神の娘は上機嫌 ~ ヘタレ預言者は静かに暮らしたい - 付き合わされるこちらの身にもなって下さい ~

広野香盃

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46. 精霊王の約束

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(シロム視点)


「俺にそんな口を.....」

 そう言った皇子の額にナイフが突き刺さった! ゴリアスさんのナイフだ。そしてその途端ウィンディーネさんの身体が妖精に分解する。

<< あ奴め、やはり自分が死んだらウィンディーネにも消える様に呪縛を掛けていたな! 頼む、ボルステルス手伝ってくれ。ウィンディーネの妖精をすべて捕らえるのだ。ひとつも逃がすな。我らなら出来る。>>

<< 心得た。貸しにしておいてやる。>>

 ウィンディーネさんが分解した妖精が次々と球形の結界に捕らえられてゆく。聖なる山の神様と精霊王様の仕業だ。もっとも目的はウィンディーネさんを助けるためらしい。

「シロムさん、ありがとうございました。立派でしたよ。」

近くまで走ってこられたアーシャ様が言葉を掛けて下さる。

「とんでもありません。すべてチーアルのお陰です。」

 そう言いながら思わず自分の股間を覗き込んだ。染みが出来ている。ゴリアスさんに顔面に向かって剣を投げられた時漏らしてしまったのだ。顔が赤くなる。さっき杖を使って傷を治したとき一緒に乾かしておけばよかった。

「まあ、服が血で汚れてしまいましたね。」

 アーシャ様がそう言うと、氷の矢が刺さった傷から流れ出た血の汚れが一瞬で消えた。それと同時に矢による服の裂け目もまるで時間を巻き戻した様に修復された。股間の染みも消えている。きっと気を使って下さったのだ。アーシャ様のやさしさが心に染みた。

「おい、精霊使い。」

 突然男の声に呼びかけられてビクッとする。ゴリアスさんがこちらに歩いて来る。

「そう警戒するな。もう勝負は終わったんだ何もせんよ。それにしても精霊と言うのは大したものだな。こんな小さい奴でも俺に勝っちまうんだからな。」

 と感心した様に言うゴリアスさん。チーアルが実力の10分の1くらいしか出せてなかったと言うのは言わない方が良いだろう。

「それでだ、お前、俺を雇う気はないか? 見てのとおりガニマールの皇子を殺しちまったからな。ガニマールと敵対している国に逃げるしかないんだよ。どうだ、これでも傭兵仲間では負け知らずのゴリアスとして有名なんだ。役に立つと思うぜ。」

 「い、いや、あの........」

 突然俺を雇えと言われても僕は只の学生だ。傭兵なんて雇う財力があるわけが無い。それにカルロ教国は神に守っていただいているから軍隊なんて形だけのものだ。神官長に相談してもどうなるか分からない。

「止めときなさい。カルロ教国は神に守られているから、貴方がいくら優秀な傭兵でも活躍の場がないわ。それより貴方、私の下に付く気はない? 私はジャニス。ガニマール帝国の第八皇女よ。」

「皇女だと!? まったく、ここに居るのは神に精霊に皇子に皇女かよ。とんでもない所だな。だがよ、俺はお前さんの兄を殺したんだ。ガニマールに戻る訳にいかないだろう。」

「心配しないで。あれは兄が悪い。自分の為に戦って傷ついた貴方を役立たずとして見捨てたのだもの。それにあなたが兄を殺したことはここにいる者しか知らないのよ。黙っていれば誰にも分からないわ。」

「黙っていてくれるのか?」

 ゴリアスさんに見つめられて、コクコクと頷く。考えてみればここにいる人間は僕と、ジャニス皇女、それにゴリアスさんだけだ。この3人が口にしなければバレることはない。

「あんたはどうなんだ?」

 ゴリアスさんは今度はアーシャ様に尋ねる。御子様に対して失礼だと思ったが、アーシャ様は気分を害することなく答えられた。

「いいわよ。口外しないと約束するわ。でもジャニス。私の与えた罰を忘れていない。貴方はガニマール帝国の新しい王が決まるまでここで暮らすのよ。」

「そうだったわね。でも御子様、それで良いの? これで正室の子供3人は全員後継者競争から脱落したけど、私にはまだ側室が生んだ兄妹が12人もいるの。警戒すべきなのはその中の数人だけだけど、それでも私やアキュリス兄さんみたいなのがまた現れるかもしれないわよ。」

「そ、それは....。」

「それなら私が力を貸そう。ボルステルスには大きな借りが出来たからな。配下の精霊達にカルロ教国とその周辺を守らせる。それにガニマール帝国の皇子、皇女にも監視を付け不審な動きをするようなら知らせよう。知らせる先は....そうだな、お前でどうだチーアル。」

 精霊王様だった。ウィンディーネさんが分解した妖精の回収は終わった様だ。

「わ、私でございますか?」

「先ほどの戦いあっぱれであった。それに主人との仲も良さそうだしな、お前に知らせればお前の主人から必要な者に連絡してくれるであろう。」

「か、畏まりました。」

 さしものチーアルも精霊王様の前では畏まる様だ。それにしてもどうか僕を介さずにやって欲しい。

「それで良いな。ボルステルス。」

<< 了解した。それで貸し借りなしだ。>>

「と言うわけだ。皇女よ、そこの武人を手に入れるのは諦めるのだな。武人よ、元居た場所に帰るなら連れて行ってやるがどうする?」

「おう、頼むぜ精霊の親分」

「精霊王アートウィキだ。配下の精霊の前で今の様なことを口にすれば命の補償はせん。気を付けることだな。」

「おお怖い。分かりました精霊王様。」

 ゴリアスさんが精霊王様にわざとらしく頭を下げる。この人堪えてないな、恐怖という感情が無いのかもしれない。一方、皇女様は残念そうだ、後一歩でアーシャ様を説得できそうだったからな。

 ゴリアスさんを連れて飛び立とうとする精霊王様に、僕は精一杯の勇気を振り絞って聞いてみた。

「あ、あの、精霊王様。ウィンディーネ様は復活出来るのでしょうか。」

「ほう、ウィンディーネを心配してくれるか。心配するなと言いたいが私にも確証はない。だが出来る限りのことをすると約束しよう。」

 それだけ言い残して精霊王様は飛び立った。よろしくお願いしますと心の中で呟いた。

 こうして僕は無事に供物の間に帰って来た。供物の間では神官長様が焦燥し切った顔で僕を待っており、部屋から出た途端にアルムさんに泣きながら抱き着かれた。僕が供物の間で突然消えたことで心配を掛けた様だ。

「まあ俺は大丈夫だと思っていたけどな。聖なる山の神がシロムに酷いことをするはずがないからな。それにしても精霊王様か.....すごい体験をしたじゃないか! 羨ましいぜ。」

 マークに神域での体験を話した感想がこれだ(もちろんアキュリス皇子がゴリアスさんに殺されたことは伏せてある)。マークみたいになんでもポジティブに考えられる日は僕には来ないだろうな。心底羨ましい。次は是非マークに代わって欲しい。

「それではこの町にガニマール帝国の間者が多数入り込んでいるのですな。」

「ジャニス皇女の話ではそうらしいです。でも精霊王様が配下の精霊にこの国を守らせると仰っておられましたから、しばらく様子を見ても良いかもしれません。」
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