エルドランド双王記〜王女と剣士と、王冠のゆくえ〜

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第1話 序章〜旅立ち

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 ーーーかつて、エルドランドの地は、2人の王が互いに協力して治めていた。人間の王とゴブリンの王。彼らはエルドランドの【双王】と呼ばれた。ーーー



 城が激しく燃えている。
かつて「白い不死鳥」とも称された、美しく荘厳なゴブリン王の城がーーー。

 黒いヴェールを被った一団に取り囲まれたその城は、今や見る影もなく炎に吞まれようとしていた。

 主であるゴブリン王は捕らえられ、うなだれている。
「子供はどこだ!」
リーダーらしき人物が問い詰める。
「私に子供はいない。」
「嘘をつくな!」
男がゴブリン王の顔を殴る。拳が王の頬にめり込み、血が滲んだ。しかし、王は毅然とした表情を崩さない。
「城内を虱潰しに探せ!」
その命令と共に、無数の兵士たちが城内へとなだれ込んでいく。



 そのころ、城内の隠し部屋。
「お妃さま!このままでは危険です。城の外に逃げましょう!」
灰色の髪をした精悍な顔つきの青年が、赤ん坊を抱いた女性に向かって叫んだ。
「ヴァルカ、この子を連れて逃げるのです。私は残ります。」
「お妃さま!一緒に逃げましょう!」
「私は残ります。行きなさい!」
その目には涙が浮かんでいたが、意志は揺るぎなかった。
王妃の剣幕にヴァルカと呼ばれた青年は覚悟を決めた。
赤ん坊を受け取り、毛布にくるんで抱えると、後ろを振り返ることなく城の外へと駆け出した。

「ヴァルカ、後は頼みます。」
王妃はそう呟くと意識を失った。

「俺が守らなければ、この子に未来は無い…!」
ヴァルカは、ただひたすらに走り続けた。
数時間後、ようやく敵の目が届かない場所にたどり着くと、物陰にへたり込む。
眠りから覚めると、赤ん坊が泣いていた。
手持ちのミルクを飲ませると、泣き止み、すやすやと寝息を立て始める。

「この子の存在は、来るべき日まで隠さなければ。」
ヴァルカはそう呟くと、赤ん坊の額に手を当て呪文を唱える。
一瞬、ヴァルカの手が輝いたが、すぐに元通りになった。

 赤ん坊は何も知らずに眠っている。
「この印こそが王族の証ーーーこの子が背負う運命なのだ。」
その左腕には王族の印が刻まれていた。




 それから数十年後ーーー。
エルドランド王国、エルドランド城内。


 金色の髪をなびかせ、城内を駆ける少女。
その少女を追いかけている少女の頭には、角が生えている。
「待て!アンヌ!」
「嫌よ!私は、お勉強はきらいなの!」
逃げている少女は、エルドランド王の娘、アンヌ王女。
追っている方の少女は、ミカ。
少女に見えるがその正体は、魔王ミカエルである。
「ミカ、お勉強はやめて、城下町に遊びに行きましょう?」
「遊ぶのは、勉強の後じゃ!」
「ミカも本当は、息抜きしたいでしょ?」
「わらわに息抜きは不要じゃ。アンヌ、戻るぞ。」
ようやくアンヌを捕まえたミカは、彼女の手を掴んで、連れ戻そうとする。
アンヌは、必死に抵抗しているが、ミカの力には敵わない。
「ミカの意地悪!」
「魔王の言うことは聞くものだぞ。アンヌ姫。」
ミカに引き摺られながら、アンヌは渋々、勉強に戻っていったーーー。



 アンヌの勉強部屋には、王宮護衛のキャスとゴブリンの戦士のゴラムがいた。
キャスは、武器を使わず戦う格闘家で、茶髪の美しい女性ながらエルドランド有数の武闘派だ。
ゴラムは魔物のゴブリンながら剣の達人で、名刀「ドラゴンバスター」を愛用している。
転生者ケンタたちとの冒険譚は、あまりにも有名だ。

 アンヌ王女がミカに引き摺られて戻ってきた。
「アンヌ様、勉強の途中で逃げ出してはダメです。」
キャスが呆れた声で言う。
「アンヌ、俺も勉強は得意じゃないが、王女にとっては大事なことだ。」
ゴラムがたしなめるように言った。
「わかってるわよ。キャス、おじさま。」
「本当に分かっているのか?アンヌ。では、続きを始めよう。」
ミカが分厚い本を開きながら、アンヌの前に座る。
「わらわも勉強は嫌いじゃが、これくらいの常識は頭に入っておる。アンヌもこれくらいは覚えておけ。」
「わかりました。ミカ先生…。」
アンヌは不服そうだが、大人しく本を読み始めた。
「わかればよろしい。」

 転生者ケンタと魔神との戦いから2年が経っていた。
ミカこと魔王ミカエルは、アンヌ王女の教育係になり、
王宮警護のキャスは、アンヌ王女専属の護衛を任されていた。
ゴラムは、師匠であるガルムの下で修業をしながら、アンヌたちの様子を見に来ている。

 平和な日々が続いていたある日。
エルドランド国王からアンヌ王女に大事な話があるということで、ミカ、キャス、ゴラムが集められた。

「お父様、大事な話とは何ですか?」
玉座に座る国王は、神妙な面持ちで娘の問いに答えた。
「アンヌよ、お前の今後の人生にとっても、エルドランド王国にとっても大事な話だ。心して聞くがよい。」
その口調には、国王としての威厳と、父としてのやさしさが滲んでいた。

 アンヌは椅子の背もたれに身を預けながら、わずかに眉をひそめる。
「お父様、勿体ぶらないで早く話して。」
国王は深く息を吐き、静かに語りはじめた。
「エルドランドの王位を継ぐものは、成人する前に「向学の旅」に出るという習わしがあるのだ。」
「向学の旅?」
アンヌの瞳が好奇心で輝く。

「国中、いや、世界中を旅して周り、世の中のことを学ぶ旅だ。」
「なんだか面白そう。」
アンヌは嬉々として言った。
国王は娘の反応に思わず微笑んだ。そして、ゆっくりと頷く。
「アンヌも、もう16だ。世の中を知るのも良かろう。」
アンヌは勢いよく立ち上がると、頬を紅潮させながら宣言した。
「早速、旅の支度をしますわ。お父様!」
意外なことにアンヌはすっかり乗り気だった。

 国王は、そばに控えていた3人に声をかけた。
「ミカ、キャス、そして、ゴラム。」
「はい。」
「そなたたちには、アンヌの旅の警護をお願いしたい。」
「わかりました。」
ゴラムたちは、一瞬、戸惑いながらも王の頼みに深く頷いた。
「宜しく頼んだぞ。」
国王の声には、娘への深い愛情と、彼らへの信頼が込められていた。


 部屋に戻ったアンヌは、うきうきしながら、早速、旅の支度を始めた。
「お洋服がたくさん必要ね。枕と毛布も。靴もいっぱい持って行かなきゃ!」
しかし、ゴラムが諭すように言った。
「アンヌ、遊びに行くんじゃないんだぞ。それに王女であることは隠さないといけない。」
「そうだぞ、アンヌ。出来るだけ地味な服装で荷物も少なくしないとダメだ。」
ミカが、魔王にしては珍しく常識的な意見を言う。
「わかったわよ。支度は、旅慣れてるあなたたちに任せるわ。」
アンヌはあっさりと準備を丸投げした。
ゴラムは戸惑ったが、ミカとキャスの助けを借り、何とか旅の支度を整えることができた。

そして、いよいよ、出発の日がやってきた。




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