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第1章 惑星ルーテシア編
6. 夕食
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「トモミ、そろそろ食事の時間だよ。」
ハルちゃんの呼びかけに目が覚めた。いつの間にか寝てしまっていたみたい。私はあわてて起き上がる。服のままで寝てしまったから皺になっているかもしれない。私は急いでクローゼットに掛けている別の服に着替えた。淡いピンクのお気に入りのワンピースだが、シンプルなデザインなのでこの部屋の雰囲気と違和感が半端ない。お義母様も一緒に夕食を取るかもしれないよね。大丈夫かなあ? 別の惑星から来たのだから服についても文化の違いがあって当然と思ってくれたらよいけれど、衣服に関するセンスが悪いとなって嫁として評価が下がったらいやだなあ。
まあ、ハルちゃんの服装のレベルだって私と似たようなものだ。ここは開き直るしかないだろう。それよりこの世界の料理の方が気になる。なにせ異世界なのだ、地球の人間でこの世界の料理を食べるのは私が初めてだろう。私はパイオニアだ。ハルちゃんに聞いた限りでは、地球の人間とこの世界の人間では魔力の有無を別にすれば身体の構造に大きな差はなく、食べ物に関しても地球人が食べてはいけないものは無いとのことだ。だったら食べるしかないでしょう。食べるの大好き人間の私はよだれを垂らしそうな顔でハルちゃんを従えいそいそと食堂に向かった。
豪華な食堂に入るとお義母様がすでに席に着かれていた。
「お義母様、お待たせして申し訳ありません。」
<<とんでもありません。トモミ様のお口に合えばよろしいのですが。>>
相変わらず丁寧な口調で対応してくれるのだが、嫁の立場としては申し訳なくて私の精神はガシガシと削られていく。まあ、お義母様とは念話で話ができるだけ良いのかもしれない。コミュニケーションが取れるって大事だよね。私もルーテシア語を覚えないと、とりあえず、「ありがとう」ってなんて言うか後でハルちゃんに教えてもらおう。
<< どうぞお座りになってください。この惑星は人間族の国、ドワーフ族の国、獣人族の国、鱗人族の国、エルフ族の国に分かれていますが、今日はこの神殿がある人間族の国の料理を用意させました。>>
「ありがとうございます。」
<< ところでトモミ様はお酒を飲まれますか? >>
「はい、お酒は大好きです。」
<< お好みのお酒はありますでしょうか? >>
「ごめんなさい。こちらのお酒はよくわからないので、お勧めはありますか?」
<< それではカルミのワインはどうでしょう。甘くて香りが良いので女性に人気なのですよ。 私も気に入っております。>>
「それでは、それをいただきます。」
<< ハルトは何にする? >>
「じゃあ、僕はドールドにします。」
<< あら、お酒の好みは変わっていないのね。>>
ルーテシア様は壁際に控えているメイドさんを呼ばれて何かおっしゃられ、そのメイドさんが部屋を出てしばらくするとまず酒が運ばれてきた。料理も前菜ぽいもの、スープ、サラダ、肉料理、パスタ料理、エビやカニに似たちょっとグロテスクなものと次々と運ばれてくる。
メイドさんがグラスにお酒を注いでくれる。なんとひとりひとりに専属のメイドさんが付いている。
カルミのワインは柑橘系の香りで甘味があって気に入った。
「おいしいです。」
<< それはようございました。>>。
ワインの次は無難そうな肉料理に手を出した。牛肉とも豚肉とも少し違う。少し硬いけど味わいがあって好みが分かれそうだが私は気に入った。ワインとも合いそうだ。
「このお肉もおいしいですね。」
<< オーク肉でございます。お気に召されて良かったです。>>
オーク! 念話なのでどの様に日本語に訳されているのかは不明だが、オークといえばブタ型のモンスターじゃなかったっけ。この星は魔法もあればモンスターもいるのか。
「ハルちゃん、この星にはモンスターがいるの? 」
「いるよ。オークだけでなく、グレートウルフ、オーガ、ドラゴン、ガーゴイルなんかもいる。」
<< グリフォン、ケロべロス、コカトリス、海にはクラーケンもいますよ。食用として良く食べられるのはオーク、グレートウルフ、コカトリスです。ドラゴンもおいしいですけど倒すのが大変だからめったに出回らないですね。>>
「えっ、なんでゲームのモンスターがこの星にいるの。」
<< そうなのですか。これらは私が創造したのですが、昔地球の神にこの星のモンスターについて伝えたことがありましたので、彼が人間に掲示として示したのかもしれませんね。>>
「ゲームではモンスターは人間の敵なんですが、この星のモンスターも同じですか?」
<< それは同じです。ただし人間の敵というよりは、人が国どうしで戦をしない様するのが目的でございます。 モンスターは国と国とを隔てる大森林に住んでおりますから、軍隊は大きな損害を覚悟しなければ森林を通って他の国に攻め込むことが出来ません。必然的に進軍路は狭い街道に限定されますので、守る方は山岳の小道で迎え撃てば良いのです。小道であれば大軍であっても戦えるのは道幅に並ぶことができる人数だけですから、数の差が戦力差になりにくいのでございます。>>
なるほど、モンスターがいるのは戦争防止のためらしい。
「あの、ルーテシア様は地球の神様とお知り合いなんですか?」
<< はい、昔からの知り合いでございます。もっとも下級神は惑星から離れることはできませんので直接合ったことはございませんが、手紙やメッセージの様な情報であればやり取りすることは可能ですから。>>
「えっ、ひょっとして、神様の世界にもメールやSNSみたいなものがあるんですか?」
「そこまで便利なものじゃないよ。たとえ情報であっても世界を超えて相手に届けるには大量の魔力が必要になるからね。それにリアルタイムでのやり取りもできないし。」
「そうかあ、携帯みたいにリアルタイムでお話しが出来るわけじゃないんだ。あれ、でも私たち地球から瞬間移動で一瞬の内にここに到着したよね? それでもリアルタイムの会話はできないの?」
そうなんだ、私たちは結婚式を挙げた翌日(すなわち今日だが)こちらの世界へ瞬間移動した。今日の朝は私もハルちゃんも昼前まで寝過ごして焦った、昨日は二次会まで付き合って帰宅が遅かったのに加えやることがあったので寝るのが遅かったんだ。そんな遅くから何をしてたかって? そんなの新婚の夫婦に聞くだけ野暮ってもんだ。
それから朝昼兼用の食事をして、ふたりで荷物をもって新居のアパートの玄関に立って、ハルちゃんが虚空を見つめながら「それではお願いします」といった途端景色が切り替わったんだ。まさに一瞬だった。神様すごいって感動した。
「いや、瞬間移動している者からみると一瞬で移動した様に感じるけれど、地球では約1日経過しているんだ。うまく説明できないけど光速の壁を越える影響らしい。」
「そうなんだ。 じゃ、SNSは? 神様のSNSがあったら面白そうなのにね。一度アクセスしてみたい。」
「それはどうかな。仮に神様のSNSがあったとしても面白いかどうかは疑問だよ。神様の世界は良く言えば秩序のある世界、悪く言えば上からの命令は絶対の階級社会だからね。SNSはネット上ではすべての人が平等と感じられるから面白いけど、たとえば会社の部長や課長を交えてSNSでやりとりしても楽しくないよね。」
<< ハルト、神の世界についてはお前の言うことも否定はしないが、あまり大っぴらに公言するでないぞ。特に他の神の前ではな。トモミ様もよろしいですね。>>
「わかってますよ。母上。」
「承知いたしました。お義母様」
どうやら神様の世界も和気あいあいとはいかない雰囲気だな。派閥とか世代間の溝とかもあるんだろうか。まあ、神様なんて関係ないけどね。 いや、お義母様が女神様という時点で関係ないとはいえないか。私の前世も神様らしいし。いやいやいや、関わらないのが一番だよ。
その後他の料理にも挑戦したが、この世界の料理は意外なほどレベルが高い。もちろん女神様にいい加減なものは出せないというのもあるだろうけど、地球の料理と比べても遜色ない。調理方法も、焼く、煮る、蒸す、揚げるとすべてそろっている。文化レベルの高さがうかがえるな。一見グロテスクに見えたカニ料理も食べてみれば地球のカニより味が凝縮されている。そして料理がうまいとお酒もすすむ。ルーテシア様も久々のハルちゃんとの邂逅が嬉しいのか、盛んにハルちゃんの子供時代のエピソードを口にしてハルちゃんを弄っている。ハルちゃんが恥ずかしそうな、なんとも言えない顔をしているな。きっと心の中で「やめてくれ~~」と叫んでいるんだろうか。なんかハルちゃんだけでなくルーテシア様とも距離が縮まったきがする。そんなことを考えていて気が緩んだからだろうか、
「ルーテシア様、そういえば私自分の魂に触れましたよ。曲がっている触手みたいなのは治せませんでしたけどね。」
と口を滑らせてしまった。しまったと思ったけどもう遅い。和やかだった会話が突然中断され、急に真顔になったルーテシア様は自分の唇の前に人差し指を立ててこちらを見た。恐らく意味は地球と同じで口を閉じろということだろう。
その後ルーテシア様がメイドさん達に何か言うと、メイドさん達は一礼したのち部屋から出て行く。私が口にした内容は、人払いをして話すべき内容だということだ。
メイドさん達が部屋を出ていくと、ルーテシア様はこちらに向き直った。
<< トモミ様、ご自分の魂に触れることができたのですか!? >>
「はい、でも触れただけでまったく動かせませんでした。」
<< 動かせなかった理由には心あたりがございますが、魂に触ることができたということはトモミ様には魂のプロテクトが働いていないということになります。私は触れられないことから、恐らくトモミ様限定で解除されているのではないでしょうか。>>
「そうなんですね....」
<< トモミ様、魂のインターフェースの歪みを修正し、トモミ様本来の力を取り戻してみませんか。プロテクトが解除されているのであれば方法はあります。>>
「それは....」
正直言って興味はある、だけど何故か怖いんだ。私の前世が神なのは良いとして(前世がカタツムリだと言われるより良いよね)、なぜ、インターフェースとやらが曲げられているんだ。なぜ、神ならば保持しているはずの前世の記憶が消去されているんだ。誰かの悪意を感じるよね。でも、でもだよ、ルーテシア様はプロテクトが私限定で解除されていると言ったよね。だったらインターフェースを捻じ曲げられるのも、前世の記憶を消去できるのも私だけってことにならないか。だったら私はなぜそんなことをしたの? いったい私に何があったんだろう。
「申し訳ありません。少し考えさせていただけますか。」
と言うのが精一杯だった。
ハルちゃんの呼びかけに目が覚めた。いつの間にか寝てしまっていたみたい。私はあわてて起き上がる。服のままで寝てしまったから皺になっているかもしれない。私は急いでクローゼットに掛けている別の服に着替えた。淡いピンクのお気に入りのワンピースだが、シンプルなデザインなのでこの部屋の雰囲気と違和感が半端ない。お義母様も一緒に夕食を取るかもしれないよね。大丈夫かなあ? 別の惑星から来たのだから服についても文化の違いがあって当然と思ってくれたらよいけれど、衣服に関するセンスが悪いとなって嫁として評価が下がったらいやだなあ。
まあ、ハルちゃんの服装のレベルだって私と似たようなものだ。ここは開き直るしかないだろう。それよりこの世界の料理の方が気になる。なにせ異世界なのだ、地球の人間でこの世界の料理を食べるのは私が初めてだろう。私はパイオニアだ。ハルちゃんに聞いた限りでは、地球の人間とこの世界の人間では魔力の有無を別にすれば身体の構造に大きな差はなく、食べ物に関しても地球人が食べてはいけないものは無いとのことだ。だったら食べるしかないでしょう。食べるの大好き人間の私はよだれを垂らしそうな顔でハルちゃんを従えいそいそと食堂に向かった。
豪華な食堂に入るとお義母様がすでに席に着かれていた。
「お義母様、お待たせして申し訳ありません。」
<<とんでもありません。トモミ様のお口に合えばよろしいのですが。>>
相変わらず丁寧な口調で対応してくれるのだが、嫁の立場としては申し訳なくて私の精神はガシガシと削られていく。まあ、お義母様とは念話で話ができるだけ良いのかもしれない。コミュニケーションが取れるって大事だよね。私もルーテシア語を覚えないと、とりあえず、「ありがとう」ってなんて言うか後でハルちゃんに教えてもらおう。
<< どうぞお座りになってください。この惑星は人間族の国、ドワーフ族の国、獣人族の国、鱗人族の国、エルフ族の国に分かれていますが、今日はこの神殿がある人間族の国の料理を用意させました。>>
「ありがとうございます。」
<< ところでトモミ様はお酒を飲まれますか? >>
「はい、お酒は大好きです。」
<< お好みのお酒はありますでしょうか? >>
「ごめんなさい。こちらのお酒はよくわからないので、お勧めはありますか?」
<< それではカルミのワインはどうでしょう。甘くて香りが良いので女性に人気なのですよ。 私も気に入っております。>>
「それでは、それをいただきます。」
<< ハルトは何にする? >>
「じゃあ、僕はドールドにします。」
<< あら、お酒の好みは変わっていないのね。>>
ルーテシア様は壁際に控えているメイドさんを呼ばれて何かおっしゃられ、そのメイドさんが部屋を出てしばらくするとまず酒が運ばれてきた。料理も前菜ぽいもの、スープ、サラダ、肉料理、パスタ料理、エビやカニに似たちょっとグロテスクなものと次々と運ばれてくる。
メイドさんがグラスにお酒を注いでくれる。なんとひとりひとりに専属のメイドさんが付いている。
カルミのワインは柑橘系の香りで甘味があって気に入った。
「おいしいです。」
<< それはようございました。>>。
ワインの次は無難そうな肉料理に手を出した。牛肉とも豚肉とも少し違う。少し硬いけど味わいがあって好みが分かれそうだが私は気に入った。ワインとも合いそうだ。
「このお肉もおいしいですね。」
<< オーク肉でございます。お気に召されて良かったです。>>
オーク! 念話なのでどの様に日本語に訳されているのかは不明だが、オークといえばブタ型のモンスターじゃなかったっけ。この星は魔法もあればモンスターもいるのか。
「ハルちゃん、この星にはモンスターがいるの? 」
「いるよ。オークだけでなく、グレートウルフ、オーガ、ドラゴン、ガーゴイルなんかもいる。」
<< グリフォン、ケロべロス、コカトリス、海にはクラーケンもいますよ。食用として良く食べられるのはオーク、グレートウルフ、コカトリスです。ドラゴンもおいしいですけど倒すのが大変だからめったに出回らないですね。>>
「えっ、なんでゲームのモンスターがこの星にいるの。」
<< そうなのですか。これらは私が創造したのですが、昔地球の神にこの星のモンスターについて伝えたことがありましたので、彼が人間に掲示として示したのかもしれませんね。>>
「ゲームではモンスターは人間の敵なんですが、この星のモンスターも同じですか?」
<< それは同じです。ただし人間の敵というよりは、人が国どうしで戦をしない様するのが目的でございます。 モンスターは国と国とを隔てる大森林に住んでおりますから、軍隊は大きな損害を覚悟しなければ森林を通って他の国に攻め込むことが出来ません。必然的に進軍路は狭い街道に限定されますので、守る方は山岳の小道で迎え撃てば良いのです。小道であれば大軍であっても戦えるのは道幅に並ぶことができる人数だけですから、数の差が戦力差になりにくいのでございます。>>
なるほど、モンスターがいるのは戦争防止のためらしい。
「あの、ルーテシア様は地球の神様とお知り合いなんですか?」
<< はい、昔からの知り合いでございます。もっとも下級神は惑星から離れることはできませんので直接合ったことはございませんが、手紙やメッセージの様な情報であればやり取りすることは可能ですから。>>
「えっ、ひょっとして、神様の世界にもメールやSNSみたいなものがあるんですか?」
「そこまで便利なものじゃないよ。たとえ情報であっても世界を超えて相手に届けるには大量の魔力が必要になるからね。それにリアルタイムでのやり取りもできないし。」
「そうかあ、携帯みたいにリアルタイムでお話しが出来るわけじゃないんだ。あれ、でも私たち地球から瞬間移動で一瞬の内にここに到着したよね? それでもリアルタイムの会話はできないの?」
そうなんだ、私たちは結婚式を挙げた翌日(すなわち今日だが)こちらの世界へ瞬間移動した。今日の朝は私もハルちゃんも昼前まで寝過ごして焦った、昨日は二次会まで付き合って帰宅が遅かったのに加えやることがあったので寝るのが遅かったんだ。そんな遅くから何をしてたかって? そんなの新婚の夫婦に聞くだけ野暮ってもんだ。
それから朝昼兼用の食事をして、ふたりで荷物をもって新居のアパートの玄関に立って、ハルちゃんが虚空を見つめながら「それではお願いします」といった途端景色が切り替わったんだ。まさに一瞬だった。神様すごいって感動した。
「いや、瞬間移動している者からみると一瞬で移動した様に感じるけれど、地球では約1日経過しているんだ。うまく説明できないけど光速の壁を越える影響らしい。」
「そうなんだ。 じゃ、SNSは? 神様のSNSがあったら面白そうなのにね。一度アクセスしてみたい。」
「それはどうかな。仮に神様のSNSがあったとしても面白いかどうかは疑問だよ。神様の世界は良く言えば秩序のある世界、悪く言えば上からの命令は絶対の階級社会だからね。SNSはネット上ではすべての人が平等と感じられるから面白いけど、たとえば会社の部長や課長を交えてSNSでやりとりしても楽しくないよね。」
<< ハルト、神の世界についてはお前の言うことも否定はしないが、あまり大っぴらに公言するでないぞ。特に他の神の前ではな。トモミ様もよろしいですね。>>
「わかってますよ。母上。」
「承知いたしました。お義母様」
どうやら神様の世界も和気あいあいとはいかない雰囲気だな。派閥とか世代間の溝とかもあるんだろうか。まあ、神様なんて関係ないけどね。 いや、お義母様が女神様という時点で関係ないとはいえないか。私の前世も神様らしいし。いやいやいや、関わらないのが一番だよ。
その後他の料理にも挑戦したが、この世界の料理は意外なほどレベルが高い。もちろん女神様にいい加減なものは出せないというのもあるだろうけど、地球の料理と比べても遜色ない。調理方法も、焼く、煮る、蒸す、揚げるとすべてそろっている。文化レベルの高さがうかがえるな。一見グロテスクに見えたカニ料理も食べてみれば地球のカニより味が凝縮されている。そして料理がうまいとお酒もすすむ。ルーテシア様も久々のハルちゃんとの邂逅が嬉しいのか、盛んにハルちゃんの子供時代のエピソードを口にしてハルちゃんを弄っている。ハルちゃんが恥ずかしそうな、なんとも言えない顔をしているな。きっと心の中で「やめてくれ~~」と叫んでいるんだろうか。なんかハルちゃんだけでなくルーテシア様とも距離が縮まったきがする。そんなことを考えていて気が緩んだからだろうか、
「ルーテシア様、そういえば私自分の魂に触れましたよ。曲がっている触手みたいなのは治せませんでしたけどね。」
と口を滑らせてしまった。しまったと思ったけどもう遅い。和やかだった会話が突然中断され、急に真顔になったルーテシア様は自分の唇の前に人差し指を立ててこちらを見た。恐らく意味は地球と同じで口を閉じろということだろう。
その後ルーテシア様がメイドさん達に何か言うと、メイドさん達は一礼したのち部屋から出て行く。私が口にした内容は、人払いをして話すべき内容だということだ。
メイドさん達が部屋を出ていくと、ルーテシア様はこちらに向き直った。
<< トモミ様、ご自分の魂に触れることができたのですか!? >>
「はい、でも触れただけでまったく動かせませんでした。」
<< 動かせなかった理由には心あたりがございますが、魂に触ることができたということはトモミ様には魂のプロテクトが働いていないということになります。私は触れられないことから、恐らくトモミ様限定で解除されているのではないでしょうか。>>
「そうなんですね....」
<< トモミ様、魂のインターフェースの歪みを修正し、トモミ様本来の力を取り戻してみませんか。プロテクトが解除されているのであれば方法はあります。>>
「それは....」
正直言って興味はある、だけど何故か怖いんだ。私の前世が神なのは良いとして(前世がカタツムリだと言われるより良いよね)、なぜ、インターフェースとやらが曲げられているんだ。なぜ、神ならば保持しているはずの前世の記憶が消去されているんだ。誰かの悪意を感じるよね。でも、でもだよ、ルーテシア様はプロテクトが私限定で解除されていると言ったよね。だったらインターフェースを捻じ曲げられるのも、前世の記憶を消去できるのも私だけってことにならないか。だったら私はなぜそんなことをしたの? いったい私に何があったんだろう。
「申し訳ありません。少し考えさせていただけますか。」
と言うのが精一杯だった。
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