神の娘は上機嫌 ~ ヘタレ預言者は静かに暮らしたい - 付き合わされるこちらの身にもなって下さい ~

広野香盃

文字の大きさ
49 / 102

48. 謎の文字

しおりを挟む
(シロム視点)

 旅から帰ってから一月ほど経った。この間の大きな変化としては、アーシャ様のお作りになった城壁の使用が開始され。町の面積が4倍くらい大きくなったことと、町への移民が開始されたことだ。それ以外は、町としても個人的にも問題は起きていない。

 今日もキルクール先生の授業を受けている。自分で言うのも何だが、沢山の死線を潜り抜けると平和な生活の有難さが実感できる。

「........と言うわけで、この国の行政組織には国の治安を守る警察庁、税金とその使い道を管理する財務庁、他の国との交渉を行う外務庁、神殿を管理する神殿庁、移民を管理する移民庁、国民の教育環境を整備する教育庁、国の防衛を行う防衛庁、インフラの整備を行う国土庁があります。これらを統括しているのが神官長様が兼任する国王様という.........」

 キルクール先生がそこまで話したとき、教室の扉がノックされた。先生が返事をすると学校の受付の男性が扉を開ける。

「授業中に失礼します。神殿からキルクール先生にお手紙です。至急渡して欲しいとのことでしたので。」

 神殿からの至急の手紙.....嫌な予感がする。そしてその予感は当たった。手紙を読み終えた先生は僕に向かって、

「シロムさん、神官長様が至急来て欲しいとのことです。校門の前に馬車を待たせているのでそれに乗って欲しいそうです。」

 何だろう? 実は神官長様には何回か呼び出しを受けている。国の行政について聖なる山の神様にご意見を伺いたい重要案件がある場合に、神様と念話で話が出来る僕が間に入るわけだ。もっともお尋ねしたのは町で開催予定の料理大会のことで、答えて下さったのはアーシャ様だった。これだって神様に捧げる料理の事なので重要案件には違いないが、この国は平和だとも考えることが出来る。時間も学校が終わってから迎えの馬車で神殿に向かえばよかった。

 だけど今回は違う。授業中にも関わらず至急来いとの内容だ。

「シロムさん、行ってらっしゃい。授業で聞けなかったところは宿題にしておきますね。」

 そんな....と思ったが仕方がない。僕はいつもの様に亜空間から預言者の杖を取り出し、身体を透明化して校門に向かった。校門のそとでは神殿の馬車がとまっており、僕はいつもの様に乗り込んでから透明化を解いた。

「お待たせしました、リーガセンさん。」

 リーガセンさんは神官長の秘書だ。

「とんでもありません、シロム様。こちらこそご勉学の邪魔をしてしまい申し訳ありません。」

リーガセンさんが御者に出発の指示をするのを待って尋ねる。

「それで何があったのですか?」

「詳しくは神官長様からお話があると思いますが、何人かの巡礼者の頭の上に奇妙な文字が現われまして....。」

「文字ですか?」

「『私は間者です』と書かれております。」

「え? 頭にその文字が書かれているのですか?」

「いえ違います。頭に直接書かれているのではなく、頭の上の空間に文字があるのです。触ろうとしても手がすり抜けてしまいます。こんな事が人間に出来るはずがありません。それでこれは聖なる山の神様が私達にガニマール帝国の間者の存在を知らせて下さっているのではないかとの話になりまして。」

 なるほど、それで神様に確かめるために僕が呼ばれたわけだ。

「それはたぶん精霊の仕業ね。」

 突然僕の膝の上で実体化したチーアルが答える。

「こら、リーガセンさんがびっくりするじゃないか。」

「い、いえ...大丈夫です。初めましてチーアル様、リーガセンと申します。」

 さすが神官長様の秘書。チーアルの存在を聞いていたとはいえ、いきなり目の前に黒ずくめの幼女が現われたのにしては落ち着いたものだ。」

「チーアルよ。それよりその人達に会える? きっと近くに精霊がいるはずよ。」

「どうして精霊の仕業だと思うんだ?」

「だって精霊王様が仰っていたじゃない。聖なる山の神への借りを返すために、この国を配下の精霊達に守らせるって。だから敵国の間者を知らせてくれたのよ。」

 そう言えばそんなことを仰っていたような....。

「リーガセンさん、その人達に会う事は出来ますか?」

「その者たちは警察庁で事情聴取をしているはずです。シロム様なら会うことも出来ると思いますが、手続きに若干時間を要するかと。いずれにしろ神官長様の許可が必要です。」

「それなら私がちょっと行って来る。警察庁よね。私には許可なんて必要ない。」

「場所は分かるのか?」

「当然でしょう。この町へ来て何日経ったと思っているの。毎日遊びに出歩いているのじゃないわよ。」

 そうだったんだ。てっきり遊びに行っているのかと思っていた。

「失礼ね! まあいいわ。とりあえず行って来る。何か分かったら念話で連絡するわ。」

 チーアルはそう言って実体化を解いて馬車から飛び出した。

「流石は預言者シロム様です。精霊すら力を貸してくれるのですね。」

「ぼ、僕が頼りないから、見るに見かねてだと思います。」

「とんでもありません。神官長様が頼りにされている理由が分かりました。」

 リーガセンさんの褒め殺しに閉口している内に馬車は神殿に到着した。僕は再び身体を透明化してリーガセンさんの後に続く。リーガセンさんなら神官長様のいる建物の入り口にいる兵士にも顔パスだから、僕はその後をついて行けばよい。そのまま神官長様の執務室まで入ってから透明化を解いた。リーガセンさんは僕が現われたのを確認してから部屋を出て行く。

「おお、良く来てくれましたな、シロム殿。」

「とんでもありません。おおよその話は馬車の中でリーガセンさんから伺いました。ですが、チーアルの話では聖なる山の神様ではなく精霊王アートウィキ様の為されたことである可能性が高そうです。いまチーアルが確認に警察庁に赴いておりますのでしばらく待った方が良いかもしれません。」

「そうでございましたか。それではお茶でも飲みながら待つとしましょうか。」

 神官長が部屋の扉を開けて何か言うと、すぐにリーガセンさんがお茶とお菓子を持って現れた。やはり優秀な秘書だ。

 だがソファに座ってお茶を飲み始めた途端、チーアルから念話が届く。

<< やっぱり思った通り精霊の仕業だったわよ。今からこの町の責任者をつれてそちらに向かうわ。>>

 警察庁も同じ神殿の敷地にある。ここまで来るのに時間は掛からないだろう。案の定チーアルの言ったことを神官長様にお伝えし、しばらく待っている内にチーアルともうひとりの精霊が室内で実体化した。人型ではなく、大きな鷹の姿をしている。

<< こっちが私の主人のシロムよ、もうひとりは神官長とかいう人。この国の偉い人らしいわよ。>>

 神官長様に対してなんとも失礼なチーアルの言葉に身が縮む。念話なので神官長様に聞かれていないことが幸いだ。

<< アナクリムと申す。この姿では人語を話せんのでな念話で失礼する。元はウィンディーネ様の配下だったが、ウィンディーネ様があのようなことになられたのでな、今は精霊王様から直接ご命令を受けて動いておる。>>

<< は、初めまして、シロムと申します。あの....ウィンディーネ様はいかがですか? まだ復活されていないのですか....。>>

<< お前達人間がそれを言うか!!! まったく! 精霊王様のご命令でなければこの様な役目を引き受ける気はなかったのだ。人間に関わったばかりにウィンディーネ様はあの様な事になられたのだからな。>>

<< も、申し訳ありません。>>

どうやらアナクリムさんは、人間に対してかなり腹を立てている様だ。それにしてもウィンディーネ様はまだ復活されていないのか.....。もしかしたらと、不安が心を満たす。

<< アナクリム様、ご立腹されるのはごもっともです。ですが、どうかお教えください。ウィンディーネ様はどの様なご容態なのでしょうか? >>

<< 難しいな.....。精霊王様が手を尽くして下さっているが、あと一月を待たずして消滅してしまう可能性が高い.....。>>

<< そんな.... >>

 なにか方法は無いのかと問いかけて止める。あればやっているだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

【アイテム分解】しかできないと追放された僕、実は物質の概念を書き換える最強スキルホルダーだった

黒崎隼人
ファンタジー
貴族の次男アッシュは、ゴミを素材に戻すだけのハズレスキル【アイテム分解】を授かり、家と国から追放される。しかし、そのスキルの本質は、物質や魔法、果ては世界の理すら書き換える神の力【概念再構築】だった! 辺境で出会った、心優しき元女騎士エルフや、好奇心旺盛な天才獣人少女。過去に傷を持つ彼女たちと共に、アッシュは忘れられた土地を理想の楽園へと創り変えていく。 一方、アッシュを追放した王国は謎の厄災に蝕まれ、滅亡の危機に瀕していた。彼を見捨てた幼馴染の聖女が助けを求めてきた時、アッシュが下す決断とは――。 追放から始まる、爽快な逆転建国ファンタジー、ここに開幕!

追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る

夏見ナイ
ファンタジー
貴族の三男に転生したカイトは、【鑑定】スキルしか持てず家からも勇者パーティーからも無能扱いされ、ついには追放されてしまう。全てを失い辺境に流れ着いた彼だが、そこで自身のスキルが万物の情報を読み解く最強スキル【万物解析】だと覚醒する! 隠された才能を見抜いて助けた美少女エルフや獣人と共に、カイトは辺境の村を豊かにし、古代遺跡の謎を解き明かし、強力な魔物を従え、着実に力をつけていく。一方、カイトを切り捨てた元パーティーと王国は凋落の一途を辿り、彼の築いた豊かさに気づくが……もう遅い! 不遇から成り上がる、痛快な逆転劇と辺境スローライフ(?)が今、始まる!

安全第一異世界生活

ファンタジー
異世界に転移させられた 麻生 要(幼児になった3人の孫を持つ婆ちゃん) 新たな世界で新たな家族を得て、出会った優しい人・癖の強い人・腹黒と色々な人に気にかけられて婆ちゃん節を炸裂させながら安全重視の異世界冒険生活目指します!!

滅せよ! ジリ貧クエスト~悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番(金髪幼女)に!?~

スサノワ
ファンタジー
「ここわぁ、地獄かぁ――!?」  悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、気がつきゃ金糸のような髪の小娘に!? 「えっ、ファンタジーかと思ったぁ? 残っ念っ、ハイ坊主ハラペコSFファンタジーでしたぁ――ウケケケッケッ♪」  やかましぃやぁ。  ※小説家になろうさんにも投稿しています。投稿時は初稿そのまま。順次整えます。よろしくお願いします。

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

処理中です...