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82. ジョルジュ皇子
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(シロム視点)
その後は引き攣った顔のジーナさんに案内されてダイニングルームへ向かった。ダイニングルームでは巨大な長方形のテーブルが据えられていたが、テーブルに付くのは僕とジャニス皇女だけだ。おまけに長方形のテーブルの端と端に座席が用意されているから、距離があり過ぎて微妙に話辛い。ジーナさんはジャニス皇女の給仕をするためにジャニス皇女の後に立ち、ウィンディーネ様は僕の給仕の為に僕の後に立ってくれていたメイドさんに交代してもらって僕の後に立った。僕に給仕してくれるつもりらしい。そう言えばいつの間にか服装がメイド服に変っている。
夕食はコース料理の様で、調理場からワゴンに乗せて順に運ばれてくる。最初はスープからだ。ウィンディーネ様はジーナさんの真似をして僕の前のテーブルにスープの皿を置いてくれるが、やはり動きがぎこちない。当然ながら給仕なんてしたことがないのだろう。無理をしないでと言いたいが、僕の為にと張り切っているウィンディーネ様の顔を見て言えるわけが無い。
カルロの町ではチーアルはしょっちゅう僕と一緒にいたが、ウィンディーネ様はそのサイズ故僕と離れて泉の広場に居てもらうしかなかった。ひょっとしたらもっと僕と一緒にいたかったのか?
「鴨肉の包焼香草添えでございます。」
その内に料理の説明までしてくれる様になった。もっともジーナさんの説明を繰り返しているだけではあるが大変な進歩だ。だってウィンディーネさんは食事をしない。当然料理の知識なんて無いはずで、多分自分の言っている説明の内容も分かっていないと思う。そんな状態でジーナさんの言ったことを一字一句間違えずに繰り返すだけでも大したものだ。
だがしばらくして遂にボロが出た。次の料理をお盆に乗せて運んでいる最中にふかふかの絨毯に足を引っかけ転びそうになり、そのはずみで盆に乗っていた料理が皿ごと宙に舞ったのだ。だが流石は大精霊様。ウィンディーネさんが空を舞う皿を見つめた途端、空中で皿が停止し、その皿に同じく空中にあった料理が綺麗に盛られてゆく。
「失礼いたしました。やはり私にはこちらの方が合っている様です。」
ウィンディーネ様がそう言うと料理が盛られた皿が僕の前まで飛んで来てテーブルの上に静かに着地した。料理に掛かっていたソースまで綺麗に元通りになっている。それを見たジーナさんの顔が再び引き攣った。
その後ウィンディーネ様は運ばれて来た料理を手で持って運ぶことはせず。料理が乗った皿はワゴンから宙に浮かび僕の前に飛んでくる様になった。ウィンディーネ様にとってはこちらの方が簡単らしい。
「お待ちください。ジャニス様はご来客中でございます。」
しばらくして廊下の方で誰かを制止する声がしたと思ったとたん、僕達の居るダイニングルームの扉が大きく開かれ1人の男性が現われた。数名の護衛と思われる兵士を引き連れている恐らく身分の高い人なのだろう。
「ジャニス、久しぶりだな。愛する妹が無事に帰還したと聞いてな。祝いを言いに来てやったぞ。」
「ジョルジュ兄さん、わざわざ出向いて下さり有難うございます。でも申し訳ありませんが今は大切なお客様と食事をしているところですの。状況を配慮いただけると有難いのですが。」
「来客だと。せっかく兄が来てやったのだ、こちらを優先するのが.....。」
だがその人は僕の方に目を向けた途端言葉を途切らせ、そのまま僕の近くまで進み出た。
「今日は何と幸運な日なのだろう。これ程の美女を目にすることが出来るとは。ジャニスこの使用人を私に譲ってくれ相応の礼はする。」
どうやら見ていたのは僕ではなく、僕の後に立つウィンディーネ様だった様だ。
「残念ね、その人は私の使用人ではないわ。私の大切な来客の1人よ。当然ながら譲ることは出来ないわよ。」
「使用人ではなく来客だと! それならお前に遠慮する必要はないわけだな。」
そう言うとジョルジュ皇子は目線をジャニス皇女からウィンディーネ様に戻した。ウィンディーネ様のすぐ前には僕が座っているのだが、全く気にしていない、まるで僕なんか視界に入らない様だ。
「お嬢さん。私はこの国の第5皇子ジョルジュと申します。あなたを一目見た途端その美しさに心を射抜かれました。その水の様に流れる青い髪、神々しくも慈愛に満ちたその眼差し、一点の非の打ち所も無いそのお身体。あなたこそ長年に渡って捜し歩いていた私の女神。どうか私の元においでください。」
この人、初対面のウィンディーネさんに告白したよ。
「お断りします。私の身も心もご主人様の物ですから。それに私は女神ではありません、精霊です。」
僕がジョジュルさんに感心している間にウィンディーネ様が冷たく返していた。
「ご主人様?」
そう呟いたジョジュルさんの視線がウィンディーネ様の前で座っている僕を漸く捕らえた。
「まさか!? この貧相な男が貴方の主人なのですか? 貴方は騙されているのです、貴方にはもっと相応しい相手がいます。そうでなければ貴方にその美貌を与えた神に対する裏切り行為になります。」
「ご主人様を悪く言う者を私は許しません。これは警告です。2度目は無いと思って下さい。」
「しかし....」
「ジョジュル兄さん、ウィンディーネさんの事はそこまでです。私の大切な客人に対する無礼な振舞いは私も許しませんよ。」
「ウィンディーネ....。貴方はウィンディーネと仰るのですね....なんと素敵なお名前でしょう。まさに貴方の魅力に似つかわしい。」
ジャニス皇女の警告にも関わらず、ジョジュル皇子の思考はウィンディーネさんから離れられない様だ。気持ちは分かる....僕もウィンディーネ様に一目惚れした仲間だから。でも可哀そうにウィンディーネ様はジョジュルさんに髪の毛一本程の関心も示していない。
「兄さま! お越しになったご用件は?」
ジャニス皇女の再度の呼びかけを聞いてジョジュル皇子は漸く我に返った。
「ああ...、邪神に連れ去られた可愛い妹が戻ったと言うので無事な姿を見に来てやったのだ。それになにやら婚約者を連れて来たとの話だな。まさかこの男か? なんとも貧相な....」
「待って!!!!!!!」
危なかった....ジョジュル皇子の眼前で1本の氷の槍が停止していた。僕が止めなかったら皇子は串刺しになっていただろう。ジョジュル皇子は恐怖の余りその場に崩れ落ちた。危なかった....こっちも恐怖で崩れ落ちそうだ。ウィンディーネ様の扱いには極力注意する必要がある。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
読者の皆様へ
ここまで読んでいただき誠にありがとうございます。今までほぼ毎日更新してきましたが、ここに来て書き溜めていた原稿が尽きてしまいました。つきましては今後は更新頻度が落ちるかと思います。ご迷惑をお掛けしますが、最後まで書き上げるつもりでいますので今後もよろしくお願いします。
その後は引き攣った顔のジーナさんに案内されてダイニングルームへ向かった。ダイニングルームでは巨大な長方形のテーブルが据えられていたが、テーブルに付くのは僕とジャニス皇女だけだ。おまけに長方形のテーブルの端と端に座席が用意されているから、距離があり過ぎて微妙に話辛い。ジーナさんはジャニス皇女の給仕をするためにジャニス皇女の後に立ち、ウィンディーネ様は僕の給仕の為に僕の後に立ってくれていたメイドさんに交代してもらって僕の後に立った。僕に給仕してくれるつもりらしい。そう言えばいつの間にか服装がメイド服に変っている。
夕食はコース料理の様で、調理場からワゴンに乗せて順に運ばれてくる。最初はスープからだ。ウィンディーネ様はジーナさんの真似をして僕の前のテーブルにスープの皿を置いてくれるが、やはり動きがぎこちない。当然ながら給仕なんてしたことがないのだろう。無理をしないでと言いたいが、僕の為にと張り切っているウィンディーネ様の顔を見て言えるわけが無い。
カルロの町ではチーアルはしょっちゅう僕と一緒にいたが、ウィンディーネ様はそのサイズ故僕と離れて泉の広場に居てもらうしかなかった。ひょっとしたらもっと僕と一緒にいたかったのか?
「鴨肉の包焼香草添えでございます。」
その内に料理の説明までしてくれる様になった。もっともジーナさんの説明を繰り返しているだけではあるが大変な進歩だ。だってウィンディーネさんは食事をしない。当然料理の知識なんて無いはずで、多分自分の言っている説明の内容も分かっていないと思う。そんな状態でジーナさんの言ったことを一字一句間違えずに繰り返すだけでも大したものだ。
だがしばらくして遂にボロが出た。次の料理をお盆に乗せて運んでいる最中にふかふかの絨毯に足を引っかけ転びそうになり、そのはずみで盆に乗っていた料理が皿ごと宙に舞ったのだ。だが流石は大精霊様。ウィンディーネさんが空を舞う皿を見つめた途端、空中で皿が停止し、その皿に同じく空中にあった料理が綺麗に盛られてゆく。
「失礼いたしました。やはり私にはこちらの方が合っている様です。」
ウィンディーネ様がそう言うと料理が盛られた皿が僕の前まで飛んで来てテーブルの上に静かに着地した。料理に掛かっていたソースまで綺麗に元通りになっている。それを見たジーナさんの顔が再び引き攣った。
その後ウィンディーネ様は運ばれて来た料理を手で持って運ぶことはせず。料理が乗った皿はワゴンから宙に浮かび僕の前に飛んでくる様になった。ウィンディーネ様にとってはこちらの方が簡単らしい。
「お待ちください。ジャニス様はご来客中でございます。」
しばらくして廊下の方で誰かを制止する声がしたと思ったとたん、僕達の居るダイニングルームの扉が大きく開かれ1人の男性が現われた。数名の護衛と思われる兵士を引き連れている恐らく身分の高い人なのだろう。
「ジャニス、久しぶりだな。愛する妹が無事に帰還したと聞いてな。祝いを言いに来てやったぞ。」
「ジョルジュ兄さん、わざわざ出向いて下さり有難うございます。でも申し訳ありませんが今は大切なお客様と食事をしているところですの。状況を配慮いただけると有難いのですが。」
「来客だと。せっかく兄が来てやったのだ、こちらを優先するのが.....。」
だがその人は僕の方に目を向けた途端言葉を途切らせ、そのまま僕の近くまで進み出た。
「今日は何と幸運な日なのだろう。これ程の美女を目にすることが出来るとは。ジャニスこの使用人を私に譲ってくれ相応の礼はする。」
どうやら見ていたのは僕ではなく、僕の後に立つウィンディーネ様だった様だ。
「残念ね、その人は私の使用人ではないわ。私の大切な来客の1人よ。当然ながら譲ることは出来ないわよ。」
「使用人ではなく来客だと! それならお前に遠慮する必要はないわけだな。」
そう言うとジョルジュ皇子は目線をジャニス皇女からウィンディーネ様に戻した。ウィンディーネ様のすぐ前には僕が座っているのだが、全く気にしていない、まるで僕なんか視界に入らない様だ。
「お嬢さん。私はこの国の第5皇子ジョルジュと申します。あなたを一目見た途端その美しさに心を射抜かれました。その水の様に流れる青い髪、神々しくも慈愛に満ちたその眼差し、一点の非の打ち所も無いそのお身体。あなたこそ長年に渡って捜し歩いていた私の女神。どうか私の元においでください。」
この人、初対面のウィンディーネさんに告白したよ。
「お断りします。私の身も心もご主人様の物ですから。それに私は女神ではありません、精霊です。」
僕がジョジュルさんに感心している間にウィンディーネ様が冷たく返していた。
「ご主人様?」
そう呟いたジョジュルさんの視線がウィンディーネ様の前で座っている僕を漸く捕らえた。
「まさか!? この貧相な男が貴方の主人なのですか? 貴方は騙されているのです、貴方にはもっと相応しい相手がいます。そうでなければ貴方にその美貌を与えた神に対する裏切り行為になります。」
「ご主人様を悪く言う者を私は許しません。これは警告です。2度目は無いと思って下さい。」
「しかし....」
「ジョジュル兄さん、ウィンディーネさんの事はそこまでです。私の大切な客人に対する無礼な振舞いは私も許しませんよ。」
「ウィンディーネ....。貴方はウィンディーネと仰るのですね....なんと素敵なお名前でしょう。まさに貴方の魅力に似つかわしい。」
ジャニス皇女の警告にも関わらず、ジョジュル皇子の思考はウィンディーネさんから離れられない様だ。気持ちは分かる....僕もウィンディーネ様に一目惚れした仲間だから。でも可哀そうにウィンディーネ様はジョジュルさんに髪の毛一本程の関心も示していない。
「兄さま! お越しになったご用件は?」
ジャニス皇女の再度の呼びかけを聞いてジョジュル皇子は漸く我に返った。
「ああ...、邪神に連れ去られた可愛い妹が戻ったと言うので無事な姿を見に来てやったのだ。それになにやら婚約者を連れて来たとの話だな。まさかこの男か? なんとも貧相な....」
「待って!!!!!!!」
危なかった....ジョジュル皇子の眼前で1本の氷の槍が停止していた。僕が止めなかったら皇子は串刺しになっていただろう。ジョジュル皇子は恐怖の余りその場に崩れ落ちた。危なかった....こっちも恐怖で崩れ落ちそうだ。ウィンディーネ様の扱いには極力注意する必要がある。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
読者の皆様へ
ここまで読んでいただき誠にありがとうございます。今までほぼ毎日更新してきましたが、ここに来て書き溜めていた原稿が尽きてしまいました。つきましては今後は更新頻度が落ちるかと思います。ご迷惑をお掛けしますが、最後まで書き上げるつもりでいますので今後もよろしくお願いします。
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