新米女神トモミの奮闘記

広野香盃

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第2章 惑星カーニン編

14. 宇宙空間へ

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<< 後は様子を見るだけです。5,000くらいの惑星で実績のある魔道具なのでたぶん大丈夫とは思いますが。魔晶石の残量が3パーセントまで下がるとスリープモードに移行しますので、それまでに魔力の再チャージをお願いします。念のために半分まで減ったらチャージするのがお勧めです。>>

<< 本当にこれだけで惑星が安定化するのか!? 便利な物じゃのう。>>

<< ええ、前にも言いましたが自慢の魔道具なのです。作ったのは私じゃないですけどね。>>

<< もうお昼ですし、とりあえず我家で食事はいかがですか? ロキさんもよろしければ。>>

 神殿でも食事は用意してくれるだろうけど、毒スープ事件があったばっかりだからね。

<< 申し出はありがたいがわしは物を食べんのじゃ。じゃがお邪魔はさせていただこう。>>

 そうなんだ、まあ他の神様達もアバターの時は別にして普段は食べないけどね。私が特別なんだ。

<< 分かりました。それで昼からはどうします? >>

<< もしこの神殿から出る許可が下りるのであれば、この神殿に来るまで続けていた伝道の旅の続きを再開したいと考えております。>>

 とドリスさんが言う。

 そうか、この神殿に居るのは、暗殺者から身を守るためにここに来いとグリアス王国から連絡が来たからだもんね。となると旅を続けるには王国側の許可が必要になるな。無断で出発するとラザロさんやカルロスさんの責任問題になりかねない。一度地上に戻って近くにいた副神殿長のローザさんに許可を求める。

「ローザさん、私が護衛として同行すると言っても難しいですかね。」

「女神様、申し訳ありません。少なくとも国にお伺いを立て許可を得る必要があるかと。」

 まあそうだよね。そうだ、いっそ王様と直接話出来ないかな。ロキさんのお披露目のことも相談したいし。

「ローザさん、国王様に会って相談したいことがあるのですがどうすれば良いでしょうか。」

「国王様にですか! 分かりました至急使者を立てます。女神様がお会いになるとなれば無下にはされないと思います。」

「ありがとうございます。よろしくお願いします。」

<< ドリスさん、許可を得るまでは外出は無理の様ですね。>>

<< その様ですね。どうしましょうか? >>

<< もし、よければ私の仕事に付き合ってくれますか? 急ぎの仕事ではないのですが時間のあるうちに済ませてしまえば後で自由な時間が増えますから。>>

<< わしも一緒に行ってよいかの? >>

 ロキさんだ。地上に移動してからすぐに亜空間に引っ込んでしまったのだが念話は聞こえる様だ。

<< もちろんいいですよ。ただ一緒に瞬間移動するには亜空間からでてもらわないといけないですけど。 >>

<< 了解じゃ。>>

<< それと、行き先は宇宙空間ですが良いですか。>>

<< ああ、構わんよ。その方が都合が良い。>>

 ロキさんは宇宙空間と言うのも理解しているのかな。いったい何者なんだろう。

 そういうわけで、私達はローザさんに断りを入れて瞬間移動した。神殿から出ることになるけど、行き先には暗殺者はいないから許してもらおう。いざとなれば私が責任を取るからと言っておいた。

 自宅に帰ると私とドリスさんは昼食の用意をしているエリスさんの手伝いに向かう。ロキさんは着いたとたん亜空間に入ってしまった。

 料理が出来ると皆を呼んできて食卓を囲む。今日はネスレさんも一緒だ。ハルちゃんはアレフさんとの打ち合わせで不在、そういえば朝私が送って行ったんだった。ネスレさんの報告によると、カイちゃん、サラちゃんは頑張ってタロウの相手をしてくれていた様だ。

「カイちゃん、サラちゃん、ありがとうね。」

 と私が言うとふたりは照れた様に笑った。

 昼食を終えた私とドリスさん、ロキさんが着いた先はある惑星に近い宇宙空間。この惑星に衝突しようとしている彗星の除去が今回の仕事だ。ひとつの惑星に小惑星や彗星が衝突するのは1万年に1回くらいだが、何せ神が管理している惑星だけで100万個くらいあるのだ。ざっと考えても年に100回だ。対応するのは惑星に衝突するかどうか微妙なものも含まれるので対応が必要な数はもう少し多い。今の所これらの防止を私がほぼ一手に引き受けている。

 こうなったのには訳がある。第一回神界総会でパルさんを含む亜神仲間3人と知り合いになったのだが、どの亜神達も惑星を安定させるための魔力不足で困っていたのだ。そこで私は考えた。我が惑星ルーテシアにはアレフさん特製の魔道具がある。魔力を効率よく使いながら惑星を安定させ、自然災害や異常気象の発生を防止してくれているのだ。この魔道具は前女神であるルーテシア様の経験に基づいたノウハウを当時魔道具開発部の主任だったアレフさんが魔道具としてプログラミングしたものだ。もしこの魔道具が無かったら、私は数倍の魔力を使ってかつ1日の半分の時間をその作業に当てる必要があっただろう。惑星ルーテシア自慢の魔道具だが、これをこのまま他の惑星に持ち込んでも役に立たない。魔道具のプログラムが惑星ルーテシアに特化した仕様になっているからだ。たとえば、○○○火山と□□□火山のマグマの合計熱量が◎ジュールを越えた場合、その超えた分の熱を△△△海溝へ逃がして平準化すると言うように、この惑星の固有名詞てんこ盛りの仕様になっている。
 そこで、アレフさんにルーテシア様のノウハウの肝を読み解き、どの惑星に設置しても機能するようにプログラムを汎用化できないかと相談を持ちかけた。彼の天才的頭脳ならひょっとしたらと期待したのだが、やはり彼は天才だった。時間は掛かったものの見事に実用化してくれたのだ。アレフさんの作ってくれた魔道具を亜神仲間にプレゼントしたところ大好評だったのだが、この話に飛びついてきたのが何と上級神リリ様と中級神の皆様だった。もちろん魔力不足が理由ではない。当時は超越者が自分を疑う神達を次々と行方不明(おそらく自分の居る次元に連れ去った)にしたため、1万個を超える惑星が神が居ない状態だった。何とかしたいのだが下級神は担当の惑星から離れられないため複数の惑星の管理は無理だ。となると上級神と中級神で対応するしかない。でも上級神はリリ様ひとり、中級神は90人しかいない(本当は100人居たのだが超越者に連れ去られた)。それだけの人数で1万個の惑星の面倒はとてもじゃないけど見ることが出来ない。なにせ惑星の安定化には魔力だけでなく時間も掛かるのだ。悩んでいるところに私の魔道具の話が来たわけだ。魔力さえ注いでおけば放って置いても惑星を安定に保ち続けてくれる、しかも魔力のチャージの頻度もひと月に1回程度で済む(魔力チャージの頻度は使われている魔晶石の大きさによる、私が亜神仲間にプレゼントしたものは余り大きな魔晶石を使っていなかったのでこの程度)。これなら多くの惑星を救えるということで大騒ぎになった。結果としてリリ様や中級神の皆様は神の居ない惑星に次々と魔道具を設置して回り、現在は設置した惑星を巡りながら魔晶石への魔力チャージを行っている。これにより約5000個の惑星が救われたといっても過言ではない(ただし惑星の安定化は出来ても惑星に住む人族の戦争や人権侵害の防止までは手を出せていない、それでも自然災害と異常気象で絶滅するよりはるかにましだ)。もちろんそれだけの数の魔道具をアレフさんひとりで作れるわけもないので、設計書を公開して自分達で作成してもらった。神界が喜びに満ちた一方で問題が発生した。リリ様や中級神の皆様が魔道具への魔力チャージに時間を奪われる中、今まで中級神の皆様が行っていた小惑星や彗星の除去の時間が取れなくなってきたのだ。そこで白羽の矢が立ったのが私だ。 
 私は他の神と違い、惑星や銀河等の天体をその身体としているわけでなく、生身の人間の身体である。だから自分の管理する惑星を離れ、自由に銀河中を動き回ることが出来る。私以外でこんなことが出来るのは、銀河全体がお身体の上級神リリ様だけである。この特技を買われ宇宙空間での作業を度々依頼されるようになった。 
 本当は惑星ルーテシアでの仕事を自然災害防止の魔道具と、女神代行官のアレフさんに丸投げし、私はハルちゃんとのんびり暮らすはずだったのだがとんだ計算違いだ。まあ元はといえば、第1回神界総会に他の神々がアバターで出席するなか、アバターを作成するのをめんどくさがって、ひとりだけ生身の身体で出席した私が悪い。お蔭で私が惑星から離れて自由に動けることが知れ渡ってしまったのだ。というわけで現在私は3日に1回程度の頻度で、彗星・小惑星除去作業にくたいろうどうに励むことになった。
 もっとも第1回神界総会のお蔭でひとつ助かっていることがある。光速の壁を廃止することが決まったことだ。今までは瞬間移動と言えど、恒星間の移動の様に長距離の場合には数日のロスが避けれなかった。いや、正確には瞬間移動している本人には一瞬で移動したように感じるのだが、目的地についてみると数日経過しているという感じだ。これは念話でのメッセージや情報のやり取りでも同じで、長距離の場合、念話の発信から着信までに数日必要となる。従ってリアルタイムの会話はできなかった。光速の壁撤廃は、神界の組織を上意下達からボトムアップに変えて行こうという流れの中でリリ様が提案され満場一致で可決された。まず、神々のコミュニケーションを円滑に取れる環境にすることが第一だろうとの趣旨だ。驚いたことに、銀河系内の物理法則を変えるのもリリ様の権限でできるらしい。今までは超越者の方針で変えたくても出来なかったとか。この決定がなかったら、1時間の小惑星除去作業のために行き帰りで1週間かかるという様な事態になっていたところだったのだ。感謝である。
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