66 / 90
第3章 惑星マーカス編
2. 惑星マーカス
しおりを挟む
「それで私は何をすれば....」
「トモミ、あなたにはもうひとつの超越者の末裔達がいる惑星に潜り込んで彼らの企みを調べて欲しいの。可能なら阻止までして欲しいけど危険ならそこまでは望まない。必要なら神々全員で対応するわ。くれぐれも無茶だけはしない様にして。」
「それでは彼らのいる惑星がどこか分かっているのですか?」
「恐らくだけどね。カイルさんから連絡を受けて各惑星の魂の流れを片っ端から確認してみたの。他者の魂の力を取り込んでいるとするとその惑星に流れ込む魂の数より惑星から流れ出す魂の数が少なくなっているはずだと考えたのよ。そうしたらひとつの惑星がヒットしたわ。惑星マーカスよ。」
「今分かっているのは惑星マーカスでは明らかに新たに生まれるために惑星に流入する魂の数より、惑星上で亡くなって惑星から流出する魂の数が少なくなっていることだけ。惑星マーカスはすでに安定期に入った惑星で神の管理から外れているの。だからこれ以上のことは分からなかった。」
「了解です.....」
それから私はリリ様から分かっている限りの惑星マーカスに関する情報や言語の知識を頭にコピーしてもらってから惑星マーカスに降り立った。ただ惑星マーカスにまだ管理神が居た頃のものなので現在とはかなり異なる可能性がある。あとは自分でどうにかするしかないだろう。
それにしても超越者の再来など冗談じゃない。ハルちゃんは死んだけどハルちゃんの魂はこの銀河のどこかで生まれ変わっているはずなんだ。それは、遥か昔に亡くなった私達の息子のタロウ、親しくしていたタロウのお嫁さんのキプロさんにふたりの孫達、親友のマリコ、初代女神代行官だったアレフさん、メイドとして我家に長年仕えてくれたエリスさん、エリスさんの養女になったカイちゃんとサラちゃん達の魂も同じだ。死んで終わりじゃない、生まれ変わってどこかで生きているんだと自分に言い聞かせてきたんだ。でも超越者の再来となると話が違う、超越者は魂を何かに使う目的で彼の居た上位次元に送っていた。今まで目的は不明だったがカイルさんの話だと目的は魂の力を自分達に取り込むためだった。力を取り込まれた魂は魂の種に戻ってしまうという。それはその魂がそれまでに長い年月をかけて手に入れた進化も個性もすべて無くしてしまうということ。それはハルちゃんの魂まで無くなってしまうということに等しい。そんなの許せない!
とりあえず超越者に関係しそうな情報を集めたいが、この惑星は管理神が居ないから協力が得られない。この惑星の人族の社会に入り込んで色々な噂を集めてみるしかないだろうと考え、とりあえず人族の住む集落を探すことにした。探査魔法で周囲を探る。いくつか町が見つかったので、その内一番大きな町に瞬間移動する。
瞬間移動で到着したのは大きな建物の屋根。ここなら転移したとたん誰かと鉢合わせることは無いだろうと考えた。門から入るのを避けたのは身分証を要求されるだろうと考えたからだ。屋根の上から見ていて、人の居ない瞬間を狙って路上に再度転移する。ここは結構大きな町だ。上から見ただけでも色々な服装の人が居るから、私の様な異邦人が歩いていても怪しまれないだろう。とりあえず町を歩き回る。大通りに出ると良い匂いがしてきた。とたんにお腹がグーと鳴る。そういえば亜空間に閉じこもった100年間は何も口にしていなかった。それでも何ともないのは人外の証であるが、意識が食べ物に向いた途端お腹が減ってきた。現金なものである。
食べたいがお金が無い。さすがのリリ様も神の居ない惑星のお金までは用意できなかったのだ。ただ売れそうなものは持っている、魔法使いの杖だ。杖は私には必需品なので収納魔法で常に何本も携帯している。数本なら売っても問題ないし、私の持っている杖はかなりの高級品だから高く売れるのではないだろうか。問題はどこで買ってもらえるのかだ。空腹を我慢しながら町にある店々を見て歩く。魔法使いの杖を売っている店があれば購入してもらえないか聞いてみようと思ったのだ。購入してもらえなくてもどこに持って行けば売れるか聞けるかもしれないしね。
お腹を空かせながら町をさ迷い歩く。屋台から美味しそうな匂いが漂ってくると思わず口から涎が落ちそうになる。くそう、ちょっと待てすぐにたらふく食べてやるからな! とぶつぶつと独り言を言いながら歩く。通りかかった店の中に魔法使いの杖が壁に掛けられているのに気付いた。他には長剣から短剣まで各種の剣やナイフ、弓等の武器や鎧類が置かれているから武器屋さんなのだろう。
意を決して店にはいる。
「こんにちは。」
と声をかけると店の奥から店主らしい中年のおばさんが出てきた。
「きゃくきゃあ? にゃぬをかうのきゃあ。」
うむ、なんとなく意味は取れるが複雑なやりとりは無理そうだ。仕方が無い、目立つのは嫌だが念話にするか。
<< あの、この杖を買っていただきたいんですけど。>>
「なんと念話かい。まだ使える人がいたとは驚いたね。言葉が話せないのかい? 」
少し驚かれたが念話については知っている様だ。なお、念話は相手が念話を使えなくても相手が念話で話しかけられたことを意識した時点で、相手の考えていることが伝わってくる。
<< 遠くの国から来たのでこの国の言葉が分からなくて。>>
「ひょっとしてワクス王国からかい、あそこなら念話が使える魔法使いが結構残っているという話だからね。その年でえらく遠いところから来たんだね。」
<< 良く分かりましたね。そうなんです。それで杖は買っていただけますか? >>
「どれ、見せておくれ。ほう魔力の通りが素晴らしいじゃないか、なかなか上物だね。これなら10,000ギニーでどうだい? 」
10,000ギニーがどの程度の価値なのか分からないが、もう空腹感が限界だ!
<< はい、それで良いです。>>
「ほれ10,000ギニーだ。大金だから気を付けるんだよ。」
10,000ギニーを受け取り店を出ると、ひゃっほ~と心の中で叫びながら町を駆ける。目指すはいい匂いを辺りに撒き散らしている屋台だ。最初の屋台に駆けこむ。
<< おじさん、ひとつ下さい。>>
「おお、びっくりするじゃないか。なんで念話なんか。」
<< すみません、遠くの国から来たのでこの国の言葉が話せないんです。>>
「そうなのか、遠くからよく来たな。ひとつ10ギニーだ。」
私は料金を払って焼きうどんに似た食べ物を受け取り、屋台の前に置かれている椅子に座り食べ始める。
「嬢ちゃんどうした、泣くほどうまいか?」
<< えっ? うん、美味しいです。>>
いつの間にかハルちゃんと屋台の食べ歩きをした時を思い出していた様だ。急いで涙を拭いておじさんに問いかける。
<< これから宿を探すんですけど、いいところは無いですか? >>
「家族と一緒かい?」
<< いいえ、私ひとりです。>>
「なんとその年で一人旅か! そうだな...予算にもよるが、そこのカエデ亭なんかどうだい。女でも安心して泊まれるという評判だぜ。」
<< そう、ありがとう。>>
焼きうどんに似た食べ物は甘辛い味付けでなかなかのものだった。ウドガンと言うらしい。屋台のおじさんにお礼を言って宿に向かう。宿では他国の少女の一人旅と言うことでちょっと注目されたが無事チェックインできた。宿泊費は前払いで食事抜きで一泊500ギニーだった。私はとりあえず2泊分の1,000ギニーを払い案内された部屋に入った。考えたら私は荷物も持たずに泊まりに来たわけで、奇異に見られても仕方なかったかもしれない。
部屋に入ってこれからどうするか考える。この惑星の超越者はどの様にして魂を集めているのだろう。魂を手に入れるのは魂が身体から離れた時でないといけない。自分達で人を殺して回るのもひとつの方法だろうが目立つしすぐに噂になる。目立つのを避けるなら沢山人が死ぬ場所に居を構えるのが良いだろう。人が沢山死ぬ場所と言えば戦場や大規模な自然災害があった場所だろうけど予測は難しいし、頻繁に起こるわけではない。安定して人が死ぬ場所といえば病院かな。でもこの世界の文化レベルは私が来た頃の惑星ルーテシアくらいだ、となれば大規模な病院は少ない。小さな病院ではあまり効率は良くないだろう。人口の多い大きな町らな寿命を迎えて死んで行く人も多いだろうが、町のあちこちから身体を離れて飛び立つ魂を捕獲するには町全体を結界で覆いでもしないと難しい。もちろんそんなことをすれば魔力を感知出来る者には直ぐ分かる。う~ん、分からん。
私は考えるのを止めて宿の食堂で夕食を食べることにする。お酒を2人分頼み、向いの席にグラスをひとつ置く。
「ハルちゃん、乾杯!」
と言ってひとりで乾杯した。
「おぎやくざんばぼうけんしゃかね?」
とウェートレスさんが尋ねてくる。奇異に思われたのかもしれない。
<< ごめんなさい、もう一度お願いします。>>
「あら、念話??? ごめんなさい、冒険者かどうか尋ねただけよ。」
<< そうですよ、良く分かりましたね。 >>
と肯定しておく。
「やっぱりそうか、ダンジョンでは沢山の方が亡くなっているそうだものね。ご愁傷様です。」
<< ありがとうございます。>>
どうもダンジョンで亡くなった冒険者仲間に乾杯を捧げたと誤解された様だ。私の服装が冒険者ぽいのだろうか。それにこの幼い姿でお酒を頼んだことも注意を引いたのだろう。うっかり今までの習慣でお酒も頼んでしまったが、この星では子供はお酒を飲んではいけない決まりがあるのかもしれない、気を付けないと。それにしてもダンジョンか。惑星ルーテシアにはなかったけどこの惑星にはあるのかな? 待てよ、ダンジョンでは沢山の人が亡くなっているとウェートレスさんが言っていた。沢山の人が死ぬ場所だとすると、魂を安定して採取する場所としてダンジョンという可能性はあるかもしれないな。一度行ってみるか。
翌朝、朝食を食べた後、私はあらかじめ調べて置いた一番大きく有名なダンジョン内に瞬間移動しようとしたが出来ない。しかたなくダンジョンの近くに瞬間移動し探査魔法で調べるとダンジョン全体が何らかの結界で覆われている。これが瞬間移動での侵入を防いでいる様だ。ズルは許さないというわけだろうか。昔この惑星に居た神は何のためにこんなものを作ったの? ルーテシア様だって惑星に大森林を作ってモンスターを跋扈させていたけれど、あれは戦争防止が目的だった。ダンジョンにも思いもかけない目的があるのだろうか。それともダンジョンはこの惑星から神が居なくなってから超越者が魂を採取するために作ったものだったりして...。ダンジョンは結界で覆われている。もしあの結界がダンジョン内部で死んだ人の魂を逃さないためのものだとしたら...。やはり調査した方が良さそうだ。
「トモミ、あなたにはもうひとつの超越者の末裔達がいる惑星に潜り込んで彼らの企みを調べて欲しいの。可能なら阻止までして欲しいけど危険ならそこまでは望まない。必要なら神々全員で対応するわ。くれぐれも無茶だけはしない様にして。」
「それでは彼らのいる惑星がどこか分かっているのですか?」
「恐らくだけどね。カイルさんから連絡を受けて各惑星の魂の流れを片っ端から確認してみたの。他者の魂の力を取り込んでいるとするとその惑星に流れ込む魂の数より惑星から流れ出す魂の数が少なくなっているはずだと考えたのよ。そうしたらひとつの惑星がヒットしたわ。惑星マーカスよ。」
「今分かっているのは惑星マーカスでは明らかに新たに生まれるために惑星に流入する魂の数より、惑星上で亡くなって惑星から流出する魂の数が少なくなっていることだけ。惑星マーカスはすでに安定期に入った惑星で神の管理から外れているの。だからこれ以上のことは分からなかった。」
「了解です.....」
それから私はリリ様から分かっている限りの惑星マーカスに関する情報や言語の知識を頭にコピーしてもらってから惑星マーカスに降り立った。ただ惑星マーカスにまだ管理神が居た頃のものなので現在とはかなり異なる可能性がある。あとは自分でどうにかするしかないだろう。
それにしても超越者の再来など冗談じゃない。ハルちゃんは死んだけどハルちゃんの魂はこの銀河のどこかで生まれ変わっているはずなんだ。それは、遥か昔に亡くなった私達の息子のタロウ、親しくしていたタロウのお嫁さんのキプロさんにふたりの孫達、親友のマリコ、初代女神代行官だったアレフさん、メイドとして我家に長年仕えてくれたエリスさん、エリスさんの養女になったカイちゃんとサラちゃん達の魂も同じだ。死んで終わりじゃない、生まれ変わってどこかで生きているんだと自分に言い聞かせてきたんだ。でも超越者の再来となると話が違う、超越者は魂を何かに使う目的で彼の居た上位次元に送っていた。今まで目的は不明だったがカイルさんの話だと目的は魂の力を自分達に取り込むためだった。力を取り込まれた魂は魂の種に戻ってしまうという。それはその魂がそれまでに長い年月をかけて手に入れた進化も個性もすべて無くしてしまうということ。それはハルちゃんの魂まで無くなってしまうということに等しい。そんなの許せない!
とりあえず超越者に関係しそうな情報を集めたいが、この惑星は管理神が居ないから協力が得られない。この惑星の人族の社会に入り込んで色々な噂を集めてみるしかないだろうと考え、とりあえず人族の住む集落を探すことにした。探査魔法で周囲を探る。いくつか町が見つかったので、その内一番大きな町に瞬間移動する。
瞬間移動で到着したのは大きな建物の屋根。ここなら転移したとたん誰かと鉢合わせることは無いだろうと考えた。門から入るのを避けたのは身分証を要求されるだろうと考えたからだ。屋根の上から見ていて、人の居ない瞬間を狙って路上に再度転移する。ここは結構大きな町だ。上から見ただけでも色々な服装の人が居るから、私の様な異邦人が歩いていても怪しまれないだろう。とりあえず町を歩き回る。大通りに出ると良い匂いがしてきた。とたんにお腹がグーと鳴る。そういえば亜空間に閉じこもった100年間は何も口にしていなかった。それでも何ともないのは人外の証であるが、意識が食べ物に向いた途端お腹が減ってきた。現金なものである。
食べたいがお金が無い。さすがのリリ様も神の居ない惑星のお金までは用意できなかったのだ。ただ売れそうなものは持っている、魔法使いの杖だ。杖は私には必需品なので収納魔法で常に何本も携帯している。数本なら売っても問題ないし、私の持っている杖はかなりの高級品だから高く売れるのではないだろうか。問題はどこで買ってもらえるのかだ。空腹を我慢しながら町にある店々を見て歩く。魔法使いの杖を売っている店があれば購入してもらえないか聞いてみようと思ったのだ。購入してもらえなくてもどこに持って行けば売れるか聞けるかもしれないしね。
お腹を空かせながら町をさ迷い歩く。屋台から美味しそうな匂いが漂ってくると思わず口から涎が落ちそうになる。くそう、ちょっと待てすぐにたらふく食べてやるからな! とぶつぶつと独り言を言いながら歩く。通りかかった店の中に魔法使いの杖が壁に掛けられているのに気付いた。他には長剣から短剣まで各種の剣やナイフ、弓等の武器や鎧類が置かれているから武器屋さんなのだろう。
意を決して店にはいる。
「こんにちは。」
と声をかけると店の奥から店主らしい中年のおばさんが出てきた。
「きゃくきゃあ? にゃぬをかうのきゃあ。」
うむ、なんとなく意味は取れるが複雑なやりとりは無理そうだ。仕方が無い、目立つのは嫌だが念話にするか。
<< あの、この杖を買っていただきたいんですけど。>>
「なんと念話かい。まだ使える人がいたとは驚いたね。言葉が話せないのかい? 」
少し驚かれたが念話については知っている様だ。なお、念話は相手が念話を使えなくても相手が念話で話しかけられたことを意識した時点で、相手の考えていることが伝わってくる。
<< 遠くの国から来たのでこの国の言葉が分からなくて。>>
「ひょっとしてワクス王国からかい、あそこなら念話が使える魔法使いが結構残っているという話だからね。その年でえらく遠いところから来たんだね。」
<< 良く分かりましたね。そうなんです。それで杖は買っていただけますか? >>
「どれ、見せておくれ。ほう魔力の通りが素晴らしいじゃないか、なかなか上物だね。これなら10,000ギニーでどうだい? 」
10,000ギニーがどの程度の価値なのか分からないが、もう空腹感が限界だ!
<< はい、それで良いです。>>
「ほれ10,000ギニーだ。大金だから気を付けるんだよ。」
10,000ギニーを受け取り店を出ると、ひゃっほ~と心の中で叫びながら町を駆ける。目指すはいい匂いを辺りに撒き散らしている屋台だ。最初の屋台に駆けこむ。
<< おじさん、ひとつ下さい。>>
「おお、びっくりするじゃないか。なんで念話なんか。」
<< すみません、遠くの国から来たのでこの国の言葉が話せないんです。>>
「そうなのか、遠くからよく来たな。ひとつ10ギニーだ。」
私は料金を払って焼きうどんに似た食べ物を受け取り、屋台の前に置かれている椅子に座り食べ始める。
「嬢ちゃんどうした、泣くほどうまいか?」
<< えっ? うん、美味しいです。>>
いつの間にかハルちゃんと屋台の食べ歩きをした時を思い出していた様だ。急いで涙を拭いておじさんに問いかける。
<< これから宿を探すんですけど、いいところは無いですか? >>
「家族と一緒かい?」
<< いいえ、私ひとりです。>>
「なんとその年で一人旅か! そうだな...予算にもよるが、そこのカエデ亭なんかどうだい。女でも安心して泊まれるという評判だぜ。」
<< そう、ありがとう。>>
焼きうどんに似た食べ物は甘辛い味付けでなかなかのものだった。ウドガンと言うらしい。屋台のおじさんにお礼を言って宿に向かう。宿では他国の少女の一人旅と言うことでちょっと注目されたが無事チェックインできた。宿泊費は前払いで食事抜きで一泊500ギニーだった。私はとりあえず2泊分の1,000ギニーを払い案内された部屋に入った。考えたら私は荷物も持たずに泊まりに来たわけで、奇異に見られても仕方なかったかもしれない。
部屋に入ってこれからどうするか考える。この惑星の超越者はどの様にして魂を集めているのだろう。魂を手に入れるのは魂が身体から離れた時でないといけない。自分達で人を殺して回るのもひとつの方法だろうが目立つしすぐに噂になる。目立つのを避けるなら沢山人が死ぬ場所に居を構えるのが良いだろう。人が沢山死ぬ場所と言えば戦場や大規模な自然災害があった場所だろうけど予測は難しいし、頻繁に起こるわけではない。安定して人が死ぬ場所といえば病院かな。でもこの世界の文化レベルは私が来た頃の惑星ルーテシアくらいだ、となれば大規模な病院は少ない。小さな病院ではあまり効率は良くないだろう。人口の多い大きな町らな寿命を迎えて死んで行く人も多いだろうが、町のあちこちから身体を離れて飛び立つ魂を捕獲するには町全体を結界で覆いでもしないと難しい。もちろんそんなことをすれば魔力を感知出来る者には直ぐ分かる。う~ん、分からん。
私は考えるのを止めて宿の食堂で夕食を食べることにする。お酒を2人分頼み、向いの席にグラスをひとつ置く。
「ハルちゃん、乾杯!」
と言ってひとりで乾杯した。
「おぎやくざんばぼうけんしゃかね?」
とウェートレスさんが尋ねてくる。奇異に思われたのかもしれない。
<< ごめんなさい、もう一度お願いします。>>
「あら、念話??? ごめんなさい、冒険者かどうか尋ねただけよ。」
<< そうですよ、良く分かりましたね。 >>
と肯定しておく。
「やっぱりそうか、ダンジョンでは沢山の方が亡くなっているそうだものね。ご愁傷様です。」
<< ありがとうございます。>>
どうもダンジョンで亡くなった冒険者仲間に乾杯を捧げたと誤解された様だ。私の服装が冒険者ぽいのだろうか。それにこの幼い姿でお酒を頼んだことも注意を引いたのだろう。うっかり今までの習慣でお酒も頼んでしまったが、この星では子供はお酒を飲んではいけない決まりがあるのかもしれない、気を付けないと。それにしてもダンジョンか。惑星ルーテシアにはなかったけどこの惑星にはあるのかな? 待てよ、ダンジョンでは沢山の人が亡くなっているとウェートレスさんが言っていた。沢山の人が死ぬ場所だとすると、魂を安定して採取する場所としてダンジョンという可能性はあるかもしれないな。一度行ってみるか。
翌朝、朝食を食べた後、私はあらかじめ調べて置いた一番大きく有名なダンジョン内に瞬間移動しようとしたが出来ない。しかたなくダンジョンの近くに瞬間移動し探査魔法で調べるとダンジョン全体が何らかの結界で覆われている。これが瞬間移動での侵入を防いでいる様だ。ズルは許さないというわけだろうか。昔この惑星に居た神は何のためにこんなものを作ったの? ルーテシア様だって惑星に大森林を作ってモンスターを跋扈させていたけれど、あれは戦争防止が目的だった。ダンジョンにも思いもかけない目的があるのだろうか。それともダンジョンはこの惑星から神が居なくなってから超越者が魂を採取するために作ったものだったりして...。ダンジョンは結界で覆われている。もしあの結界がダンジョン内部で死んだ人の魂を逃さないためのものだとしたら...。やはり調査した方が良さそうだ。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
安全第一異世界生活
朋
ファンタジー
異世界に転移させられた 麻生 要(幼児になった3人の孫を持つ婆ちゃん)
新たな世界で新たな家族を得て、出会った優しい人・癖の強い人・腹黒と色々な人に気にかけられて婆ちゃん節を炸裂させながら安全重視の異世界冒険生活目指します!!
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる