エルドランド双王記〜王女と剣士と、王冠のゆくえ〜

DAI

文字の大きさ
19 / 19

第19話 エピローグ

しおりを挟む
1か月後ーーーー

エルドランド王国、エルドランド城内。

「待つのじゃ!アンヌ!」
ミカが廊下を走っている。ミカの視線の先にいるのは、金髪の少女。
「嫌よ!ミカ!私は窮屈なのは嫌なの!」
アンヌ王女は、ミカに追いつかれまいと、さらにスピードを上げる。
しかし、アンヌが急に立ち止まった。
うわー!急に止まるな!ドーーーーン!
アンヌの背中にミカが激突した。
アンヌはミカの下敷きになっている。
「すまん!アンヌ!大丈夫か?」
ミカが心配していると、ゆっくりとアンヌが立ち上がった。
「窮屈だなんて言ってられないわね。ごめんなさい、ミカ。」
服についた砂埃を払い、アンヌは静かに言った。
「アンヌ、もうすぐ戴冠式じゃ、準備を進めよう。」
「ミカ、分かった。行きましょう。」
アンヌとミカは衣装室に向かった。




今日は、アンヌ新女王の戴冠式。国内外からたくさんの来賓が招かれている。

「アンヌ、大丈夫かな?おいら、心配だよ。」
デモ助がふわふわしながら、そわそわしている。
「お前よりしっかりしてるから大丈夫だよ。」
キャスがからかいながら言う。
「アンヌ様なら、きっと立派な女王になられるはずよ。」
エリーゼが言う。
「そうだな、あの娘なら大丈夫だろう。」
ヴァルカがうなずく。
「あのアンヌが女王陛下だなんて信じられないよ。」
ケンタが感慨深げに言うと、
「アンヌ、立派になったね。私も嬉しい。」
リリアが目を潤ませて言った。

サウザー王子も国賓として招かれている。
慣れない式典の場で、落ち着きがなさそうだ。

「そういえば、ゴラムが居ないね?」
ケンタが言うと、キャスが答えた。
「ゴラムは、遠くから見守るってさ。何を照れてるんだか。」

ケンタたちが席に着くと、厳かな音楽が鳴り響く。

エルドランド城内は、シーンと静まり返る。

正面の扉から、ミカの先導でアンヌ新女王が入ってきた。

純白のドレスに青い宝石のネックレスと耳飾り。
ゆっくりと、前に進んでいく。
先導するミカが祭壇に登壇し、アンヌと向かい合う。
アンヌは、ミカに一礼した。

「アンヌ=アン=エルドランド、このエルドランドの地とエルドランドの民の前に、誠実に国を治めることを誓うか?」
「はい、お誓いします。」
「今後、如何なる時も、エルドランドの地とエルドランドの民を守護することを誓うか?」
「はい、お誓いします。」
「では、跪き、面を下げよ。」
アンヌがその場にひざまずき、頭を下げた。
ミカが王冠を持ち、アンヌの頭に乗せる。

「立ち上がりなさい。」
アンヌが立ち上がり、来賓の方を振り返った。
「アンヌ女王の即位をここに宣言する!」
ミカが叫ぶと、会場内から祝福の声が上がった。
「女王陛下、万歳!」「アンヌ女王!万歳!」

こうして、アンヌがエルドランド王国の女王となり、この地に平和が戻った。




ゴラムは、遠くからその様子を見守り、そっと立ち去ろうとしていた。
「アンヌ。立派な女王になれよ。」
城を出て歩き出す。

その目の前に小さくて丸っこいものが飛んできた。
「ゴラムの親分!どこに行くんですか?」
デモ助だ。ゴラムの目の前で腕組みしている。
「デモ助、邪魔するな。俺はもう必要ない人間だ。」
「おーやーぶーんー?そう思ってるのは親分だけですよ!」

ケンタ、リリア、キャス、ヴァルカ、エリーゼが駆け寄ってくる。
「ゴラム、どこに行くんだよ!」
ケンタが肩を叩く。
「アンヌには、あなたが必要よ。」
リリアが言う。
「女王陛下の支えになってください!」
キャスが手を握って言う。
「ゴラム様、王にはならなくても、王を支えることはできます。」
ヴァルカが言う。
「まだ、双王制を諦めた訳ではないですが、ゴラム様には大事な仕事が残あります。」
エリーゼが力説する。

ゴラムは、仲間の思いに胸が詰まる思いだった。
「みんな……。」

「ゴラム、アンヌ女王を支えてあげて欲しい。」
ケンタが、真剣な眼差しで言った。他の仲間もうなずく。

「……わかった。ここに残るよ。ただ、王様になるのだけは御免だ。」
ゴラムが言うと、ケンタとゴラムは抱き合った。
「ありがとう。ゴラム。」




「女王陛下からお言葉があります!」
バルコニーに立ったアンヌ女王は、エルドの街の国民に対して話し出した。

「本日、エルドランド国王を拝命したアンヌです。国民の皆さん、我がエルドランドには多くの苦難がありました。特に、我が父を失ったことは、この国にとっても、私にとっても悲劇でした。しかし、私は父の遺志を継ぎ、国王となることを決意しました。私を頼りなく思う人もいるでしょう。しかし、私には多くの仲間がいます。彼らの助けを借りて、必ずこのエルドランドを繁栄に導きます。どうか、私を信じてついてきてください。私はエルドランドの女王、アンヌです!」

「わー!!」
割れんばかりの大歓声が巻き起こる。アンヌ女王は見事に国民の心を掴んだのだった。

そして、ゴラムは、女王直属の執務大臣に就くことになった。
キャスは近衛兵団の団長に、エリーセとヴァルカも近衛兵団の副団長に就いた。

サウザー王子は、その後、正式にサウザン王国の国王となった。
忙しい執務の間をぬって、アンヌ女王に会いに来ているようだ。
アンヌ女王は、最初は煙たがっていたが、最近はまんざらでもないらしい。




ゴラムは、結局、王位には就かず、エルドランドの双王制はついえた。
しかし、エルドランド王国の平和は守られていくだろう。







数か月後、エルドランド樹海の中心部。

樹海の守り神が燃え尽きた後の炭の山が崩れ、
その上から、小さな木の芽が芽吹いていた。




<終わり>

しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

【完結】異世界へ五人の落ち人~聖女候補とされてしまいます~

かずきりり
ファンタジー
望んで異世界へと来たわけではない。 望んで召喚などしたわけでもない。 ただ、落ちただけ。 異世界から落ちて来た落ち人。 それは人知を超えた神力を体内に宿し、神からの「贈り人」とされる。 望まれていないけれど、偶々手に入る力を国は欲する。 だからこそ、より強い力を持つ者に聖女という称号を渡すわけだけれど…… 中に男が混じっている!? 帰りたいと、それだけを望む者も居る。 護衛騎士という名の監視もつけられて……  でも、私はもう大切な人は作らない。  どうせ、無くしてしまうのだから。 異世界に落ちた五人。 五人が五人共、色々な思わくもあり…… だけれど、私はただ流れに流され…… ※こちらの作品はカクヨムにも掲載しています。

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

処理中です...