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第1章 惑星ルーテシア編
15. 謁見
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翌日の朝食後、私はカメラの魔道具を持って謎の魔法陣の写真を取りに向かう。カメラの魔道具はランドセル位の大きさがあって、液晶が付いてないから写真の写り具合をその場で確認することも出来ない。でも発明されたばかりと聞いたからこれから改良されていくだろう。
そういえば最近新しい魔道具の発売が続いているらしい。この数年だけで、地球の洗濯機、コンロ、電子レンジ、トランシーバーに当たる魔道具が発明された。便利になることは良い事だ。もっとも庶民が手を出せる値段になるにはまだ少し先になるだろうとのこと。
魔法陣の上空に瞬間移動する。今日は晴天なので良い写真が撮れそうだ。10枚ほど異なるアングルで撮影し神殿に戻る。
ハルちゃんにカメラを渡す。その後、念のため地下の魔法結晶の充填状況を確認しに行くと、99パーセントまで下がっている。昨日は100パーセントだったので1日で1パーセント下がったことになる。これでは満タンにしても100日しか持たない。ルーテシア様の試算では10年持つはずなのに明らかにおかしい。
昼食をひとりで食べた後考えごとをしていると、エリスさんが神官長と聖女様の謁見の準備が整ったと知らせに来た。謁見室で待っているとのこと。私の食事が終わるのを待っていてくれたらしい。
ありゃりゃ、人を待たせるのが苦手な私は、言ってくれたら急いで食べたのにと心の中で愚痴を言いながら、急ぎ足で謁見室に向かう。エリスさんが付き添ってくれる。私が廊下を進んでいくと、気付いた人々が廊下の両端に寄り跪く。しまった、こんなことなら瞬間移動で謁見室まで行くんだったと思ったがもう遅い。私はさらに足を速める。すると左側の通路からすごい勢いで誰かが走り込んできた。避けようと思ったがこちらも早足だったため対応が遅れふたりはもつれる様に倒れ込んだ。
「ごめんなさい。ごめんなさい。」
甲高い声で謝罪する私よりさらに小柄な人物。どう見ても子供だ、日本なら小学生高学年と言ったところか。巫女服を着ているから女の子だろう。しばらく後、子供は顔を上げて私を見た。誰にぶつかったのか気付いたのだろうか、途端にガバッと土下座の恰好になり額を床に打ち付けた。ガンという鈍い音がする。
「も、申し訳ございません。」
「私は大丈夫よ。あなたこそ怪我しなかった?」
そう問いかけるが、ブルブル震えたまま反応はない。
あっ、そうだ。これじゃ怖がらせるだけだ。気付いた私は自分の回りに魔力を遮断する結界を展開した。これは物質を通し、魔力のみを遮断する結界。これにより女神の威圧感が減少することを期待する。
効果はてきめんだった。身体の震えが止まり、忙しなかった呼吸音が穏やかになる。私は少女の肩に手をかけ上半身を起こしてからもう一度声をかけた。
「大丈夫? 怪我はない?」
見ると額からうっすらと血が滲んでいた。そりゃあんな音がするくらい床に打ち付けたからね。私はとっさに額に手を当て、治療魔法で傷を直し同時に血の汚れも取り去ってあげる。
「立てるかな?」
「はい、大丈夫です。あの~、女神様ですよね?」
「ええ、そうよ。」
「申し訳ありませんでした、どのような罰でもお受けします。」
「罰?」
「はい、女神様を押し倒してしまいました。」
ああ、そういうことか。
「罰なんてないわよ。あるなら私も同罪だしね。あなたを押し倒してしまったもの。」
「そんな。わたしなんか。」
「今度から廊下は走らない様に気を付けてね。 私も人の事を言えないけどね。」
「はい。気を付けます。」
「いい子ね」といいながら頭を撫でてあげると、途端に涙目になってきた。あれ、おかしいな。魔力遮断結界を張っているはずなのに。
「走っていたのは何か急ぎの用事があったの?」
とあわてて話をそらす。
「いえ、お昼休みに町に出かけていて遅くなってしまって。遅くなると指導巫女様に叱られるので。」
「まあ、そうだったの。それならあなたに罰を与えます。私を謁見室まで案内しなさい。」
「えっ?」
「女神の命令で遅くなったと言えば、叱られないわよ。」
にこっと笑いかけると、少女も微笑んだ。
「それじゃあ行きましょうか。」
立ち上がった少女と一緒に謁見室に向かう。
「あなたは巫女見習いかな?」
「はい、1年間の研修を受けにエタルナ伯爵領のジエナ村から来ています。あっ、私キャルっていいます。」
「キャルちゃんね。」
なかなか元気そうな子だな。それにしても、こんな小さな子供が親元から離れて研修に来ているんだ。
「ジエナ村からはひとりで来たの? さみしくない?」
「平気です。町には友達もいますし。今日は友達に会いに行っていたんです。この前の地震から会えなかったので大丈夫かなと心配になって。話をしていたら遅くなってしまいました。」
「そうだったんだ。」
「それに後少しで研修期間も終わって村に帰れます。」
「そう、楽しみだね。」
話をしている内に謁見室の前に着いた。
「キャルちゃん、さようなら。研修頑張ってね。」
「こちらこそ、ありがとうございました。女神様とお話が出来たなんて、村に帰ったら皆に自慢します。」
にこっと笑ってキャルちゃんは駆けていった(こら! 走るなって言ったのに)。
まあ、子供に走るなって言うのが無理なのかもしれない。
謁見室では3人の人間が待っていた。あれふたりって聞いたんだけどな。ひとりはメイド服だからエリスさんと同じ様にお供かもいれない。
私が部屋に入ると3人はさっと跪いた。部屋は奥の方が一段高くなっていて、そこには豪華な椅子が一つだけ置かれている。たぶんこれが私が座る場所なんだろうな。私は椅子に座って声を掛けた。私の前には男性と女性がひとりずつ跪いており、メイドさんはふたりの後ろで同じように跪いている。
「頭を上げてください。お待たせしてすみませんでした。」
そう声を掛けると3人は頭を上げる。男性は神官長ルーバスさんだ、相変わらずかっこいい。 隣りの女性は20歳くらいでどこか気品がある。この人が聖女様だろう。このふたりが神殿のナンバー1 と ナンバー2である。
ちなみにこの星では聖女と言うのは単なる称号で、特別な力を持っているわけではない。王族から女性がひとり選ばれ神に仕えるために神殿にあがるのが慣例となっており、この女性が聖女と呼ばれる。なお、神に仕えるというが、実際は王室と神殿のパイプ役と言うのが実情だ。潜在的に巨大な影響力を持っている神殿の暴走を恐れる王室と、王室との関係を円滑に維持したい神殿側の利害が一致した結果である。
ふたりの後ろで同じように顔を上げたメイドさんに見覚えがある。私が培養漕から投げ出されて困っていた時に服を持ってきてくれた人だ。お礼を言いたかったのだが、あの時名前を聞かなかったので、神殿のどこで働いているのか分からなかった。お礼を言いたいが、まずは前にいるふたりとの挨拶が先だろう。
ルーバスさんが最初に発言した。
「女神様、改めてご挨拶させて頂きます。神官長を務めさせていただいておりますルーバス・シンドリアと申します。」
「ルーバスさん、お久ぶりです。夫のハルトからいつもお世話になっていると聞いています。私からもお礼を申し上げます。これからもよろしくお願いしますね。」
「私でお役にたてるのでしたら望外の喜びでございます。老骨に鞭打って精一杯務めさせていただきます。」
次に聖女様の方に顔を向けると、
「聖女を務めさせていただいております、エリザベート・モンドールと申します。」
と挨拶してくる。
「トモミです。今後も王室とは良好な関係をもって行きたいと考えています。聖女様とも仲良くしたいです。よろしくお願いしますね。」
「もったいないお言葉でございます。こちらこそよろしくお願い申し上げます。ルーテシア様がこの世界を去られてから今まで、王国は女神様のご来訪をひたすらお待ちしておりました。この度、トモミ様がご降臨され奇跡の技をお示しになったこと、王室としても大変喜ばしく、国を挙げて祝賀の準備に勤しんでおります。 私も大変喜ばしく感じております。微力ながら神殿と王国のため力を尽くさせていただきます。」
「エリザベートさん、ありがとうございます。よろしくお願いします。」
それからルーバスさんとエリザベートさんとしばらく話をした後、ふたりの後に控えるメイドさんに声を掛けた。
「先日は大変お世話になりましたね。お名前を伺っていなかったのでお礼もお伝えできず申し訳ありませんでした。」
「もったいないお言葉でございます。申し遅れました。私はこの神殿のメイド長を務めさせていただいておりますアミン・シンドリアと申します。」
「シンドリアさんですか。ルーバスさんと同じですね。」
「私の妻でございます。妻は以前ハルト様の乳母をさせて頂いておりましたので、ハルト様とも面識がございます。」
とルーバスさんが付け加える。
「まあ、そうなんですね。」
ご夫婦ですか。ルーバスさんは昔ハルちゃんの教育係だったと聞いたから、ハルちゃんの性格からしてふたりには頭があがらないだろうな。と考えていると、
「トモミ様、よろしければ今度お茶を一緒にいかがでしょうか。」
と聖女さまが誘ってきた。申し訳ないがこの手の誘いについてはハルちゃんと打ち合わせ済みだ。
「申し訳ありません。私はまだ修行中の身なのです。お誘いはありがたいのですが今は遠慮させていただきます。」
と聖女様に回答する。そう、ハルちゃんと相談した結果、この手の話はお断りすることにした。これはルーバスさんやアミンさんに対しても同じ対応をするつもりだ。
今回の挨拶を受けたのは、女神が同じ神殿に滞在しているのに、神殿トップの挨拶を拒否したら返って回りの不安を煽るよね、と言うのが理由だ。
女神は政治から離れていた方が良い。当然のことながら、教団であれ、国であれ、その他の団体あるいは個人であれ、女神と仲良くなりたいと考えるものは多くいるだろう。
それは純粋な善意によるものかもしれないし、あるいは女神の権威を利用しようという利己的な動機、あるいは女神を害そうとする悪意から来るものもあるだろう。いずれにしろ、どこかの勢力と仲良くすると、それと対立している勢力から負の感情を持たれることは想像に難くない。
例えば、今回聖女様のお誘いを受ければ、他の国から、女神は人間族の国を重要視して自分達の国の優先度が低く見られているのではないかとの疑念を受ける可能性がある。すべての国と同じように仲良くできれば良いのだが、私もハルちゃんもそんな器用なマネは出来ない。人間関係をうまく回すのは苦手なのだ。それならばいっそということで、女神は人を助けはするけれど深入りはしないという方針で行くことにした。
誘いを断る理由として、私は修行中にも関わらずこの世界の窮状を救うために降臨したので、この世界においても時間のある限り修行を続行する必要があるという設定にした。 もっとも修行ってなにするの? と聞かれても答えられないが。
しばらくして神官長、聖女様との面談を終えた私は、エリスさんと共に瞬間移動で女神の部屋に戻った。瞬間移動なら皆に跪かれずに済むからね。
エリスさんは初めての瞬間移動にびっくりしていた。ごめん。その内慣れるだろうから勘弁してね。
そういえば最近新しい魔道具の発売が続いているらしい。この数年だけで、地球の洗濯機、コンロ、電子レンジ、トランシーバーに当たる魔道具が発明された。便利になることは良い事だ。もっとも庶民が手を出せる値段になるにはまだ少し先になるだろうとのこと。
魔法陣の上空に瞬間移動する。今日は晴天なので良い写真が撮れそうだ。10枚ほど異なるアングルで撮影し神殿に戻る。
ハルちゃんにカメラを渡す。その後、念のため地下の魔法結晶の充填状況を確認しに行くと、99パーセントまで下がっている。昨日は100パーセントだったので1日で1パーセント下がったことになる。これでは満タンにしても100日しか持たない。ルーテシア様の試算では10年持つはずなのに明らかにおかしい。
昼食をひとりで食べた後考えごとをしていると、エリスさんが神官長と聖女様の謁見の準備が整ったと知らせに来た。謁見室で待っているとのこと。私の食事が終わるのを待っていてくれたらしい。
ありゃりゃ、人を待たせるのが苦手な私は、言ってくれたら急いで食べたのにと心の中で愚痴を言いながら、急ぎ足で謁見室に向かう。エリスさんが付き添ってくれる。私が廊下を進んでいくと、気付いた人々が廊下の両端に寄り跪く。しまった、こんなことなら瞬間移動で謁見室まで行くんだったと思ったがもう遅い。私はさらに足を速める。すると左側の通路からすごい勢いで誰かが走り込んできた。避けようと思ったがこちらも早足だったため対応が遅れふたりはもつれる様に倒れ込んだ。
「ごめんなさい。ごめんなさい。」
甲高い声で謝罪する私よりさらに小柄な人物。どう見ても子供だ、日本なら小学生高学年と言ったところか。巫女服を着ているから女の子だろう。しばらく後、子供は顔を上げて私を見た。誰にぶつかったのか気付いたのだろうか、途端にガバッと土下座の恰好になり額を床に打ち付けた。ガンという鈍い音がする。
「も、申し訳ございません。」
「私は大丈夫よ。あなたこそ怪我しなかった?」
そう問いかけるが、ブルブル震えたまま反応はない。
あっ、そうだ。これじゃ怖がらせるだけだ。気付いた私は自分の回りに魔力を遮断する結界を展開した。これは物質を通し、魔力のみを遮断する結界。これにより女神の威圧感が減少することを期待する。
効果はてきめんだった。身体の震えが止まり、忙しなかった呼吸音が穏やかになる。私は少女の肩に手をかけ上半身を起こしてからもう一度声をかけた。
「大丈夫? 怪我はない?」
見ると額からうっすらと血が滲んでいた。そりゃあんな音がするくらい床に打ち付けたからね。私はとっさに額に手を当て、治療魔法で傷を直し同時に血の汚れも取り去ってあげる。
「立てるかな?」
「はい、大丈夫です。あの~、女神様ですよね?」
「ええ、そうよ。」
「申し訳ありませんでした、どのような罰でもお受けします。」
「罰?」
「はい、女神様を押し倒してしまいました。」
ああ、そういうことか。
「罰なんてないわよ。あるなら私も同罪だしね。あなたを押し倒してしまったもの。」
「そんな。わたしなんか。」
「今度から廊下は走らない様に気を付けてね。 私も人の事を言えないけどね。」
「はい。気を付けます。」
「いい子ね」といいながら頭を撫でてあげると、途端に涙目になってきた。あれ、おかしいな。魔力遮断結界を張っているはずなのに。
「走っていたのは何か急ぎの用事があったの?」
とあわてて話をそらす。
「いえ、お昼休みに町に出かけていて遅くなってしまって。遅くなると指導巫女様に叱られるので。」
「まあ、そうだったの。それならあなたに罰を与えます。私を謁見室まで案内しなさい。」
「えっ?」
「女神の命令で遅くなったと言えば、叱られないわよ。」
にこっと笑いかけると、少女も微笑んだ。
「それじゃあ行きましょうか。」
立ち上がった少女と一緒に謁見室に向かう。
「あなたは巫女見習いかな?」
「はい、1年間の研修を受けにエタルナ伯爵領のジエナ村から来ています。あっ、私キャルっていいます。」
「キャルちゃんね。」
なかなか元気そうな子だな。それにしても、こんな小さな子供が親元から離れて研修に来ているんだ。
「ジエナ村からはひとりで来たの? さみしくない?」
「平気です。町には友達もいますし。今日は友達に会いに行っていたんです。この前の地震から会えなかったので大丈夫かなと心配になって。話をしていたら遅くなってしまいました。」
「そうだったんだ。」
「それに後少しで研修期間も終わって村に帰れます。」
「そう、楽しみだね。」
話をしている内に謁見室の前に着いた。
「キャルちゃん、さようなら。研修頑張ってね。」
「こちらこそ、ありがとうございました。女神様とお話が出来たなんて、村に帰ったら皆に自慢します。」
にこっと笑ってキャルちゃんは駆けていった(こら! 走るなって言ったのに)。
まあ、子供に走るなって言うのが無理なのかもしれない。
謁見室では3人の人間が待っていた。あれふたりって聞いたんだけどな。ひとりはメイド服だからエリスさんと同じ様にお供かもいれない。
私が部屋に入ると3人はさっと跪いた。部屋は奥の方が一段高くなっていて、そこには豪華な椅子が一つだけ置かれている。たぶんこれが私が座る場所なんだろうな。私は椅子に座って声を掛けた。私の前には男性と女性がひとりずつ跪いており、メイドさんはふたりの後ろで同じように跪いている。
「頭を上げてください。お待たせしてすみませんでした。」
そう声を掛けると3人は頭を上げる。男性は神官長ルーバスさんだ、相変わらずかっこいい。 隣りの女性は20歳くらいでどこか気品がある。この人が聖女様だろう。このふたりが神殿のナンバー1 と ナンバー2である。
ちなみにこの星では聖女と言うのは単なる称号で、特別な力を持っているわけではない。王族から女性がひとり選ばれ神に仕えるために神殿にあがるのが慣例となっており、この女性が聖女と呼ばれる。なお、神に仕えるというが、実際は王室と神殿のパイプ役と言うのが実情だ。潜在的に巨大な影響力を持っている神殿の暴走を恐れる王室と、王室との関係を円滑に維持したい神殿側の利害が一致した結果である。
ふたりの後ろで同じように顔を上げたメイドさんに見覚えがある。私が培養漕から投げ出されて困っていた時に服を持ってきてくれた人だ。お礼を言いたかったのだが、あの時名前を聞かなかったので、神殿のどこで働いているのか分からなかった。お礼を言いたいが、まずは前にいるふたりとの挨拶が先だろう。
ルーバスさんが最初に発言した。
「女神様、改めてご挨拶させて頂きます。神官長を務めさせていただいておりますルーバス・シンドリアと申します。」
「ルーバスさん、お久ぶりです。夫のハルトからいつもお世話になっていると聞いています。私からもお礼を申し上げます。これからもよろしくお願いしますね。」
「私でお役にたてるのでしたら望外の喜びでございます。老骨に鞭打って精一杯務めさせていただきます。」
次に聖女様の方に顔を向けると、
「聖女を務めさせていただいております、エリザベート・モンドールと申します。」
と挨拶してくる。
「トモミです。今後も王室とは良好な関係をもって行きたいと考えています。聖女様とも仲良くしたいです。よろしくお願いしますね。」
「もったいないお言葉でございます。こちらこそよろしくお願い申し上げます。ルーテシア様がこの世界を去られてから今まで、王国は女神様のご来訪をひたすらお待ちしておりました。この度、トモミ様がご降臨され奇跡の技をお示しになったこと、王室としても大変喜ばしく、国を挙げて祝賀の準備に勤しんでおります。 私も大変喜ばしく感じております。微力ながら神殿と王国のため力を尽くさせていただきます。」
「エリザベートさん、ありがとうございます。よろしくお願いします。」
それからルーバスさんとエリザベートさんとしばらく話をした後、ふたりの後に控えるメイドさんに声を掛けた。
「先日は大変お世話になりましたね。お名前を伺っていなかったのでお礼もお伝えできず申し訳ありませんでした。」
「もったいないお言葉でございます。申し遅れました。私はこの神殿のメイド長を務めさせていただいておりますアミン・シンドリアと申します。」
「シンドリアさんですか。ルーバスさんと同じですね。」
「私の妻でございます。妻は以前ハルト様の乳母をさせて頂いておりましたので、ハルト様とも面識がございます。」
とルーバスさんが付け加える。
「まあ、そうなんですね。」
ご夫婦ですか。ルーバスさんは昔ハルちゃんの教育係だったと聞いたから、ハルちゃんの性格からしてふたりには頭があがらないだろうな。と考えていると、
「トモミ様、よろしければ今度お茶を一緒にいかがでしょうか。」
と聖女さまが誘ってきた。申し訳ないがこの手の誘いについてはハルちゃんと打ち合わせ済みだ。
「申し訳ありません。私はまだ修行中の身なのです。お誘いはありがたいのですが今は遠慮させていただきます。」
と聖女様に回答する。そう、ハルちゃんと相談した結果、この手の話はお断りすることにした。これはルーバスさんやアミンさんに対しても同じ対応をするつもりだ。
今回の挨拶を受けたのは、女神が同じ神殿に滞在しているのに、神殿トップの挨拶を拒否したら返って回りの不安を煽るよね、と言うのが理由だ。
女神は政治から離れていた方が良い。当然のことながら、教団であれ、国であれ、その他の団体あるいは個人であれ、女神と仲良くなりたいと考えるものは多くいるだろう。
それは純粋な善意によるものかもしれないし、あるいは女神の権威を利用しようという利己的な動機、あるいは女神を害そうとする悪意から来るものもあるだろう。いずれにしろ、どこかの勢力と仲良くすると、それと対立している勢力から負の感情を持たれることは想像に難くない。
例えば、今回聖女様のお誘いを受ければ、他の国から、女神は人間族の国を重要視して自分達の国の優先度が低く見られているのではないかとの疑念を受ける可能性がある。すべての国と同じように仲良くできれば良いのだが、私もハルちゃんもそんな器用なマネは出来ない。人間関係をうまく回すのは苦手なのだ。それならばいっそということで、女神は人を助けはするけれど深入りはしないという方針で行くことにした。
誘いを断る理由として、私は修行中にも関わらずこの世界の窮状を救うために降臨したので、この世界においても時間のある限り修行を続行する必要があるという設定にした。 もっとも修行ってなにするの? と聞かれても答えられないが。
しばらくして神官長、聖女様との面談を終えた私は、エリスさんと共に瞬間移動で女神の部屋に戻った。瞬間移動なら皆に跪かれずに済むからね。
エリスさんは初めての瞬間移動にびっくりしていた。ごめん。その内慣れるだろうから勘弁してね。
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