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101. マルトの町のチーカ料理店 (最終話)
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(傭兵ザイアス視点)
「漸くガニマール帝国に着いたわね。これで一安心だわ。」
国境を過ぎた途端シガーズがホッとした様に口にする。まあ今回の旅はハードだったから気持ちは分かる。シガーズはガニマール帝国に到着して嬉しそうだが、俺に言わせればガニマール帝国はつまらない国だ。昔のガニマール帝国はしょっちゅう他の国に戦争を仕掛けていて傭兵が活躍する場も沢山あったと言う。もちろん実力次第だが報酬もたんまりともらえたらしい。
それに比べて今のガニマール帝国はダメだ。治安が良すぎて賊なんて滅多に出ないし、他国との戦争なんてまるでやる気がない。やっぱり皇帝を神官長が兼任しているのが諸悪の根源なのだろう。他の国と仲良くやることばかり考えてやがる。
「おいおい、ガニマール帝国は広いぞ、皇都に着くまでが仕事なんだからな気を緩めるなよ。」
リーダーのゴトーダがシガーズを諫める。
「はいはい、分かってるわよ。でも宿に着いたら何か美味しい物を食べに行くわよ。」
「まあいいだろう。」
ゴトーダも同意した。俺達の仕事は国を跨いで商売を行う商人達の護衛だが、宿に居る間は護衛の任務は解除される契約になっている。傭兵だって神経を張りつめたままでは身体が持たないから宿に居る時くらい休息を取らせてもらうと言うわけだ。町の中なら賊に襲われる危険は小さい。とはいっても何かあって商人が殺されたり破産したりしたら俺達も報酬が貰えなくなるから、今まではリーダーのゴトーダの判断で宿を離れず食事は宿の食堂で済ましていたし酒も飲まなかった。
今夜は久しぶりにたらふく酒が飲めそうだ。そう思うと思わず頬が緩む。
その日は国境近くのマルトという名の小さな町で宿を取ることになった。この町に来るのは初めてだ。いつもなら少し先にあるもっと大きな町に泊まるのだが、今日は国境近くで山賊に襲われて時間を食ったから、いつもの町まで行くと夜になってしまう。
マルトの町に入り宿に荷物を置くと俺達はさっそく夕暮れの町に繰り出した。
「ザイラスは何が食べたいの?」
「旨ければ何でもいいぞ。」
「あのね、そんなのが一番困るのよ。」
「こんな小さな町だあまり期待し過ぎない方が良いと思うぞ。」
ゴトーダが冷静な意見を言う。実際町の中心辺りをぶらついているが食堂らしき建物はまだ数件しか見当たらない。選択肢は多くない様だ。
「ねえ向こうにトーコ料理の看板があるわ。あそこにしない?」
「トーコ料理か、まあそれでも良いか。」
まあうまい酒が飲めるならどこでも良いさと俺も賛成して店までやって来たが、店の前に行列が出来ている。これはかなり待たされそうだ。それならと他の店にも回ってみるがどの店も満席状態だ。これは宿に戻った方が良いかもしれない。
<< こっちだよ。>>
<< こっちに美味しいお店があるよ。>>
突然近くで囁かれ、ギョッとして辺りを見回すが誰もいない。幻聴か?
<< こっちだよ。>>
もう一度声が聞こえた時、一瞬羽のある小人の様なものが空を飛んでいるのが見えた気がした。幻聴の次は幻視かと目を擦る。
「ねえ、もう一軒あったわ。チーカ料理の五葉亭ですって。」
確かにメイン通りを少し脇に入った所に一軒の食堂がある。目立たない場所だからか客も多くはなさそうだ。少なくとも店の前に行列は出来ていない。
「い、いや、ちょっと待て。」
俺がそう言うとゴトーダとシガーズが振り向く。先ほどの声が言っていたのはこの店の事じゃないだろうか....だとしたら用心した方が良いかもしれん。
「ザイアスはチーカ料理が嫌いだった?」
「いや、そう言う訳じゃ....」
「だったら良いわね、行きましょう。」
そう言ってシガーズが歩き出す。俺は仕方なく後に続いた、幻聴のことなど話しても信じてくれないだろう。
「いらっしゃいませ。3人様ですね。こちらにどうぞ。」
小さな店だが幸いにテーブルがひとつ空いていた。黒髪の若い女の給仕が俺達をテーブルに案内しようとするが、ゴトーダが注文を付ける。
「悪いがもっと大きなテーブルは空いてないか? 見ての通り俺達は身体が大きいんでな、1人で3人前くらいは軽く食う、テーブルが小さいと料理が乗り切らんのでな。」
ゴトーダの言う事は誇張ではない。傭兵は強くなければ勤まらない。当然傭兵になる奴は体格の良い者ばかりだ。そして傭兵の中でも一流と呼ばれている俺達のチームはその中でも特に体格の良い者の集まりだ。自慢じゃないが俺の背丈は国で一番だと自負しているし、筋肉も十分に付いているから横幅も広い。ゴトーダはスピードを重視するタイプの戦士で俺よりは細いが身長は同じくらいだ。女傭兵のシガーズも並みの男より遥かに大きいし力もある。1人で3人前と言ったのはまだ控えめに言っている方だ。
給仕は少し迷った後、
「分かりました。それでは個室にご案内させていただきます。こちらにどうぞ。」
と言って店の奥にある部屋に俺達を案内した。部屋の中には大きなテーブルがあり、詰めれば10人くらいは座れそうだ。.........埃が積もっていた部屋が一瞬で綺麗になった様に見えたのはきっと気のせいだろう。
「ご注文が決まりましたらお呼び下さい。只今お水をお持ちします。」
給仕がそう言って下がると俺達は渡されたメニューを開く。チーカ料理は何度か食べたことがあるがそれほど詳しくはない。
「シガーズ、俺はチーカ料理には詳しくないんだ。適当に注文してくれ。」
「はいよ。ゴトーダもそれで良い?」
「ああ、任せるよ。」
そう言うわけで水の入ったコップを持って来た給仕にシザーズが色々な料理を9人分と一番大きなジョッキにエールを3つ注文する。久々の酒だ!
「それじゃ、この仕事が無事に終了することを聖なる山の神様に祈って乾杯よ。」
シガーズがジョッキを掲げながら言う。
「シガーズ、お前カルロ教徒だったのか?」
「違うわよ、でも郷に入れば郷に従えって言うじゃない。ガニマール帝国に入ったんだからお祈りするなら聖なる山の神様に祈った方が良いでしょう。」
シザーズがエールの入った特大のジョッキを傾けながら返して来る。まあいい、俺も久々のエールを堪能してご機嫌だ。
それから運ばれて来たチーカ料理を食って驚いた。旨い! チーカ料理は何度か食ったことがあるがこんなに旨いのは初めてだ。俺達は1人あたり3人前の料理を容易く胃袋に入れ、追加の料理とエールを注文した。
「この店は当たりだな。この店が空いていたなんてラッキーじゃないか。」
「メイン通りから少し離れているからな、その所為だろう。」
「いずれにしろ、私達には幸運だったわね。」
そんなことを言いながら更にジョッキを傾ける。
「ザイアスはいつもガニマール帝国の悪口をいっているけど、国から出てみるとこの国が良い国だって分かるでしょう? 私達みたいな他国からの流れ者から見ると理想の国よ。」
シガーズがエールの入ったでっかいジョッキを傾けながら言う。少し酔っている様だ。
「よせやい、こんな退屈な国その内おさらばしてやるさ。」
「あらまあ、一体何が気に入らないの? 治安は良いし、国民は豊かだし、憎たらしい貴族達は没落して居ないに等しい。おまけに工事現場で働いている日雇いでさえ読み書きが出来るのには驚いたわ。」
「だからだよ、俺も子供の頃は行きたくもない学校へ無理やり行かされたんだ。毎日毎日机に向かってお勉強だ、地獄だったよ。」
「ハッハッハッ、ザイアスは劣等生だったか。それで故郷が嫌いになったのか?」
ゴトーダが口を挟む。
「そんなんじゃない。この国には男のロマンってやつが無いんだ。」
「ロマンねえ...。」
「そうさ、身体ひとつで冒険に出て、数々の困難を克服しながら最後には大成功を収めるってやつさ。」
「大成功って?」
「そ、そりゃー、大金持ちになってハーレム作って美女を侍らして酒池肉林を楽しむってやつだ。」
「ハハッ、呆れたわね。そんなのが望みなの。」
「俺は分かるぞ。やっぱりハーレムは外せんよな。」
ゴトーダが俺に賛同した。やっぱり男同士は理解し合える。
「そう言う意味ではザイアスの言う通りこの国にはロマンが無いな。小金持ちは多いが、びっくりするような大金持ちには会ったことがない。何か税制のからくりでもあるのか?」
税制? そんな難しいことが俺に分かるわけが無い。俺が答えないでいるとゴトーダは話題を変えた。
「そう言うシガーズの夢は何だ?」
「私? もちろん最高の男を見つけることよ。」
「なんだそんな事か。俺以上にいい男なんていないぞ。」
「ハーレムなんて言っている時点でアウトね。本当にいい男には女から自然に寄って来るものよ。」
「ハイハイ、そうですかよ。」
「そう言えば、ザイアスがこの店に入る前に何か言ってなかったっけ?」
「この先に良い店があると言う様な幻聴が聞こえたんだ。不気味じゃないか。」
「只の幻聴でしょう。こっそりと酒でも飲んでたんじゃないの?」
「仕事中にそんなことはせん。それに俺は時たま他の人間には感じられないものが分かるんだ。神官の息子だからな。」
「呆れた、神官の子供なの!? どうして神官に成らなかったのよ。この国で神官と言えば他の国の貴族様みたいなものじゃない。」
シガーズは神官の職は世襲制だと思っているらしい。確かに神官の子供が神官に成ることは多いが、それは神官の家系に神気を感じることが出来る者が多いと言うだけだ。神官の子供でもその才能が無い者もいる。もっとも俺は別だ。才能はあったが神官になるのを拒否したひねくれ者だ。
「違う違う、神官は貴族じゃないぞ。神官になるには神に絶対の忠誠を誓わないといけないんだ。誰かの言いなりになるなんておれは御免だね。それに毎朝早くから神殿に行って礼拝しなければならない、休息日も礼拝だけは休み無しだ。貴族様の優雅な生活とは程遠いさ。それに収入が多いたって大したことはない。神官より金持ちの商人はざらにいる。」
「なるほど、ザイアスが神官に成らなかったのは朝寝坊だからか。納得だな。」
ゴトーダが茶化す。まあ何とでも言ってくれ。エールをたっぷり飲んだ俺はかなり酔っていたと思う。
「失礼します。追加の料理をお持ちしました。」
そう言って給仕が料理が乗ったワゴンを押しながら入って来た。俺達をこの部屋に案内した黒髪の女性とは違う赤毛の給仕だ。
だがテーブルに運んで来た料理を乗せ始めた女給仕を見て俺は咽た。
「ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ.....まさか、ジャニスの婆さんか?」
「まさかと思っていたけど....ゴリアス??? いやいや、そんな訳はないからザイアス坊やかな?」
「ちょっと、こんな娘さんを婆さん呼ばわりって酷いわよ。謝りなさい。」
シガーズが割って入る。だがそんな話じゃない、こいつはとっくの昔に死んだはずだ。先々代の皇帝ジャニス。傾国の女帝と呼ばれた愚帝だ。どういう訳か傭兵だった俺の爺様と仲が良く小さい時にちょくちょく連れられて会いに行っていた。可愛がってもらっていた記憶がある。
「ザイアスも傭兵になったって聞いていたけれど、やっぱり負け知らずのゴリアスの孫ね、血は争えないわ。それにしても良く私が分かったわね。絶対にバレないって自信があったのに。」
「うまく言えないが、なんとなく分かるんだよ。知っている奴が近くにいれば目を瞑っていても誰だか分かる。」
「その力もゴリアス譲りね。まあ久しぶりにザイアス坊やに会えたことだし、口止め料も含めて今日は私の奢りにしてあげる。ジャンジャン飲んで良いわよ。じゃあ私はまだ仕事があるから後でね。ごゆっくり。」
ジャニスの婆さんが料理を置いて下がると、俺はゴトーダとシガーズの質問攻めにあった。だが「あれは5年前に死んだ先々代の皇帝ジャニスだ。」といくら言っても信じない。
自分でもまさかと思う。傾国の女帝ジャニス...ガニマール帝国の皇室を没落させた愚帝。ジャニスの散財により皇室は財産のすべてを使い尽くし、それでも足りずに神殿から莫大な額の借金をし、返済に行き詰まると担保にしていた皇室の広大な領地を神殿に引き渡した。
ジャニスはその責任を取って皇帝の座を当時神官長だったシャナに譲った。もちろん貴族達から強い反対があったが、ジャニスが独身で後を継ぐべき子供が居なかったこと、シャナがジャニスの姪で有力な皇族の1人であったこともありしぶしぶ受け入れられた。これが現在の神官長が皇帝を兼任する政治体制の始まりだ。
「それじゃ先々代の皇帝様が死んでから蘇ったって言うの。しかも若返って? 揶揄わないでよ、そう言うオカルトじみた話は嫌いなの。」
どうやらシガーズは俺が店員と打ち合わせて自分を揶揄っていると思っている様だ。ジャニスの婆さんが正体を見破られたのに平然としていたわけだ。こんな話誰も信じない。
「皇帝ジャニスか....俺も話には聞いたことがある。あれほど評価が分かれる皇帝は居ないらしいな。この広大な国の隅々まで道や橋を整備して交易を容易にし、同時に灌漑設備を整備することで今まで手が付けられなかった広大な荒地を畑に変えた。おまけに様々な魔道具を発明してこの国を魔道具の生産地として発展させたって話だ。」
「へえっ、すごい名君じゃない。」
「だがな、個人的にも宝石やら装飾品やらパーティやらに金を使いまくってな。社交界でも皇帝に倣って着飾って派手にしないと恥ずかしいという風潮になって、皇族も貴族も贅沢しまくったらしい。国の整備に加えてそんな贅沢をするのに膨大な費用をカルロ教の神殿から借りた金で賄ったために借金で首が回らなくなって、最後には皇室の領地のほとんどを手放すことになったって話だ。皇帝の真似をして贅沢三昧をした貴族達も同じ様な末路を辿ったらしい。没落した貴族からはとんでもない愚帝だと言われている。」
「フーン。でも今のガニマール帝国を見れば国民とっては良い皇帝だったんじゃない? 」
「そうかもな、もっとも庶民が感謝しているのは神殿と神官様だ。神殿は手に入れた領地をそれを耕していた農民達に只みたいな値段で下げ渡したからな。ジャニス皇帝はとっくに忘れ去れているらしい。」
「まあ、可哀そうに。それなら化けて出て来ても不思議じゃないかも....嫌だ、変な話しないでよ。」
「やれやれ、シガーズがこんなにお化けに弱いとは知らなかったな。もちろんザイアスの冗談に決まっているじゃないか。なあ、ザイアス。」
「あ、ああ、もちろんさ。あの娘は昔の知り合いでジャニスの婆さんというのはニックネームさ。一度危ない所を助けたことがあってな、その礼に奢ってくれるって言うんだ。まあ遠慮なく飲ませてもらおうぜ。」
........まあいいさ、こんなこと誰に話しても信じない。騒ぐだけジャニスの婆さんに笑われるだけだ。
********************
これにて完結となります。最後まで読んで下さった奇特な貴方に感謝です。誠にありがとうございました。
「漸くガニマール帝国に着いたわね。これで一安心だわ。」
国境を過ぎた途端シガーズがホッとした様に口にする。まあ今回の旅はハードだったから気持ちは分かる。シガーズはガニマール帝国に到着して嬉しそうだが、俺に言わせればガニマール帝国はつまらない国だ。昔のガニマール帝国はしょっちゅう他の国に戦争を仕掛けていて傭兵が活躍する場も沢山あったと言う。もちろん実力次第だが報酬もたんまりともらえたらしい。
それに比べて今のガニマール帝国はダメだ。治安が良すぎて賊なんて滅多に出ないし、他国との戦争なんてまるでやる気がない。やっぱり皇帝を神官長が兼任しているのが諸悪の根源なのだろう。他の国と仲良くやることばかり考えてやがる。
「おいおい、ガニマール帝国は広いぞ、皇都に着くまでが仕事なんだからな気を緩めるなよ。」
リーダーのゴトーダがシガーズを諫める。
「はいはい、分かってるわよ。でも宿に着いたら何か美味しい物を食べに行くわよ。」
「まあいいだろう。」
ゴトーダも同意した。俺達の仕事は国を跨いで商売を行う商人達の護衛だが、宿に居る間は護衛の任務は解除される契約になっている。傭兵だって神経を張りつめたままでは身体が持たないから宿に居る時くらい休息を取らせてもらうと言うわけだ。町の中なら賊に襲われる危険は小さい。とはいっても何かあって商人が殺されたり破産したりしたら俺達も報酬が貰えなくなるから、今まではリーダーのゴトーダの判断で宿を離れず食事は宿の食堂で済ましていたし酒も飲まなかった。
今夜は久しぶりにたらふく酒が飲めそうだ。そう思うと思わず頬が緩む。
その日は国境近くのマルトという名の小さな町で宿を取ることになった。この町に来るのは初めてだ。いつもなら少し先にあるもっと大きな町に泊まるのだが、今日は国境近くで山賊に襲われて時間を食ったから、いつもの町まで行くと夜になってしまう。
マルトの町に入り宿に荷物を置くと俺達はさっそく夕暮れの町に繰り出した。
「ザイラスは何が食べたいの?」
「旨ければ何でもいいぞ。」
「あのね、そんなのが一番困るのよ。」
「こんな小さな町だあまり期待し過ぎない方が良いと思うぞ。」
ゴトーダが冷静な意見を言う。実際町の中心辺りをぶらついているが食堂らしき建物はまだ数件しか見当たらない。選択肢は多くない様だ。
「ねえ向こうにトーコ料理の看板があるわ。あそこにしない?」
「トーコ料理か、まあそれでも良いか。」
まあうまい酒が飲めるならどこでも良いさと俺も賛成して店までやって来たが、店の前に行列が出来ている。これはかなり待たされそうだ。それならと他の店にも回ってみるがどの店も満席状態だ。これは宿に戻った方が良いかもしれない。
<< こっちだよ。>>
<< こっちに美味しいお店があるよ。>>
突然近くで囁かれ、ギョッとして辺りを見回すが誰もいない。幻聴か?
<< こっちだよ。>>
もう一度声が聞こえた時、一瞬羽のある小人の様なものが空を飛んでいるのが見えた気がした。幻聴の次は幻視かと目を擦る。
「ねえ、もう一軒あったわ。チーカ料理の五葉亭ですって。」
確かにメイン通りを少し脇に入った所に一軒の食堂がある。目立たない場所だからか客も多くはなさそうだ。少なくとも店の前に行列は出来ていない。
「い、いや、ちょっと待て。」
俺がそう言うとゴトーダとシガーズが振り向く。先ほどの声が言っていたのはこの店の事じゃないだろうか....だとしたら用心した方が良いかもしれん。
「ザイアスはチーカ料理が嫌いだった?」
「いや、そう言う訳じゃ....」
「だったら良いわね、行きましょう。」
そう言ってシガーズが歩き出す。俺は仕方なく後に続いた、幻聴のことなど話しても信じてくれないだろう。
「いらっしゃいませ。3人様ですね。こちらにどうぞ。」
小さな店だが幸いにテーブルがひとつ空いていた。黒髪の若い女の給仕が俺達をテーブルに案内しようとするが、ゴトーダが注文を付ける。
「悪いがもっと大きなテーブルは空いてないか? 見ての通り俺達は身体が大きいんでな、1人で3人前くらいは軽く食う、テーブルが小さいと料理が乗り切らんのでな。」
ゴトーダの言う事は誇張ではない。傭兵は強くなければ勤まらない。当然傭兵になる奴は体格の良い者ばかりだ。そして傭兵の中でも一流と呼ばれている俺達のチームはその中でも特に体格の良い者の集まりだ。自慢じゃないが俺の背丈は国で一番だと自負しているし、筋肉も十分に付いているから横幅も広い。ゴトーダはスピードを重視するタイプの戦士で俺よりは細いが身長は同じくらいだ。女傭兵のシガーズも並みの男より遥かに大きいし力もある。1人で3人前と言ったのはまだ控えめに言っている方だ。
給仕は少し迷った後、
「分かりました。それでは個室にご案内させていただきます。こちらにどうぞ。」
と言って店の奥にある部屋に俺達を案内した。部屋の中には大きなテーブルがあり、詰めれば10人くらいは座れそうだ。.........埃が積もっていた部屋が一瞬で綺麗になった様に見えたのはきっと気のせいだろう。
「ご注文が決まりましたらお呼び下さい。只今お水をお持ちします。」
給仕がそう言って下がると俺達は渡されたメニューを開く。チーカ料理は何度か食べたことがあるがそれほど詳しくはない。
「シガーズ、俺はチーカ料理には詳しくないんだ。適当に注文してくれ。」
「はいよ。ゴトーダもそれで良い?」
「ああ、任せるよ。」
そう言うわけで水の入ったコップを持って来た給仕にシザーズが色々な料理を9人分と一番大きなジョッキにエールを3つ注文する。久々の酒だ!
「それじゃ、この仕事が無事に終了することを聖なる山の神様に祈って乾杯よ。」
シガーズがジョッキを掲げながら言う。
「シガーズ、お前カルロ教徒だったのか?」
「違うわよ、でも郷に入れば郷に従えって言うじゃない。ガニマール帝国に入ったんだからお祈りするなら聖なる山の神様に祈った方が良いでしょう。」
シザーズがエールの入った特大のジョッキを傾けながら返して来る。まあいい、俺も久々のエールを堪能してご機嫌だ。
それから運ばれて来たチーカ料理を食って驚いた。旨い! チーカ料理は何度か食ったことがあるがこんなに旨いのは初めてだ。俺達は1人あたり3人前の料理を容易く胃袋に入れ、追加の料理とエールを注文した。
「この店は当たりだな。この店が空いていたなんてラッキーじゃないか。」
「メイン通りから少し離れているからな、その所為だろう。」
「いずれにしろ、私達には幸運だったわね。」
そんなことを言いながら更にジョッキを傾ける。
「ザイアスはいつもガニマール帝国の悪口をいっているけど、国から出てみるとこの国が良い国だって分かるでしょう? 私達みたいな他国からの流れ者から見ると理想の国よ。」
シガーズがエールの入ったでっかいジョッキを傾けながら言う。少し酔っている様だ。
「よせやい、こんな退屈な国その内おさらばしてやるさ。」
「あらまあ、一体何が気に入らないの? 治安は良いし、国民は豊かだし、憎たらしい貴族達は没落して居ないに等しい。おまけに工事現場で働いている日雇いでさえ読み書きが出来るのには驚いたわ。」
「だからだよ、俺も子供の頃は行きたくもない学校へ無理やり行かされたんだ。毎日毎日机に向かってお勉強だ、地獄だったよ。」
「ハッハッハッ、ザイアスは劣等生だったか。それで故郷が嫌いになったのか?」
ゴトーダが口を挟む。
「そんなんじゃない。この国には男のロマンってやつが無いんだ。」
「ロマンねえ...。」
「そうさ、身体ひとつで冒険に出て、数々の困難を克服しながら最後には大成功を収めるってやつさ。」
「大成功って?」
「そ、そりゃー、大金持ちになってハーレム作って美女を侍らして酒池肉林を楽しむってやつだ。」
「ハハッ、呆れたわね。そんなのが望みなの。」
「俺は分かるぞ。やっぱりハーレムは外せんよな。」
ゴトーダが俺に賛同した。やっぱり男同士は理解し合える。
「そう言う意味ではザイアスの言う通りこの国にはロマンが無いな。小金持ちは多いが、びっくりするような大金持ちには会ったことがない。何か税制のからくりでもあるのか?」
税制? そんな難しいことが俺に分かるわけが無い。俺が答えないでいるとゴトーダは話題を変えた。
「そう言うシガーズの夢は何だ?」
「私? もちろん最高の男を見つけることよ。」
「なんだそんな事か。俺以上にいい男なんていないぞ。」
「ハーレムなんて言っている時点でアウトね。本当にいい男には女から自然に寄って来るものよ。」
「ハイハイ、そうですかよ。」
「そう言えば、ザイアスがこの店に入る前に何か言ってなかったっけ?」
「この先に良い店があると言う様な幻聴が聞こえたんだ。不気味じゃないか。」
「只の幻聴でしょう。こっそりと酒でも飲んでたんじゃないの?」
「仕事中にそんなことはせん。それに俺は時たま他の人間には感じられないものが分かるんだ。神官の息子だからな。」
「呆れた、神官の子供なの!? どうして神官に成らなかったのよ。この国で神官と言えば他の国の貴族様みたいなものじゃない。」
シガーズは神官の職は世襲制だと思っているらしい。確かに神官の子供が神官に成ることは多いが、それは神官の家系に神気を感じることが出来る者が多いと言うだけだ。神官の子供でもその才能が無い者もいる。もっとも俺は別だ。才能はあったが神官になるのを拒否したひねくれ者だ。
「違う違う、神官は貴族じゃないぞ。神官になるには神に絶対の忠誠を誓わないといけないんだ。誰かの言いなりになるなんておれは御免だね。それに毎朝早くから神殿に行って礼拝しなければならない、休息日も礼拝だけは休み無しだ。貴族様の優雅な生活とは程遠いさ。それに収入が多いたって大したことはない。神官より金持ちの商人はざらにいる。」
「なるほど、ザイアスが神官に成らなかったのは朝寝坊だからか。納得だな。」
ゴトーダが茶化す。まあ何とでも言ってくれ。エールをたっぷり飲んだ俺はかなり酔っていたと思う。
「失礼します。追加の料理をお持ちしました。」
そう言って給仕が料理が乗ったワゴンを押しながら入って来た。俺達をこの部屋に案内した黒髪の女性とは違う赤毛の給仕だ。
だがテーブルに運んで来た料理を乗せ始めた女給仕を見て俺は咽た。
「ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ.....まさか、ジャニスの婆さんか?」
「まさかと思っていたけど....ゴリアス??? いやいや、そんな訳はないからザイアス坊やかな?」
「ちょっと、こんな娘さんを婆さん呼ばわりって酷いわよ。謝りなさい。」
シガーズが割って入る。だがそんな話じゃない、こいつはとっくの昔に死んだはずだ。先々代の皇帝ジャニス。傾国の女帝と呼ばれた愚帝だ。どういう訳か傭兵だった俺の爺様と仲が良く小さい時にちょくちょく連れられて会いに行っていた。可愛がってもらっていた記憶がある。
「ザイアスも傭兵になったって聞いていたけれど、やっぱり負け知らずのゴリアスの孫ね、血は争えないわ。それにしても良く私が分かったわね。絶対にバレないって自信があったのに。」
「うまく言えないが、なんとなく分かるんだよ。知っている奴が近くにいれば目を瞑っていても誰だか分かる。」
「その力もゴリアス譲りね。まあ久しぶりにザイアス坊やに会えたことだし、口止め料も含めて今日は私の奢りにしてあげる。ジャンジャン飲んで良いわよ。じゃあ私はまだ仕事があるから後でね。ごゆっくり。」
ジャニスの婆さんが料理を置いて下がると、俺はゴトーダとシガーズの質問攻めにあった。だが「あれは5年前に死んだ先々代の皇帝ジャニスだ。」といくら言っても信じない。
自分でもまさかと思う。傾国の女帝ジャニス...ガニマール帝国の皇室を没落させた愚帝。ジャニスの散財により皇室は財産のすべてを使い尽くし、それでも足りずに神殿から莫大な額の借金をし、返済に行き詰まると担保にしていた皇室の広大な領地を神殿に引き渡した。
ジャニスはその責任を取って皇帝の座を当時神官長だったシャナに譲った。もちろん貴族達から強い反対があったが、ジャニスが独身で後を継ぐべき子供が居なかったこと、シャナがジャニスの姪で有力な皇族の1人であったこともありしぶしぶ受け入れられた。これが現在の神官長が皇帝を兼任する政治体制の始まりだ。
「それじゃ先々代の皇帝様が死んでから蘇ったって言うの。しかも若返って? 揶揄わないでよ、そう言うオカルトじみた話は嫌いなの。」
どうやらシガーズは俺が店員と打ち合わせて自分を揶揄っていると思っている様だ。ジャニスの婆さんが正体を見破られたのに平然としていたわけだ。こんな話誰も信じない。
「皇帝ジャニスか....俺も話には聞いたことがある。あれほど評価が分かれる皇帝は居ないらしいな。この広大な国の隅々まで道や橋を整備して交易を容易にし、同時に灌漑設備を整備することで今まで手が付けられなかった広大な荒地を畑に変えた。おまけに様々な魔道具を発明してこの国を魔道具の生産地として発展させたって話だ。」
「へえっ、すごい名君じゃない。」
「だがな、個人的にも宝石やら装飾品やらパーティやらに金を使いまくってな。社交界でも皇帝に倣って着飾って派手にしないと恥ずかしいという風潮になって、皇族も貴族も贅沢しまくったらしい。国の整備に加えてそんな贅沢をするのに膨大な費用をカルロ教の神殿から借りた金で賄ったために借金で首が回らなくなって、最後には皇室の領地のほとんどを手放すことになったって話だ。皇帝の真似をして贅沢三昧をした貴族達も同じ様な末路を辿ったらしい。没落した貴族からはとんでもない愚帝だと言われている。」
「フーン。でも今のガニマール帝国を見れば国民とっては良い皇帝だったんじゃない? 」
「そうかもな、もっとも庶民が感謝しているのは神殿と神官様だ。神殿は手に入れた領地をそれを耕していた農民達に只みたいな値段で下げ渡したからな。ジャニス皇帝はとっくに忘れ去れているらしい。」
「まあ、可哀そうに。それなら化けて出て来ても不思議じゃないかも....嫌だ、変な話しないでよ。」
「やれやれ、シガーズがこんなにお化けに弱いとは知らなかったな。もちろんザイアスの冗談に決まっているじゃないか。なあ、ザイアス。」
「あ、ああ、もちろんさ。あの娘は昔の知り合いでジャニスの婆さんというのはニックネームさ。一度危ない所を助けたことがあってな、その礼に奢ってくれるって言うんだ。まあ遠慮なく飲ませてもらおうぜ。」
........まあいいさ、こんなこと誰に話しても信じない。騒ぐだけジャニスの婆さんに笑われるだけだ。
********************
これにて完結となります。最後まで読んで下さった奇特な貴方に感謝です。誠にありがとうございました。
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