神の娘は上機嫌 ~ ヘタレ預言者は静かに暮らしたい - 付き合わされるこちらの身にもなって下さい ~

広野香盃

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99. ジャニスの企て

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(アーシャ視点)


「シロムさんに振られてこんなとこまでやって来たってとこかしら?」

 さっきから泣いてばかりで何も言わない私に業を煮やしたのか、ジャニスが強い口調で言う。どうしてわかった? 驚いて見返す私にジャニスが続けて言った。

「そりゃ分かるわよ。御子様がそれだけ取り乱すなんてよほどのことだし、なにしろ格好が格好だからね。シロムさんに迫って振られたってところでしょう?」

 確かにピンクのネグリジェーにセクシー下着じゃ勘ぐられても仕方ない。着替えなんて持っていないのにそのまま飛んで来てしまったのだ。それにしてもこの子は相変わらず鋭い。

「そうよ、突然押しかけて悪かったわね。」

 だって他に行くところを思いつかなかった。こんなこととうさまに相談出来るわけが無い。

「いいわよ、私で良ければ相談に乗るわ。いつかはこんなことになるのじゃないかと思っていたしね。」

「分かっていたの? 私に女性としての魅力がないから? それでシロムさんに拒否されたの?」

「やっぱり自分では分かってないか....。御子様に女性としての魅力が無いかと問われればそうかもしれないわね。」

「酷い!」

「まあ待ちなさい。ちょっとこっちに来て。」

 ジャニスに言われて大きな姿見の前に並んで立つ。

「ほら、私の方が背が高い。5年前は御子様の方がずっと高かったのにね。」

「それは....私の成長は遅いから....。」

 どうせ私は成長しない。改めて見ると胸が小さいからブラジャーもぶかぶかだ。

「そのとおりね。御子様の外見は5年前から変わっていない。おおよそ13~14歳ってとこかしら。」

「そうよ、仕方ないじゃない。」

「大きくなったのは私だけじゃないわ。シロムさんも随分背が伸びたわよね。」

「ええ、今では私より頭ひとつ分高いわ。」

「5年前、御子様がシロムさんと結婚した頃はそれほど変わらなかったはずよ。あのころシロムさんは14歳。外見上は御子様とほとんど同じ歳だった。それなら恋愛感情も芽生えやすいわよね。」

「それってまさか....。」

「そう言う事。今のシロムさんは19歳、立派な大人よ。その大人から見て御子様は子供なの。もはや恋愛対象の範囲から外れているのよ。シロムさんにとって御子様とセックスするのは子供を相手にする様で大きな抵抗があるのじゃないかしら。そう言うのが好きな男もいるらしいけど、シロムさんは違うでしょうね。」

「そんな....それじゃどうしようも無いってこと?」

「そうね、これからますます歳は離れて行く。そのうち父と娘くらいの差になるわね。」

 絶望だ....。5年も待つんじゃなかった。例え世界が滅びても魔族のことなんか放って置くのだった。

 私は打ちひしがれて鏡の前で座り込んだ。

「でもね、ひとつだけ方法があると言ったらどうする?」

「方法?」

「そうよ。本当は自分だけで実行するつもりだったんだけど行き詰っていてね。御子様の助力があれば出来るかもしれない。その気があれば仲間に入れてあげても良いわよ。」

「いったい何をするつもり?」

 この子は底が知れないところがある。何か恐ろしいことを企んでいるのでは....。

「御子様にお願いしたいのは、人を2人殺してもらうことかな。場合によっては4人になるかもだけど。」

「な、なんですって! そんなこと出来るわけないわよ。」

「まあ半分は冗談だけどね。詳しく説明するからこっちに来て。」

 そう言ったジャニスが大きな本棚の角を操作すると、本棚が横に動き別の部屋への入り口が現われた。

「私の秘密の研究室よ。ここに入るのは私以外では御子様が始めてよ。」

 そう言って私を中に招きいれると、本棚が再びスライドして入り口を塞ぐ。ジャニスが壁際のどこかを弄ると薄暗かった部屋が光で満たされた。部屋の中央には巨大な円柱状の水槽がある。そしてその水槽の中に浮かぶものを認識した途端、私は恐怖で叫びそうになった。

「これって....ジャニス?」

 水槽の中に浮かんでいたのはジャニスだった。それも私が初めてあったころの小さなジャニスだ。小さな身体が裸体のまま水中に浮いている。身動きせず目は虚ろ、意識が無い様だ。

「これは私の体細胞から作り出したクローン。魂が入っていないから只の肉の塊に過ぎないけどね。」

「こんな物どうやって!?」

「ボルト兄さんの研究成果よ。兄さんは昔からネクロマンシーの研究をしていてね。部屋を調べたら色々と面白そうな研究資料が見つかったの。もっとも兄さんがこれを何に使うつもりだったのかは不明よ。さっきも言った様にこれは只の人の形をした肉の塊、このままでは何の役にも立たない。でもこれに例の人工レイスを作り出す装置を組み合わせれば、この中に魂を入れることが出来るかもしれないと考えているの。」

「馬鹿な事は止めなさい。第一、他人の魂を入れても定着するわけが無い。」

「もちろんそうよ。だから兄さんも試さなかったのでしょうね。でもそれが自分自身の魂だったらどうかな?」

「それってまさか....」
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