神の娘は上機嫌 ~ ヘタレ預言者は静かに暮らしたい - 付き合わされるこちらの身にもなって下さい ~

広野香盃

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83. ウィンディーネ様とお風呂へ

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(シロム視点)


「警告はしておりました。止めて下さったご主人様に感謝するのですね。」

 ウィンディーネ様が冷たく言い放つのとジョジュル皇子が逃げる様に立ち去るのが同時だった。

「ジャニス皇女申し訳ありません。皇子に槍を突き付けたとなれば騒ぎになりますね....。」

「心配しないで、ジョジュル兄さんに大した力は無いわ。私が皇帝の後継者に任命されればどうにでもなる。私が帰還したと聞いて競争相手の様子を伺いに来たのでしょうね。」

「そ、そうですか。」

 相変わらず兄妹仲は冷え切っている様だ。

 食事が終わった頃、宰相からジャニス皇女と僕に呼び出しがあった。一瞬ジョジュル皇子を追い返した件かと緊張したが、使いに来た人の話ではジャニス皇女が皇帝陛下に報告する予定の内容について話を聞きたいらしい。

 護衛の兵士5名と共に宰相の執務室に向かう。僕達を護衛してくれている兵士達は昔からジャニス皇女の護衛を担当してくれている者ばかりで皇女も信頼している様だ。ジャニス皇女からはそう伝えられたが、こんな風に誰が敵で誰が味方か分からない状態というのは本当に緊張する。心細いのはウィンディーネ様に後に残ってもらっているからと言うのもある。ジョジュル皇子の時の様に逆上して何かしたら大変だからだ。チーアルが一緒にいてくれるからウィンディーネ様抜きでも大抵のことは大丈夫だろうけど....。

 宰相の執務室に到着すると護衛の兵士を扉の前に残し、僕とジャニス皇女だけが部屋の中に招き入れられた。中では宰相が部屋の中央に立っていて、お辞儀をして僕達を迎えてくれた。

「ジャニス様、ロム様、本来ならこちらから出向くべきところをお越しいただき恐縮でございます。」

「気にしないで、宰相が今この部屋を離れられないのは承知しているわ。それで父上の居場所について何か手掛かりは見つかった?」

「それが残念ながら芳しくありません。突然部屋の中で何かが爆発したらしく。皇帝陛下のお傍にいた者達は全員即死、ロム様のお力で奇跡的に回復した者達からも手掛かりになる様な話は聞けておりません。ただ黒いローブを着てフードを被った人物が皇帝陛下の傍に現れたと思った途端に爆発が起きたとのことでございます。」

「そう....それは困ったわね。いつまでも皇帝の不在を伏せておくことも出来ないでしょうし....。」

「そうでございます。それでジャニス様にお越しいただいたのは皇帝陛下にどの様なご報告をされる予定であったか伺いたいからでございます。ジャニス様の帰還と前後して爆発が起きたことを考えると、ジャニス様のご帰還が今回の犯行のきっかけになった可能性が強ようございますので。」

「話しても良いけれど、あの者達に聞かれても大丈夫なの?」

 ジャニス皇女が指摘したのは部屋の隅で一列に並んだ兵士達だ、兜を被り全員が跪いてこちらに頭を下げているから顔が見えない。

「あの者達は私が心より信頼している者達でございます。皇帝陛下の件も承知しておりますのでご安心下さい。」

「そう、分かったわ。」

 少し訝しんだ感じでジャニス皇女が承諾し宰相に向かって話を始めた。最初にジャニス皇女の策が当たり聖なる山の神の娘アーシャ様を捕らえることに成功したこと。だが皇都にアーシャ様を輸送してくる途中で電撃の首輪を外され、首謀者である自分を神域に連れ去ったこと。神域ではアーシャ様の他に神の息子である僕もいて、神域で暮らす内に仲良くなったこと。ついには聖なる山の神が2人の仲を認め、ジャニス皇女が皇帝になればガニマール帝国の味方をしてやろうと仰ったことなどだ。

 話の前半は真実だが後半は出鱈目だ。なにより僕が聖なる山の神様の息子だなんて嘘も良い所だ。それにジャニス皇女と結婚の約束をしているというのももちろん嘘だ。

「それでは本当に皇帝陛下のご命令を達成為されたのですね。おめでとうございます。」

「まあね、ただし聖なる山の神が我が国の味方をするのは私が皇帝になったらという条件付きよ。」

「それは問題ないでしょう。皇帝陛下は命令を達成した者をご自分の後継者にすると宣言なさっておられるのですから。」

「それもあって一刻も早く父上にご報告したいのよ。だから私達も父上を探すことにしたの。」

「それは....お気持ちは分かりますが、何か手掛かりをお持ちなのでしょうか?」

「無いわよ。でもね人間には出来ないことでもロム様になら可能よ。必ずや父上を見つけ出してくださる。」

「任せて置け、全力を尽くす。可愛いジャニスの為だからな。」

 と僕も返す。話しているのはもちろんマジョルカさんだ。

 宰相との面談が終わり、ジャニス皇女の館に戻った僕達は明日の朝早くから皇帝陛下の探索を始める約束をしてそれぞれの寝室へと向かった。嬉しいことに僕にあてがわれた寝室には風呂が付いている。流石に水球の中で寝泊まりしたこの数日間は身体を拭ってすらいないのでありがたい。

 だが風呂に入る前にいつもの様にアーシャ様と連絡を取る。僕はジャニス皇女を皇帝の地位に付けてボルト皇子が戦争を起こすのを防ぐために来ているが、アーシャ様は僕達と別行動でカリトラス大神教団の教祖コトラルを探している。精霊王様や魔族の4姉妹も一緒だ。

<< アーシャ様、皇帝陛下が何者かに攫われました。現在ウィンディーネ様が皇帝陛下を探して下さっています。ジャニス皇女の話では犯人はボルト皇子の可能性が高いと言う事です。>>

<< それは敵に先を越されたわね....。私達も今のところ手掛かりゼロよ。魔族の姉妹達なら近くまで来ればコトラルの居場所を感知できると期待したのだけれどダメ見たい。帝都にはいないのか、うまく姿を隠しているのか分からないけど....。難敵だわ。とにかく毎日お互いに進捗を報告し合いましょう。>>

<< 了解しました。>>

 そう言って念話を切る。アーシャ様達も進展はない様だ。

 気分を変えて風呂に入るために脱衣場に入るとウィンディーネ様が付いて来る。

「ご主人様、お背中をお流しいたします。」

 振り返るとウィンディーネ様の服が薄手の白い衣装に変わっていた。話に聞いた湯浴着という物かもしれないが濡れれば透けて肌が見えそうだ。いや、それ以前にウィンディーネ様の前で裸になんてなれない。

「だ、大丈夫です。1人で洗えますから。」

「何を仰います。こうしてご主人様と一緒に過ごすことは滅多にないのですから....。チーアルばかりご主人様と一緒にいるのは狡いです。」

「ぼ、僕の家はウィンディーネ様には小さすぎますので。」

「それなら私も今の様に小さくなりますね。身体を圧縮する方法では小さくなる時間は限られますが、今の様に身体の一部を妖精として放出してしまう方法なら時間制限はありません。予定外に身体が大きくなってご主人様のお家を壊してしまう心配はありませんもの。」

「そ、それは。」

「とりあえず湯船にお浸かり下さい。お話はそれからしましょう。よろしければ服を脱ぐのをお手伝いいたしましょうか?」

「い、いえ結構です。」

 困った。チーアル相手になら目を瞑れと命令できるのだが、ウィンディーネ様に命令するなんて僕には出来ない。仕方なくウィンディーネ様に背中を向けた状態で服を脱ぎ、素早く浴室に入って湯船に飛び込んだ。ちょっと熱めだけどそんな事言っていられない。ホッとした途端浴室の扉が開いてウィンディーネ様が入って来た。
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