘密にしてくれよ。移民は開拓民しか認められてないからな。こいつは口止め料だ。」

と言いつつ、おじさんは揚げ串を3本手にして僕達に渡してくる。肉を串に刺して衣をつけて油で揚げたものだ。

「はい、買収されました。」

とアーシャ様が笑顔で言って串を受け取る。

「ヤポンでは料理一筋に仕事をして来たんだ。これでも結構有名な料理人だったんだぜ。この国には開拓民として移民してきたんだが、やっぱり俺には料理しかないと思い至ってな。」

 なるほど、それで屋台の料理とは思えない程美味しいわけか......。この味なら店を出してもやって行けると思う。 

「この国はどうして開拓民しか移民させないのかしら?」

「そりゃ、この町を見てみれば理解は出来るさ。城壁の中にはもう空き地が無いだろう。これ以上人が増えても家を作る場所がない。そうなると住む場所がなくて路上で生活するやつが出て来る。治安も悪くなるからな。」

「城壁の外に家を作れば良いじゃない。」

「それだと外からの出入りが管理できない。役人の目が行き届かないから誰が入り込んでくるか分からん。他の町でも城壁の外にどんどん人が増えてスラム化するのは良くあることさ。その場合も治安が悪くなる。それに城壁の外だと野生の狼や熊に襲われる危険もあるからな。」

「じゃあ、城壁を大きくして空き地を作れば良いのね?」

「そうかもな。この町はこれからも発展するだろうから、いずれはしないといけないかもしれないが簡単じゃない、町を上げての大工事になる。俺達は神様に祈るしかないのさ。」

「了解。神様に言っておくわ。」

「おお、頼んだぜ、ちっちゃな神官さん。」

 屋台をでてから二葉亭に帰る途中、アーシャ様は何か考え込んでおられるようだった。

「ねえ、シロムさんも、さっきのおじさんと同じ様に城壁を広げれば移民の問題は解決すると思う?」

「ぼ、僕にはわかりません。それこそ神官長様に聞いてみるのが良いかと....。」

「神官長さんか....。あの人苦手なのよね.....。」

と言いつつ僕を見るアーシャ様の目がキランと光った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

安全第一異世界生活

ファンタジー
異世界に転移させられた 麻生 要(幼児になった3人の孫を持つ婆ちゃん) 新たな世界で新たな家族を得て、出会った優しい人・癖の強い人・腹黒と色々な人に気にかけられて婆ちゃん節を炸裂させながら安全重視の異世界冒険生活目指します!!

滅せよ! ジリ貧クエスト~悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番(金髪幼女)に!?~

スサノワ
ファンタジー
「ここわぁ、地獄かぁ――!?」  悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、気がつきゃ金糸のような髪の小娘に!? 「えっ、ファンタジーかと思ったぁ? 残っ念っ、ハイ坊主ハラペコSFファンタジーでしたぁ――ウケケケッケッ♪」  やかましぃやぁ。  ※小説家になろうさんにも投稿しています。投稿時は初稿そのまま。順次整えます。よろしくお願いします。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る

夏見ナイ
ファンタジー
貴族の三男に転生したカイトは、【鑑定】スキルしか持てず家からも勇者パーティーからも無能扱いされ、ついには追放されてしまう。全てを失い辺境に流れ着いた彼だが、そこで自身のスキルが万物の情報を読み解く最強スキル【万物解析】だと覚醒する! 隠された才能を見抜いて助けた美少女エルフや獣人と共に、カイトは辺境の村を豊かにし、古代遺跡の謎を解き明かし、強力な魔物を従え、着実に力をつけていく。一方、カイトを切り捨てた元パーティーと王国は凋落の一途を辿り、彼の築いた豊かさに気づくが……もう遅い! 不遇から成り上がる、痛快な逆転劇と辺境スローライフ(?)が今、始まる!

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

【アイテム分解】しかできないと追放された僕、実は物質の概念を書き換える最強スキルホルダーだった

黒崎隼人
ファンタジー
貴族の次男アッシュは、ゴミを素材に戻すだけのハズレスキル【アイテム分解】を授かり、家と国から追放される。しかし、そのスキルの本質は、物質や魔法、果ては世界の理すら書き換える神の力【概念再構築】だった! 辺境で出会った、心優しき元女騎士エルフや、好奇心旺盛な天才獣人少女。過去に傷を持つ彼女たちと共に、アッシュは忘れられた土地を理想の楽園へと創り変えていく。 一方、アッシュを追放した王国は謎の厄災に蝕まれ、滅亡の危機に瀕していた。彼を見捨てた幼馴染の聖女が助けを求めてきた時、アッシュが下す決断とは――。 追放から始まる、爽快な逆転建国ファンタジー、ここに開幕!

【完結】小さな元大賢者の幸せ騎士団大作戦〜ひとりは寂しいからみんなで幸せ目指します〜

るあか
ファンタジー
 僕はフィル・ガーネット5歳。田舎のガーネット領の領主の息子だ。  でも、ただの5歳児ではない。前世は別の世界で“大賢者”という称号を持つ大魔道士。そのまた前世は日本という島国で“独身貴族”の称号を持つ者だった。  どちらも決して不自由な生活ではなかったのだが、特に大賢者はその力が強すぎたために側に寄る者は誰もおらず、寂しく孤独死をした。  そんな僕はメイドのレベッカと近所の森を散歩中に“根無し草の鬼族のおじさん”を拾う。彼との出会いをきっかけに、ガーネット領にはなかった“騎士団”の結成を目指す事に。  家族や領民のみんなで幸せになる事を夢見て、元大賢者の5歳の僕の幸せ騎士団大作戦が幕を開ける。

処理中です...