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22. 囚われのアーシャ
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(アーシャ視点)
目を覚ますと馬車の中の様だった。私は手足を縛られた状態で3人掛けの座席の真ん中に座っていて、私を挟むように両側に誰かが座っている。それに首が火傷でもしたようにヒリヒリする。
気を失っている間に掴まってしまった様だ。神力で手足を縛っている縄を切ろうとして意識を集中した途端、首に更なる激痛が走った。
「キャッ」
と思わず声を出す。それが聞こえたのだろう、右側に座っていた人物が声を掛けて来る。暗くて顔は分からないが中年の男性の様だ。
「お待ちください。神力をお使いになると電撃の首輪が反応して御子様のお身体を傷付けます。どうかお静まり下さいますよう。」
男性がそう口にした。緊張しているのか声が震えている。
電撃の首輪? 私が神力を使おうとすると激痛が走るのはそのせいか?
「電撃の首輪とは何ですか?」
「お恐れながら申し上げます。電撃の首輪とは罪を犯した魔法使いを捕らえるための魔道具です。首輪を装着された者から発せられる魔力を感知し、電撃を発して装着者を動けなくします。電撃の威力は御子様が体験された通りです。」
魔法使い? 昔、母さまから人間にもわずかながら神力を使える者がいるとの話を聞いたことがある。その人たちの事だろう。神力を使う者を捉えるための道具.....。しまったとんでも無いものを付けられてしまった。パニックになって心の中でどうしよう、どうしよう、どうしよう......と繰り返す。
「電撃の首輪が感知する神力は身体から外に発せられたものだけよ。首が痛むなら身体の内部を通して神力を送れば治療できるわよ。」
突然左から少女の声がしてびっくりした。この声は祭壇の上の箱に入っていた女の子? 少女が言う様に体内から神力を流して首の治療を試みるとすぐに痛みが治まった。どうやら火傷をしていた様だ。
「あなた達は何者?」
「これは失礼したわね。私はガニマール帝国第8皇女ジャニス。そっちに居るのは私の側近アニルよ。」
目を凝らすが、まだ夜なのだろう暗くて辛うじてシルエットが分かるだけだ。千里眼を使おうとしたらまた首に激痛が走った。男性が言っていた様に神力は使えない。これは本当に不味い.....。
「私をどうする気なの?」
「明るくなってから説明するわ。今は一刻も早く神域から遠くに離れたいの。流石に聖なる山の神様に見つかったら無事では済まないでしょうからね。」
「父さまが気付かないはずは無い。今の内に私を開放しなさい。」
「その危険は覚悟の上よ。もっとも今のところは見つかっていない様ね。やはり馬車の外壁に水晶の粉を混ぜた塗料を塗った効果が有ったのかも。」
水晶の粉? 水晶は神力を吸収する物質だ。ひょっとして周りを水晶で囲むと千里眼でも見通せない? そんなことを知っているなんてこの少女は只者ではないかも.....。
「まあ、朝まで少し休みましょうよ。私達は何日も御子様を待ち伏せしていたから疲れ切っているの。少し眠らせてもらうわね。」
そう言うと少女は静かになった。右側の男性も言葉を発さない。私の前にも座席があるからこのふたり以外にも人が乗っているのかもしれないが、暗くてそれすら分からない。
それにしてもこの馬車は本当に動いているのか? 不思議なキュルキュルという音がする以外静かだし、なにより走っていると起きるはずの振動が無い。
でも先ほど少女が言ったことで思いついたことがある。水晶だ。水晶は神気を吸収して内部に蓄積し魔晶石となる。もし魔晶石を手に入れることが出来て、そこに蓄えられた神力を使った場合はどうなるだろう? 首の魔道具は身体から出る神力を感知するらしいが、魔晶石から取り出した神力の場合は感知しなかったりして。
僅かな望みを持って、縛られている手で何とか上着のポケットを探ってみるが失望に終わった。ポケットには遊牧民の衣装に使われていた水晶で作られたボタンが入っていたはずなのだ。恐らくこの人達に抜き取られたのだろう。ひょっとして魔晶石を持たせておくと不味いと判断したのか......。
亜空間には更に何個か私の神気を吸収した水晶のボタンが入っているが、亜空間から取り出すには神力を使う必要がある。首輪を付けている限り取り出すのは無理だ。
**************************
「御子様、お目覚め下さい。朝食のご用意が出来ました。」
呼びかける声に目を開けると周りは既に明るくなっている。どうやら眠ってしまっていた様だ。声を掛けて来たのは中年の男性。スーツと言うのだろうか、上下同じ布地で作った高級そうな服に蝶ネクタイをしている。
「失礼いたします」
男性はそう断ってから、私の手足を縛っている縄を解いてくれた。
促されるままに馬車の外にでて驚いた。これを馬車と呼ぶには決定的に足りない物がある。馬だ。馬車に馬が繋がれていない。さらに付け加えれば車輪すら付いていない。
「ジャニス様が設計された浮遊馬車でございます。魔晶石を動力として浮かび自走いたします。」
私が馬車を見つめていたからだろう、先ほどの男性が説明してくれた。魔晶石か....
ペチン!
音のした方を見ると10歳くらいの女の子が掌を打ち合わせていた。手が小さいからちょっと情けない音だ。
「浮遊馬車も一種の魔道具よ。普通の馬車の数倍のスピードが出せるわ。改めて挨拶するわね。私はジャニス、ガニマール帝国第8皇女にして、国立魔道具研究所の所長をしているの。そっちは私の執事のアニル。他の者達は全員研究所の職員よ。」
私の縄を解いてくれた男性はアニルさんと言うらしい。他にも10名くらいの人達がいる様だ。浮遊馬車は全部で3台あり、それらに乗っていたのだろう。
「これだけ離れれば馬車の外にでても大丈夫だと思うの。窮屈な思いをさせて悪かったわ。神域に近いところであなたに逃げられたら、聖なる山の神に神気を感知される可能性が高かったからね。」
「あなたがこの人達のボスと言う事で良いのかしら。私をどうするつもり?」
「その前に朝食はどう? お腹は空いてない?」
ジャニスはそう言って、右腕ですぐ近くにある組み立て式のテーブルと椅子を示す。テーブルの上には朝食と思われる料理が乗っている。そう言われるとお腹が空いているのに気付いた。
促されるままに席に着くと向かいにジャニスが座る。朝食の内容はパンに、バターとチーズ、ソーセージと卵を炒めたものに、スープ。それに何種類かの果物だ。
「申し訳ないけど食前の祈りは省略させてもらうわね。」
そう言ってジャニスは食べ始めた。テーブルは結構大きいが座っているのは私達ふたりだけだ。私も黙って食べ物を口にいれる。質素な食事だが味は悪くない....。ジャニスは皇女と言っていたけれど特に不満を言うこともなく食べている。
「それでは状況を説明させてもらうわね。」
食事をあらかた食べ終え、お茶を飲んでいるとジャニスが口を開いた。
「簡単に言うとね。貴方は聖なる山の神に言うことを聞いてもらうための人質と言う訳。私達の国がカルロ教国を攻める間、聖なる山の神には中立を保って欲しいの。」
それを聞いて思わず立ち上がった。
「そんなことさせないわよ。」
「落ち着きなさい。そう思うのは勝手だけど状況は不利よ。神力が使えない貴方は人間と変わらない様だからね。これだけの人数に囲まれて逃げ出せると思う?」
「たとえ私を人質に取ったとしても永遠にその状況を続けられるわけがない。私が死んだ後、神の恨みを買った貴方達が只で済むと思うの?」
「あら! 話が速くて助かるわ。実は心配しているのはそこなのよ。貴方に自殺でもされたら私達は最後でしょうね。もちろん出来る限り逃げ回るつもりだけど、神の目からは逃れられないかもしれない。それでね、貴方に別の話があるの。」
何だ? ものすごい違和感がある。これがスミカちゃんと同じくらいの少女の物言いだろうか?
「人質としてではなく、自由意志で私が皇帝になるのを手伝ってくれないかな。父は自分の子供達の内、聖なる山の神を味方に付けた者を次期皇帝にすると言っているの。よほどカルロ教国に負けたのが悔しかった様ね。父はカルロ教国に負けてから落ち込んでやる気をなくしていてね。後のことは後継者に任せてすぐにでも引退するつもりらしいわ。だから後継者に指名されればすぐにでも皇帝の座を継ぐことになる。貴方が自分も聖なる山の神も私に味方すると父の前で証言して、奇跡のひとつでも見せてくれれば事は成るわ。
その代わり、私が皇帝に成ったらカルロ教国には攻め入らないと約束するし、カルロ教を国教にしても良いわ。国の半分をあなたにあげても良い。約束してくれたら、その首輪は直ぐにでも解除する。」
「その代わり父さまの怒りを鎮めろと言う訳ね。」
「まったく本当に話が早いわね。その通りよ。」
「もし断ったら?」
「最初の話の通り人質として国に連れていくことになるわね。お互いに破滅の道に進むわけ。」
「貴方はそれほどのリスクを冒してまで皇帝に成りたいの? 皇帝の地位にそれだけの価値があるかしら。」
「私にはあるの、兄達を見返す唯一のチャンスだからね。」
「そんなことの為に?」
「外から見ればそんな風に見えるかもしれないわね。でも皇帝の子供、それも正室の子供として生まれた皇子や皇女は生まれてから直ぐに競争が始まるの、それぞれに側近や後ろ盾になっている貴族が付いているから、その人達の為にも後に引けない。生まれてこの方ずっと足の引っ張り合いよ、殺し合いになったって不思議じゃない。私は女だからね、ただでさえ不利なのよ。」
「悪いことは言わない。そんなつまらないことは止めておきなさい。今すぐこの首輪を解除してくれたら許してあげる。」
「お恐れながら申し上げます。ジャニス様は御兄弟の中で最も皇帝の地位にふさわしいお方でございます。天才でおられながら、それに奢ることなく下々にも心を配ってくださいます。私だけでなく、平民である魔道具開発部の職員が同行しているのが何よりの証。ジャニス様こそが国民が時期皇帝として待ち望んでいるお方なのでございます。」
アニルさんがジャニスを応援する。そうかもしれないけど、やはり説得力は弱い。
ジャニスの提案は却下だ。父さまの娘として脅しに屈するわけにはいかない。そう考えながら、無意識に近くにあった馬車に手を置いた。途端に心に希望の灯が灯る。
「しばらく考えさせてもらっても良いかしら。ここがどこか知らないけれどガニマール帝国に着くまでにはまだ時間があるのでしょう?」
とにかく今は時間を稼ぐのだ。
目を覚ますと馬車の中の様だった。私は手足を縛られた状態で3人掛けの座席の真ん中に座っていて、私を挟むように両側に誰かが座っている。それに首が火傷でもしたようにヒリヒリする。
気を失っている間に掴まってしまった様だ。神力で手足を縛っている縄を切ろうとして意識を集中した途端、首に更なる激痛が走った。
「キャッ」
と思わず声を出す。それが聞こえたのだろう、右側に座っていた人物が声を掛けて来る。暗くて顔は分からないが中年の男性の様だ。
「お待ちください。神力をお使いになると電撃の首輪が反応して御子様のお身体を傷付けます。どうかお静まり下さいますよう。」
男性がそう口にした。緊張しているのか声が震えている。
電撃の首輪? 私が神力を使おうとすると激痛が走るのはそのせいか?
「電撃の首輪とは何ですか?」
「お恐れながら申し上げます。電撃の首輪とは罪を犯した魔法使いを捕らえるための魔道具です。首輪を装着された者から発せられる魔力を感知し、電撃を発して装着者を動けなくします。電撃の威力は御子様が体験された通りです。」
魔法使い? 昔、母さまから人間にもわずかながら神力を使える者がいるとの話を聞いたことがある。その人たちの事だろう。神力を使う者を捉えるための道具.....。しまったとんでも無いものを付けられてしまった。パニックになって心の中でどうしよう、どうしよう、どうしよう......と繰り返す。
「電撃の首輪が感知する神力は身体から外に発せられたものだけよ。首が痛むなら身体の内部を通して神力を送れば治療できるわよ。」
突然左から少女の声がしてびっくりした。この声は祭壇の上の箱に入っていた女の子? 少女が言う様に体内から神力を流して首の治療を試みるとすぐに痛みが治まった。どうやら火傷をしていた様だ。
「あなた達は何者?」
「これは失礼したわね。私はガニマール帝国第8皇女ジャニス。そっちに居るのは私の側近アニルよ。」
目を凝らすが、まだ夜なのだろう暗くて辛うじてシルエットが分かるだけだ。千里眼を使おうとしたらまた首に激痛が走った。男性が言っていた様に神力は使えない。これは本当に不味い.....。
「私をどうする気なの?」
「明るくなってから説明するわ。今は一刻も早く神域から遠くに離れたいの。流石に聖なる山の神様に見つかったら無事では済まないでしょうからね。」
「父さまが気付かないはずは無い。今の内に私を開放しなさい。」
「その危険は覚悟の上よ。もっとも今のところは見つかっていない様ね。やはり馬車の外壁に水晶の粉を混ぜた塗料を塗った効果が有ったのかも。」
水晶の粉? 水晶は神力を吸収する物質だ。ひょっとして周りを水晶で囲むと千里眼でも見通せない? そんなことを知っているなんてこの少女は只者ではないかも.....。
「まあ、朝まで少し休みましょうよ。私達は何日も御子様を待ち伏せしていたから疲れ切っているの。少し眠らせてもらうわね。」
そう言うと少女は静かになった。右側の男性も言葉を発さない。私の前にも座席があるからこのふたり以外にも人が乗っているのかもしれないが、暗くてそれすら分からない。
それにしてもこの馬車は本当に動いているのか? 不思議なキュルキュルという音がする以外静かだし、なにより走っていると起きるはずの振動が無い。
でも先ほど少女が言ったことで思いついたことがある。水晶だ。水晶は神気を吸収して内部に蓄積し魔晶石となる。もし魔晶石を手に入れることが出来て、そこに蓄えられた神力を使った場合はどうなるだろう? 首の魔道具は身体から出る神力を感知するらしいが、魔晶石から取り出した神力の場合は感知しなかったりして。
僅かな望みを持って、縛られている手で何とか上着のポケットを探ってみるが失望に終わった。ポケットには遊牧民の衣装に使われていた水晶で作られたボタンが入っていたはずなのだ。恐らくこの人達に抜き取られたのだろう。ひょっとして魔晶石を持たせておくと不味いと判断したのか......。
亜空間には更に何個か私の神気を吸収した水晶のボタンが入っているが、亜空間から取り出すには神力を使う必要がある。首輪を付けている限り取り出すのは無理だ。
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「御子様、お目覚め下さい。朝食のご用意が出来ました。」
呼びかける声に目を開けると周りは既に明るくなっている。どうやら眠ってしまっていた様だ。声を掛けて来たのは中年の男性。スーツと言うのだろうか、上下同じ布地で作った高級そうな服に蝶ネクタイをしている。
「失礼いたします」
男性はそう断ってから、私の手足を縛っている縄を解いてくれた。
促されるままに馬車の外にでて驚いた。これを馬車と呼ぶには決定的に足りない物がある。馬だ。馬車に馬が繋がれていない。さらに付け加えれば車輪すら付いていない。
「ジャニス様が設計された浮遊馬車でございます。魔晶石を動力として浮かび自走いたします。」
私が馬車を見つめていたからだろう、先ほどの男性が説明してくれた。魔晶石か....
ペチン!
音のした方を見ると10歳くらいの女の子が掌を打ち合わせていた。手が小さいからちょっと情けない音だ。
「浮遊馬車も一種の魔道具よ。普通の馬車の数倍のスピードが出せるわ。改めて挨拶するわね。私はジャニス、ガニマール帝国第8皇女にして、国立魔道具研究所の所長をしているの。そっちは私の執事のアニル。他の者達は全員研究所の職員よ。」
私の縄を解いてくれた男性はアニルさんと言うらしい。他にも10名くらいの人達がいる様だ。浮遊馬車は全部で3台あり、それらに乗っていたのだろう。
「これだけ離れれば馬車の外にでても大丈夫だと思うの。窮屈な思いをさせて悪かったわ。神域に近いところであなたに逃げられたら、聖なる山の神に神気を感知される可能性が高かったからね。」
「あなたがこの人達のボスと言う事で良いのかしら。私をどうするつもり?」
「その前に朝食はどう? お腹は空いてない?」
ジャニスはそう言って、右腕ですぐ近くにある組み立て式のテーブルと椅子を示す。テーブルの上には朝食と思われる料理が乗っている。そう言われるとお腹が空いているのに気付いた。
促されるままに席に着くと向かいにジャニスが座る。朝食の内容はパンに、バターとチーズ、ソーセージと卵を炒めたものに、スープ。それに何種類かの果物だ。
「申し訳ないけど食前の祈りは省略させてもらうわね。」
そう言ってジャニスは食べ始めた。テーブルは結構大きいが座っているのは私達ふたりだけだ。私も黙って食べ物を口にいれる。質素な食事だが味は悪くない....。ジャニスは皇女と言っていたけれど特に不満を言うこともなく食べている。
「それでは状況を説明させてもらうわね。」
食事をあらかた食べ終え、お茶を飲んでいるとジャニスが口を開いた。
「簡単に言うとね。貴方は聖なる山の神に言うことを聞いてもらうための人質と言う訳。私達の国がカルロ教国を攻める間、聖なる山の神には中立を保って欲しいの。」
それを聞いて思わず立ち上がった。
「そんなことさせないわよ。」
「落ち着きなさい。そう思うのは勝手だけど状況は不利よ。神力が使えない貴方は人間と変わらない様だからね。これだけの人数に囲まれて逃げ出せると思う?」
「たとえ私を人質に取ったとしても永遠にその状況を続けられるわけがない。私が死んだ後、神の恨みを買った貴方達が只で済むと思うの?」
「あら! 話が速くて助かるわ。実は心配しているのはそこなのよ。貴方に自殺でもされたら私達は最後でしょうね。もちろん出来る限り逃げ回るつもりだけど、神の目からは逃れられないかもしれない。それでね、貴方に別の話があるの。」
何だ? ものすごい違和感がある。これがスミカちゃんと同じくらいの少女の物言いだろうか?
「人質としてではなく、自由意志で私が皇帝になるのを手伝ってくれないかな。父は自分の子供達の内、聖なる山の神を味方に付けた者を次期皇帝にすると言っているの。よほどカルロ教国に負けたのが悔しかった様ね。父はカルロ教国に負けてから落ち込んでやる気をなくしていてね。後のことは後継者に任せてすぐにでも引退するつもりらしいわ。だから後継者に指名されればすぐにでも皇帝の座を継ぐことになる。貴方が自分も聖なる山の神も私に味方すると父の前で証言して、奇跡のひとつでも見せてくれれば事は成るわ。
その代わり、私が皇帝に成ったらカルロ教国には攻め入らないと約束するし、カルロ教を国教にしても良いわ。国の半分をあなたにあげても良い。約束してくれたら、その首輪は直ぐにでも解除する。」
「その代わり父さまの怒りを鎮めろと言う訳ね。」
「まったく本当に話が早いわね。その通りよ。」
「もし断ったら?」
「最初の話の通り人質として国に連れていくことになるわね。お互いに破滅の道に進むわけ。」
「貴方はそれほどのリスクを冒してまで皇帝に成りたいの? 皇帝の地位にそれだけの価値があるかしら。」
「私にはあるの、兄達を見返す唯一のチャンスだからね。」
「そんなことの為に?」
「外から見ればそんな風に見えるかもしれないわね。でも皇帝の子供、それも正室の子供として生まれた皇子や皇女は生まれてから直ぐに競争が始まるの、それぞれに側近や後ろ盾になっている貴族が付いているから、その人達の為にも後に引けない。生まれてこの方ずっと足の引っ張り合いよ、殺し合いになったって不思議じゃない。私は女だからね、ただでさえ不利なのよ。」
「悪いことは言わない。そんなつまらないことは止めておきなさい。今すぐこの首輪を解除してくれたら許してあげる。」
「お恐れながら申し上げます。ジャニス様は御兄弟の中で最も皇帝の地位にふさわしいお方でございます。天才でおられながら、それに奢ることなく下々にも心を配ってくださいます。私だけでなく、平民である魔道具開発部の職員が同行しているのが何よりの証。ジャニス様こそが国民が時期皇帝として待ち望んでいるお方なのでございます。」
アニルさんがジャニスを応援する。そうかもしれないけど、やはり説得力は弱い。
ジャニスの提案は却下だ。父さまの娘として脅しに屈するわけにはいかない。そう考えながら、無意識に近くにあった馬車に手を置いた。途端に心に希望の灯が灯る。
「しばらく考えさせてもらっても良いかしら。ここがどこか知らないけれどガニマール帝国に着くまでにはまだ時間があるのでしょう?」
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