新米女神トモミの奮闘記

広野香盃

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第3章 惑星マーカス編

8. ダンジョン初体験

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 ギルド近くの食堂で昼食を取る。惑星ルーテシアのモンスターと違って、ダンジョンのモンスターは倒すと光となって消えてしまうからその肉を食べることは出来ない。惑星ルーテシアのドラゴンの肉は特に美味だったから残念だが仕方がない。当然昼食に出た肉は家畜の肉らしい(どんな動物かは知らないが)が、それなりに美味しくはあった。サマンサさんと私でどちらが料金を払うかで揉めたが、目の治療代を払っていませんからと言われ結局払わせてもらえなかった。押しの強いサマンサさんには勝てる気がしない。「ダンジョンに入ればモンスターを狩って稼げますから」とも言われたがそれほど儲かるものなのだろうか?

 食後は偵察がてらダンジョンに入ることにする。上層部だけ見て1時間程度で引き返す予定だ。ダンジョンの入り口にいるギルドの職員に許可証を見せて中に入る。入り口近くは暗く光の球を魔法で出して浮かべたがすぐに不要になった。壁や天井が淡く発光しているのだ。明るい光ではないが暗闇に慣れた目には十分だった。今まで歩いてきたところは正確にはダンジョンではなく人工的に作られたダンジョンにつながる通路らしい。壁が発光し出してからが本当のダンジョンだ。ここは既に上層部と呼ばれるダンジョンの一部、いつモンスターが襲ってきても不思議ではない場所。ここで私は瞬間移動の魔法を試す。外部からダンジョン内部への転移ができないことは確認済みだ。でもダンジョン内部から内部へならどうだろうと考えたのだ。うまくいけば最下層まで一気に行けるかもと期待したがダメだった。色々試した結果壁等の障害物が無い場所へは転移可能だが、曲がった通路の先へは転移できない。どうやらダンジョンの壁が転移を阻害しているとらしい。壁を通り抜けることが必要な場所には転移できないのだ。ダンジョンの通路は曲りくねり迷路の様になっているから実質的にダンジョンの中では瞬間移動は使えない。予想していたとは言えがっかりした。

 その後しばらく行くと道が3つに分かれているところにたどり着いた。皆んなの顔が一層緊張し、コトラルさんも弓に矢をつがえ、いつでも射かけられるよう準備する。それ以外のメンバーもそれぞれ自分の武器を構えいつでも臨戦態勢に入る準備が出来ている。ちなみに武器はサーシャさんとアルトくんが剣、サマンサさんは槍だ。

 その時私の探査魔法に複数の反応があった。小型のモンスターが5体こちらに向かっている。右端の通路からだ。

「右の通路からモンスターが5体来ます!」

 と警告する。コトラルさんが弓を引き絞る。10秒ほどすると小さな足音が聞こえ小人の様なモンスターが飛び出してきた。5体同時だ。先頭の1体に向けコトラルさんが矢を放つ。矢はモンスターをかすめ傷を負わせたが致命傷とはならずそのまま地面に突き刺さった。モンスター達は矢に怯むことなく襲いかかってくる。私が結界を貼ろうとした瞬間、サマンサさんの槍が先頭のモンスターの胸を突き通した。モンスターは一度痙攣すると光となって消える。残り4台のモンスターは仲間がやられて怯んだのか足を止めて私たちと睨み合う。モンスターがグウゥゥゥ~~と声を出して威嚇してくる。

「ゴブリンよ。一匹一匹は弱いから落ち着いて対応すれば大丈夫。」

 とサマンサさんが皆に呼びかける。コトラルさんが再び矢を射かけるが俊敏な動きで回避される。弱いかもしれないが動きは速い。矢を避けたゴブリンは次の動きでコトラルさんに向かって突進してくる。危ないと思った瞬間サーシャさんが間に割り込みゴブリンに向かって剣を一閃させた。小さな頭部が2つに切り裂かれ血が飛び散る。ひぇっ、と思わず声が漏れた。グロは苦手なのだ。次の瞬間頭部を切り裂かれたゴブリンも飛び散った血も光となって綺麗に消えているのが救いだ。戦いが終わったら全身返り血で真っ赤になっているなんて想像したくない。

「コトラル、接近戦ではゆっくり狙いをつけていてはダメ!相手が回避の準備をする前に放つのよ!」

「でも....。」

「大丈夫、急所に当てなくても良いから。ダメージを与えれば、後は仲間がなんとかしてくれる。」

 コトラルさんはサーシャさんのアドバイスを聞いて、一番近くにいるゴブリンに素早く弓を射る。矢は頭部に突立ちゴブリンは光となって消えた。

「やった!!!」

 コトラルさんが喜びの声を上げる。ゴブリンは残り2体だ。

「次はアルトよ。母さんが一匹受け持つから、残った一匹は貴方がやるのよ!」

 サマンサさんが残り2体のゴブリンのうち1体と対峙し、残り一体をアルトくんに譲る。アルトくんが恐る恐る剣を構える。

「もっと腰を落として!一気に斬りつけるの!」

 とサーシャさんが叫ぶ。「ワァァァ~!」という叫びと共にアルトくんが上段に構えた剣を振り下ろす。ゴブリンはさっと横に跳びのき距離を詰めてアルトくんに襲いかかる。だがアルトくんはゴブリンの動きを予測していたのか、次の動作で体ごと剣を回転させゴブリンの進路を薙ぎ払った。剣はゴブリンの胴体に深手を負わせ、続く上段からの攻撃でゴブリンは光となって消えた。その間に残りの一体はサマンサさんが危なげなく片付けていた。

「良くやったわね!」とお褒めの言葉がかかる。アルトくんも嬉しそうだ。私もホッとした。自分達に任せてくれと言うので手を出せなかったんだ。

「こうやって、ダンジョンでモンスターを倒すと地上で獣を倒すよりずっと早く強くなれるのよ。」

「えっ、そうなんですか?」

「はい。理由はわかりませんが、ダンジョンに入ったことのある冒険者なら皆経験していることです。この子達も後10匹もゴブリンを倒せばEクラスに上がるだけの実力が付くでしょう。」

「そうなんですね。」

 不思議だ、まるで促成栽培かドーピングの様だ。もっともある意味私自身が促成栽培なのだが。私は人間だった時に最高神であるリリ様の強力な魂が30年間私の魂に憑依していた為、一気に亜神レベルまで魔力が上がった。通常は何億~何十億年もかかる魂の進化をほんの数十年でやってしまったわけだ。とんでもない促成栽培と言えるだろう。私の魔力はリリ様が私から離れてからも上がり続けついにはリリ様と同レベルになってしまった。そうなった理由はリリ様でも分からないらしい。魂にはその設計者である超越者しか知らない仕組みが有るのだろうとのことだ。
 そこでふと不安になる。ダンジョンでの急速な戦闘力の上昇についてだ。不思議に思っていたのだ、サマンサさんはAクラス、サーシャさんはBクラス、冒険者の階級としては上から1番と2番目でかなり強い。実際先ほどのゴブリンとの戦闘でも圧倒的だった。でもその身体はスリムで強さに見合った筋肉がついているとはとても思えない。もしふたりの強さが無意識に身体強化の魔法を使っている結果だとしたら。そしてそのための魔力がダンジョンにおける魂の促成栽培によるものだとしたら。そんなことが出来るのは魂の設計をした超越者だけなのではないだろうか。

「それでは、ゴブリンの魔晶石を回収して今日は帰りましょうか。」

 とサマンサさんが言う。元々今日は様子見だけの予定だったから予定どおりだ。皆も賛成したので明日以降はどうするかを話しながら出口に向かう。途中で再び照明の無い人工の通路に差し掛かった時ふと思いついて瞬間移動を試してみた。結果は成功、一瞬後に私は町の外の草原に立っていた。周りを確かめてから再びサマンサさん達が待つダンジョン入り口の通路に戻った。やはり人工の通路では瞬間移動を使える。即ち外部からこの通路に瞬間移動すれば私1人でも入口の職員さんに止められることなくダンジョンに入れると言うことだ。と言うことは危険なダンジョンにサマンサさん家族に同伴してもらう必要はないわけだ。後で皆に相談だな。

 その後は通路の出口で担当の職員さんに再び許可書を見せ全員無事に帰還したことを確認してもらい、ゴブリンの魔晶石は出口近くにある買取カウンターで買い取ってもらう。無断でダンジョン外に持ち出すのはルール違反なのだ。魔晶石はひとつ1,000ギニーで引き取りとなった。宿代が食事抜きでひとり当たり500ギニー位だから、小さなゴブリンの魔石ひとつで2泊できることになる。ゴブリンの魔石は一番安い物で、他のモンスターの魔晶石は数倍~数十倍の値段が付くものも多い。腕に自信のある冒険者には魅力的な仕事だろう。

 その後は宿に戻り少し休憩した後夕食をとる。アルトくんが初めてのモンスター討伐に興奮して今日のゴブリンとの戦いを上機嫌で解説している。恐る恐る明日はひとりでダンジョンに入りたい旨話を切り出すが、直ちに全員に拒否される。まずい、コトラルさんもアルトくんもゴブリンを倒したことで自信が出て来たようだ。

「聖女様はそんなに私たちが信用できませんか。」

「いえ、決してそんな事は.... 」

「なら良いですよね。危険な下層へ聖女様1人に行かせるなんて私達家族の恥です。是非ともお供させて頂きます。」

 とサマンサさんが低い声で宣言し突き刺すような目つきでこちらを睨んでくる。怖い!思わず腰が引ける。

「よろしいですね!」

「ひゃい!」

 迫力に負け言葉が漏れた。いやいやダメだろう! 恐くてサマンサさんに逆らえない。おかしい!いつもの私じゃない。
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