神の娘は上機嫌 ~ ヘタレ預言者は静かに暮らしたい - 付き合わされるこちらの身にもなって下さい ~

広野香盃

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23. 旅立つシロム

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(シロム視点)

「俺も同行する。いいよな爺様?」

 アーシャ様を探す旅にマークが同行を申し出てくれた。涙が出るほど嬉しい、ひとりで旅立つなんて心細すぎる。それにしても爺様って、神官長様のこと?

「マーク、良く言った。それでこそ儂の孫じゃ。シロム様をしっかりとお守りするのだぞ。」

 神官長様がマークに同行の許しを与える。マークは神官長様の孫なのか? それにしてもご両親の承諾が必要なのでは? 

 だがそんな僕の懸念を余所に、神官長様の指示で出発の準備が急ぎで整えられてゆく。当面の旅の資金、携帯食料、丈夫で温かいフード付きのローブ(野宿するときの布団替わりになるらしい)、短剣、荷物を入れるリュック諸々だ。

 そして準備が終わったころ、神殿の外から悲鳴が聞こえて来た。すぐに神官様らしき人が駆け込んでくる。

「神官長様、神殿の中庭にドラゴンが現われました。突然空から降りて来たのです。」

 それを聞いて僕と神官長様は目を見合わせた。神様がおっしゃった移動の手段って.....。

「シロム殿、間違いないでしょう。中庭に参りましょうぞ。」

 全力で逃げ出したかったが仕方がない。少し歩くと中庭が見える場所まで来た。そこには確かにドラゴンがいた。動くことも声を出すことも無く静かに立っている。そのため人々は辛うじてパニックにならずに済んでいる様だ。沢山の人が中庭を取り巻いて呆けた様にドラゴンを眺めていた。

「シロム殿、顔を見られたくなければフードをお被り下さい。ドラゴンに乗り込むところを見られれば大変な騒ぎに成るでしょう。マーク、お前もじゃ。」

 神官長様の忠告に従ってローブについているフードを目深に被る。中庭への入り口まで来るとマークが先頭になって足を踏み入れ、僕はマークに隠れる様に後に続く。ここからは僕達ふたりだけだ。

 僕達が中庭に足を踏み入れると、中庭を囲んで恐々ドラゴンを観察していた人達の話声が一瞬で静まった。全員が僕達に注目している。

<< お前がシロムか? >>

 念話が届いた。間違いなく目の前にいるドラゴンからだ。

<< ひ、ひゃい。僕がシロムです。>>

<< なんじゃ、先頭の方かと思ったらそっちか。オドオドしおって情けない。儂の名はドラゴニウス。勇敢なる神の僕だ。儂が傍に居ればいかなる者もそなたに危害を加えることは出来んから安心しろ。さあ乗れ、何処へなりとも連れて行ってやる。>>

<< あ、ありがとうございます。>>

<< 翼を伝って背中まで登れ。>>

 ドラゴンはそう言うと片方の翼を地面まで下げた。翼の上を登って来いと言う事だろう。僕がマークにドラゴニウスさんの言ったことを伝えると、先頭に立ってドラゴンの翼を登りだした。僕はマークの後を付いて行く。ドラゴンの翼は薄い膜の様なもので出来ているのか乗ると弾力がある。

<< それで、何処に向かう? >>

 ど、どうしよう、考えてなかった! 

「マ、マーク。ドラゴンからどこに向かうのか尋ねられた。どうしよう....。」

「まずはガニマール帝国が作った祭壇に行ったらどうだ? アーシャ様と最後に話したのがその事だったんだろう。何か手掛かりがあるかもしれないぞ。」

「そんなことをしたらガニマール帝国の軍隊と戦いになるんじゃ......。」

「その時はその時、虎穴に入らずんば虎子を得ずってね。」

 こいつはどこまで度胸が据わっているんだ! 短剣は貰ったけど剣の練習なんてしたことないぞ。

「大丈夫だって、このドラゴンを見れば逃げ出すさ。それに預言者の杖だってあるんだぞ。」

 ここまで言われるとそうかなという気になって来た。

<< ドラゴニウスさん、ガルマーニ帝国が作った祭壇の場所を知ってますか? >>

<< おお、あるじから聞いておる。ふたつ有るらしいがどちらに向かう? >>

<< ふ、ふたつですか? とりあえず近い方で。>>

<< 分かった。しっかりつかまっておれ! >>

 そう言うなりドラゴニウスさんが巨大な翼を羽ばたき僕達は宙に浮かぶ。周り中から

「おお~~~~~!」

と声が聞こえた。

 宙に浮かんだもののドラゴンの背中は結構揺れる。僕は落ちそうになって思わずドラゴニウスさんの背中に張り付いた。怖い.....。

<< シロム、その杖は亜空間に仕舞って両手で摑まれ。>>

 そう、怖いのは片手に預言者の杖を持っているからでもある。だからドラゴニウスさんの背中に掴まるにも片手しか使えない。

<< 亜空間ですか? >>

 そう言えばアーシャ様も紙袋を亜空間に収納していた。亜空間???

<< 難しく考えるな。目に見えない大きなカバンの様なものを想像して、その中に杖を仕舞う事をイメージしろ。後は杖が勝手にやってくれる。>>

 目に見えないカバン? この杖が入るくらい大きなもの.....そう考えた途端杖が手から消えた。

<< うまく行ったようだな。取り出すときは逆にカバンから取り出すことをイメージすれば良い。>>

<< あ、ありがとうございます。ドラゴニウスさん。>>

<< 気にするな、お前のことはあるじから頼まれているからな。任せておけ。たがもう少しシャキッと出来んか。まるでカルロを見ている様で歯痒いわい。>>

<< ドラゴニウスさんはカルロ様に会ったことがあるのですね。>>

<< ああ、あるぞ。気が小さくて怖がりでな、いわゆるヘタレという奴だ。儂は好かんかった。あるじは何故か気に入っておったがな。>>

 カルロ様がヘタレ? 偉大なる預言者カルロ様が? まさか?

<< ところでシロムよ、アーシャ様はなぜこんなにも長い間神域にお帰りにならなかったのだ? そんなに人間の町が気に入っておられたのか? >>

<< ぼ、僕には分かりません。ですがアーシャ様は町にある色々な料理を気に入っておいでの様でした。>>

<< 料理だと? 食い物の事か。それはあるかもしれぬな、あるじも儂も物を食わん。食い物が必要なのはアーシャ様だけだ。だから料理という物は我らには分からんのだ。>>

 そうか、それが聖なる山の神がカルロ様に供物として料理を求めた理由だったんだ。

 ドラゴニウスさんが飛行に最適な高度に達するまでは結構揺れたが、一定の速度で飛び始めると羽ばたきもゆっくりになり揺れも収まった。僕はドラゴニウスさんの背中に張り付いている状態から身体を起こして座ることが出来た。マークは最初から座ったままだ。


****************

<< 着いたぞ、あそこだ。>>

 しばらく飛ぶとドラゴニウスさんが到着したと教えてくれた。意外なほど近い。カルロ教国の国境から直ぐのところだ。だけど下を見ても祭壇らしいものは見当たらない。

<< どこですか? >>

<< 祭壇は撤去済みの様だな。ほれ、あそこに木を伐採して作られた空き地があるだろう。あそこにあったはずだ。>>

 撤去済み? 良かった。ガニマール帝国の兵士と争いは避けれそうだとほっとする。もっともアーシャ様の手掛かりを得るのも望み薄だけど.....。

 ドラゴニウスさんが空き地に着陸し。マークが背中から飛び降りる。僕は慎重にドラゴニウスさんが下ろしてくれた翼を伝って地面に降りた。

「綺麗に何も残っていないな。」

 先に居りて空き地を歩き回っていたマークが独り言の様に口にする。

<< ドラゴニウスさん、この場所にいつまで祭壇があったか分かりますか? >>

<< そこまでは知らん。>>

「アーシャ様がここに来られた可能性は低そうだな。」

「どうして?」

「祭壇は普通石で作るよな。でも石で作った祭壇を昨晩アーシャ様がここに来られてから今までに撤去するのは時間的に無理がある。これだけ綺麗に何も残っていないとなると、撤去されたのはかなり前だろう。それにもうひとつ。この空き地には轍の跡がひとつもないんだ。仮に祭壇が石ではなく木製だったとしても、撤去するには馬車か荷車が必要だろう。昨晩以降に撤去したのなら轍が残っていないとおかしい。となると撤去されたのは轍の跡が消えてしまうくらい前と言う事になる。」

 確かにこの空き地やこの空き地に続く道には綺麗に草が生えていて、轍の跡はどこにも見当たらない。マークの言う通りだ。

<< どうした。何かアーシャ様の手掛かりはあったか? >>

<< 残念ながらアーシャ様はここには来られなかった様です。もうひとつの祭壇に向かってもらえますか。>>

<< 分かった。ならば急ごうではないか。儂はアーシャ様程早く飛ぶことは出来ぬ。急がねば日が暮れる。>>

 僕はそれをマークに話して、再びドラゴニウスさんの背中に乗った。
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