神の娘は上機嫌 ~ ヘタレ預言者は静かに暮らしたい - 付き合わされるこちらの身にもなって下さい ~

広野香盃

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47. カンナへの告白

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(シロム視点)

 神官長様への報告も終わり、僕はようやく懐かしの我家に帰ることが出来たのだった。いつもの様に裏口の扉から家にはいる。

「あら、お兄ちゃんお帰りなさい。合宿は終わったの?」

 僕の家族には、僕は急遽決まった神官候補生を対象とした合宿に参加していたことになっている。神のお告げで急に決まった合宿だ。齟齬の無い様にカーナとカリーナには実際に神殿で合宿してもらったらしい。今頃ふたりも合宿を終えて家でくつろいでいるはずだ。明日学校であったらお礼を言わないと。

 チーアルだが、身体の実体化を解いて僕と一緒にいる。何か言い訳を考えて、家族として一緒に暮らそうかと考えたのだけれど、チーアルに「精霊は食事をしないし成長もしない。だから直ぐにバレるわよ」と言われて諦めた。
 
 精霊が実体化を解くと身体を透明化した時と同じ様に人には見えなくなるから、家族と同じ家に居ても存在を知られる心配が無い。扉や家の壁くらいの薄い障害なら通り抜けることも出来る。ただし肉声で話すことはできないし、神官の様に神気を感じることが出来る者には見えるから要注意だ。

 家族だけでなく隣に住んでいるカンナにも僕が帰ったことを伝えないといけない。カンナには神官長様からすべて本当のことを伝えてあるらしい。だけど勇気が出ない、無事に帰ったことを報告するだけなら問題ないのだが、アルムさんのことをどう話したら良いか分からない。あれやこれやと悩んで、結局カンナに会いに行ったのはだいぶ時間が経ってからだった。

 自分の部屋から降りて来たカンナと目が会うと、手招きでカンナの部屋へ通され扉を閉めた途端、頭をペシッと叩かれた。

「ドラゴンに乗り込んで飛んで行ったと聞いた時は肝が冷えたわよ。非常識にも程があるわ。反省しなさい!」

 と言って正座させられる。カンナにアルムさんのことを言わなければいけないと思うが言い出す勇気が出ない。全身にびっしょりと脂汗をかいた。

「あ、あの、その、実は.....」

 と言いかけるが後が続かない。

「は~、相変わらずのヘタレね。でも安心したわ、シロムの性格が変わっていたらどうしようかと思ってた。アルムさんのことでしょう。マークが知らせに来てくれたわよ。どうせシロムは言い出せないだろうからってね。」

 でかしたマーク! いや余計な事を....。

「それで、どうするつもりなの?」

「それが、マリアさんにも説得してもらったんだけど、頑としてここに残ると言い張って.....。」

「それで?」

「そ、それで、僕の家で働きたいって.....。」

「そ~れ~で~?」

 こ、怖い。辛い体験をすれば心が強くなるなんて嘘だ。僕の心は旅にでる前より弱くなった気がする。虫恐怖症は悪化したし、それに先端恐怖症が追加された。尖った物をみるとゴリアスさんに長剣を投げられた時の記憶が蘇る。

「そ、その.....」

「私に別れて欲しいの?」
「違う!」

 自分でも意外なほど強い否定の言葉が出た。カンナと別れたいわけじゃない。

「なら良いわよ。マークが預言者は何人でも妻を持てると言っていたしね。シロムに惚れるなんて見どころがあるじゃない。」

「い、いいの?」

「まだよ、今度連れて来なさい。話はそれからよ。」

「ひ、ひゃい。」

 カンナの家から逃げ出すように外にでてから気付く。一応会ってくれるんだ....すごく心が広いのかも。

 家に戻り、久々に家族揃っての夕食を食べる。以前はこの場にアーシャ様もいらしたのだと思うと灌漑深い。父さんに合宿の事を聞かれ、しどろもどろになりながらもなんとかやり過ごす。

「それにしても、預言者様が再来なされるとはねえ、ありがたい事じゃ。長生きはするものじゃね。」

 と祖母ちゃんが口にする。

「友達が見たらしいのよ。預言者様はお付きの人を従えてさっそうとドラゴンに乗って飛んで行ったって。ローブを着ていたけど動きがキビキビしていて若そうだったって言ってた。きっとかっこいい人なんだろうな。」

 スミカが夢見る様に口にする。きっとそのさっそうとした預言者様はマークだよ。僕はお付きの人と思われたわけだ。

「それにしても御子様の次は預言者様か、この町に何か良くないことが怒るのかもしれんな。」

「そんなこと言うものじゃありませんよ。たとえそうだとしても、きっとそれを防ぐために御子様や預言者様が現われて下さったんですよ。」

「そうだな、俺達には聖なる山の神様が付いているんだ。心配することは何もないさ。」

「その通りですよ。」

 僕もそう思う。もっとも預言者だけは当てにならないけどね....。

「そうそう、シロムはまだ聞いていないかな。アーシャさんが一昨日お別れを言いに来てくれたのよ。」

 その話はアーシャ様から聞いている。家出したアーシャ様を心配した家族が探しにきて、アーシャ様を見つけて有無を言わせず連れ帰ったと言う筋書きにしたらしい。それで、一旦家族の元に戻ってから、家族を説得してお世話になった二葉亭に挨拶にやって来たわけだ。

「滞在許可書の期限が切れていたからね、本来なら町に入れないのだけれど、私達に挨拶したらすぐ帰ると言う事で、ジークさんが同行することで許可してくれたらしいの。粋な計らいじゃない。とにかくアーシャさんが無事だったので安心したわ。」

 警察庁長官のサマル様が、偶々新しい門の視察に行く途中に立ち寄ったことにして、ジークさんにそうする様に言ってくれたらしい。もちろん神官長様の指示だ。

「でもご家族はアーシャ様を町で見かけて連れて帰られたらしいけど、アーシャさんが外に出たのなら扉に鍵が掛かっていたのが不思議なのよね。」

「き、きっと何かの勘違いだよ。ひょっとしたら僕が鍵を掛けたのかも....。」

 と慌てて取り繕う。アーシャ様もそこまでは考えてなかった様だ。

 こんな感じで僕は何とか日常生活に戻ることが出来たのであった。そしてものすごく以外なことに、カンナとアルムさんは大の仲良しになった。詳しいことは話してくれないのだが、なんでもカンナの家の前で長い間うろうろしている女性がいて、僕から聞いたアルムさんの特徴に一致するのでもしかしてと思い部屋の窓から覗いていたしい。(アルムさんが近い内に婚約者様に挨拶に行きますと言っていたから、きっとカンナの家までやってきたものの何と言えば良いか分からずに中に入れなかったのだと思う。) そしたらしばらくして、後から来た黒髪の女性がアルムさんに散々僕の悪口を言い始めたらしい。

「聞くに堪えない罵詈雑言だったわ」

 というのがカンナの談だ。それはマリアさんに間違いないだろう。それに対してアルムさんが反論して、結局ふたりは喧嘩別れとなってしまったらしいが、その後カンナがアルムさんに声を掛けて自分の部屋に招き入れたらしい。

「だって、シロムの事をあれだけ正しく評価してくれる女性は他には居ないわよ。これは放って置けないと思ったわけよ。」

 と言うが僕の正しい評価とは何かについては教えてくれなかった。ふたりの秘密らしい。その後ふたりはカンナの部屋で話をして意気投合したと言うわけだ。

「と言うわけで、私達ふたりともシロムのお嫁さんになることにしたの。シロムは預言者様だから問題ないものね。よろしく。」

 と言われたが、僕はアルムさんはもちろん、カンナにだって求婚の返事をしていない。僕の意思はどうなるんだと反論したかった.....もちろん、その勇気はなかったけど。
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