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27. シロム、危機一髪
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その夜、僕は空腹に耐えかねて目を覚ました。考えてみればあの騒ぎがあったからせっかくの夕食を少ししか口に出来なかった。まあその点はマークも同じらしいが。仕方なくリックに入っていた携帯食料の乾パンを齧る。携帯食料は長期保存出来ることを目標として作られたものだから正直言って美味しくない。食事の場所なんてどうでも良いからあの夕食を食べておきたかった。素材は質素であっても十分美味しかったのに。
トン、トン
微かにノックの音がした。反射的に「はい」と返事する。
「マリアです。内密にお話したいことがあります。開けてもらえませんか?」
小さな声が返って来た。マリアさん? こんな夜中に何だろう? 急いで部屋に用意されていたガウンを上に着てから扉を開けた。
扉を開けると予想通りそこにはマリアさんが立っていた。だけど予想していなかったものもあった。僕の首筋に突き付けられたナイフだ。
「声を出さないで!」
マリアさんはそう命令して、そのまま部屋の中に入り後ろ手に扉を閉めた。もちろん僕は恐ろしさに縮み上がって声なんて出ない。
「今晩はシロムさん。大切なお話があるの。マーク様を開放してあげて欲しいの。」
解放? 何のことだ? パニックになって声も出せない僕に苛立ったのか、マリアさんが先を続ける。
「貴方はマーク様の弱みを握っているのよね。だからマーク様は貴方に逆らえないんだわ。そうでなければ貴方みたいな人がマーク様の主人でいるわけが無い。きっと卑怯な手を使っているのよ。」
は? マリアさんは何かわけの分からないことを言い出した。
「マ、マークは僕の友達で.....」
そう言いかけた途端、僕の首筋にナイフの刃が押し当てられた。皮膚が傷つき痛みが走る。
「誤魔化しはいいの。どんな手を使っているのかを言うのよ。」
大きな声でますますわけが分からないことを言い出すマリアさん。そんなものは無いと言いたいが、言うだけ無駄な雰囲気だ....。どうしよう、どうしよう、どうしよう.....逃げ出したいが、すでに壁際まで追い詰められている。そう言えばマリアさんは反乱軍に参加していたんだった。荒事にも慣れているのかもしれない。そう考えると恐ろしさが倍増する。もう蛇に睨まれた蛙状態だ、恐怖にすくみ上がって身体の自由が利かない。
「止めなさい!!!!!!!!」
突然大きな声が響き渡った。シンシアさんだ、いつの間にか扉が開いている。
「マリア! 直ぐに止めなさい! 助けて頂いた恩人になんてことを。」
「私を助けてくれたのはマーク様よ! こいつは何もしてないわ。」
「そうだとしてもです。貴方を殺そうとしたのはガニマール帝国で、シロム様ではないでしょう!」
「私には何もしてなくてもマーク様にはしているのよ。私には分かる。でなければマーク様がこいつの従者のわけが無いわ。何か卑怯な手でマーク様をこき使っているのよ。だからマーク様は勇者と名乗れないんだわ。」
「勇者? 何をバカなことを言っているの。そんなの只の伝説よ!」
「マーク様はその伝説にしか登場しない竜に乗って来られたのよ。それでも与太話だと言うの?」
「だったら、シロム様が勇者様かもしれないじゃない。マーク様と一緒に来たんでしょう。」
「はっ、こいつが勇者のわけが無いじゃない。貧弱でオドオドして皮膚の色はこの家の人達と同じ黄色よ。黄色なんて劣等人種よ。勇者様の皮膚は白に決まっているわ。それにマーク様の髪は勇者様の金色、こいつの髪は下品な茶色よ。考える迄も無いわ。劣等人種がマーク様を従者にしているのよ、何か裏があるに決まっている。」
皮膚に色がある人間は劣等だと言う事だろうか? そんなこと考えたこともなかった。カルロの町には色々な所から移民がやって来たから、肌の色も様様だ。僕やカンナの様に黄色い色をしている人もいれば、白、赤、黒、茶色と様々で、それを気にしている人はいない。神官には白い人が多いけど、これはカルロ様の血筋を受け継いでいるからだ。もっとも神官だって移民してきた人と結婚することは多々あるから、必ずしも白だとは限らない。現にキルクール先生の肌は赤だし、カリーナは黒だ。
「マリア......。これだけお世話になったジーラ達をそんな風に思っていたの.....。」
それを聞いたマリアさんは、振り返ってシンシアさんと対峙する。
「事実を言ったまでよ。有色は劣等種族、私達高位な人間に仕えるべき存在よ。そんなの反乱軍では常識よ。」
パシン!
乾いた音が部屋に響いた。シンシアさんがマリアさんの頬を打ったのだ。マリアさんは信じられないと言う感じで頬を押さえた。その隙にシンシアさんがマリアさんのナイフを奪おうと手を延ばし、マリアさんが反射的にナイフを振るう。
「くっ....」
と声を出しシンシアさんが腕を押さえて蹲る。腕から沢山の血が床に流れ落ちた。それを見た途端、僕は呪縛から解放された。預言者の杖を取り出して神力を使う。マリアさんの手の中にあったナイフが一瞬で砕け散った。そのままシンシアさんに駆け寄る。
「シンシアさん、傷を治療します。」
そう言いながら杖をシンシアさんの肩に当てた。その途端シンシアさんの身体が金色に輝き傷口が何事も無かったかの様に塞がる。それを見て僕は床に座り込んだ。安心して力が抜けたのだ。
「姉さん、私、私、こんなつもりじゃ.......」
マリアさんが僕の後で取り乱した様に言う。傷は塞がっても、流れ出た血はそのままだ。治ったと分かっていないのかもしれない。。
再度神力を使うと、腕や服についていた血の汚れが綺麗になくなった。床に零れていた血も同様だ。これでマリアさんにも傷が治ったことが分かるだろう。
「シロム様、私の部屋に来ていただいてよろしいでしょうか。マリア、貴方もよ。」
シンシアさんが真剣な表情で僕を見つめて言う。まあシンシアさんなら危ない目に会うことはあるまい。僕は頷いてシンシアさんに続いて部屋を出た。マリアさんも後から付いて来る。シンシアさんの傷が一瞬で治癒し、血の汚れすらなくなったことに驚いている様だ。
トン、トン
微かにノックの音がした。反射的に「はい」と返事する。
「マリアです。内密にお話したいことがあります。開けてもらえませんか?」
小さな声が返って来た。マリアさん? こんな夜中に何だろう? 急いで部屋に用意されていたガウンを上に着てから扉を開けた。
扉を開けると予想通りそこにはマリアさんが立っていた。だけど予想していなかったものもあった。僕の首筋に突き付けられたナイフだ。
「声を出さないで!」
マリアさんはそう命令して、そのまま部屋の中に入り後ろ手に扉を閉めた。もちろん僕は恐ろしさに縮み上がって声なんて出ない。
「今晩はシロムさん。大切なお話があるの。マーク様を開放してあげて欲しいの。」
解放? 何のことだ? パニックになって声も出せない僕に苛立ったのか、マリアさんが先を続ける。
「貴方はマーク様の弱みを握っているのよね。だからマーク様は貴方に逆らえないんだわ。そうでなければ貴方みたいな人がマーク様の主人でいるわけが無い。きっと卑怯な手を使っているのよ。」
は? マリアさんは何かわけの分からないことを言い出した。
「マ、マークは僕の友達で.....」
そう言いかけた途端、僕の首筋にナイフの刃が押し当てられた。皮膚が傷つき痛みが走る。
「誤魔化しはいいの。どんな手を使っているのかを言うのよ。」
大きな声でますますわけが分からないことを言い出すマリアさん。そんなものは無いと言いたいが、言うだけ無駄な雰囲気だ....。どうしよう、どうしよう、どうしよう.....逃げ出したいが、すでに壁際まで追い詰められている。そう言えばマリアさんは反乱軍に参加していたんだった。荒事にも慣れているのかもしれない。そう考えると恐ろしさが倍増する。もう蛇に睨まれた蛙状態だ、恐怖にすくみ上がって身体の自由が利かない。
「止めなさい!!!!!!!!」
突然大きな声が響き渡った。シンシアさんだ、いつの間にか扉が開いている。
「マリア! 直ぐに止めなさい! 助けて頂いた恩人になんてことを。」
「私を助けてくれたのはマーク様よ! こいつは何もしてないわ。」
「そうだとしてもです。貴方を殺そうとしたのはガニマール帝国で、シロム様ではないでしょう!」
「私には何もしてなくてもマーク様にはしているのよ。私には分かる。でなければマーク様がこいつの従者のわけが無いわ。何か卑怯な手でマーク様をこき使っているのよ。だからマーク様は勇者と名乗れないんだわ。」
「勇者? 何をバカなことを言っているの。そんなの只の伝説よ!」
「マーク様はその伝説にしか登場しない竜に乗って来られたのよ。それでも与太話だと言うの?」
「だったら、シロム様が勇者様かもしれないじゃない。マーク様と一緒に来たんでしょう。」
「はっ、こいつが勇者のわけが無いじゃない。貧弱でオドオドして皮膚の色はこの家の人達と同じ黄色よ。黄色なんて劣等人種よ。勇者様の皮膚は白に決まっているわ。それにマーク様の髪は勇者様の金色、こいつの髪は下品な茶色よ。考える迄も無いわ。劣等人種がマーク様を従者にしているのよ、何か裏があるに決まっている。」
皮膚に色がある人間は劣等だと言う事だろうか? そんなこと考えたこともなかった。カルロの町には色々な所から移民がやって来たから、肌の色も様様だ。僕やカンナの様に黄色い色をしている人もいれば、白、赤、黒、茶色と様々で、それを気にしている人はいない。神官には白い人が多いけど、これはカルロ様の血筋を受け継いでいるからだ。もっとも神官だって移民してきた人と結婚することは多々あるから、必ずしも白だとは限らない。現にキルクール先生の肌は赤だし、カリーナは黒だ。
「マリア......。これだけお世話になったジーラ達をそんな風に思っていたの.....。」
それを聞いたマリアさんは、振り返ってシンシアさんと対峙する。
「事実を言ったまでよ。有色は劣等種族、私達高位な人間に仕えるべき存在よ。そんなの反乱軍では常識よ。」
パシン!
乾いた音が部屋に響いた。シンシアさんがマリアさんの頬を打ったのだ。マリアさんは信じられないと言う感じで頬を押さえた。その隙にシンシアさんがマリアさんのナイフを奪おうと手を延ばし、マリアさんが反射的にナイフを振るう。
「くっ....」
と声を出しシンシアさんが腕を押さえて蹲る。腕から沢山の血が床に流れ落ちた。それを見た途端、僕は呪縛から解放された。預言者の杖を取り出して神力を使う。マリアさんの手の中にあったナイフが一瞬で砕け散った。そのままシンシアさんに駆け寄る。
「シンシアさん、傷を治療します。」
そう言いながら杖をシンシアさんの肩に当てた。その途端シンシアさんの身体が金色に輝き傷口が何事も無かったかの様に塞がる。それを見て僕は床に座り込んだ。安心して力が抜けたのだ。
「姉さん、私、私、こんなつもりじゃ.......」
マリアさんが僕の後で取り乱した様に言う。傷は塞がっても、流れ出た血はそのままだ。治ったと分かっていないのかもしれない。。
再度神力を使うと、腕や服についていた血の汚れが綺麗になくなった。床に零れていた血も同様だ。これでマリアさんにも傷が治ったことが分かるだろう。
「シロム様、私の部屋に来ていただいてよろしいでしょうか。マリア、貴方もよ。」
シンシアさんが真剣な表情で僕を見つめて言う。まあシンシアさんなら危ない目に会うことはあるまい。僕は頷いてシンシアさんに続いて部屋を出た。マリアさんも後から付いて来る。シンシアさんの傷が一瞬で治癒し、血の汚れすらなくなったことに驚いている様だ。
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