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36. 虫退治
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(シロム視点)
「キャーーーーーーッ、シロム様!」
狭いトンネルを抜けてアルガ様の祭壇のある大空間に出た途端、アルムさんが悲鳴を上げた。なにせチーアルによる荒っぽい移動の為に、洞窟の壁に当たって何度も手足を擦りむき、頭にいくつものたんこぶを作っての登場だったからだ。擦りむいた手足だけでなく、頭からも血が流れている様だ。ひとつひとつの傷は大したことはないが、全身から血を流している人間が目の前に現れたらショックだろう。
「大丈夫です。大した怪我ではありません。それより町に危険が迫っています。アルムさんは直ちに避難してください。そうだ、アルムさんだけでなく町の人全員が避難しないと....。」
「私の事よりシロムさんの手当てが先です。マーブルさんのお宅に戻りましょう。」
「シロム様、何事ですか?」
「虫です! 巨大な虫の大群が鉱山からこの町に迫っています。すでに沢山の人が殺されました。
「虫....ですか?」
「人間ほどもある大きな虫です。逃げないと危険です。大至急地上に戻ります。」
「畏まりました。」
マーブルさんを先頭に地上への道を急ぐ。本当は先に飛んで行きたいが、この鍾乳洞は迷路のようになっているから道に迷ったらアウトだ。チーアルに教えてもらいたくても知性が低下しているのか的確な返事は返ってこない。先ほどの狭いトンネルも入るときは怪我しなかったから、戻りで怪我をしたのは僕がチーアルをうまくコントロールできていないと言う事だろう。
マーブルさんの家に戻り最上階に駆けあがって窓から外を覗く。夜中だが町のあちこちで火災が起きておりその光りで以外に明るい。残念ながらすでに避難を呼びかけるタイミングは過ぎてしまった様だ。悲鳴があちらこちらから上がっているが、意外にも沢山の人達が虫に立ち向かっており、しかも善戦している様だ。もっとも多勢に無勢だからやられるのは時間の問題だろう。アルガ様の妖精も戦ってくれているがそれでも分が悪い。
それにどうやら町の一番奥にあるこの屋敷にも虫が迫って来ている様だ。暗くてよく見えないが近くでも人々が虫と戦っている声がする。
「くそったれ! 硬くて剣が刺さらねえ。」
「お前! 剣なんか役に立たねえぞ。楔を打ち込むでっかいハンマーを持って来い。思いっきり殴れば頭を潰せる。」
「わ、分かった。」
剣では戦えないのか? 僕達は護身用の短剣しか持っていない。心細いけどマーク達には逃げるか隠れるかしてもらった方が良さそうだ。ひとりで戦う....そう考えた途端恐怖に身震いする。そうだ! 僕には味方がいる。ドラゴニウスさんだ。ドラゴニウスさんが一緒に戦ってくれれば心強い。
「マーブルさん、この家に窓がなくて虫に侵入されにくい部屋はありませんか?」
「それなら、地下にある食糧貯蔵庫が良いかもしれません。」
「それなら、そこに隠れていてください。マーク、このふたりを頼むよ。剣では戦えないと誰かが叫んでいたから気を付けて。」
「シロムはどうするんだ。」
「僕は虫を退治して来る。」
「ひとりで大丈夫なのか?」
無理です、出来ませんと言いたいが、この中で戦えるのは僕だけだ。
「大丈夫。ドラゴニウスさんに助けてもらう。」
「分かった。気を付けろよ。」
その言葉を聞いて、僕は窓から町に飛び出した。もちろん妖精に運んでもらってだ。全身がガタガタ震えている。昔から虫は嫌いなんだ。普通の虫を見るだけで鳥肌が立つのに、今から相手にするのは人間並みに大きな虫だという。少なくともドラゴニウスさんと一緒でないと怖くて無理だ。
僕はドラゴニウスさんの居る森の方角に向かう。町では沢山の人がハンマーを持って巨大な虫と対峙している。あんな大きなハンマーを振り回せるなんてすごい力だ。そう言えばこの町は腕っぷしだけには自信のある人が多いと宿の女将さんが言っていた。鉱夫は力が無いと勤まらないのだろう。
目の前でひとりが屋根の上にいた蜘蛛に飛びつかれた。不味い! 夢中でチーアルの妖精にお願いすると一斉に蜘蛛に向かう。僕まで一緒だ。
「ぎゃーーーーーー」
迫りくる蜘蛛の姿に思わず悲鳴を上げた、だが僕に先行していた妖精達が蜘蛛に激突すると蜘蛛は一瞬でバラバラになって弾き飛ばされた。蜘蛛の体液がもろに僕に降りかかってくる。酸っぱい物が喉にこみあげて来て、たまらず地面に降り立ち胃の中の物をぶちまけた。
「大丈夫か? ありがとうな、助かったぜ。」
逞しい男の人が声を掛けて来る。たぶん僕が助けた人だろう。口が利ける状態ではない僕はジェスチャーで答え、再度飛び立った。流石に恥ずかしい。
でもすぐに恥かしいなどと言っていられる状態ではなくなった。助けないといけない人はいくらでもいる。その内にチーアルの記憶から戦い方を学んだ。妖精には5種類あるらしい、緑の土の妖精、白の風の妖精、赤の火の妖精、青の水の妖精、そして黒の闇の妖精。この5種がグループとなって戦うのが一番強いとチーアルの記憶が教えてくれる。どうやらアルガ様の妖精達も同様に5人グループで虫を攻撃している様だ。チーアルは闇の精霊だから分解して生じた妖精も闇が一番多い。5人グループを作るのに余った闇の妖精は僕の手元に置いて、残りの妖精にはすべて出撃してもらう。
僕は妖精のグループ毎に戦いを指示する。妖精は知性が低いとチーアルが言っていたが、それでも大雑把な指示を与えれば後はやってくれる。これなら複数の虫を同時に攻撃出来る。
僕が助けた人達は、最初何が起きたのか分からない様だったが、その内僕に注目が集まり始めた。確かに僕がターゲットを指さすだけで目標の虫が弾け飛ぶのだ。妖精は普通の人には見えないから、すべて僕がやっていると誤解するだろう。でも正直その時はそんなことを考えている余裕もなかった。なにせ攻撃する妖精達の視界がそのまま心に伝わって来るのだ。大写しになった虫の頭部や、飛散する体液、飛び散る沢山の足。吐き気を堪えるだけで必死だ。ドラゴニウスさんを呼びに行くことすら忘れていた。
突然、町の外で空から巨大な炎が地面に向かって放たれた。沢山の虫が焼かれているのが見える。
<< ドラゴニウスさん! >>
流石ドラゴニウスさん、何も言わなくても助けに来てくれたのだ。助かった....と安堵が心を支配する。だけどドラゴニウスさんから届いた念話は安心できるものでは無かった。
<< シロムか? 何が起こった? いや、話は後だな。とにかくこの虫どもを退治しなければならん。儂は町の外にいる虫を殺す。町の中はお前に任せるぞ。町の中で儂が攻撃すれば人間達を巻き込むからな。>>
町の中に入り込んだ虫は僕達人間で何とかしろと言う事だ。仕方がない、ドラゴニウスさんがいればこれ以上町に入り込むことは無いだろう。
結局、それからも必死の戦いが続くが、ドラゴニウスさんのお陰で新たに町に入り込む虫がいないから、少しずつ数が減って来た。町の人達も頑張っているし、アルガ様の妖精の活躍もすごい。
何とかなりそうかなと考えた時、僕の名前を呼ぶ声が聞こえた。アルムさんだ! こちらに駆け寄って来る。
「シロム様! マーク様が大変です、百足の毒にやられました。」
恐れていたことが起きた様だ。アルムさんをつれて屋敷の食糧貯蔵庫に入ると、マークが床に横たわっていた。アルムさんは僕を探して走り回っていたらしい。虫が溢れる町を走り回っていたと言う事か!
「マーク!」
「食糧貯蔵庫に避難する途中で襲われてしまって、マーク様は私達を助けようと戦って下さったのです。百足に咬まれてからかなり時間が経っています。急がないと....。」
急いでマークに駆け寄るが、そこで最悪の事実に気付く。もう預言者の杖は使えない。更にチーアルの記憶によると、チーアルやアルガ様にも人間の治療は出来ない。
マークの顔色は土気色で放って置けば手遅れになるのは間違いない。僕は無力感に打たれその場に座り込んだ。
「シロム様。お早く! マークさんが死んでしまいます。」
アルムさんが必死に叫ぶ。
「御免、僕にはどうしようもない。」
「そんな.....」
それを聞いてアルムさんも床の上に座り込む。
「シロム様、マークさんは私達を助けるために戦って......。何とかなりませんか?」
「分かってる。マークはそんな奴なんだ.....。」
ぽろぽろと涙が零れた。くそ! 何か! 何か手はないか.....そうだ! ドラゴニウスさんだ! アルガ様には無理でもドラゴニウスさんならマークを回復させることが出来るかもしれない! 確信はないがここでマークの死を待つより100倍ましだ。
「マークは必ず助けます。」
僕はそう言ってマークを抱え上げた。体格の良いマークは重いがそんなことを言っている場合ではない。
「チーアル、お願い!」
僕はマークを連れて再び飛び立つ。目指すはドラゴニウスさんが戦っているであろう町の外、鉱山の方向だ。
近づくにつれドラゴニウスさんが戦っている姿が見えて来る。暗闇の中でドラゴニウスさんが吐き出す炎が地面の上を町の方向に進む無数とも見える虫達を薙ぎ払う。1回で何十匹もの虫が焼き尽くされている。流石だ! ドラゴニウスさんの力ならマークを助けられるかもと心に希望の灯が灯る。
<< ドラゴニウスさん、お願ですマークを助けて下さい。百足の毒にやられました。>>
<< 何! シロム、杖は使えんのか? 儂には出来んぞ。>>
ドラゴニウスさんの無慈悲な念話が届く。これでゲームセットかと思った時。
<< ドラ吉~~~~~~。あれ? シロムさんも? >>
この念話はアーシャ様!
<< アーシャ様! 助けて下さい! マークが、マークが死んでしまいます。>>
<< 何ですって! >>
その念話届いた途端。マークの身体が金色に輝いた。アーシャ様の神力だ! そしてアーシャさまのお姿が見えて来る頃にはマークは完全に回復していた。嬉しくてもう一度涙が出た。
「マーク、良かった.....。」
「なんだよ、涙なんか流して。おわっ! 飛んでるのかよ! 落とさないでくれよ。」
その後ドラゴニウスさんにマークを乗せてもらう。マークも僕に抱かかえられた状態でアーシャ様にご体面するのは嫌だろう。
<< ドラ吉、シロムさん、一体何があったの? >>
すぐ傍まで来たアーシャ様はスミカと同じ年くらいの少女を連れている、というかぐったりした少女を抱きかかえていた。こちらもアーシャ様に何があったのかお伺いしたいが、確かにこの状況を何とかすることが先だろう。
「む、虫です。鉱山から虫が湧いたのです。虫の群れです。神気が原因です、龍脈が....。坑道が貫いて.....。」
という要領を得ない僕の説明をマークが補足してくれる。我慢強く説明を聞いてくださったアーシャ様は頷いた。
「分かった。ここは私が何とかする。皆は少し離れていて、それとこの子をお願い。」
そう言って女の子を僕に渡す。僕とドラゴニウスさんはマーブルさんの屋敷へ引き返すことにした。ドラゴニウスさんが来たら騒ぎになるかもしれないが、僕の傍に残ってもらっているチーアルの妖精達だけではマークと女の子のふたりを運ぶのは無理だ。それにすでにこの騒ぎだ、ドラゴンを見て驚いたとしても直ぐに飛び去ってもらったら何とかなるだろう。
<< ドラゴニウスさん、アーシャ様おひとりで大丈夫でしょうか? >>
<< 心配するな、アーシャ様のお力は儂などとは比べ物にならん。まあ見ておるが良い。>>
ドラゴニウスさんがそう言った途端、背後が真っ赤に光った。振り返ると空に巨大な炎の竜巻が延びていた。そして虫達が次々に竜巻に飲み込まれて焼かれてゆく。
「すごい.....。」
思わず呟いた。正に神のなせる業だ。町の外にいた虫達を易々と飲み込んだ竜巻は今度は町の上空に移動した。そしてどういう訳か、虫だけが竜巻に吸い寄せられてゆく。人間や妖精には何の影響もない。町の人達は上空を通ってゆく炎の竜巻を唖然とした表情で眺めているだけだ。
<< この辺がアーシャ様のすごい所だ。儂と違って神力を及ぼす対象を細かく絞り込むことがお出来になる。>>
<< ドラゴニウスさんも十分すごいです。そう言えば、アーシャ様は "ドラ吉"と呼んでおられましたね。>>
そう言った途端、ドラゴニウスさんの目が怒りに燃える。
<< もう一度その名を口にしたら許さんぞ! その名を口にして良いのはアーシャ様だけじゃ。>>
当然の事ながらドラゴニウスさんに睨まれた僕は震え上がった。
<< も、も、申し訳ありません。お、お許しを。2度と言いません。>>
<< 分かれば良い。あれは儂の一生一代の不覚じゃ。幼きアーシャ様が儂の名を口にするのが難しそうなので、ついその名を言ってしまったのじゃ。>>
な、なるほど。ドラゴニウスさんも苦労している様だ。
マーブルさん宅に戻り、僕達は庭に降下する。すぐにアルムさんとマーブルさんが家から飛び出して来た。
「シロム様! マーク様を助けることができたのですね。」
地面に降りるなり抱き着いて来るアルムさん。アルムさんの良い匂いを嗅ぐと安心してその場に座り込んだ。
「キャーーーーーーッ、シロム様!」
狭いトンネルを抜けてアルガ様の祭壇のある大空間に出た途端、アルムさんが悲鳴を上げた。なにせチーアルによる荒っぽい移動の為に、洞窟の壁に当たって何度も手足を擦りむき、頭にいくつものたんこぶを作っての登場だったからだ。擦りむいた手足だけでなく、頭からも血が流れている様だ。ひとつひとつの傷は大したことはないが、全身から血を流している人間が目の前に現れたらショックだろう。
「大丈夫です。大した怪我ではありません。それより町に危険が迫っています。アルムさんは直ちに避難してください。そうだ、アルムさんだけでなく町の人全員が避難しないと....。」
「私の事よりシロムさんの手当てが先です。マーブルさんのお宅に戻りましょう。」
「シロム様、何事ですか?」
「虫です! 巨大な虫の大群が鉱山からこの町に迫っています。すでに沢山の人が殺されました。
「虫....ですか?」
「人間ほどもある大きな虫です。逃げないと危険です。大至急地上に戻ります。」
「畏まりました。」
マーブルさんを先頭に地上への道を急ぐ。本当は先に飛んで行きたいが、この鍾乳洞は迷路のようになっているから道に迷ったらアウトだ。チーアルに教えてもらいたくても知性が低下しているのか的確な返事は返ってこない。先ほどの狭いトンネルも入るときは怪我しなかったから、戻りで怪我をしたのは僕がチーアルをうまくコントロールできていないと言う事だろう。
マーブルさんの家に戻り最上階に駆けあがって窓から外を覗く。夜中だが町のあちこちで火災が起きておりその光りで以外に明るい。残念ながらすでに避難を呼びかけるタイミングは過ぎてしまった様だ。悲鳴があちらこちらから上がっているが、意外にも沢山の人達が虫に立ち向かっており、しかも善戦している様だ。もっとも多勢に無勢だからやられるのは時間の問題だろう。アルガ様の妖精も戦ってくれているがそれでも分が悪い。
それにどうやら町の一番奥にあるこの屋敷にも虫が迫って来ている様だ。暗くてよく見えないが近くでも人々が虫と戦っている声がする。
「くそったれ! 硬くて剣が刺さらねえ。」
「お前! 剣なんか役に立たねえぞ。楔を打ち込むでっかいハンマーを持って来い。思いっきり殴れば頭を潰せる。」
「わ、分かった。」
剣では戦えないのか? 僕達は護身用の短剣しか持っていない。心細いけどマーク達には逃げるか隠れるかしてもらった方が良さそうだ。ひとりで戦う....そう考えた途端恐怖に身震いする。そうだ! 僕には味方がいる。ドラゴニウスさんだ。ドラゴニウスさんが一緒に戦ってくれれば心強い。
「マーブルさん、この家に窓がなくて虫に侵入されにくい部屋はありませんか?」
「それなら、地下にある食糧貯蔵庫が良いかもしれません。」
「それなら、そこに隠れていてください。マーク、このふたりを頼むよ。剣では戦えないと誰かが叫んでいたから気を付けて。」
「シロムはどうするんだ。」
「僕は虫を退治して来る。」
「ひとりで大丈夫なのか?」
無理です、出来ませんと言いたいが、この中で戦えるのは僕だけだ。
「大丈夫。ドラゴニウスさんに助けてもらう。」
「分かった。気を付けろよ。」
その言葉を聞いて、僕は窓から町に飛び出した。もちろん妖精に運んでもらってだ。全身がガタガタ震えている。昔から虫は嫌いなんだ。普通の虫を見るだけで鳥肌が立つのに、今から相手にするのは人間並みに大きな虫だという。少なくともドラゴニウスさんと一緒でないと怖くて無理だ。
僕はドラゴニウスさんの居る森の方角に向かう。町では沢山の人がハンマーを持って巨大な虫と対峙している。あんな大きなハンマーを振り回せるなんてすごい力だ。そう言えばこの町は腕っぷしだけには自信のある人が多いと宿の女将さんが言っていた。鉱夫は力が無いと勤まらないのだろう。
目の前でひとりが屋根の上にいた蜘蛛に飛びつかれた。不味い! 夢中でチーアルの妖精にお願いすると一斉に蜘蛛に向かう。僕まで一緒だ。
「ぎゃーーーーーー」
迫りくる蜘蛛の姿に思わず悲鳴を上げた、だが僕に先行していた妖精達が蜘蛛に激突すると蜘蛛は一瞬でバラバラになって弾き飛ばされた。蜘蛛の体液がもろに僕に降りかかってくる。酸っぱい物が喉にこみあげて来て、たまらず地面に降り立ち胃の中の物をぶちまけた。
「大丈夫か? ありがとうな、助かったぜ。」
逞しい男の人が声を掛けて来る。たぶん僕が助けた人だろう。口が利ける状態ではない僕はジェスチャーで答え、再度飛び立った。流石に恥ずかしい。
でもすぐに恥かしいなどと言っていられる状態ではなくなった。助けないといけない人はいくらでもいる。その内にチーアルの記憶から戦い方を学んだ。妖精には5種類あるらしい、緑の土の妖精、白の風の妖精、赤の火の妖精、青の水の妖精、そして黒の闇の妖精。この5種がグループとなって戦うのが一番強いとチーアルの記憶が教えてくれる。どうやらアルガ様の妖精達も同様に5人グループで虫を攻撃している様だ。チーアルは闇の精霊だから分解して生じた妖精も闇が一番多い。5人グループを作るのに余った闇の妖精は僕の手元に置いて、残りの妖精にはすべて出撃してもらう。
僕は妖精のグループ毎に戦いを指示する。妖精は知性が低いとチーアルが言っていたが、それでも大雑把な指示を与えれば後はやってくれる。これなら複数の虫を同時に攻撃出来る。
僕が助けた人達は、最初何が起きたのか分からない様だったが、その内僕に注目が集まり始めた。確かに僕がターゲットを指さすだけで目標の虫が弾け飛ぶのだ。妖精は普通の人には見えないから、すべて僕がやっていると誤解するだろう。でも正直その時はそんなことを考えている余裕もなかった。なにせ攻撃する妖精達の視界がそのまま心に伝わって来るのだ。大写しになった虫の頭部や、飛散する体液、飛び散る沢山の足。吐き気を堪えるだけで必死だ。ドラゴニウスさんを呼びに行くことすら忘れていた。
突然、町の外で空から巨大な炎が地面に向かって放たれた。沢山の虫が焼かれているのが見える。
<< ドラゴニウスさん! >>
流石ドラゴニウスさん、何も言わなくても助けに来てくれたのだ。助かった....と安堵が心を支配する。だけどドラゴニウスさんから届いた念話は安心できるものでは無かった。
<< シロムか? 何が起こった? いや、話は後だな。とにかくこの虫どもを退治しなければならん。儂は町の外にいる虫を殺す。町の中はお前に任せるぞ。町の中で儂が攻撃すれば人間達を巻き込むからな。>>
町の中に入り込んだ虫は僕達人間で何とかしろと言う事だ。仕方がない、ドラゴニウスさんがいればこれ以上町に入り込むことは無いだろう。
結局、それからも必死の戦いが続くが、ドラゴニウスさんのお陰で新たに町に入り込む虫がいないから、少しずつ数が減って来た。町の人達も頑張っているし、アルガ様の妖精の活躍もすごい。
何とかなりそうかなと考えた時、僕の名前を呼ぶ声が聞こえた。アルムさんだ! こちらに駆け寄って来る。
「シロム様! マーク様が大変です、百足の毒にやられました。」
恐れていたことが起きた様だ。アルムさんをつれて屋敷の食糧貯蔵庫に入ると、マークが床に横たわっていた。アルムさんは僕を探して走り回っていたらしい。虫が溢れる町を走り回っていたと言う事か!
「マーク!」
「食糧貯蔵庫に避難する途中で襲われてしまって、マーク様は私達を助けようと戦って下さったのです。百足に咬まれてからかなり時間が経っています。急がないと....。」
急いでマークに駆け寄るが、そこで最悪の事実に気付く。もう預言者の杖は使えない。更にチーアルの記憶によると、チーアルやアルガ様にも人間の治療は出来ない。
マークの顔色は土気色で放って置けば手遅れになるのは間違いない。僕は無力感に打たれその場に座り込んだ。
「シロム様。お早く! マークさんが死んでしまいます。」
アルムさんが必死に叫ぶ。
「御免、僕にはどうしようもない。」
「そんな.....」
それを聞いてアルムさんも床の上に座り込む。
「シロム様、マークさんは私達を助けるために戦って......。何とかなりませんか?」
「分かってる。マークはそんな奴なんだ.....。」
ぽろぽろと涙が零れた。くそ! 何か! 何か手はないか.....そうだ! ドラゴニウスさんだ! アルガ様には無理でもドラゴニウスさんならマークを回復させることが出来るかもしれない! 確信はないがここでマークの死を待つより100倍ましだ。
「マークは必ず助けます。」
僕はそう言ってマークを抱え上げた。体格の良いマークは重いがそんなことを言っている場合ではない。
「チーアル、お願い!」
僕はマークを連れて再び飛び立つ。目指すはドラゴニウスさんが戦っているであろう町の外、鉱山の方向だ。
近づくにつれドラゴニウスさんが戦っている姿が見えて来る。暗闇の中でドラゴニウスさんが吐き出す炎が地面の上を町の方向に進む無数とも見える虫達を薙ぎ払う。1回で何十匹もの虫が焼き尽くされている。流石だ! ドラゴニウスさんの力ならマークを助けられるかもと心に希望の灯が灯る。
<< ドラゴニウスさん、お願ですマークを助けて下さい。百足の毒にやられました。>>
<< 何! シロム、杖は使えんのか? 儂には出来んぞ。>>
ドラゴニウスさんの無慈悲な念話が届く。これでゲームセットかと思った時。
<< ドラ吉~~~~~~。あれ? シロムさんも? >>
この念話はアーシャ様!
<< アーシャ様! 助けて下さい! マークが、マークが死んでしまいます。>>
<< 何ですって! >>
その念話届いた途端。マークの身体が金色に輝いた。アーシャ様の神力だ! そしてアーシャさまのお姿が見えて来る頃にはマークは完全に回復していた。嬉しくてもう一度涙が出た。
「マーク、良かった.....。」
「なんだよ、涙なんか流して。おわっ! 飛んでるのかよ! 落とさないでくれよ。」
その後ドラゴニウスさんにマークを乗せてもらう。マークも僕に抱かかえられた状態でアーシャ様にご体面するのは嫌だろう。
<< ドラ吉、シロムさん、一体何があったの? >>
すぐ傍まで来たアーシャ様はスミカと同じ年くらいの少女を連れている、というかぐったりした少女を抱きかかえていた。こちらもアーシャ様に何があったのかお伺いしたいが、確かにこの状況を何とかすることが先だろう。
「む、虫です。鉱山から虫が湧いたのです。虫の群れです。神気が原因です、龍脈が....。坑道が貫いて.....。」
という要領を得ない僕の説明をマークが補足してくれる。我慢強く説明を聞いてくださったアーシャ様は頷いた。
「分かった。ここは私が何とかする。皆は少し離れていて、それとこの子をお願い。」
そう言って女の子を僕に渡す。僕とドラゴニウスさんはマーブルさんの屋敷へ引き返すことにした。ドラゴニウスさんが来たら騒ぎになるかもしれないが、僕の傍に残ってもらっているチーアルの妖精達だけではマークと女の子のふたりを運ぶのは無理だ。それにすでにこの騒ぎだ、ドラゴンを見て驚いたとしても直ぐに飛び去ってもらったら何とかなるだろう。
<< ドラゴニウスさん、アーシャ様おひとりで大丈夫でしょうか? >>
<< 心配するな、アーシャ様のお力は儂などとは比べ物にならん。まあ見ておるが良い。>>
ドラゴニウスさんがそう言った途端、背後が真っ赤に光った。振り返ると空に巨大な炎の竜巻が延びていた。そして虫達が次々に竜巻に飲み込まれて焼かれてゆく。
「すごい.....。」
思わず呟いた。正に神のなせる業だ。町の外にいた虫達を易々と飲み込んだ竜巻は今度は町の上空に移動した。そしてどういう訳か、虫だけが竜巻に吸い寄せられてゆく。人間や妖精には何の影響もない。町の人達は上空を通ってゆく炎の竜巻を唖然とした表情で眺めているだけだ。
<< この辺がアーシャ様のすごい所だ。儂と違って神力を及ぼす対象を細かく絞り込むことがお出来になる。>>
<< ドラゴニウスさんも十分すごいです。そう言えば、アーシャ様は "ドラ吉"と呼んでおられましたね。>>
そう言った途端、ドラゴニウスさんの目が怒りに燃える。
<< もう一度その名を口にしたら許さんぞ! その名を口にして良いのはアーシャ様だけじゃ。>>
当然の事ながらドラゴニウスさんに睨まれた僕は震え上がった。
<< も、も、申し訳ありません。お、お許しを。2度と言いません。>>
<< 分かれば良い。あれは儂の一生一代の不覚じゃ。幼きアーシャ様が儂の名を口にするのが難しそうなので、ついその名を言ってしまったのじゃ。>>
な、なるほど。ドラゴニウスさんも苦労している様だ。
マーブルさん宅に戻り、僕達は庭に降下する。すぐにアルムさんとマーブルさんが家から飛び出して来た。
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