新米女神トモミの奮闘記

広野香盃

文字の大きさ
49 / 90
第2章 惑星カーニン編

閑話-2 マリコ視点

しおりを挟む
 私はマリコ、トモミとは高校時代からの友人だ。

 トモミとは4年ほど前から月1回くらいの頻度で手紙のやり取りをしている。手紙の内容はやはり自分達の子供のことが多い。私の子供は女の子で10歳、トモミの子供は男の子で2歳だ。子育てに関しては私の方が先輩なので色々とアドバイスすることもある。毎年子供達の誕生日にはプレゼントのやり取りをしている。トモミからは向うの惑星の貴族の間ではやっているという子供用のおもちゃが送られてきた。簡単な魔道具らしい。手を触れるとさまざまな色の光を発しながら音楽を奏でる水晶球とか、かわいいぬいぐるみ(でも地球の動物とはどこか違う)が踊りながら歌う物とかおもちゃの魔法使いの杖とかである。娘は大いに気に入っていたが、友達に見せない様言い聞かせるのが大変だった。特に魔法使いの杖はまずい。さすがにおもちゃだから危ない魔法は出ないが、光や水の玉をだしたり、そよ風を吹かせたりという魔法が使える。どこで売っているのか聞かれたら困ってしまうからね。私はこちらの幼児用の玩具を贈ったが、トモミの子供も気に入ってくれたとのことだ。

 私はマンションの一室に娘のサチコとふたりで住んでいるのだが、ある休日の昼下がりインターフォンのチャイムが鳴った。インターフォンの液晶画面には怪しい人物が映っている。フード付きの濃い茶色のマントを羽織り手には長い杖を持っている。まるでおとぎ話に出てくる魔法使いの恰好だ。怪しさ満載である。新手の新興宗教の勧誘か? と思っていると、その人物がフードを下ろした。

「トモミ!」

 と私は思わず叫んでしまう。

「マリコ~! 久しぶり~。」

 トモミが呑気そうに言う。私は急いで玄関に向かい扉を開けた。トモミの顔を直に見て、先ほどから感じていた違和感の正体に気付く、こいつ年をとっていない! いや違う、若返っている! どう見ても20歳前後にしか見えない。思わず、

「ズリ~~~」

 と叫んでトモミのほっぺをつねり上げた。

「いひゃい! いひゃい!」

 とトモミが意味不明のことを言っている。いや、ズルイよね。こちとらアラフォーまっさかり、あと数年すればアラフィーに成るのだよ。毎日お肌の手入れには最新の注意を払っているんだ。

「なんで若返っているのよ!?」

 と部屋の中に招き入れたトモミに当然の疑問を投げかける。

「いや、いちおう神だから...。」

 分かってはいるんだけど納得できない。

「説明になってない!」

「老化を止めるのは簡単なのよ。」

 聞き捨てのならないことを言った。

「あんた、たった今日本中のアラフォー女性を敵に回したからね!」

 私の剣幕に怯んだのか、アハハーと笑いで誤魔化している。

「まあいいわ、よく来てくれたわね。」

 私が少ししんみりして言うと、トモミもちょっと鼻声になる。

「元気そうね。よかった...。」

「突然どうしたの、前もって言ってくれれば良かったのに。」

「いや、突然地球の神様から依頼が入ったのよ。それでついでにマリコに会って行こうと思って。」

「そうなんだ。」

 その時、トモミが扉の向こうから覗き込んでいるサチコに気付いた。

「うわ~! サチコちゃんね! 」

 と言いつつ椅子から立ち上がりサチコに駆け寄る。

「私はトモミお姉さんよ! よろしくね~。」

 コラ~! なにがお姉さんだ!!! 私と同じ年だろうが!!!  サチコはトモミの迫力にびっくりした様で自分の部屋に逃げて行った。

「あんた、繊細なうちの娘に何してくれるの?」

「ゴメン、驚かせちゃったね...」 

 としんみり言う。仕方ない、後でサチコに紹介してあげよう。

「それで、地球の神様の依頼ってなんなの? 」

 その時つけっぱなしになっていたテレビが彗星に関するニュースを報道した。なんでも新しく発見された彗星が地球のすぐ傍を通過するらしい。あとひと月もすれば夕方の空に大きな彗星が見え今世紀最大の天体ショーになるだろうとの事。一部には地球に衝突する可能性があると主張する学者もいるとか。

「用事はあれよ。その彗星、ついさっき破壊して来たから来ないわよ。」

「破壊した???」

「うん、地球に衝突する可能性が高かったからね。というわけで私は地球の危機を救ったわけよ。だからご褒美をちょうだい!」

 ハァ~、まあ嘘じゃないんだろうね。お前はウル○ラマンかと突っ込みたいけど。

「褒美って、何が欲しいのよ?」

「もちろんマリコの作ったご飯よ! 和食が食べたい!」

「いいけど、急だから大したものは出来ないわよ。」

「何でもいいよ。向こうにはお米が無いのよ。お米のご飯が食べたいの。」

 相変わらず食い意地が張っているな。まあ、ご飯は炊飯器に残っているし、和食が食べたいと言うのなら、焼き魚に豆腐の味噌汁、後はだし巻き卵にお漬物くらいならすぐに用意できるか。そういえば筑前煮も作り置きを冷凍していたっけ。適当に作って出してやると、おお、食べる食べる涙を流しながら食べてるぞ。そんなに美味いか? 

「うっ、うっ、美味しいよう...。」

「何も泣かなくても。」

「だって、夢にまで見た和食だよ! やっぱり日本人なら米を食わないと!」

「そんなに食べたいんだったら、魔道具のお盆に米を乗せといてあげようか? お盆が小さいからそんなに沢山は乗らないだろうけど。」

 と言った途端「心の友よ~!」と言いながらトモミに抱きしめられた。まあ、しっかり食べてくれました。やれやれ夕飯用にご飯をもう一度炊かないと。

「ふう、やっと落ち着いた。ありがとうねマリコ。あっ、それとこれお土産ね。」

 と言いつつ、何もない空間から木で出来た箱を取り出す。

「私の住んでいる町で人気のお菓子なの、直ぐ売り切れるから手に入れるのに苦労したのよ。」

 蓋を開けるとパウンドケーキに似たものが入っている。美味しそうな匂いだ。

「ち、地球人が食べても大丈夫なのよね。」

「大丈夫よ、私が保障するわ。」

 いや、トモミは偉い神様に人外宣告されたって書いてなかったっけ? あんたが大丈夫でも...と疑いの眼を向ける私に気付いたのか、

「大丈夫だって、それなら今から食べようよ、何かあっても私が治すから。そうだついでに健康診断をしてあげるよ。」

「あんた、まだ入るの?」

「甘い物は別腹よ。」

 まあ、信用することにしてお茶の用意をし、サチコも呼んで来て3人でテーブルに付く。トモミの持ってきたお菓子は確かに美味しく、食べている内に固かったサチコの表情も和らいできて、トモミに誕生日プレゼントのお礼も言えるようになった。トモミもサチコと話が出来て嬉しそうである。

 しばらく話をしていたが、その内トモミが「そろそろ帰るわね」と言い出した。

「でもその前に約束どおり健康診断をしてあげる。」

 といってどこからか杖を取り出した。そういえば部屋に入った時には持っていたのにいつの間にか消えていたんだ。その杖を持ってサチコの頭から足先まで順にかざしていく。

「はい、サチコちゃんは異常なし。健康よ! 次はマリコね。」

 こんなので分かるのか? と思ったが一応トモミにされるままにする。一応神様のはずだからね。サチコの時と同じように頭から順に杖をかざしていたが、胸のあたりで止めた。

「マリコ、最近咳が出やすくない?」

「そうかな?」

「ママ、寝てるときに良く咳してるよ。」

 とサチコが心配そうに言う。そう言われれば最近横になると咳が止まらないことがある。

「サチコちゃん、大丈夫よママの病気はお姉ちゃんが治しておくからね。」

 とトモミは言って杖を足先まで進めた。

「はい、終わり。マリコは肺にちょっと問題があったけど直しといたからね。」

「そう、ありがとう。」

 と答えたが、病気を自覚してないから治ったという実感もない。まるで信じる者は救われると述べるどこかの新興宗教の教祖様みたいだ。

「マリコ、変なこと考えているでしょう。まあすぐに分かるわよ。今夜から咳は出ないから。」

 さすが長年の付き合い。私の考えていることはお見通しだった。それからすぐにトモミは帰って行った。目の前から一瞬で消えた時は、私もサチコもしばらく唖然として立っていた。いや、理性ではトモミは神だと分かっているんだけどね、実感が湧いてなかったと言うか。

 確かにその夜から咳が出なくなった。翌日職場に行くと、同僚のシズカが話しかけてくる、彼女も私と同じアラフォーだ。

「マリコ、どうやったの?」

「何?」

「とぼけないでよ、そのお肌のハリとツヤ。どうやって手に入れたのか聞いてるのよ。まるで若返ったみたい。」

 やはり気付かれたか、自分でも朝鏡をみてびっくりしたんだ。

「何もして無いわよ。」

「あっ、自分だけの秘密にするつもりだ。ずるいわよ。」

「いや、だから何もしてないって。」

 その後、シズカを誤魔化すのに苦労した(○○温泉に行ってきたからその効能だろうとしておいた)。トモミめ、私がトモミが若返っているのを羨ましがっていたから何かしたな。

 それから、彗星による今世紀最大の天体ショーはトモミの言うとおり起きなかった。天文ファンはガッカリしているらしい。テレビでは彗星が消えてしまった原因について色々と専門家が仮説を述べていたが、その内彗星の件は世間から忘れ去られてしまった。真相を知っているのは私とサチコだけの様だ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

安全第一異世界生活

ファンタジー
異世界に転移させられた 麻生 要(幼児になった3人の孫を持つ婆ちゃん) 新たな世界で新たな家族を得て、出会った優しい人・癖の強い人・腹黒と色々な人に気にかけられて婆ちゃん節を炸裂させながら安全重視の異世界冒険生活目指します!!

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

処理中です...